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そんなポーランドのゲーム産業を現地で取材するため,2026年10月,同国を訪れた。
今回の渡航は,ゲーム開発者向けカンファレンス「Game Industry Conference」(GIC)が主催する,日本と韓国のゲーム業界関係者を対象とした視察プログラムに参加するものだ。
プログラムでは,首都ワルシャワでゲーム開発スタジオや関連企業を訪問し,西部の都市ポズナンで開催されたGICと,ゲーム展示イベント「Poznań Game Arena」(PGA)を視察した。
その最初の訪問先となったのが,ワルシャワ市の起業家支援施設「Centrum Przedsiębiorczości Smolna」(Entrepreneurs Center Smolna)だ。
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ここではワルシャワ市経済開発局による説明会が開かれ,ポーランドの経済状況やゲーム産業の規模,行政による支援,そしてゲームが持つ文化的な役割について,3つのプレゼンテーションが行われた。
冒頭で挨拶したワルシャワ市経済開発局長のGrzegorz Kaczorowski氏は,約2年前に策定された市の経済発展政策ではクリエイティブ産業を重要分野のひとつに位置付けており,なかでもゲーム開発を重視していると説明した。
同氏は,ワルシャワがポーランド国内だけでなく,欧州でも有数のゲーム開発拠点になっていることを強調。今後の発展には国際的な認知度を高めることも必要だとし,今回の日本と韓国からの訪問にも期待を寄せていた。
本稿では,この説明会から,ワルシャワ市のゲーム産業の規模と発展に関する講演と,ポーランドのゲーム開発者に向けた公的支援を紹介する講演の2つをレポートする。
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ゲーム開発企業307社,従事者6343人。欧州有数のゲーム開発都市となったワルシャワ
最初にワルシャワの経済とゲーム産業について紹介したのは,同市経済開発局のMarcin Jaworowicz氏だ。
ポーランドは人口約3700万人を擁する中・東欧の主要国のひとつであり,近年も経済成長を続けている。首都ワルシャワの人口は約180万人,周辺地域を含む都市圏では約300万人に達する。
Jaworowicz氏によると,ワルシャワには海外企業のビジネス拠点や研究開発施設が数多く置かれ,ITやAI,フィンテックなどの分野でも国内の中心的な役割を担っているという。なかでもゲーム開発は,同市が特に力を入れる産業のひとつだ。
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ワルシャワ市が2026年に公表した「Report on the Game Industry in Warsaw 2025/2026」によると,市内には307社のゲーム開発企業・パブリッシャが存在し,6343人がゲーム産業に従事している。
これはポーランド全体のゲーム関連企業の約37%,従事者数では約44%に相当する。つまり,国内のゲーム産業で働く人の4割以上がワルシャワに集中している計算になる。
Jaworowicz氏は,従事者数を基準にするとワルシャワは欧州最大のゲーム開発拠点だと説明した。
主要な欧州ゲーム開発都市との比較でも,ロンドンの5930人,ストックホルムの5820人,バルセロナの5170人などを上回る。都市ごとに統計の対象や調査時期が異なるため単純な比較はできないものの,欧州有数の開発都市としての規模がうかがえる。
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ワルシャワには,世界的なヒット作を生み出してきたゲーム開発企業も数多く拠点を構えている。
「ウィッチャー」シリーズや「サイバーパンク2077」で知られるCD PROJEKT RED,「This War of Mine」「Frostpunk」シリーズを手がける11 bit studios,「Baldur’s Gate 3」を開発したLarian Studiosのワルシャワ拠点など,その顔ぶれは多彩だ。
最近では,話題作「The Blood of Dawnwalker」を手がけたRebel Wolvesもワルシャワを拠点としている。Jaworowicz氏は,同作が発売から間もなく100万本を突破したことにも触れ,新たな成功例として紹介していた。
市の調査によると,ワルシャワ発のゲームのうち,世界累計販売本数が100万本を超えた作品・シリーズは,調査時点で18に達していたという。
