登壇したのは,「アローン・イン・ザ・ダーク」のフレデリック・レイナル(Frederick Raynal)氏,「サイレントヒル」「SIREN」「野狗子: Slitterhead」の外山圭一郎氏,「零」シリーズの柴田 誠氏,そして「クロックタワー」シリーズの河野一二三氏だ。
3Dサバイバルホラーが誕生し,日本独自の精神的な恐怖と結びついていった1990年代。その中心にいた4人が,名作誕生の背景や演出の裏側,国内外のゲーム史におけるサバイバルホラーの系譜,そして普遍的な「恐怖のデザイン論」を語った。
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サバイバルホラーのルーツはどこにあったのか
世界初となる「3Dで描かれたゾンビ」を生み出し,サバイバルホラーの原点を作り上げた「アローン・イン・ザ・ダーク」。レイナル氏が同作の制作へと至る原体験として挙げたのは映画だった。
レイナル氏は父親が経営していたビデオクラブ兼パソコンショップで映画やコンピュータに触れ,独学でプログラミングを習得。3D技術と,自身が好きだったゾンビ映画を組み合わせることで,後にサバイバルホラーの原点と呼ばれる作品を生み出した。
「悪魔の棲む家(The Amityville Horror)」のポスターに描かれた「窓が目のように光る不気味な家」や,イタリアのホラー映画によくある「館に15人入って1人しか生き残らないような話」から強い影響を受けたと語る。
「Just Get Out!(とにかく逃げ出せ!)」的な分かりやすいシチュエーションこそが,自分のルーツだとした。
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外山氏が「サイレントヒル」を作った背景には,「バイオハザード」の大ヒットがあった。
会社から新しいサバイバルホラーの開発を求められたが,同じ方向から勝負しても太刀打ちできない。そこで外山氏が持ち込んだのが,学生時代にビデオ店で働きながら触れてきたモダンホラーの知識だった。派手な怪物や直接的な恐怖ではなく,人間の精神へ入り込むような恐怖を目指したという。
またホラーについては,「共感による快感」を軸にする通常のエンタメとは異なると指摘。本来忌避すべき嫌悪感や恐怖に触れつつも,その結末を知りたいという「人間の本能的な欲求」に根ざすものと考察した。
柴田氏は,「刻命館(デセプション)」シリーズを経たのちにPlayStation 2というハードが登場したことが転機になったと語る。
スペックの飛躍的な向上で「誰も見たことがないホラーを作れる」と感じた氏は,自分が最も怖い存在だと思う“幽霊”を題材に,古い日本家屋を探索する和風ホラーの制作を始めた。
河野氏の根底にあったのは,楳図かずお氏や古賀新一氏らのホラー漫画。「クロックタワー」は,自身が温めていた企画をヒューマンの社内公募に提出したことが始まりだった。
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安全なパターンを壊す。「見えない部分」に恐怖を置く
続いて,3Dサバイバルホラーの金字塔である「アローン・イン・ザ・ダーク」のゲームデザインにスポットが当てられた。
レイナル氏は,「アローン・イン・ザ・ダーク」の制作で,プレイヤーがゲームに対して持つ“安全なパターン”を壊すことを意識したと語った。
長い時間,何も起きないと思えば,突然床が抜ける。扉を開けば,いきなり敵が襲ってくる。いつ何が起きるか分からない状態を作り,プレイヤーが安心できる瞬間を奪う。
グラフィックスで表現できない部分は,本や手記などのテキストで補完した。すべてを見せないことで,プレイヤーの想像力を刺激して恐怖を増幅させるのである。BGMの使い方も慎重にコントロールし,静寂すらも恐怖の要素に加えている。
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ほかの3人も,この「見えないもの」の重要性に同意した。
柴田氏と河野氏は,安易なジャンプスケア(びっくりさせる恐怖)に頼らずに空間構造とカメラワークによって恐怖を生み出していること,「何かがいるかもしれない」という予感から着実に恐怖へと導くテクニックがすでに同作で確立されていることをそれぞれ語った。
カメラ視点と演出の手法は特に話が盛り上がったポイントだ。
「アローン・イン・ザ・ダーク」や初期「バイオハザード」の固定カメラは,映像作品でいうところの「カット割り」に相当する。それには,館や村といった環境・空間を「作品の主役」に据えて,主人公をその中でさまよう「弱い存在」として印象付ける効果もある。
一方でプレイヤーの後方に追従する三人称視点のカメラは,プレイヤー自身がその不気味な空間に足を踏み入れているかのような臨場感をもたらす。
