AMD Financial Analyst Day 2010の会場となったAMD本社
2010年11月10日の記事 でお伝えしたとおり,AMDは,現地時間9日に開催された
「AMD Financial Analyst Day 2010」 で,CPUとGPUを1つのダイに統合したAPU(Accelerated Processing Unit)のうち,「Bobcat」(ボブキャット,開発コードネーム)コアを採用した省電力プラットフォーム向け製品「Zacate」(ザカテ,同)および「Ontario」(オンタリオ,同)の顧客向け量産出荷を開始した。現地時間2011年1月6日から米ネバダ州ラスベガス市で開催される「2010 International CES」で正式発表される予定だ。
Dirk Meyer氏(President and Chief Executive Officer, AMD)
APU戦略などを説明するChris Cloran氏(Corporate Vice President and General Manager, Product Group, Client Division, AMD)
AMD Financial Analyst Day 2010のプレゼンテーションはすべて,Zacateベースのシステムで行われた。このシステムは,9月にあった「Intel Developer Forum 2010 San Francisco」のタイミング で,AMDから報道関係者に公開されたものと同じだ
AMDの社長兼CEOであるDirk Meyer(ダーク・マイヤー)氏は,ZacateとOntarioのプラットフォームである「Brazos」(ブラゾス)は,すでに100種類以上もの製品に採用されることが決まっているとしたうえで,「2011年の,そう遅くない時期に,これらの
APUをベースにしたタブレット端末 も,パートナーから発表されるはずだ」と予告。「(現時点で)7〜8社がAPUベースとなるタブレット端末の開発を進めている。次世代APUでは,その数がもっと増えるだろう」と,低価格ノートPC以外のジャンルでも,高いグラフィックス性能と省電力性を兼ね備えたAPUが注目を集めていることをアピールした。
また,同社でクライアント向けCPUビジネスを統括するChris Cloran(クリス・クローラン)副社長は,「私がAMDに入社した当時(※2003年)は,幅広く海外展開しているPCベンダーのうち,ノートPCにAMD製CPUを採用しているのは,わずか2社だけだった」と振り返り,ZacateとOntarioが,主要PCベンダーのほとんどに採用がきまったことを「CPU開発においてFusionを進めていくうえで,我々のアプローチが正しかったことを証明するものだ」と自信を見せた。
Cloran氏は,今後登場するクライアント市場向けCPU戦略を紹介するセッションで,2011年1月に発表予定の複数の製品を披露し,「液晶パネルのサイズでいえば11〜16インチの範囲に,数多くの製品が市場に投入されることになる」と説明。「(主要PCベンダーは)APUを採用し,500ドル前後のノートPCを展開していくことになるだろう」と予告する。
TFE 2010で「Llanoの実働デモ」として披露したのと同じ内容を,Zacate搭載ノートPCで動かして見せたCloran氏。今回のデモは熱設計がシビアな,製品化直前のメーカー製ノートPCで行っているだけに,「Zacateの発熱量が非常に少なく,省電力性にも優れている」という説明もうなずける
ここで氏は,10月に台湾で開催された「AMD Technical Forum and Exhibition 2010」(以下,TFE 2010)で
「Llanoの実働デモ」 として披露したものと同じ,「N-body演算と,3200万桁までの円周率計算,Blu-ray Discの1080pビデオ再生を同時に行う」デモを,同社のパートナーから2011年1月に発表予定となっているZacate搭載のノートPCで披露。この高負荷状況下でも,動画再生支援機能である「UVD 3」の採用によって高解像度ビデオの再生を滑らかに行えるうえ,N-body演算では15〜16GFLOPS程度のパフォーマンスを発揮できるとした
※ 。
※TFE 2010で披露されたZacateのデモ において,N-bodyの演算性能は21GFLOPS前後だったことを,記憶している読者も多いだろう。それに対し,今回披露された「TFE 2010におけるLlanoのデモと同じ3タスクの同時実行デモ」では15〜16GFLOPSまで3割ほど落ちているが,これについてデモの担当者は,「3タスクのデモでは,円周率計算におけるCPU側のオーバーヘッドによって,本来のパフォーマンスよりも20〜25%ほど演算性能が落ちる」と説明していた。
ここで思い出してほしいのは,TFE 2010において3タスクの同時実行を行っていた Llanoが,30GFLOPS程度を示していたことだ。LlanoがN-body演算を行ったときのGFLOPS値は,それより当然高くなる。
また,同システムで行った,「Internet Explorer 9」の「FishIE Tank」デモでは,「Zacateのグラフィックス機能を活かせば,水槽内を泳ぎ回る魚を250匹にしても滑らかに描画ができる一方,GPUアクセラレーションがないブラウザ環境では『250匹の死んだ魚が表示されるだけ』だ」と,今後はインターネット環境においても,グラフィックス性能が重要になってくると主張する。
Zacate搭載システムによるFishIE Tankデモ
Zacate搭載ノートPCを使った,Internet Explorer 9におけるグラフィックスアクセラレーションのデモ。グラフィックスアクセラレーションが効く同Webブラウザでは,水槽内の魚を250匹に増やしても31fpsを実現(左)するが,非対応のWebブラウザでは1fpsしか出ない
■Zacate&Ontarioにはシングルコア版も
なお,今回のAnalyst Dayで,AMDはZacate&Ontarioの製品名や動作クロックなどは一切公開しておらず,Cloran氏も「1月の正式発表まで待ってほしい」というスタンスを崩さなかった。ただ,
