講演タイトルになっている「藁を紡いで金にする」は,Moberly氏が子どものころ母親から聞かされたおとぎ話「ルンペルシュティルツヒェン」から取ったものだ。藁を金の糸に紡いでやる見返りに,小人のような男が娘に最初の子どもを差し出させる話で,英語では無理難題のたとえとして使われる。
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物語は,魔法のように才能のある人から自然に湧いてくるものだと思われがちだ。だがMoberly氏は,物語は魔法ではなく,それよりもいいものだと考えている。
技術であり,練習であり,忍耐であり,チームメンバーとの共同作業なのだ。Moberly氏にとっては,一生かけて追い求めるものでもあるという。
講演で扱われたのは,台詞の磨き方やキャラクターの作り方,プロットの直し方などではなかった。その手の助言ならもっと優れたものが世の中にいくらでもあるとして,Moberly氏はチームを支えるために書き手が自分で用意しておける土台の話を始めた。
1つめは,物語の構造の基本を学ぶことだ。これまで一緒に働いてきたチームメンバーの多くが,自国の文化のものも他国の文化のものも,その基本を知らなかったという。
構造を知っていれば,何が正しい判断なのか分からない会議の場でも,前例を踏まえて判断できる。拠りどころを持てるわけだ。
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2つめは,自分が何度も立ち戻るものを見極めることだ。Moberly氏の知る創作者には例外なく,作品に繰り返し現れるテーマや考え,感情があるという。
書き手はほかのものを書くべきだと自分をごまかしがちだが,繰り返し現れるものこそ書き手が持ち込める強みだ。その感覚を大事にすべきだとMoberly氏は話していた。
3つめは,物語に触れる媒体を広げることだ。Moberly氏は短編小説の編集者としてキャリアをスタートし,アニメ,ゲーム,出版の仕事を経験してきた。詩や小説を読み,彫刻について学んだことなどが,違う角度から考えて物語を語る力につながったという。
ゲーム業界にいると,遊ぶべきいいゲームが多すぎて,友人の作品を遊ぶのもままならない。その結果,本来力を注ぐべきところに手が回らなくなることもあるという指摘があった。
4つめは,自分のライブラリを作ること。これは,行き詰まったときに頼れる参考資料の蓄えで,他人の役に立つとは限らないのだが,Moberly氏自身には有用で,どの会社に移っても持っていくという。
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最後に挙げたのが,信頼できる創作仲間の輪を作ることだ。スライドには,トールキンやC.S.ルイスが属したインクリングズ,ハーレム・ルネサンスの作家たちなど,Moberly氏が大学院で研究した作家たちの写真が並んでいた。
のちに同世代を代表する作家になった人たちが,みな知り合いだったのは不思議に思える。だが何年か後には,この会場にいる開発者たちも「なぜあの人たちはみな知り合いだったのか」と言われるかもしれない。Moberly氏は聴衆にそう語りかけた。
友人関係は創造性に火をつけるものだ。創作の場に信頼があってこそ,もっと先へ踏み込めるのだとMoberly氏は考えている。
講演の中心は,Moberly氏がスタジオで見てきた3つのアプローチの比較だった。物語を先に決める「Story-First」,ゲームプレイを先に決める「Gameplay-First」,世界を先に決める「World-First」で,それぞれ何がうまくいき,何がうまくいかないのかを話していた。
物語優先とは,「どんな物語を作ってもいい,それをゲームにする」と丸投げされるようなやり方だ。スタジオにとっては大変な覚悟がいり,Moberly氏自身もそんな依頼を受けることはめったにないという。
専用に作り込むコンテンツが大量に必要になり,費用がかさむのがその理由だ。そのぶん,決まった物語を決まった順番で語る直線的なストーリーテリングに向いている。
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注意点もある。物語優先で作ると,ゲームプレイが分かりにくくなりやすいのだ。
物語を最優先にするなら,プレイヤーがほかの操作に気を取られず物語を追えるよう,メカニクスやシステムが強いる頭の負担,つまり認知負荷を軽くしなければならない。ゲームプレイで実現したいことが物語と矛盾して見えるときには,プレイヤーに何を伝えたいのかを開発者に率直に尋ねる。プレイヤーに響くのなら,答えに正解も不正解もないという。
ゲームプレイ優先は,会場の多くの人にとってなじみのある考え方だろう。ゲームプレイがいつも先だと言われてきた人は多いはずで,Moberly氏自身もある程度はそう考えている。
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だが,ゲームプレイが常に物語より優先されると,物語には融通の利く余地がほとんど残らない。物語担当の開発者が脇役扱いされ,チームの一員ではないように感じて不満をためることもあるそうだ。
もっと現実的な危険がある。すべてのレベルを作り終えたのに台詞は1行もなく,キャラクターの名前すら決まっていない,といった状態になる可能性もある。
ゲームプレイを優先しすぎると,物語を具体的で一貫したものにするのが非常に難しくなり,ぼやけて広がりすぎてしまう。それでも,戦闘中心のジャンルやライブサービス型のゲーム,モバイルゲームなど,ゲームプレイの比重が大きい作品なら,ゲームプレイ優先が合うという。