その中には「ウィッチャー」や「サイバーパンク2077」といった大作だけでなく,「Carrion」「Darkwood」「Frostpunk」「The Vanishing of Ethan Carter」「Timberborn」など,さまざまなジャンルや規模の作品が含まれている。
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こうしたゲーム産業の発展を支えている要素として,Jaworowicz氏が強調していたのが,ワルシャワの教育環境だ。
市内には68の高等教育機関があり,学生数は約26万人,卒業生は年間約5万人に上る。高等教育を受けた人材の割合も欧州平均を上回り,ゲームに限らず,ITや研究開発などの産業を支える強みになっているという。
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また,市の調査では,ゲーム業界関係者の95%がワルシャワからの移転を考えておらず,90%が自身のキャリア形成に適した都市だと回答したことも紹介された。
開発企業にとって,人材を確保できることと,その人材が働き続けたいと思える都市であることは,どちらも重要な要素だろう。
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講演ではこのほか,スタートアップを支援するアクセラレータやコワーキングスペース,交通インフラ,緑地の整備などにも触れられた。企業の活動を支える環境を整えるだけでなく,そこで働く人が暮らしやすい都市を作ることも,ワルシャワ市が重視する取り組みのひとつとなっている。
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ゲーム産業への直接的な支援も進められている。そのひとつが,若手開発者を対象としたイベント「Student Games Festival」への協力だ。
2026年10月8日から9日にかけて開催された第2回では,世界各地の学生が制作したゲームの展示や,開発者向けの講演,業界関係者との交流などが行われた。ワルシャワ市も共催者として参加し,学生が自作のゲームを発表し,業界との接点を得られる場作りを後押ししている。
すでに活動している開発会社に対しては,国内外のゲームイベントを通じたプロモーション支援を行っている。
今回の視察プログラムにも含まれていたGICでは,地元企業とともにブースを出展し,ゲームの紹介やビジネス上の交流を支援している。
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海外では,2026年に米国シアトルで開催された「PAX West」にワルシャワ市として初めて参加。ポーランドのナショナルブースを支援したほか,現地で開発者と業界関係者が交流するイベントにも加わった。
Jaworowicz氏によれば,現地での反応は予想以上に良く,ポーランドのゲーム産業を紹介する交流イベントには約350人が参加したという。この経験を踏まえ,今後も海外イベントへの参加を広げていきたいと話していた。
開発者を育て,企業が活動しやすい環境を整え,海外での認知度を高める。ワルシャワ市では,こうした複数の取り組みを組み合わせながら,ゲーム産業のさらなる発展を目指している。
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プロトタイプ開発から海外展開まで。ポーランドのゲーム産業を支える公的支援
続いて登壇したのは,Creative Industries Institute(ポーランド語名:Instytut Przemysłów Kreatywnych,以下IPK)のAdam Konowrocki氏だ。
IPKはポーランドの文化・国家遺産省が所管する公的機関で,ゲームをはじめ,音楽,デザイン,ファッションなどのクリエイティブ産業を支援している。
Konowrocki氏は,ゲーム産業をポーランドのクリエイティブ産業における重要な分野のひとつと位置付け,公的な支援とクリエイティブビジネスの実際のニーズを結び付けることが,同機関の役割だと説明した。
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その活動は,資金提供だけにとどまらない。ゲーム開発に対する助成,国際的なプロモーション,業界内の交流や人材育成など,多岐にわたる。
なかでも興味深いのが,ゲーム制作の初期段階から支援する助成制度だろう。Konowrocki氏は,優れたアイデアがあるだけではゲームを完成させられず,それを実現するための能力や資金も必要になると説明した。
特に支援が必要なのは,まだゲームとしての形が見えていない開発の初期段階だという。アイデアを検証し,プロトタイプを作り,実際に遊べるものを用意する。公的機関がそれを支えることで,投資家やパブリッシャにも企画の魅力を伝えやすくなる。
