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Access Accepted第570回:GDC 2018に見る,欧米インディーズゲーム市場のレッドオーシャン化
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印刷2018/04/02 12:00

業界動向

Access Accepted第570回:GDC 2018に見る,欧米インディーズゲーム市場のレッドオーシャン化

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 サンフランシスコで開催されていたゲーム開発者会議Game Developers Conference 2018で,最も印象的だったのが,出展されたインディーズゲームの多さだった。これほど多いと,もはや消費者には情報が届かず,実際,1本あたりの売上本数も減っているという。レッド・オーシャンと化したインディーズゲーム市場で,開発者達の生き残りを賭けた戦いが繰り広げられることになりそうだ。


インディーズゲームだらけだったGDC 2018


 カリフォルニア州サンフランシスコのMoscone Convention Centerで,現地時間の2018年3月19日〜23日にわたって世界最大のゲーム開発者会議,Game Developers Conference 2018(以下,GDC 2018)が開催され,最新技術から新作タイトルの発表,過去作品のポストモーテム(事後検証),そして業界の動向に至るまで,さまざまセッションが行われた。
 4Gamerでも例年どおりに総力を挙げて取材を行っているので,もしまだ読んでいないという人がいれば,ぜひ特集ページに目を通してみてほしい。

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4Gamer「Game Developers Conference 2018」記事一覧


 GDC 2018を主催したUBM Game Networkの発表によれば,GDC 2018への参加者の総数は2万8000人で,過去最大とのこと。2005年にサンフランシスコで初開催されたときの来場者が1万2000人と発表されているので,13年で2.5倍の規模に成長したことになる。
 今年は,30分のセッションやランチタイムのセッションなど,セッション数をギリギリまで拡大させており,結果として総数は770にも達した。さすがに最終日である金曜日の午後は空いていたが,人気のセッションに入れなかったり(消防法の関係上,立ち見ができない),ノースとサウス,各ホールの入口が工事中で狭くなっていたため,大変な混雑が起きたりなど,いつにも増して人が多かったという印象だ。

 さて,GDC 2018会場にはブースや試遊台の並ぶイベントフロアもあるのだが,そこを歩いて強く感じたのが,独立系開発者達の多さだ。ノースホールのイベントフロア全体の大部分を,「IGF Pavilion」「GDC Play」「Alt.Ctrl.GDC」,そして「Train Jam」というインディーズ系の出展が占めており,さらに通路の一角では,「Day of the Dev」が盛況だった。「Day of the Dev」とは,Double Fine Productionsが主催する展示で,インディーズゲーム10作品ほどが出展される。

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 一方のサウスホール地下では,Microsoftのストリーミングサービス「Mixer」をサポートした「Darwin Project」のゲーム実況が行われ,階上の「ID@Xbox」には,多数のインディーズ作品の試遊台が並ぶ。Sony Interactive EntertainmentやOculus,Epic Gamesなど,大手企業のブースでさえ,出展されていたもののほとんどがインディーズ作品だった。さらに,セッションがメインとなるウェストホールにも,3階には「Indie Magabooth」のエリアがあり,また1階にもUnityがブースを構え,Unityエンジンで開発されたインディーズ作品をいくつも展示していた。
 このように,話題作から初耳のタイトルまで,どこを向いても独立系開発者達の作品が並ぶという状況だったのだ。

「Alt.Ctrl.GDC」にあった,なんだか奇妙なコントローラを使ったゲーム。5年めになるこのスペ―スには,商業販売を目的にせず,場合によっては,なにを行っているのかさえ分からない実験的な作品が並ぶ
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データから見る,インディーズ市場の供給と需要のずれ


 「SteamSpy」を運営する,Epic Gamesのセルゲイ・ガルヨンキン(Sergey Galyonkin)氏のセッションも行われた。恒例となったこのセッションは,Valveのオンライン配信サービス「Steam」の動向を独自に調査して紹介するもので,内容については3月24日に掲載した記事で紹介したとおり。
 改めて簡単に説明すると,2017年のSteamの収益(販売額の30%と言われるValveの取り分)は,実に約43億ドル(約4500億円)に達するとのこと。1年間で7696本の新作がリリースされ,2017年末時点では2万1406本がラインナップされているが,その利益の約半分は「PLAYERUNKNOWNS‘ BATTLEGROUNDS」など,トップ100のタイトルが稼ぎ出している。
 インディーズゲームについて言えば,2017年の平均販売本数はわずか1500本。統計的には5000本ほどのロングテール(長期的販売)が見込めるが,インディーズゲームで成功するのは現在,かなり難しくなっているようだ。

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 「レッド・オーシャン」という言葉は,2005年に出版された「ブルー・オーシャン戦略」というビジネス書から生まれた。競争の激しい既存市場(レッド・オーシャン)で戦うより,まだ手のつけられていない未開拓市場(ブルー・オーシャン)を切り開くべきという戦略を説いた本だ。
 インディーズゲームはすでに,かつてのブルー・オーシャンからレッド・オーシャンに移行している。ガルヨンキン氏は,「1年に7000本を超える新作が出る中,ゲームメディアがすべてをレビューするのは無理です」とセッションで話しており,実際,見下ろし型視点のローグライクなアドベンチャーや,懐古趣味的な2Dの横スクロールゲームを出しても,消費者になかなかアピールせず,メディアにも取り上げられないケースが増えている。そのため新陳代謝も起きにくく,Steamトップ100には数年前にリリースされた人気作品が依然として並び続けている。
 つまり,現在のインディーズゲーム市場は,需要に対する供給が多すぎるというわけだ。新しいプラットフォームであるNintendo Switchに多くの独立系デベロッパが興味を抱くのも,こうした事情があるからだろう。

