業界動向
Access Accepted第666回:ついにゲームは新世代に突入。このタイミングで前世代を振り返る
いよいよPlayStation 5とXbox Series Xが市場に登場し,欧米で「第9世代」とも呼ばれる新たな世代の扉が開く。これから数年,イノベーションを続けるゲーム産業から生まれる,さまざまな体験やサービスが我々を待っているはずだが,この次世代コンシューマ機による新世界をより感慨深く実感するため,今週は,これまで「第8世代」で起きたさまざまな出来事を振り返ってみたい。
いよいよ第9世代に突入するゲーム市場
2020年11月10日にはMicrosoftのXbox Series XとSeries Sが,そして11月12日にはソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStation 5がローンチを果たし,次世代コンシューマ機の時代が到来する。ネイティブ4K/60fpsのグラフィックスや,大幅に延びた描画距離とリアルタイムレイトレーシングが描き出す広々とした世界,さらに,高価なハイエンドPCにしか装備されていないような高速SSDなど,一段とグレードアップしたゲームを満喫できそうなことには,多くのゲーマーがワクワクしているはずだ。
欧米ゲーム業界では次世代コンシューマ機を,据え置き型としては「第9世代」に区分している。ハードウェア的には,PlayStation 5とXbox Series X,いずれもAMDのカスタムCPU/GPUを搭載し,メモリにGDDR6を採用,HDMI 2.1をサポートした8K解像度と120fps,VRR(可変リフレッシュレート)に対応,といったあたりが新世代機の特徴になる。3Dオーディオやフォトグラメトリー技術の導入などによってゲーム体験は大きく変わり,サービス面ではサブスクリプションやクラウドゲームサービスもさらに進化していくはずであり,数年後にはゲーム業界の様相は激変しているかもしれない。
この世代はまた,これまでとは雰囲気の異なるローンチを果たすことでも将来,記憶されることだろう。依然として新型コロナウイルス感染拡大が続く欧米では,次世代機の店頭販売は一部の量販店に限られ,オンライン販売の比重が急激に高まっている。当然,カウントダウンなど店頭の催しも実施されない。さらに,ハードウェアの生産にもそれなりに影響を与えていると思われ,年内から年初にかけてどれほどの数の製品が出荷されることになるのか,多くの消費者が心配している。
また,これも新型コロナウイルスの影響なのかもしれないが,発売当日にリリースされるエクスクルーシブタイトルが少ないというのも特徴的だ。とはいえ,ローディング時間やグラフィックスが別物と呼べるほど大きく進化したPlayStation 5版「Demon's Souls」や,マルチプレイモードで4K/120fpsをサポートするXbox Series X版の「Gears 5」など,それぞれに特徴のある作品が用意されているし,もちろん,マルチプラットフォームタイトルなら,Activisionの「コール オブ デューティ ブラックオプス コールドウォー」やCodemastersの「DIRT 5」,Ubisoft Entertainmentの「アサシンクリード ヴァルハラ」など,ぜひ次世代機で遊んでみたいと思えるタイトルがずらりと並んでいる。さらに,PlayStation 5とXbox Series Xのどちらもが,後方互換性の確保に力を入れているので,次世代機を買ったのに遊ぶゲームがない,といったことにはならない。
第8世代を印象付けた10の出来事
さて,以上のように11月の第2週からコンシューマ機は第9世代に移行するわけだが,ここで,2012年11月にリリースされた任天堂の「Wii U」から続いた,「第8世代」の時代を,本連載の過去記事に絡めて振り返ってみたい。好調だった世界経済と共にゲーム市場も成長し,産業としての裾野が大きく広がった時代の主役を務めた第8世代の約8年,果たしてゲーム産業には,どんな出来事が起きていたのだろうか。
●インディーズゲームの隆盛と「インディカリプス」
インディーズゲームはSteamやXbox Liveのサービスが始まった「第7世代」(2000年頃〜2010年頃)で注目され始めたが,隆盛をきわめたのは第8世代の時代だろう。2012年にSteamでリリースされたゲームタイトルが379本だったのに対して,2019年には8290本ものゲームが発売されており,その大半が大手パブリッシャと関係のないインディーズゲームだ。Nintendo Switchが,任天堂機向けのインディーズゲーム,いわゆるニンディーズで大きく飛躍したことも,本連載でお伝えしている。