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IPKが実施する「Program Wsparcia Gier Wideo」(ゲーム支援プログラム)では,こうしたプロトタイプの制作が助成対象となっている。開発者の人件費や,必要なソフトウェアのライセンスなど,プロトタイプ制作にかかる費用を支援する仕組みだ。
2025/2026年度の制度では,事業者や非政府組織を対象に,2万〜40万ズウォティ(約80万〜1600万円)の助成金が設けられ,事業費の80〜95%が助成対象となる。
さらに特徴的なのが,アクセシビリティとローカライズに対する支援である。
アクセシビリティについては,障害のあるプレイヤーもゲームを楽しめるよう,字幕や音声解説,操作方法の調整などを行うための費用が助成対象となる。
ローカライズでは,ポーランド語で制作されたゲームを外国語に翻訳し,海外のプレイヤーに届けるための取り組みを支援している。つまり,ゲームを作り始める段階だけでなく,より多くの人に遊んでもらうための環境作りも,公的支援の対象になっているわけだ。
IPKによる支援のもうひとつの柱が,海外市場への展開を後押しする活動だ。
IPKは,gamescomやPAX,中国のWePlayなど,世界各地のゲームイベントにポーランドのナショナルブースを設け,国内のゲーム開発会社が参加する機会を作っている。
これはゲームを展示するだけではなく,ポーランド製ゲームの国際的な認知度を高め,海外のパブリッシャや投資家,業界関係者とのつながりを作ることも目的としている。
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個々のスタジオだけでは参加が難しい国際イベントへの出展を,公的機関が後押しする。そうした取り組みは,開発会社の海外展開だけでなく,ポーランドという国そのものをゲーム開発の拠点として認知してもらうことにもつながる。
また,ゲーム開発者同士が交流し,協力するための場を作ることもIPKの重要な活動のひとつだ。
その代表例として紹介されたのが「Central & Eastern European Game Awards」(CEEGA)である。
CEEGAは中・東欧のゲームを対象としたアワードで,16か国の業界団体が審査に関わり,最優秀ゲーム賞のほか,ビジュアルアート,音楽・音響,ナラティブ,ゲームデザイン,技術など8部門で優れた作品を表彰する。
2026年の授賞式は10月23日にポズナンで開催された。GICやPGAと同じ会場で行われることもあり,中・東欧各国のゲーム開発者が交流する機会にもなっている。
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このほか,2026年10月から12月にかけて実施される「Polish Video Game Days」も紹介された。
こちらはポーランドのゲーム産業を広く発信するための取り組みで,ゲームイベントや展示会,学生による作品発表,教育・文化関連の活動などが組み合わされている。
ゲーム販売プラットフォームのGOG.comとも協力し,ポーランド製ゲームを世界のプレイヤーに紹介するキャンペーンを展開。国内では,約40年にわたるポーランドのゲームの歴史を振り返る展示や,没入型の体験展示なども企画されている。
ゲームを商品としてだけでなく,ポーランドの文化を形作るものとしても紹介する。そうした考え方が,この活動からは見えてくる。
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IPKの取り組みで印象に残ったのは,資金の提供だけでなく,開発者が作品を生み出し,それを世界に届け,次の活動につなげていくための環境作りを重視していることだ。
ワルシャワ市が産業の集積や人材育成,都市としての魅力向上に取り組む一方で,国の公的機関はゲーム制作や国際展開を後押しする。今回の2つのプレゼンテーションからは,それぞれ異なる立場でポーランドのゲーム産業を支える仕組みが見えてきた。
なお,この日の説明会ではもうひとつ,11 bit studiosおよびIndie Games Poland Foundationに関わるDamian Jaśkowski氏による「Gaming Industry as a Soft Power Tool」と題した講演も行われた。
こちらでは,ポーランド製ゲームの海外市場での存在感に加え,ゲームを通じて国の文化や価値観を伝える取り組みが紹介された。今回の視察プログラムでは,ワルシャワにある11 bit studiosも訪問し,開発者から直接話を聞く機会があった。Jaśkowski氏の講演内容については,スタジオ訪問の模様とともに別の記事で紹介したい。
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