 上記のレポート記事では,「Games in 2017 Max Price」というグラフを掲載しているが。これを見ると,9.99ドルの価格帯に設定された作品が全体の60%を占めており,それより低い価格帯のタイトルが比較的多いことが分かる。しかし,もう1枚,上記の記事で使わなかったスライドには,ヒットした「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」を抜いて計算したグラフがあり,本数ではなく販売シェアで分類されている。これを見ると,安価な作品ではなく,高い値段でも十分に作り込まれたゲームのほうが,圧倒的に収益性が高いことが理解できる。

中国やロシア,ブラジルといった新興の市場では,それ以外の国々と比べて不公平なほど低価格で販売されるケースが多いという。それでも高価格帯作品の収益の高さは,独立系デベロッパが今後,考えていかなければならないことだ
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 独立系デベロッパの多くは,ワンアイデアのこぢんまりとした作品を安価にリリースする傾向があるようだが,消費者は安いゲームを購入しがちというわけではなく,高価格でもそれに見合った作品だと思えば,お金を投じるのだ。おそらくすべてが大手メーカーの大型タイトルだと思われる59.99ドルの価格帯の作品が,新作約8000本のうち,わずか96作品であるにも関わらず,収益の20%近くを占めていることも,それを裏付ける。

 ガルヨンキン氏は,「インディーズゲームはもっと価格を上げても良いだろう」と述べていたが,前提として,より時間をかけてクオリティを上げたほうが利益が大きくなるという意味がある。
 いくつかのインディーズゲーム開発者が共同で作品を作ることや,質の高いインディーズゲーム作品のみを扱うオンライン販売サイトの出現も考えられるところで,レッド・オーシャンになったインディーズゲーム市場では今後,生き残りをかけた熾烈な争いが繰り広げられることになるかもしれない。もちろん,こうしたゲームの質をめぐる争いがメリットをもたらしてくれるという面もあるので,今後も引き続き注目していきたい。


オマケとして,ちょっと気になるゲーム達


 今回のGDC 2018の取材では,注目のインディーズタイトルとしてPlausible Conceptの「Bad North」と,Next Studioの「Iris.Fall」を紹介している。実を言えば,これら以外にも,十分にプレイする時間がなかったり,情報が少なすぎたりして,記事としてまとめることができなかった作品も少なくなかったのだ。というわけで,最後に筆者が気になったインディーズゲームを4本ほど挙げておきたい。

AVARIASvs(PC)

開発元:Juncture Media
公式URLhttps://avariavs.com/

 日本のRPGに大きな影響を受けたという「AVARIASvs」は,3人対3人のターン制バトルが楽しめる作品だ。オンラインでほかのプレイヤーと対戦できるのだが,各プレイヤーが自分のキャラクターの操作を事前に入力し,その結果を見届けるという点が特徴となる。自分の入力した作戦が正解だったかどうかを競うプレイに,会場ではかなり盛り上がっていた。



One Punch Death Finger 2(PC)

開発元: Silver Dollar Games
公式URLhttps://www.ofdp2.com/

 たった1本の指で相手をなぎ倒す,カンフーマスターが主人公。マウスの左ボタンをクリックすると左の敵と戦い,右ボタンをクリックすると右の敵と戦うという,思いく限り,もっともシンプルな操作方法の2D横スクロールアクションだ。とはいえ,相手の武器を奪ったり,手持ちのアイテムを使ったりするといったことができ,さらには,馬に乗って戦うことも可能など,簡単すぎるわけではない。
 グラフィックスもかなりシンプルだが,コンボ技を繰り出すたびに,背景にイラストが挿入され,プレイヤーの想像力を掻き立てる。噴水のように血しぶきを上げて倒れる敵の姿など,表現は割と過激で,発売は2019年春とのこと。



KIDS(PC/iOS/Android)

開発元: Playables
公式URLhttps://playables.net/

 スイスのチューリッヒに本拠を置くプログラマー集団,Playablesの新作「KIDS」は,展示ブースの傍らを通り過ぎる人の足を,必ずと言っていいほど止めさせる不思議なゲーム。子供達の群集心理を表現したというもので,プレイヤーキャラクターが走り出すとほかのキャラクターも走り出し,誰かが穴に落ちると,ほかのキャクターも次々に穴に落ちていく。巨大スクリーンを使った,インタラクティブアートなどにも応用できるとのことだ。



Furious Sea(PC/PlayStation 4)

開発元:Future Immersive
公式URLhttp://www.futureimmersive.com/

 カナダのFuture Immersiveが,GDC 2018に展示するために5か月ほどでデモを作り上げたという「Furious Sea」は,プレイヤーが海賊になり,大海原で敵のガレオン船などと海戦を楽しむというVR専用ゲームだ。持ち船の操作はもちろん,帆の上げ下ろし,砲弾を発射など,さまざまな命令をクルーに下してプレイを進めることになる。ちなみに,波の影響で視界が上下に揺れるため,筆者は一発でVR酔いになってしまった。まあ,それもまたリアルなのかもしれないが,そうした点に開発メンバーがどのように対処していくのか,注目していたい。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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