しかし,あまりにも多くの新作が登場して消費者に周知しづらくなったため,特定の作品に話題が集中する現象が生まれた。数年をかけた作品がまったく売れず,ゲーム業界から離れてしまう開発者が続出し,「インディーズ」と「アポカリプス」から生まれた「インディカリプス」が問題になった。インディーズ専門のパブリッシャが登場して,玉石混交の中から良いゲームが相応の評価を得られるようになってきてはいるが,新作ラッシュは続くだろう。
Access Accepted第520回:新作ラッシュにあえぐ中小デベロッパ
「Steam」でリリースされたPCゲームのタイトル数は,2016年の現段階で実に4000本以上に達する。多数の中小デベロッパが盛んに新たなゲームをリリースしていることがその理由だが,そうした新作ラッシュの中,作ったゲームが誰にも知られないまま消えていくといったことも起きているようだ。
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●「アーリーアクセス」と「クラウドファンディング」
こうしたインディーズゲームの隆盛を支えているのが2つの新たなビジネスモデル,「アーリーアクセス」と「クラウドファンディング」の誕生だ。ゲーム開発ツールが廉価または無料になったことで,ゲーム開発者は大手パブリッシャの傘下に入ることなく,ファンのサポートによって開発資金から生活費までを得ることができるようになった。
こうして生み出される数多くの作品から優れたタイトルを見つけ出す,「ディスカバラビリティ」や「キュレーション」の模索も続いている。アーリーアクセスとクラウドファンディングがもたらした,「やる気になれば誰でもゲームを作れる時代」の到来は,ゲーム産業の発展にも重要な意味を持っている。
Access Accepted第505回:アーリーアクセスはゲームにとって吉か凶か?
開発途中のバージョンを販売して資金を得,開発を続ける「アーリーアクセス」が欧米ゲーム業界で増えている。パブリッシャに頼ることなくゲームが作れ,プレイヤーの意見が反映できるなど,さまざまなメリットが言われているが,完成しないゲームも少なくない。今週は,そんなアーリーアクセスを考える。
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●「インフルエンサー」という新たな職業
ゲーム業界関係者にはいろいろな意見があるようだが,2005年にスタートした「YouTube」と,2011年にサービスが始まった「Twitch」が現在,ゲーム産業の重要な駆動力になっているのは間違いなさそうだ。ゲーム配信者のピューディパイことフェリックス・アルヴィッド・ウルフ・チェルベリ(Felix Arvid Ulf Kjellberg)氏が,2010年に発売されて忘れられていたバグの多いスケートボードゲーム「Skate 3」の映像を配信したところ,いきなりイギリスのヒットチャートにランクインするという出来事が起き,彼ら動画配信者が「インフルエンサー」として改めて注目されるようになった。
とはいえ,ピューディパイの過激な発言が問題視されたり,ゲーム配信者が大きなプレッシャーに耐えられなくなったりなど,インフルエンサーがコミュニティに与える影響は必ずしもポジティブなものだけではない。
Access Accepted第474回:「ゲーム実況」という新たなカルチャー
今や,ゲーマーにとってなくてならない存在になった「ゲーム実況」だが,ゲームライブストリーミングの北米における中心的なサービスといえる「Twitch」が,初となるファンイベントを開催した。さまざまな発表が行われたこのイベントの模様を簡単にお伝えすると共に,北米の「ゲーム実況」の歴史を振り返ってみよう。
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●市民権を得たeスポーツ
筆者が初めて「プロゲーマー」を見たのは,1997年にジョージア州アトランタで開催されたE3でのことだった。ジョン・カーマック(John Carmack)氏が,自身の所有するフェラーリ328 GTSを懸賞にしたゲーム大会「Red Annihilation」を実施し,その優勝者となったThreshは,初めて年間の獲得賞金が10万ドルに達した人物でもあった。
アジアやヨーロッパではその後,「StarCraft」や「Counter-Strike」などを使ったゲーム大会の人気に火がつき,それがやがてグローバルなイベントへと進化した。第8世代の後半には,「League of Legends」に代表される人気タイトルに牽引され,eスポーツはゲーム文化の重要な一角を担うまでになった。オリンピックの種目としてeスポーツが採用されるという話まで聞こえてきたが,現段階では超えるべきハードルはかなり高いようだ。
現在は新型コロナウイルスの感染拡大で大会の中止が続いているが,それが収まれば以前にも増して活況を呈するようになることだろう。