両APUとも,シングルコア版も用意される
グラフィックス機能は両APUとも同じ(※クロックなどの違いはあると思われる)
と,TFE 2010の時点から一歩踏み込んだ情報が開示された点は,押さえておきたいところだ。
Brazosプラットフォームの概要。ZacateとOntarioの両方にシングルコア版も用意される
ところで,TFE 2010においてCloran氏は,「Brazosプラットフォームで,休止状態も含め,1日中バッテリー駆動できる省電力性を実現する」と述べていたが,これは今回のAnalyst Dayで「最大10時間のバッテリー駆動を実現する」という表現に変わっている。
会場でデモ展示に対応していたAMDの関係者によれば,この「最大10時間」というのは標準的なバッテリー構成時における数字であるとのこと。ZacateやOntarioでは,CPUコアよりもグラフィックスコアの消費電力が大きいため,「3Dゲームなど,グラフィックスにより大きな負荷がかかる処理をし続ける場合,バッテリー駆動時間は大幅に短くなるだろう」(同関係者)。
AMD Financial Analyst Day 2010のプレゼンテーションだと,BrazosベースのノートPCは最大10時間のバッテリー駆動が可能とされる
こちらがTFE 2010におけるBrazosのプレゼンテーションスライド。丸1日のバッテリー駆動時間がターゲットとされていた
左は11インチ液晶パネルを搭載したZacate搭載ノートPC。中央は「Eee PC」のZacateモデルだ。右の2台は左から15インチ,16インチ液晶パネル搭載のZacate搭載ノートPC。片方は,日本人にとても馴染みのあるブランドのもののようだった
Llanoは予定どおり2011年前半の量産出荷
Zambeziは同年半ば出荷に前倒し
Chekib Akrout氏(Senior Vice President, Technology Group, AMD)
AMDが「メインストリーム市場」と位置づけるエントリー〜ミドルクラス市場向けAPUとなる「Llano」(ラノ,開発コードネーム)は,2011年前半の量産出荷予定から変更なし。同社で製造技術などを担当するChekib Akrout(チェキブ・アクラウト)上級副社長は,「GLOBALFOUNDRIESの32nmプロセス技術は,順調な立ち上がりを見せ始めた」とAnalyst Dayで述べ,Llanoが当初の予定どおり行くだけでなく,サーバーおよびハイエンドデスクトップPC向けCPUコア「Bulldozer」(ブルドーザ,開発コードネーム)を採用するデスクトップPC向けCPU「Zambezi」(ザンベジ,同)は,2011年半ばには顧客向けの量産出荷を開始でき,第3四半期中には製品を投入できると明らかにした。
当初,Zambeziは「2011年内の発売が目標」とされていた。「クリスマス商戦に間に合えばいいくらい」とまで言われていたので,それが,「北米市場におけるBack-to-School商戦である8〜9月に間に合うかも」という話になったのだから,これは相当に大きな話だ。
Llano搭載システムのデモ
Llanoの実働デモ。「The Lord of the Rings Online」とBlu-rayコンテンツの再生を同時に行い,そのパフォーマンスとCPU負荷の低さをアピールした
ちなみに下の写真は,Cloran氏のセッションで公開されたZacate搭載ノートPCをヒキで撮影したときに,本来は撮影が許可されていなかったLlanoが,偶然写り込んでいたもの。これを見ると
Llanoは,32nmプロセスへ微細化しながらも,現行のモバイル向けPhenom IIと比べると,格段に大きなダイサイズになっている ことを確認できるだろう。
そのためAMDは,Llanoでも,シングルCPUコア版などの派生品を投入することで,全体としての歩留まり向上を狙っているようである。
先ほど紹介したZacate採用ノートPC×4を引いて撮影したカットだが,写真右下に,偶然Llanoも写り込んだ。3つ並んだプロセッサは左からZacate/Ontario,Llano,Phenom II。なお,余談気味に続けると,それらの隣に置かれているグラフィックスカードは「Cedar」コア(≒ATI Radeon HD 5400)搭載のもの。「Phenom IIと,単体グラフィックスカードと同等のGPUをLlanoで統合する」として,Cedarコアベースのカードが紹介された次第だ。別に「Cedarコアが統合される」と言われたわけではない
さて,AMDは今回のAnalyst Dayで,2012年のAPU計画についても,一部を明らかにしている。
速報的に
10日の記事 でお伝えしているが,Llanoの後継として用意されるのは,Bulldozerコアを採用した「Trinity」(トリニティ,開発コードネーム)。Trinityでは,Llanoと同じGLOBALFOUNDRIESの32nmプロセスが採用されるが,同プロセスへの最適化やアーキテクチャの改良などによって,省電力化が図られる見通しという。
ノートPCなど,モバイル市場向けクライアントCPUのロードマップ。ここでは,Zacateが最大8.5時間,Ontarioが最大10.5時間のバッテリー駆動が可能とされている
Don Newell氏(Chief Technology Office, Server, AMD)
AMDでBulldozerコアなどサーバー向けCPUの統括するDon Newell(ドン・ニューウェル)CTOは,この改良版Bulldozerコアについて,「省電力性を高めるとともに,より低価格なシステムでもBulldozerの高性能を享受できるようにしたもの」と位置づけている。2012年の第2世代Bulldozerで,新アーキテクチャへの移行を一気に進めていく,ということなのだろう。
なお,Zambezi後継となるハイエンドデスクトップPC向け製品としては,「Komodo」(コモド,同)も計画されている。
デスクトップCPUロードマップ。メインストリーム市場向けAPUのLlanoは,2012年にBulldozerコアベースのTrinityへ移行する