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その名は「モロキュウ」。頭にはなぜか皿ではなくメロンパンを載せ,何かに感じ入ると五七五の歌を詠み,体重はメロンパン1個分。カッパ? なのにキュウリが苦手で,しかも泳げない。
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「なんだこいつは」なんて思う人もいるかもしれない。だがこの程度はまだまだ序の口。この緑色の相棒と一緒に「トアル団地」のあちこちを歩き回るうちに,筆者はさまざまなワンダーと出会うことになった――。
というわけで今回紹介するのは本日(2026年10月30日),Analgesic ProductionsからSteam向けにリリースされた「Danchi Days」だ。
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本作はgingham gamesが手がける見下ろし視点のアドベンチャーゲームだ。グラフィックスは2000年代初頭,ゲームボーイアドバンス時代を思わせる温かみのあるドット絵で構成されている。開発者のひとり・sandy powder氏は子どものころ「さくらももこのウキウキカーニバル」に熱中していたという。制作には「Anodyne」シリーズで知られるMelos Han-Tani氏や,カナダ在住のイラストレーターmogumu氏らが参加し,「平成レトロ」な空気を現代に蘇らせている。
しかし,本作はただ「懐かしさに浸るだけのゲーム」ではなかった。本稿で詳しく紹介しよう。
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五感全開で団地の暮らしを感じよう
主人公は12歳の小学生・金岡ホシノ。彼女が暮らす「トアル団地」は,高齢化が進み,往時のような活気を失いつつある。かつて団地の夏祭りで実行委員長を務めていたおばあちゃんも,今や認知症で車椅子生活となっている。
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そんなおばあちゃんを喜ばせるため,ホシノは途切れていた夏祭りの復活を決意し,クセの強いご近所さんたちを誘うべく奔走することになる。
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ゲームプレイの軸となるのは,団地内の探索と,住人たちとの交流だ。なかでも特徴的なのは,ボタンを長押しすると少し離れたところまで見たり,調べたりできること。意外な場所から細かくリアクションが返ってくるので,つい何でも調べたくなる。
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そうこうしているうちに,宙を漂う「キラキラ」が見つかることがある。これを五感で「感じる」ことにより,さまざまなミニゲームが始まる。
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「木にぶつかって匂いを嗅ぐ」「水たまりで泥だんごを作る」「トイレの音に耳をすませる」――自称「五感マスター」だったおばあちゃんの教えを受け継いだホシノは,何事もめいっぱい面白がることができるのだ。
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それらのミニゲームをクリアし,星を集めていくと,モロキュウの失われた記憶が少しずつ明らかになっていく。かつておばあちゃんの夏祭りの手伝いをしていたというモロキュウ。彼とおばあちゃんの間には何があったのか……。
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また,団地内にいる人たちと接していくうちに,「その場所の過去」について聞かされることもある。ボンネットで目玉焼きが焼けたという熱砂の戦線さながらに,滑り台の上で玉子がいい音を立てて焼けている夏の公園。住人たちは,かつてどんな思いでこの場を作り上げたのだろう。
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外はサクサク,バターの香り。中はしっとり甘いメロンパン。かつて団地では,メロンパンはどのように親しまれ,人々の思い出のなかに残ってきたのか。人に歴史があるように,いたるところに団地の歴史が積み重なっている。
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なお,団地内には老若男女,50人以上もの個性的な住人たちが暮らしている。
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「PCはひとり一台の時代が来る」とホシノのお父さんが語り,住人たちが手作りのホームページを開設している。そう,本作の舞台は現代ではなく,20年以上前,iモードや個人ホームページが元気だった時代だ。
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住人を知るには面と向かって話すだけでなく,ホームページやメールを駆使するのもひとつの手だ。人にはあまり話さないような,隠れた胸の内に触れられることもある。本作はそんなひとクセもふたクセもある人々との出会いを,まるで「ポケモン図鑑を埋めていく」ような見せ方でまとめている。
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変わりゆく団地と,ネットで明かされるリアル
本作は単に「昔懐かしい団地への愛着」や「レトロな日常の癒やし」を描いているだけではない。
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かつて子どもたちの元気な声が響いていた保育園は,時代の流れとともに役目を終え,シルバーセンターへと変わろうとしている。ご近所の仲をとりもっていたおばあちゃんも,認知症で少しずつ変わっていく。
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さらに,ゲーム内のインターネットでは,トアル団地を「お年寄りと猫しかいない」「ウバ捨て山」「廃墟まっしぐら」などと中傷する声も。いったい,誰がそんなことをしているのか……。
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開発陣が本作を「Post-Cozy(癒やしの先にあるもの)」と位置づける背景には,こうした「どうにもならない現実」を悲劇としてあおらず,また無邪気なファンタジーで解決してみせるわけでもない,絶妙なスタンスがある。
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人が成長し,いつしか老いていくように,街も変わり,二度と戻らないにぎわいがある。その「失われていくもの」への寂しさや切なさを抱えながら,それでも今をどう愛おしむのか。本作の物語の根底には,現実を直視する視線と,温かいまなざしが同居している。
このトアル団地で暮らす人々と同じように。
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全5章で描かれる物語のプレイ時間は8〜12時間ほど。住人との交流を深め,ミニゲームをしっかり攻略すれば,もう数時間はかかるだろう。
ちいさな子どもがプレイすれば「不思議でにぎやかな冒険」として楽しめるかもしれないし,大人――とりわけGBA時代のゲームに親しんだ世代が触れれば,何とも言えない郷愁を味わえるだろう。
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たとえホシノとモロキュウの活躍によって,にぎやかな夏祭りを復活させることができても,トアル団地が全盛期の活気を取り戻すことはないのだろう。
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住人は高齢化し,思い出の場所は姿を変え,時代は移り変わっていく。それはゲームの中だけでなく,現実の私たちが向き合っている社会の姿そのものだ。
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だが,本作は「どうせ昔には戻らないのだから」と諦めて終わりにはしない。
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解決策なんてなくても,ありのままを受け入れ,一緒に笑い合う時間そのものが宝物になる。それこそが移ろいゆく時への,ささやかで,かつ力強い向き合い方ではないか――そんなふうに語りかけられたような気がしたゲーム体験だった。
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