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幼児向け展示で直面した想定外の事態とは? 大阪成蹊大の伊藤俊輔氏が語る交通安全ゲームの現場運用レポート
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印刷2026/10/29 09:30

イベント

幼児向け展示で直面した想定外の事態とは? 大阪成蹊大の伊藤俊輔氏が語る交通安全ゲームの現場運用レポート

 大阪電気通信大学(寝屋川キャンパス)で2026年10月24日に開催された「大阪シリアスゲームデイ」にて,大阪成蹊大学芸術学部准教授の伊藤俊輔氏によるセッション「『体験して学ぶ』自転車交通安全ゲームの制作事例」が行われた。ゲーム会社で15年間開発に携わった経歴を持つ伊藤氏は,現在は大学で学生たちのゲーム制作を支援している。

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 本セッションで共有されたのは,大阪府豊中市と大阪成蹊大学の連携によって実現した交通安全ゲームの制作・展示プロジェクトだ。
 デジタル活用を推進する豊中市の戦略部門(デジタル戦略課)および交通政策課とのコラボレーションのもと,芸術学部の半期の授業(プロジェクト演習)として学生と教員が共同で開発を行い,2026年9月22日に阪急ドライビングスクール服部緑地で開催された「秋の交通安全フェア」にて体験展示を実施したという。

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 企画の発端には,自治体が抱える「交通安全教室のアップデート」という課題があった。小学校の校庭に白線で横断歩道を引き,警察官の指導で左右確認や自転車の乗り方を学ぶアナログな体験は数十年前から変わっておらず,現代の子どもたちに向けたデジタル体験の需要は高いものの,自治体側にそのノウハウがないのが実情だった。
 なお,当初は「自転車のルール啓発」がテーマとして挙がっていたが,イベントの対象年齢が「4歳から小学校低学年」という条件だったため,まだ自転車に乗れない幼児や,すでにヘルメットを着用して保護者の管理下で乗っている子どもが中心であることを考慮し,今回はより幅広く「車や歩行者を含めた交通安全そのものの意識づけ」へとテーマを広げて制作が進められた。


Kinectで全身を動かす「知識型」と「身体型」の2作品を制作


 今回のプロジェクトでは,同じ交通安全というテーマに対し,異なる2つのアプローチで作品が制作された。いずれもセンサーデバイス「Azure Kinect」を用い,コントローラを持たずに全身を動かして遊ぶ体感型コンテンツとなっている。
 また,イベント会場で行列ができることを想定し,回転率を最優先して「1プレイ約2分以内」で完結する設計が徹底された。

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●知識型コンテンツ「ブーブークイズロード」:

 画面の前に立ち,体を左右に動かすことで画面中央の車を操作し,左の「○」か右の「×」へ体ごと移動して交通ルールのクイズに答えるゲーム。「車に乗るときはシートベルトをする?」といった全5問が出題され,単に正誤を判定するだけでなく,1問ごとに必ず解説画面を表示して正しい知識を伝える工夫が凝らされている。

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●身体型コンテンツ「よけラン」:

 自動で前進し続けるキャラクターを操作するゲーム。道中に現れる横断歩道や信号,踏切,さらには前方から来る自転車や飛び出してくる歩行者などの障害物を,プレイヤー自身が体のポーズ(両手を上げてストップ,しゃがむ,左右に避けるなど)をとることで回避していく。「自らの意思で止まる・避けるという正しい行動をとったから安全に回避できた」と認識してもらう狙いがあり,信号無視や左右確認不足などでゲームオーバーになった際も,失敗の原因に応じた簡潔な解説を表示して「ゲームオーバー自体を学びの画面にする」設計が採られている。会場ではクリアを目指して何度も並び直す子どもの姿も見られたという。

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「12時過ぎに子どもが消える」「幼児の体型を認識しない」――現場で起きた想定外の事態


 イベント当日は豊中市の副市長も視察に訪れ,全体で約3000人が来場する盛況となった。10:30〜15:00の4時間半で,2作品合わせて約70名の子どもたち(4歳〜小学校3年生程度)がゲームを体験したが,実際の現場では開発段階の想定を大きく覆すトラブルや発見が相次いだという。

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 まず直面したのが「来場者の生活リズムによる波」だ。午前中は途切れることなく行列ができていたものの,12時を過ぎた途端にパタッと人がいなくなり,体験者がゼロの時間帯が増えた。
 市の担当者に確認したところ,来場者の大半は幼児を連れたファミリー層だった。12時になると昼食のために一度会場を離れ,さらに食後は4歳前後の子どもが体力的に限界を迎えて「昼寝」をするため,そのまま帰宅してしまうという行動パターンが判明した。ターゲット層の生活リズムに展示の稼働が大きく左右されるというのは,現場に出て初めて得られた知見だった。