Access Accepted第543回:e-Sportsにおける「オーバーウォッチ」の光と影
登録アカウント数が3000万を超えたと正式発表されたBlizzard Entertainmentの「オーバーウォッチ」。その最強チームを決めるイベント,第2回「Overwatch World Cup 2017」が開幕する。その一方で,名門プロチームが次々にリーグから撤退しているという。果たして,何が起きているのだろうか。
●「ウォーキングシミュレータ」というサブジャンル
バトルロイヤルは,ゲーム実況と相性の良いジャンルとして人気を集め,「Fall Guys:Ultimate Knockout」に見るように,さまざまな方向に進化を続けている。こうしたゲーム配信の流行に影響を受けて成長したサブジャンルの1つとして,「ウォーキングシミュレータ」が挙げられる。ゲーム中にキルされたりゲームオーバーになったりすることはなく,簡単なパズルを解いたり,会話の選択だけで進められたりと,誰でも楽しめそうなゲームシステムが特徴で,ビジュアルノベルを仲間と一緒に楽しむような感覚だ。eスポーツと同様,ゲームが「プレイするもの」だけでなく「他人のプレイを見るもの」にも進化つつあることを感じさせる。
Access Accepted第517回:ウォーキングシミュレータ「Virginia」が生んだ論争
アドベンチャーゲームのサブジャンルとして,欧米では定着した感のある「ウォーキングシミュレータ」。従来のゲームとは異なる,新たなジャンルとして賞賛するメディアがある一方,プレイヤーの反応は冷ややかだ。そんなウォーキングシミュレータの新作に巻き起こった論争を紹介したい。
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●VR/ARタイトルの登場
2016年に世界的な旋風を巻き起こしたのが,Nianticの「Pokémon GO」だ。外に出る機会の減った2020年でさえ,すでに10億ドルの収益を記録したという。今のところスマートフォンが使われているが,デバイスの技術革新によって小型化,軽量化,低価格化が進めば,こうした位置ゲーム専用機など,新たな可能性が見えてくるかもしれない。
その2016年は,VR対応のヘッドマウントディスプレイが次々と市場に投入されて「VR元年」とも呼ばれている。フラットなスクリーンとはまったく違う異次元の没入感は新しい時代の到来を予期させたが,今のところ,当時予想されたほど市場には浸透していないようだ。ハードウェア/ソフトウェア面でのさらなるブレイクスルーに期待したい。
Access Accepted第490回:いよいよ到来するVR時代のハードとソフト
2016年は,HTCの「Vive」を始め,Oculus VRの「Rift」,Sony Compter Entertainmentの「PlayStation VR」など,VR(仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイが次々と市場に投入される「VR元年」とも呼べそうな年だ。果たしてVRは我々ゲーマーになにをもたらすのか? ゲームはどう変わるかのか? について考えてみたい。
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●試されるゲーム業界の新ビジネス
2017年のショッピングシーズン,キーワードとして盛んに使われたのが「Game as a Service」(GaaS/サービスとしてのゲーム)というコンセプトだった。例えば,大手パブリッシャが大予算を投入した新作でもFree-to-Playタイトルとしてリリースし,DLCやマイクロトランザクション,そのほかさまざまなゲームメカニクスによってプレイヤーを長く同じゲームに滞留させ,利益を得るという考え方だ。
その1つとして注目されたのが「ルートボックス」だったが,ギャンブル性の高さや資金を多く投じた人が有利になる「Pay-to-Win」について消費者の反発が高まり,大きな議論を呼ぶことになってしまった。ヨーロッパなどでは,「ギャンブルに準ずるもの」として政府レベルでの規制が行われ始めている。
Access Accepted第555回:欧米ゲーム業界の新たなキーワード「Games as a Service」
欧米ゲーム業界のトレンドワード「GaaS」とは,「ゲームとは,従来のような売り切りではなく,継続したサービスのことである」という意味だ。Free-to-Playタイトルが代表例だが,最近は大手パブリッシャのパッケージタイトルにもゲーム内課金のシステムが採用され,いくつかの作品が波紋を呼んでいるようだ。
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●ゲーム産業のグローバル化
