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「マスエフェクト」や「ドラゴンエイジ」などの名作RPGを生み出してきたBioWareが,31年の歴史に幕を下ろした。Electronic Artsは名門スタジオの閉鎖とともに新たな経営戦略を発表し,収益性の高い事業への投資集中を鮮明にしている。過去にも数々の開発スタジオを閉鎖してきたEAは,非公開化を経てどこへ向かおうとしているのか。BioWareの終焉から,変わりゆくゲーム産業と北米ゲーム業界の巨人の姿を考えてみたい。
名門BioWareの閉鎖と,繰り返されてきたEAの歴史
Electronic Arts(以下,EA)が10月21日,カナダの名門ゲーム開発スタジオであるBioWareの閉鎖を発表したことは,お伝えしたとおりだ。同社はアルバータ大学医学部で知り合い,医療教育用ソフトウェアを共同開発していた医師のレイ・ミュジカ(Ray Muzyka)氏,グレッグ・ゼスチャック(Greg Zeschuk)氏,そしてオーガスティン・イップ(Augustine Yip)氏によって1995年に設立された。
翌年には巨大ロボットを操る3Dアクションゲーム「Shattered Steel」をInterplay Productionsからリリース。その後,同社との開発契約によって生み出されたのが,初代「Baldur's Gate」(1998年)だった。
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今回のニュースを聞いて,筆者がまず感じたのは,驚きよりも寂しさだった。近年のBioWareが苦境に立たされていたことは周知の事実であり,こうした結末を予想していたゲームファンも少なくないだろう。
しかし,1990年代から欧米のゲーム産業を見続けてきた人間にとって,BioWareという名前には,単なる開発スタジオ以上の意味がある。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて,BioWareはPC向けのRPGらしい細かい仕様をフィーチャーし,プレイヤーの選択によって物語が変化するシステムや,仲間たちとの人間関係を重視したストーリーテリングで知られた。当時BioWareの作品を販売していたInterplayの広報チームには,まだ駆け出しのライターだった筆者も非常に良くしていただき,欧米のゲーム企業や広報とどのように付き合っていくべきかを学んだ記憶も強い。
2007年にEAの傘下に入ってからも,彼らはゲームプレイについての信念を貫きながらコンシューマ機向けのRPG開発に乗り出し,「マスエフェクト2」や「ドラゴンエイジ:インクイジション」などを成功させてきた。だが,創業者を含む主要な開発者たちが去ったあとで「開発能力や品質が下がった」と批判された2017年の「Mass Effect: Andromeda」や2019年の「Anthem」に続き,2024年の「ドラゴンエイジ:ヴェイルの守護者」も期待された成果を上げられなかった。スタジオの存続を危ぶむ声が出ていたとしても不思議ではない。
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もっとも,EAによる名門スタジオの閉鎖や吸収統合は,今回が初めてではない。1992年に買収したOrigin Systemsは,「ウルティマ」や「ウィングコマンダー」などの名作を生み出したが,2004年に閉鎖された。「Dungeon Keeper」や「Theme Park」を生み出したBullfrog Productionsは2001年,「コマンド&コンカー」で知られるWestwood Studiosは2003年,「Mercenaries」や「スター・ウォーズ バトルフロント」を手がけたPandemic Studiosは2009年,そして近年では「Dead Space」のVisceral Gamesも2017年に姿を消している。
EAはかねてから,買収したスタジオの独自性を失わせ,商業的な成功が見込めなくなるとIPを保持したまま閉鎖してしまう企業として,ゲーマーたちから批判されてきた。当連載でも「第380回:2年連続で「アメリカ最悪の企業」に選ばれたElectronic Arts」で話題にしたことがある。
当然ながら個々のスタジオの閉鎖には異なる事情があり,すべてをEAの経営方針だけで説明することはできない。それでも,かつて親しんだゲームを生み出した開発チームが次々と消えていく光景は,長年のゲームファンにとって悲しいことであろう。
もちろん,過去の栄光だけで企業が存続できるほど,ゲームビジネスは甘くない。この10年ほどのBioWareの不振を考えれば,EAがBioWareの将来性を疑問視したことも十分に理解できる。
しかし,かつて欧米RPGの未来を切り開いてきたスタジオが,今度はゲーム産業の変化についていけずに姿を消すという現実には,何ともいえない時代の流れを感じてしまう。BioWareの閉鎖が大きな反響を呼んでいる背景にも,そうした感情と,EAが過去に繰り返してきた経営判断への不信感が重なっているのではないだろうか。
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「次の時代」を見据えたEAの経営戦略
BioWareの閉鎖を発表したのと同じ日,EAは公式サイトに「Building EA's Next Chapter」と題する声明文を公開し,今後の経営方針を明らかにした。それによると,今回の決定は1つのスタジオの業績不振だけによるものではなく,EA全体の事業構造を見直す大規模な戦略転換の一環だという。新作「マスエフェクト」は小規模なチームによる初期段階の開発にとどまっていたが,この再編によって,その最後のプロジェクトも打ち切られることになった。
EAが掲げたのは,「Deepen Our Core」(中核事業の強化),「Expand Our Reach」(市場の拡大),「Transform Our Business」(ビジネスの変革)という3つの方針だ。すでに大規模なコミュニティを持つ人気フランチャイズへの投資を強化する一方,アジアなどの新興市場や新しいビジネスモデルへの進出を進め,さらにスポーツ分野で培ってきた知識やパートナーシップを活用することで,ゲーム以外の領域にも事業を広げようとしている。