 さらに深刻だったのが,ゲームプレイにおける「想定とのずれ」だ。
 開発陣はシンプルなポーズ設計にしたつもりだったが,4歳〜小学1年生くらいの子どもにとっては「説明を受けてゲームのルールを理解すること」自体が難しかった。加えて,開発時は大人の体型バランスでKinectの調整を行っていたため,幼児の体型では骨格のキャリブレーションが安定しなかった。また,「左へ避けるポーズをとる」代わりにそのまま歩いてフレームアウトしてしまう子どもが続出。また,興味を持ったほかの子どもが仕切りを越えて机に登ってきたり,保護者がすぐ隣に並んだりすることで,Kinectが複数人を検知して誤作動を起こすケースも多発した。

 結果として,開始当初はほとんどの子どもがすぐゲームオーバーになり,「交通安全を学ぶ」以前に「難しくて遊べなかった」という印象が残る危機的状況に陥ってしまった。

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“オズの魔法使い法”による緊急回避と,保護者との「対話」が生んだ学び


 この状況を打破するため,伊藤氏と学生スタッフは現場で即座に運用方法を変更するアドリブ対応に踏み切った。

 「よけラン」で採られた解決策は「隠しコントローラ」の投入だ。万が一のテスト・デバッグ用として実装してあったコントローラ操作機能を使い,子どもの横に座った当番の学生がコントローラを隠しながら持ち,子どもが右へ動いたりポーズをとったりするのに合わせて手動でボタンを入力したのだ。
 これはヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の分野で「Wizard of Oz(オズの魔法使い)法」と呼ばれる,システムの裏側を人間が代行する手法そのものだ。
 本来はプロトタイプ検証で使われる手法だが,これを本番環境で緊急発動したことで,子どもたちの「自分の体を動かしたらゲームが動いた!」という体験を守り抜いた。また,複数人検知を防ぐため,机の配置を詰めて物理的に横から入れないようにするレイアウト変更もその場で行われた。

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 一方の「ブーブークイズロード」では,「保護者やスタッフによる誘導」が機能した。子どもが1人でプレイしていると,周囲で見守る保護者が自然と「青信号はどっちだっけ?」と声をかけ,学生スタッフも答えを直接教えるのではなく「手を挙げるときはどうするんだっけ?」と問いかけて記憶を引き出すサポートを行った。

 伊藤氏はこれについて,「振り返ってみると,学びはゲーム画面の中だけで起きていたのではなく,ゲームと,その横にいる保護者やスタッフとの『対話(人との関わり)』の中で起きていたのだと実感しました」と語る。

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次なる自転車特化コンテンツと,産学官連携における今後の展望


 今回の実践を通じて,幼児向け展示では「ゲーム単体ではなく人の関わり(声かけの台本など)まで含めた運用設計」や「ルール説明やキャリブレーションを不要にする仕組み」が不可欠であることが明確になった。また,今回はアンケートなどによる学習効果の検証が行えなかったため,今後は幼児でもシール貼りで回答できる仕組みや,プレイ直後に1問だけ尋ねる検証フロー,ゲームオーバー原因のログ集計などを組み込んでいきたいと,伊藤氏は課題を挙げた。

 セッション後の質疑応答では,今後の展開やビジネス面での議論も交わされた。
 まず次なる展開として,今年4月の法改正で自転車の罰則(青切符制度など)が強化されたことを受け,後期の授業では「自転車の交通マナー」に完全に特化した新コンテンツを制作しているという。こちらはターゲット年齢を小学校高学年から中高生へと引き上げ,今年12月に開催される別の展示フェアにて体験会を実施する予定だ。

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 また,会場のシミュレータ開発企業から「大学の授業として無償で作られると民間ビジネスと競合してしまう側面があるが,有償化の可能性はあるのか」という質問が寄せられると,伊藤氏は「今回は行政側から最初からガチガチの仕様で発注されたわけではなく,学生のポートフォリオ実績としてこちらで自由度高く作らせてもらう前提で,制作費なしの形で進めました。もし予算を伴う業務プロジェクトとして行うなら,自治体が来年度予算を組む秋頃の段階から見積もりや仕様を固めて動く必要があります」と回答。
 さらに今回の展示を視察した市関係者からは「高齢者向けのコンテンツ」や「役所の窓口で書類手続きを待つあいだ,退屈している子どもが遊べるコンテンツ」など新たな課題やニーズも寄せられており,内容に応じてシミュレータ型が適切かどうかも含め,民間企業とも連携しながら模索していきたいと語った。

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 最後に伊藤氏は,大学の授業としての成果を振り返り,「現場でトラブルが起きた際,『うまくいかない前提』で二の手・三の手を用意し,学生たちが自分たちの判断でリアルタイムに運用を変えて乗り切ったこと自体が,教育として非常に大きな学びになりました」と締めくくった。

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