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3つめの世界優先では,プレイヤーが憧れるもの,つまり舞台設定がいちばんに来る。世界そのものが主人公なのだ。
たとえば「指輪物語」の中つ国に行きたい人の多くは,フロドになりたいわけではないだろう。中つ国にいたいのだ。ゲームの多くは,実はこうした世界中心の作りだという。
ただし,アートの作業量は膨大になる。世界を優先したいチームが作業範囲の膨張にはまり,予算もスケジュールも使い果たす例を,Moberly氏は何度も見てきたという。資金の大きな無駄につながりかねない落とし穴だ。
一方で,世界優先は非直線的なストーリーテリングとの相性がいい。決まった場所へ決まった時間に決まった方法で行け,とプレイヤーに指示するのではなく,探索へ誘うことになるためだ。
それぞれのアプローチの例として挙がったタイトルも紹介しておこう。物語優先の例は「ファイナルファンタジーXVI」「1000xRESIST」「Pentiment」「恋と深空」で,ジャンルでいえばアドベンチャーゲーム,乙女ゲーム,RPGといったところだ。
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どれも物語が最優先でなかったら成り立たなかったはずの作品で,すべては物語の質にかかっている。Moberly氏は「1000xRESIST」を,ここ5年で特に好きなゲームの1つに挙げていた。
ゲームプレイ優先の例は「Hades II」「Hollow Knight」「Monument Valley」,そして古典としてのマリオだ。メトロイドヴァニアがいちばん好きなジャンルだというMoberly氏。こうした作品はコントローラを握った瞬間から,世界やキャラクターの説明に時間を使わずにプレイヤーを素早く動かしてくれると話していた。
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前作「Hades」の主人公ザグレウスの場合,核になったのは1回のダッシュだった。開発元Supergiant GamesのAmir Rao氏と話したとき,ゲームのすべてがこの動きを中心に組み立てられたと聞いたそうだ。ダッシュの手触りが決まった時点で,開発陣は手応えをつかんだという。
世界優先の例には「あつまれ どうぶつの森」「ワンダと巨像」「Outer Wilds」,ゼルダの伝説シリーズが挙がった。これらのゲームの開発者と話す機会があったMoberly氏によれば,プレイヤーが自由だと感じられる世界を作るのは,ゲーム開発でもっとも難しいことの1つだという。
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講演の後半,Moberly氏が秘訣として明かしたのは,いちばんいい物語を持つゲームは,ほかの誰もが見落とす部分を大事にしている,ということだった。物語優先にせよゲームプレイ優先にせよ,視野を狭めすぎないほうがいいということだ。
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Moberly氏がキャリアのなかで関わったもっとも大きな成功例は,物語優先でありながらメカニクスに深みのあるゲームだったという。物語優先のゲームを手に取るプレイヤーは物語を期待していて,メカニクスにはそれほど期待していない。
だからこそ,メカニクスに深みを用意できれば,プレイヤーを完全に虜にできるわけだ。その例として「UNDERTALE」が挙げられた。
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逆に,ゲームプレイ優先のゲームで本当に効果を上げたいなら,いい物語を語る必要がある。例に挙がったのは「Celeste」だった。
プラットフォーマーは数え切れないほどあり,「Celeste」がここまで成功すると予想した人はいなかった。それでも特別な作品になったのは,語った物語と,伝えようとしたコミュニティの姿のおかげだとMoberly氏は見ている。
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世界優先のゲームのなかでもっとも際立つのは,プレイヤー自身に物語を想像させるゲームだという。世界優先のゲームがオープンワールドとは限らないのだが,例として挙がったのは「ELDEN RING」だった。
「ELDEN RING」は,物語がどうあるべきかを告げない。プレイヤーが物語を体験し,解釈し,何度も考え直すに任せており,レベルを攻略しながら世界の観察者であり探検者でもあろうとするところに喜びがあるという。
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講演の締めくくりにMoberly氏は,人間らしさは自分たちが語る物語によって形作られると述べた。キャリアを通じて,人を結びつけているのは互いに分かち合う物語だと感じてきたという。
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世界が激しく揺れ動くなかでも,人間であるとはどういうことかを忘れてはいけない。Moberly氏はそう話し,次のプロジェクトを始める手がかりになればと講演を結んだ。
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