具体的には,「Battlefield 6」の成功を受けてDICEとRespawn Entertainmentを協業させ,「Apex Legends」への投資も継続する。スポーツ分野では「EA SPORTS FC」を中心に,「Project Gridiron」と呼ばれるアメリカンフットボールの新作や,「Fight Night」シリーズの復活を進めるという。また,「The Sims」についても長期的な運営を重視する一方,一部のプロジェクトは開発を停止,あるいは規模を縮小する方針が示されている。
そのなかで,BioWareの閉鎖と「マスエフェクト」新作の開発中止は,アクションアドベンチャー事業の再編として説明されている。EAは「Marvel's Iron Man」や次の「Star Wars Jedi」の開発を継続するものの,今後は複数の大型プロジェクトを同時に進める体制を縮小していくという。
つまり,将来の収益性が高いと判断した作品に開発資源を集中させ,それ以外のプロジェクトについては,たとえ歴史あるフランチャイズであっても整理の対象とする姿勢が鮮明になったわけだ。
こうした経営判断は,ゲーム開発費の高騰を考えれば理解できないものではない。AAAタイトルの開発には数百人規模のスタッフと数年単位の時間が必要になり,発売後に期待した売上を達成できなければ,企業にとって大きな負担となる。長期的な収益が期待できるライブサービスやスポーツゲームを重視するのも,巨大パブリッシャとしては合理的な判断なのだろう。
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しかし,ここで気になるのは,EAが掲げる「中核事業」の定義が,以前とは大きく変化していることだ。「マスエフェクト」や「ドラゴンエイジ」も,かつてはEAを代表するフランチャイズであり,世界中に熱心なファンを抱えていた。それが現在では,スポーツゲームやオンラインシューターと比べて,将来の成長を担う事業とは判断されなくなったことになる。
もちろん,企業が時代に合わせて投資先を変えること自体は珍しくない。ただ,人気フランチャイズも最初から成功を約束されていたわけではなく,開発者たちが試行錯誤を重ねることで育てられてきたものだ。
既存の成功事例への投資を優先し,将来性の不確かなプロジェクトを切り捨てていく経営が,果たして次の「マスエフェクト」を生み出せるのか。現時点で成功している作品に集中して投資を続けるというEAの新戦略は,ゲーム産業全体が抱える難しい問題を浮かび上がらせている。
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非公開化されたEAと,巨大企業に求められる社会的責任
今回の事業再編を考えるうえで,見逃せないのがEAの非公開化だ。2025年9月,サウジアラビアの政府系ファンドであるPublic Investment Fund(PIF),米投資会社Silver Lake,そしてAffinity Partnersによる約550億ドル規模の買収計画が発表され,2026年8月には手続きが完了した。
当連載ではほぼ1年前に掲載した「第842回:Electronic Artsの巨額買収で懸念されることと,その未来」にて,この巨額買収がEAの経営やゲーム開発に与える影響について考察したことがある。
当時から懸念されていたのは,買収に伴う巨額の負債と,投資家が求める収益性の向上が,ゲーム開発の現場にどのような影響を及ぼすのかという問題だった。今回の買収では約180億ドルの負債が生じたとされ,年間7億ドル規模のコスト削減計画を示していたとも報じられているEAには,これまで以上に効率的な経営が求められることになる。
BioWareの閉鎖が買収によって直接引き起こされたと断定することはできないが,非公開化からわずか2か月半で発表された今回の事業再編が,新しい経営体制の方向性を示していることは間違いないだろう。
もっとも,こうした問題はEAだけに限った話ではない。今年に入って6000人を超える規模のリストラを断行しているMicrosoftによる大規模な人員削減について,10月8日にはJ・D・ヴァンス(JD Vance)副大統領が,国内従業員を解雇する一方で外国人労働者を積極的に採用していると批判した。
Microsoft側は,優秀な海外人材の受け入れは国内企業の技術競争力を維持するために必要だと反論しているが,巨大企業が利益を追求する一方で,国内外の雇用にどこまで責任を負うべきなのかという問題を浮き彫りにしている。
EAの非公開化とMicrosoftの雇用問題は,直接結びつく出来事ではないが,巨大企業が国境を越えて成長する一方で,その利益が従業員や地域社会にどのように還元されるのかという点では,共通する課題を抱えているように思える。
企業が収益性を追求することは当然だが,長年にわたって作品を生み出してきた開発者たちが職を失い,歴史あるスタジオが消滅していく現状を,単なる経営の効率化として片づけることは難しい。とくに,ゲームは商業的であるとともに文化的な側面も強いため,「ネヴァーウィンター・ナイツ」や「マスエフェクト」のファンのなかには,BioWareの閉鎖について怒りや悲しみを覚える人も少なくないだろう。
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先に記したように,かつてBioWareはプレイヤーの選択によって物語が変わるRPGを通じて,ゲームというメディアの可能性を広げてきた。そもそも,1990年代に衰退したと見なされていたPC向けRPGに再び光を当てたのも,当時の市場の常識にとらわれず,自分たちが面白いと信じるゲームを作り続けた開発者たちの情熱であり,そうした創造性は短期的な収益性や経営効率だけを追求して生まれるものではない。
もちろん,巨大企業であるEAが時代の変化に合わせて事業を再編し,新たな経営体制のもとで収益性を高めようとすることは理解できる。しかし,その過程で長年培われてきた開発技術や経験,人材,そしてゲームファンとの信頼関係まで失われてしまうのであれば,果たしてそれを成長と呼んでよいのだろうか。
EAが掲げる「次の時代」が,既存の人気フランチャイズから最大限の利益を引き出すだけのものになるのか,それとも新しい才能や作品を育て,ゲーム文化をけん引するリーダーとしての余地を残したものになるのか。31年の歴史に幕を下ろしたBioWareの存在は,ゲーム産業の巨人がこれから何を大切にし,何を次の世代へと受け継いでいくべきなのかを,改めて問いかけているように思える。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
























