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もともとIT業界でシステム開発や保守,コンサルティングに従事していた石神氏は,ボードゲーム編集者へ転向して約10年。これまでに150作以上のゲーム制作に関わってきた。また,教育や研修,社会課題をテーマとしたボードゲームを集めた体験イベント「Play and Learn(プレイアンドラーン)」を2024年から半年ごとに横浜で開催しており(現在は主催をNPOへ移管),今回のイベント会場後方でも「ミニプレイアンドラーン」として実際に遊べるボードゲーム展示を行っていた。
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そんな石神氏が現在,もっとも強く危惧しているのが「シリアスゲームを評価するための『物差し(基準)』が存在しないこと」だという。
石神氏は,社会課題をモチーフにしたシリアスボードゲームによく見られる構造として,「ゲーム自体はエンタメとして盛り上がり,関連用語やクイズなどで知識に触れられるものの,ゲームの都合上,端折られた現実とのギャップを,プレイ後に専門家が『ブリーフィング(振り返り・解説)』を行うことで補完する」というパターンを挙げた。
こうした手法そのものを否定するわけではないとしつつも,「『デブリーフィングが重要』と言っておけばすべてが片付き,あとから説明さえすればどんなゲームでも許されるような風潮になっていないか。本当に良いシリアスゲームであれば,ゲームを遊んだだけで学べたほうがいいのではないか」と問題提起する。
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比較されないまま「制作者の肩書き」で評価が決まる現状と,消えゆく作品たち
評価の物差しが育たない背景には,作品同士を「並べて比較する機会」が決定的に欠けている現状がある。
たとえば大学の研究者が教育用ゲームを開発して論文を執筆する際も,そのゲーム単体の効果測定にとどまり,類似テーマの他作品と比較して優位性を論じる研究はほとんど見られない。
SDGsや防災をテーマにしたボードゲームは世の中に何十種類も存在するが,新たにゲームを作る人ですら過去の類似作品をほとんど遊ばないまま制作しているのが実情であり,結果として作品そのものの質ではなく「誰が作ったか(制作者の肩書き)」で評価が下されがちになっているという。
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近年は大学や中学・高校,さらには学習塾などでもボードゲーム制作を授業に取り入れる例が増えている。しかし,指導にあたっているのはゲームの専門家ではなく,建築など別分野の専門家が自身の領域のボードゲームを作って好評だったことから教えている,というケースが大半であり,客観的な比較や評価がますます難しくなっていると石神氏は指摘する。
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なぜ比較ができないのか。その根本的な原因は,シリアスゲームが「集まらないこと」と「残らないこと」,そして「見られないこと」にある。
自治体やNPO,企業,学校などで作られるシリアスゲームは一般販売されないものが多く,外部からの入手が極めて困難だ。さらに企業研修用のゲームは単年度予算で作られることが多く,翌年度に担当者が変わると使われなくなり,他社に見せる理由もないため倉庫に眠るか廃棄されてしまう。
自治体のイベント用ゲームも,イベント終了とともに役目を終えてしまうケースが少なくない。
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その象徴的な事例として石神氏が挙げたのが,自身も制作に関わった「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」だ。
新入社員(店長候補)の研修用として時間と予算をかけて開発され,文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれるなど高い評価を受けるなどで話題を集めたが,社長の交代や担当者の不在によって現在は使われなくなり,問い合わせ窓口すらなく,誰も研究できない状態に陥っているという。
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博物館法の4機能が課題を解決する。来年2月開館の「シリアスゲームミュージアム」
こうした課題を解決するために石神氏が打ち出したのが,法律上の教育機関でもある「博物館(ミュージアム)」の設立だ。
博物館法に定められた博物館の4つの機能である「収集」「保管・保存」「調査研究」「展示・教育普及」は,シリアスゲームが直面している「集まらない」「残らない」「比較検討されない」「知られていない」という課題にそのまま対応するものだ。
将来的に正式な登録博物館とすることを見据え,石神氏は昨年,1年間の通信教育を経て学芸員の資格を取得した。
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第1号館は,埼玉県西所沢にある工房複合施設の一室を間借りする形で,完全予約制のミュージアムとしてスタートする。今年11月にプレ開館し,来年(2027年)2月の正式開館を目指しているとのことだ。
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このミュージアムは個人のコレクションを展示する場ではなく,「皆で研究し学び合う場所」として設計されている。その中核となるのが,年会費1万円のメンバーシップ制度「リサーチアソシエイツプログラム」だ。
会員がミュージアムを訪れてゲームをプレイし,記録を残していくこと自体が研究活動になる。蓄積されたデータベースや研究成果は会員間で共有し,アカデミアでの論文執筆や新たなゲーム開発に役立ててもらう仕組みだ。
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初年度の目標としては,収蔵ゲーム100点(すでに30〜60点ほどの寄贈申し出が寄せられているという),現役の企業研修ゲームなど,営業上の機密に関わるものについて調整を行ったうえでの展示・研究許諾の取得30点,そしてプログラム会員150人の参加を掲げている。Webを通じたデータベースの利用や出張イベントの実施に加え,将来的には関西などへの第2号館・第3号館の展開も構想しているそうだ。
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クラウドファンディング目標達成。デジタルとアナログの垣根を越える拠点へ
なお,設立に向けて実施中のクラウドファンディング(10月31日まで。外部リンク)が,本セッションの前日である10月23日に目標金額を達成。無事ミュージアムの設立が決定したことが報告された。
石神氏は「ここが終わりではなく,これからがスタート」と力を込め,引き続きの支援と,翌25日に開催される講師3名合同のゲーム制作ワークショップへの参加を呼びかけた。
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セッション終盤の質疑応答では,今後の展望として「最終的には『シリアスゲーム』という言葉のもと,デジタルとアナログの壁を乗り越えていきたい」と語った石神氏。
デジタルゲームは展示環境や稼働機の維持・調整にハードルがあるため,まずは自身の専門であるボードゲームから着手するものの,ゲームの作り方の本質は同じであるとし,メーカーなどと相談しながらデジタル作品や謎解き,地方創生の街歩きイベント,代替現実ゲーム(ARG)など,あらゆるシリアスゲームを包括する研究・交流拠点へと育てていきたいとして,セッションを締めくくった。
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