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Access Accepted第505回:アーリーアクセスはゲームにとって吉か凶か?
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印刷2016/07/25 12:00

業界動向

Access Accepted第505回:アーリーアクセスはゲームにとって吉か凶か?

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 2015年にSteamで販売されたタイトルの約半分が,「アーリーアクセス」というシステムを利用していたという。しかし,「ARK: Survival Evolved」「Besiege」,そして「H1Z1」など,成功を収めた作品もある一方,アーリーアクセス版の実に75%の開発は遅延し,正式リリースを迎えられないままだ。パブリッシャや開発者にとってアーリーアクセスの利用は賢い選択なのか,今週はそのあたりを考えてみたい。


完成していないゲームが大ヒット


 欧米のゲーム業界に詳しい読者なら,「SteamSpy」の存在を知っているだろう。ロシアのセルゲイ・ガルヨンキン(Sergey Galyonkin)氏が,この1年ほど運営を続けてきたサイトで,きっかけは2015年3月に開催されたGame Developers Conference 2015でアメリカ人ジャーナリスト,カイル・オーランド(Kyle Orland)氏が行ったセッションだった。

Steamのアーリーアクセス版専用ページ。インディーズ系のゲーム開発者にとって,アーリーアクセスはパブリッシャや銀行などに頼ることなくゲーム開発を継続できる,理想のビジネスモデルだ
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 講演の内容については当時掲載したGDCレポートでお伝えしたとおりで,公になったSteamのデータを元に,さまざまな分析を試みるというセッションだった。ガルヨンキン氏のSteamSpyも同様で,Valveが公開している「Valve API」を利用して,サーバーに登録されているユーザーアカウントからランダムに8万〜9万件/日のライブラリをチェック。ほかの情報も参照して,ゲームの販売本数を見積もろうという試みだ。日々改善を重ね,現在,その誤差は0.33%以下だという。

 やや古い話で恐縮だが,そのSteamSpyが公表したところによると,年末商戦前の2015年9月時点でミリオンセラーと言えるのは6作品だった。内訳は「Grand Theft Auto V」「ARK: Survival Evolved」「H1Z1」「Cities: Skylines」「Rocket League」,そして「Besiege」で,インディーズ系ゲームは4タイトル。そのうち,「Rocket League」を除いた「ARK: Survival Evolved」「H1Z1」「Besiege」は,今なおアーリーアクセス版のままだ。

 今さら説明の必要もないだろうが,アーリーアクセスとはゲームの開発途中のα版やβ版を販売するという手法で,製品版がリリースされた場合,アーリーアクセス版の購入者は無料でアップデートできる。開発者にとっては継続してゲームを開発する資金が「前借り」という形で入ってくると同時に,プレイヤー,コミュニティのフィードバックやバグレポートが得られるという利点がある。
 インディーズ系のメーカーでは予算的に難しい大規模なテストを,アーリーアクセス版のプレイヤーがやってくれるし,彼らとの意見交換によってゲームをブラッシュアップできる可能性もある。さらに,口コミでプレイヤー数が伸びていくというプロモーション効果にも期待できるだろう。
 これまでは開発を見守りつつ,ゲームを早いうちから骨の随までしゃぶりたいという熱狂的なコアゲーマーがアーリーアクセス版に手を出していたが,最近は,そこまでではなくとも,気になるゲームを安いうちに買っておこうという人も増えてきたようだ。

2015年6月のアーリーアクセス版リリース以降,同年10月までに200万本のセールスを記録した「Ark: Survival Evolved」。恐竜や古代生物が次々に追加されていくのは嬉しいが,開発に手こずっている模様で,2016年6月に予定されていた正式ローンチは12月にずれ込んだ
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 こうした販売モデルは過去にもあったと思うが,大成功を収めてゲーム開発の手法に一石を投じたのが,「Minecraft」の制作者マルクス・ぺルソン(Markus Persson)氏だ。ペルソン氏は2010年12月,「Minecraft」のβ版を自分のサイトでリリースし,1か月で100万本のセールスを達成した。その後の躍進は,読者もよく知るところだろう。
 またSteamでは,「早期アクセス」という名称で2013年3月に,アーリーアクセス版の販売が始まっている。現在,1億7500万アカウントを誇る巨大なゲームコミュニティに成長したSteamだけに,そのうちの数%が購入してくれるだけでも相当な売り上げになっているはずだ。


アーリーアクセス版の光と影


 以上のように,とくに低予算のインディーズ系のデベロッパにとって数々の利点を持つアーリーアクセス。しかし,北米のリサーチ会社EEDARが公開した統計によると,Steamでアーリーアクセス版のリリースが始まった2013年始めから2015年末まで,合計573本のアーリーアクセス版がリリースされたものの,18か月以内に製品版に行き着いたのは,そのうちわずか25%だったという。
 アーリーアクセスという開発手法を導入するタイトルが増える一方,予定どおり完成するゲームは減り続けており,アーリーアクセス版のまま開発が中断した作品も少なくはない。今は応援してくれるゲーマー達も,このような状態が続けば,いつかはアーリーアクセスというコンセプトに愛想を尽かしてしまうだろう。

リサーチ会社のEEDARは最近,ゲーム市場の調査もよく行っている。それにしても,75%のアーリーアクセス版が18か月経っても正式ローンチしていないというのは驚きだ
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 ゲームとしての魅力不足,アーリーアクセス版を購入したプレイヤーの低評価,ほかの注目作に埋もれてしまった……開発中止の理由はさまざまで,当たり前の話だが,アーリーアクセス版を出したからといって成功が保証されているわけではない。
 さらに,アーリーアクセス版では定期的なアップデートや現状報告,話題作りも欠かせないが,個人でゲームを作っている開発者も数多く,「広報活動が苦手」「コミュニティマネージメントまで手が回らない」という人もいる。最近,こうした小規模デベロッパをサポートする広報会社も出てきたが,ゲームの善し悪しを分かってもらう前に,そのゲームが存在することさえ知られないまま開発を断念したタイトルも少なくない。

 ちなみにSteamでは,アーリーアクセス版でも購入後14日以内で,製品のプレイ時間が2時間以内なら払い戻しに応じてくれる。完成しなかったアーリーアクセス版の場合,期間に関係なく返金に応じてほしいところだが,クラウドファンディングと同様,「投資」という位置づけなのだろう。

大手パブリッシャのゲームでもβ版のリリース以降,鳴かず飛ばすの作品は少なくない。2014年4月にローンチされたCrytekのオンラインシューター「Warface」のXbox 360版は,7か月でサーバーがシャットダウンされるという短命のサービスに終わった
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 アーリーアクセス版とは若干異なるが,最近,大手パブリッシャの開発するタイトルがβ版を公開したり,無料のβテストを行うケースも増えてきた。しかし,β版だけで十分満足してしまうのか,中には本編がリリースされても購買につながらないケースも出てきており,こうなると,何のためにβ版を公開したのか分からない。こうした状況は,一時期大量生産されたMMORPGが,オープンβテストや短いサービスのあとで次々に姿を消していった状況を筆者に思い出させる。多くの人が,少し試して自分の思ったようなものでなければ,躊躇なく次のタイトルに移っていく。次の無料,または安価なタイトルはいくらでも出てくるからだ。

 当然,アーリーアクセス版で人気が出なければ,正式ローンチ後に大成するのは至難の業であり,そもそも開発が続けられない。開発者はアーリーアクセス版のメリットばかりでなく,デメリットも十分に勘案する必要があるだろう。そして我々ユーザー側も,Steamの注意書きにある「『完成』させられないチームもある」という言葉を忘れないようにすべきだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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