第8世代に顕著だったのは,インディーズゲームの高まりとともに世界中でゲームが作られるようになったことだ。人口1000万人のスウェーデンやCD Projekt REDやTechlandでおなじみのポーランドは以前からゲーム開発が盛んだったが,それが世界中に広がり,いたるところで興味深い作品が作られてオンラインマーケットに乗るようになってきた。2012年のGDC 2012では,ゲームクリエイターの稲船敬二氏がセッションで「最近の日本のゲームは,何も生み出せていない」と述べるなど,かつて市場の原動力の1つだった日本のゲーム産業の衰退ぶりを印象づける出来事も起きて,世界中で盛り上がるゲーム開発と好対照を見せたこともある。
こうした状況を探ってみると,世界ではベンチャーキャピタルや政府がゲーム産業を支援することが一般的になり,これまで言語面や資金面でチャンスに恵まれなかった新しい才能が,開発力とクリエイティビティでゲーム業界に貢献する姿が見えてくる。
Access Accepted第548回:gamescom 2017で,各国政府のゲーム産業への取り組み方を見る
ドイツ・ケルンで開催されたgamescom 2017のビジネスエリアには,「パビリオン」と呼ばれるブースがある。これは,各国の政府機関が自国のゲーム業界を世界にアピールするために用意したものだ。パビリオンを巡って,ちょっとした世界旅行気分を味わえるが,そこに日本の姿は見られなかった。
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●人工知能でゲーム開発
最近のゲームAIはますます高性能になり,プレイヤーの行動を学んで裏をかいたり,意表を突いた行動をとったりするNPCの出現により,ゲーム体験がさらに豊かなものになってきた。第8世代で大きな注目を集めたのが,ゲーム開発にAIや機械学習を導入するというものだ。キャラクターの行動制御だけでなく,バグチェックやリップシンク,テクスチャのアップスケーリングにも使われるなど,ゲーム開発現場では着実に活用が進んでいる。
今のところ,プログラムやゲームデザインをAIで代用して人間から仕事を奪うといった段階からは遠いものの,振り返ってみれば長足の進歩を遂げているのは間違いなく,2020年代には要注目の分野となるだろう。
Access Accepted第545回:予想を超えて進化するAI技術とゲーム
AI(人工知能)の進化が著しい。プロの囲碁棋士に連勝し,自動運転が実現し,さらに医療分野への進出も予想されているという。もちろん,ゲームとAIも深い間柄にあり,NPCの行動だけでなく,最近はデバッグやマップの生成もこなすようになった。今週は,そんなAIについての最新情報をお届けする。
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●ゲームイベントのデジタル化
かつて「ゲーム業界の祭典」と形容されたE3(Electronic Entertainment Expo)が,一般向けに開放されたのは2016年のことだった。当時はすでに,E3当日のフロアは「ガラガラ」に感じるほどになっており,新作発表の場としての機能がE3ではなく,それ以前の数日に行われる各パブリッシャのプレスカンファレンスに移行していた。プレスカンファレンスのリアルタイム配信も年を追うごとに普通になり,ゲーマーは家にいながら新作情報に触れることが可能になってきた。E3そのものは,そこで発表されたゲームに触れたり,開発者にインタビューしたりする場所に変化していたのだ。
第8世代の最後となった2020年は,新型コロナウイルス感染拡大のため,E3のようなショーだけでなく,開発者会議やeスポーツ大会など,ほぼすべてのイベント開催が中止になってしまった。ただ,上記のようにイベントのデジタル化はすでに進んでおり,感染拡大がなかったとしても,その流れに変化はなかったはずだ。今年は,それが思わぬ理由で急加速したとも捉えられる。
余談ながら,これまでイベントへ参加が仕事の大きな部分を占めていた筆者にとって,ZOOMインタビューやオンラインプレビューはなんとも物足りなく,寂しく感じられてしまうものである。
Access Accepted第650回:デジタル化の進むゲームイベントを考える
キャンセルされたE3に代わるデジタルイベントが次々に開催され,世界中のゲーマーがヒートアップしている。今後も大小のデジタルイベントが実施される予定になっており,欧米ゲーム業界はこうした新たなトレンドに対応する道を模索しているようだ。今週は,様変わりするゲームイベントのあり方を考えてみたい。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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