河野氏や外山氏は,見えていない部分(画面外)をいかに意識させ,想像力を刺激するかが恐怖表現の要であると語る。
「サイレントヒル」の霧や暗闇は,もともとは技術的な制限から生まれたものだったが,それを「画面の向こうに何かがいるかもしれない」という恐怖へ変換した。「クロックタワー」でも,プレイヤーには危険が見えているのに,主人公はまだ気づいていないという状況を使い,サスペンスを生み出していた。
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主人公を強くしない。ホラーだから壊せるゲームのお約束
河野氏は,ホラーというジャンルの面白さについて,「既存のゲームフォーマットを解体できる」ことを挙げた。ゲームでは,主人公が強くなり,敵を倒せるようになることが当たり前になりやすい。しかしホラーなら,その前提自体を崩すことができる。
「クロックタワー」で少女ジェニファーを主人公にしたのも,プレイヤーに「戦う」ではなく,「逃げる」「隠れる」という消極的な行動を選ばせるためだった。
「主人公のキャラクター作り」について,レイナル氏も「アローン・イン・ザ・ダーク」ではスーパーヒーローではなく,普通の人間を主人公にしようと考えた。「サイレントヒル」も同様で,外山氏は,モダンホラーには“どこにでもいる普通の人”が必要だったと語る。
また「零」では,最後に待つ怨霊の悲しい背景や心情に共鳴し,成仏させるという物語から,そこに深く共感できる女性を主人公として選択した。
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舞台そのものを「生きたキャラクター」にする
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レイナル氏は,舞台こそゲームにおいて最も重要なものだと断言する。館そのものが,プレイヤーに何をすればいいかを伝え,物語を動かす。だから舞台を「ひとつの生きたキャラクター」として作る必要があるという。
外山氏も,キャラクターよりも先に舞台作りに入ると話す。
最初はよそ者として訪れた傍観者である主人公が,その土地の歴史や背景を知るうちに,次第にそこから抜け出せなくなる。そうした構造は「サイレントヒル」だけでなく,「グラビティ・デイズ」などホラー以外の作品にもつながっていった。
柴田氏は「零」の舞台を作る際,実際に訪れた場所などから「なんとなく嫌な気配がするもの」をストックし,それを組み合わせて屋敷を作ったという。完全な廃墟ではなく,少し前まで人が暮らしていた痕跡が残っていること。それが,そこに幽霊が存在する感覚を強める。
河野氏は,その舞台にどれだけギミックや遊びの幅を組み込めるかも大事だと話す。
既存の舞台作りがやり尽くされた現代において,新しい舞台や社会的文脈を発明することの難しさがあると同時に,それができればそのゲームが「ヒットする勝ち筋」になることも付け加えた。
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現実は想像より恐ろしい。ホラーを作る側の線引き
セッション終盤では,ホラー表現の倫理的,精神的な限界についても質問が寄せられた。
レイナル氏は,現実は想像よりも恐ろしい。だからこそ,どこまでを作品として描くのか,クリエイター自身が線を引く必要があると語る。過去に子供を狙うシリアルキラーを題材にした作品を考えたものの,実際の事件を調べていくうちに,現実の残酷さに耐えられず制作を中断した経験を明かした。
柴田氏は,心霊ホラーを追求するなかで「見えない世界に近づきすぎて帰ってこられなくなる感覚」が存在すると話し,河野氏はスプラッター表現において,現代の表現力だからこそ意図的に作り物らしく描く「節度」が必要であると指摘した。
また現代のインディーホラーについては,4人とも若いクリエイターのアイデアや熱量から刺激を受けている様子だった。そうしたクリエイターたちに向けてレイナル氏は,可能ならひとつのジャンルを突き詰めるだけではなく,自分の知らないジャンルにも触れてほしいとアドバイスしていた。
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技術が変わり,カメラも表現方法も変わった。それでも,「何が見えないのか」「どこに危険があるのか」「自分はこの場所から逃げられるのか」とプレイヤーに想像させることは,30年以上前から変わらない。
恐怖とは,画面に何を映すかだけではない。何を映さず,プレイヤーの頭の中に作らせるかでもある。サバイバルホラーを切り開いてきた4人の言葉から,その原則が鮮明に浮かび上がるセッションだった。
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