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印刷2012/05/14 12:00

業界動向

Access Accepted第344回:クラウドファンディングの未来

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第344回:クラウドファンディングの未来

 最近,欧米のゲーム開発者の注目を集めている「Kickstarter」は,一般から支援を募る,「クラウドファンディング」を希望する個人や団体を支援する目的で設立されたサイトだ。クラウドファンディングはもともと,資本力のない個人が小さな事業を始めたいときに利用するようなものだったが,数億円に達する資金を得るゲーム開発企画が出現するなど,「パブリッシャやベンチャーキャピタリストを必要としない,新たなビジネスモデル」という期待がかかり始めている。だがその一方,必要な資金を得られず消えてしまうプロジェクトが少なからずあり,詐欺行為などが起きたりもしている。今回は,そんなクラウドファンディングの光と影を追ってみよう。


一般のゲーマーから開発資金を募集する新システム


 本連載の第334回「ゲームの開発資金をファンから集める時代」でも紹介したが,2012年の今,インディーズゲームの開発者達から熱い注目を集めているのが,「Kickstarter」だ。これは,一般からの支援を募りたい個人や団体を支援することを目的に設立されたサイトで,例えば「友達や家族がおいしいと誉めてくれたので,クッキーの店を出したい」とか「面白いペット用品を作ったけど,量産するための資金がない」など,資本力のない個人に対し,Kickstarterを通じてそれを知った別の人が,5ドルなり100ドルなりの援助を行うというわけだ。「寄付」ではなく「支援」なのでリターンがあるが,それは「誓約」(Pledge)として明記されており,多くは投資対象の製品やサービスとなっている。
 Kickstarterは,2009年にオープンして以来,2万2000件ものスモールビジネスを支えてきたという。

 ゲーム開発については,現在までに316もの企画が公開されてきたが,2012年に入るまで,10万ドル以上集めるプロジェクトは存在しなかった。それが俄然注目されることになったのはやはり,Double Fine Productionsによる「Double Fine Adventure」(仮称)のケースだろう。
 Double Fine Productionsは,「Grim Fandango」(1996年)や「Psychonauts」(2005年)などのコミカルなアドベンチャーで知られるゲーム開発者,Tim Schafer氏が設立したデベロッパだが,Kickstarterにゲームの企画をアップするやいなや,当初の目標だった40万ドルを1日でクリアし,最終的には約333万5千ドル(約2億6700万円)もの資金を集めてしまったのだ。
 あるインタビューで,「新作アドベンチャーなんか,どのパブリッシャも見向きもしてくれない」と嘆いたSchafer氏と,それを読んだ「Minecraft」の制作者Markus Persson氏とのネットでのやりとりがメディアに大きく取り上げられた時期(関連記事)に,Kickstarterに新企画が登録されたことで,話題になりやすかったということもあるだろうが,いずれにせよ,ゲームの企画としては過去に例のない金額といえる。

inXile Entertainmentのように,クラウドファンディングという新しいサービスを利用することで巨額の開発資金を獲得するケースが生まれた。予算の少ないインディーズゲームの開発者にとっては魅力的な話だが,これほどの資金を獲得できるようなプロジェクトが次々に登場するとは考えにくいのも事実だ
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第344回:クラウドファンディングの未来

 そんなDouble Fine Productionsに続いたのが,Interplay Productionsの設立者の一人,Brian Fargo氏が設立したinXile Entertainmentだ。「The Bard's Tale」「Hunted: The Demon's Forge」などをリリースしてきたinXile Entertainmentだが,「Fallout」の精神的な前作である「Wasteland」(1988年)の続編の企画をKickstarterに登録したところ,想定していた90万ドルをはるかに超える,約289万ドル(約2億3100万円)の開発予算を調達できたのだ。

 2012年のDouble Fine Adventureが登録される直前まで,Kickstarterに掲載されたゲームのプロジェクトが集めた総額は177万6000ドル(約1億4200万円)に過ぎない。Double Fine AdventureやWastelandの続編が,多くのゲーマーにとって魅力的な企画であったことは間違いないが,この二つの事例が調達した金額は例外的に大きかったのだ。しかし,このことによって,Kickstarterというツールの価値が,ゲーム開発者やゲーマーたちの間で急速にクローズアップされることになった。

 これほどの成功例が出てくれば,「パブリッシャやベンチャーキャピタルを駆け回って資金を集める」という従来のシステムを使わない,新たな道が開けたと考える人も少なくないだろう。デジタルディストリビューションが一般化したことで,流通のために第三者を介在させる必要はなくなった。今度は,開発者がユーザーから直接資金を集めてゲームを制作する時代が来た,というわけだ。


失敗例や,詐欺まがいの行為も


 しかし,Kickstarterで予想以上の反響があったからと言って,万事それでうまくいくというわけでもないようだ。例えばインディーズ系のデベロッパであるWarballoonは,2011年10月にiOS向けストラテジーゲーム「Star Command」の企画をKickstarterに登録し,当初の目標額である2万ドルを上回る,3万6976ドル(約295万円)をサイト上では調達している。
 ところが,このうち何らかの理由で入金されなかった分が2000ドルほど,さらに入金システムとして利用されているAmazon Paymentに支払う利用料が約3000ドル。このほか,投資の見返りとして用意したTシャツやポスターの制作費が約1万ドル,さらにゲームで使用する音楽のためのライセンス費,起業するための諸経費,ゲームイベントへの参加費などを差し引くと,手元に残ったのは4000ドル(約32万円)程度だったという。

2011年10月にKickstarterでの目標額を達成したiOS向けストラテジーゲーム「Star Command」。今でも頻繁に状況報告を行い,資金提供者との関係は良好であるようだが,当初は2011年のリリースが予定されていたプロジェクトはかなり遅れており,現時点でも正式な発売日は発表されていない
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第344回:クラウドファンディングの未来

 企画段階で予算の使い方を公表しているプロジェクトは少なく,Double Fine Adventureにいたっては,Tim Schafer氏とRon Gilbert氏の知名度のみに頼っており,実際にどんなゲームになるのかについては明らかにされないまま,300万ドル以上もの資金を獲得したことになる。

 こうした点に目をつけたと思われる詐欺的な行為も発生している。「Blizzard Entertainmentの元開発者12人からなる開発チーム」という触れ込みのLittle Monsters Productionsが,「MYTHIC: The Story of God and Men」というゲームの企画書をアップした。しかし,ゲーマー達が調べたところ,掲載されている文章はほかのゲームの企画をコピーしたものであり,公開されているアートも別のゲームから流用していることが発覚したのだ。
 結局このプロジェクトは,4700ドルほど集めた段階で,目標額の8万ドルに届かないことが明らかになっため,Kickstarterの規定によってプロジェクトはキャンセルされ,支援を表明した人の資金が実際に振り込まれることはなかった。

 ゲームの企画に賛同した支援者から資金を調達するという仕組みは面白いものであり,現在のパブリッシャやベンチャーキャピタリストが敬遠するジャンルのゲームにとっては有益な手法になり得るだろう。自分の予算に合わせて,さまざまな金額で援助できるというシステムもユニークだ。しかし現状,クラウドファンディングがパブリッシャを駆逐するとは思えない。
 Warballoonのように,目標額の設定や計画が安易すぎると思われるプロジェクトは今後も出てくるだろうし,詐欺行為を防ぎ,支援者が安心して援助できるシステムも必要になりそうだ。立ち上がったばかりのクラウドファンディングだが,ゲーム開発について言うなら,その前途にはかなりの紆余曲折が待っていそうだ。


著者紹介:奥谷海人
 本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるだろう。
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