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京都府舞鶴市に生まれた玉林氏は,大学卒業後に総合商社で台湾赴任などを経験したのち,長男として実家の家業に呼び戻され,2009年に3代目経営者に就任した経歴を持つ。
しかし,そこから約10年間にわたる経営の道のりは「ここだけで2時間のセミナーができるほど大変だった」という壮絶なもので,最終的に玉林氏は弟へすべての自社株を売却して退任する決断を下した。
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退任後にエグボマネジメントサービスを立ち上げた玉林氏は,この生々しい実体験を世に伝える手段として,当初は小説や映画にすることも考えたという。その延長線上で「ゲームという伝え方もあるのではないか」と思いつき,開発に踏み切ったのがアナログボードゲーム「事業承継ゲーム」だ。
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事業承継の3要素と,「世襲」から「選択」へと移り変わる現代の後継者事情
玉林氏はまず,事業承継とは「会社や店舗などの事業を現在の経営者から次の人へ引き継ぐこと」であると定義したうえで,引き継ぐべき要素として以下の3つを挙げた。
・経営の承継:代表取締役などの「代表権」を引き継ぐこと。
・所有の承継:「自社株」を引き継ぐこと。代表取締役であっても自社株を1株も持っていなければ,自分で何も決められない“雇われ社長”状態に陥ってしまうため極めて重要となる。
・資源(ノウハウ)の承継:技術やデータなど,決算書には表れない無形の資産を引き継ぐこと。
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そのうえで玉林氏が本作を通じて最も伝えたかったのが,「誰が会社を継ぐのか」をめぐる時代の変化だ。
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一般的に会社の跡継ぎといえば息子や親族を連想しがちだが,実際には昨年(2025年),社員・従業員が継ぐ「親族外承継」の数が親族内承継を上回ったという。さらに第三者へのM&Aも急増している。もはや旧来の家父長制の下で直系の長男・長女が当然のように継ぐ時代ではなく,「世襲から選択へ」と移り変わっている現実が,本作には反映されているという。
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また,自社株評価や譲渡制限株式,税制,議決権,会社法といった必須知識が後継者から抜け落ちているケースが多いと指摘。そのうえで「事業承継は制度だけでは解決せず,当事者の心理や感情が大きく左右する」と玉林氏は強調する。
現実の経営で失敗すれば取り返しがつかないからこそ,ゲームという安全な場で疑似体験してもらい,失敗と選択を繰り返しながら全体を俯瞰してもらうために本作を設計したという。
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1000株を4人で奪い合う盤上の駆け引きと,自身の価値観を問う対話設計
玉林氏がカードをめくる感触やトークンを弾く手触りを好みアナログにこだわったという本作は,トランプサイズのカード28枚,イベントカード11枚,エンドカード16枚などで構成されている。
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基本ルールは,架空の非上場会社が発行する「1000株」を,初期設定の異なる4人の後継者候補――同族の「長男」「長女」と,非同族の「番頭」「社外取締役」――で奪い合うというものだ。ゲームは前半戦(株を多く集めて会社を支配するパート)と後半戦(株を保持して支配するか,売却して現金を残すかを問う価値観のパート)に分かれ,以下の4つのフェーズで進行する。
1.評価フェーズ:非上場会社の「譲渡制限株式」は株主から認められなければ買い取れないため,まずは周囲からの評価を集める。
2.譲渡フェーズ:株主が求める条件に合致したトークンと評価を揃えて株式を取得する。
3.売買フェーズ:集めた株を誰に売却し,どれだけキャッシュ(現金)を手元に残すかを交渉・判断する。
4.運命フェーズ:どれほど緻密な計画を立てていても降りかかってくる,事件・事故・災害・病気といった理不尽な「運命」によるどんでん返しが発生する。
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そして本作の核心となるのが,ゲーム終了後に行われるテーブル内での「対話」だ。
プレイヤーはファミリービジネスの立ち位置を示す「スリーサークルモデル(ファミリー・オーナーシップ・ビジネス)」に自身を当てはめながら,プレイ中に自分は何を守ろうとして行動したのか――家業の存続という使命感か,経営権の支配か,家族の絆か,あるいは自己利益か――という判断基準と価値観を参加者同士で語り合うことになる。
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あえてルールに「隙間」を残す理由と,4属性合同プレイによるデータ構築
これまでに後継者や経営者,学生,さらには中小企業診断士や税理士といった支援者,金融機関など幅広い層にプレイされてきた本作だが,現在は「後継者・支援者・現役経営者・金融機関」という異なる4つの属性のプレイヤーを1つのテーブルに集めてプレイしてもらう新たな企画を進めているという。立場の異なる4者が同じ盤上でどのような判断を下すのか。そこで得られるデータは日本でも前例のない貴重なものになると玉林氏は期待を寄せる。
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また玉林氏は,シリアスゲームを開発するうえで意識しているポイントとして,「ビジネスのルール(既存の法律や制度の忠実な実装)」と「遊びのルール(パーティーゲームとしての盛り上がり)」のバランスを挙げる。さらに3つ目の柱として,「ルールをギチギチに固めず,あえて遊び(隙間)を残すこと」という「構成のルール」を示した。
どう解釈してもよい曖昧な隙間を残しておくことで,判断に迷ったプレイヤー自身が選択を迫られたり,プレイヤーからの質問をきっかけにゲーム自体が改善されたりする余白が生まれるのだという。
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セッションの最後,玉林氏は「現実の会社で筆頭株主が4人の候補者を競わせて株を譲渡することは一般的ではなく,むしろ絶対にやってはいけないこと」と釘を刺した。
現実では後継者本人の意思や社内の承認が最優先されるべきであり,本作の争奪戦はあくまで後継者に求められる要素を可視化するための演出にすぎない。「現実でやってはいけないことを安全な場で再現し,『なぜ継ぐのか』を考えるきっかけにしてほしい」と語り,講演を締めくくった。
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