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「ゲーミフィケーションは教員を騙している」鋭い批判が示す課題とは? セッション「ゲーム×教育の現在地」レポート
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印刷2026/10/02 12:00

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「ゲーミフィケーションは教員を騙している」鋭い批判が示す課題とは? セッション「ゲーム×教育の現在地」レポート

 2026年9月11日と9月12日,東京工科大学八王子キャンパスにて「日本デジタルゲーム学会2026年夏季研究発表大会」が開催された。

東京工科大学八王子キャンパス
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 人材育成や知の連なりを意味する「TRAIN」をテーマに掲げた本大会。会場となった東京工科大学は,日本のゲーム開発人材育成における先駆的な機関でもある。
 本稿では,9月11日に行われた「ゲーム×教育の現在地 ゲーミフィケーション・ゲームフルデザイン・ゲーム学習から考えるAI時代の学び」の内容をお伝えしよう。

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 登壇したのは,岸本好弘氏(遊びと学び研究所),小林真也氏(東京外国語大学),ヨーク・ジェームズ氏(明治大学)の3人だ。ちなみに岸本氏は「ファミスタの父」として知られるレジェンドクリエイター“きっしー”その人であり,かつてここ東京工科大学で特任准教授として教鞭を執っていた時期もある。

岸本好弘氏
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 いわゆるゲーミフィケーションや,それに類する取り組みを推進する岸本氏と小林氏,そしてゲーミフィケーションの安易な導入に批判的なヨーク氏がそれぞれの立ち位置から,会場の教育関係者たちとともに議論を深める試みとして企画されたのが,本セッションだ。

 生成AIの登場により,「調べる」「要約する」「書く」といった行為のあり方が様変わりした今,人間にはどのような「学ぶ力」が求められ,ゲームはそれをどう引き出すことができるのだろうか。


動機づけから「エンゲージメント」へ
そして教師自身のリフレクションツールという新たな視点


 まず登壇した小林真也氏は,教育分野におけるゲーミフィケーションの変遷と現状の課題,そして今後の展望を語った。

小林真也氏
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 2010年代初頭の誕生以降,ポイント,バッジ,ランキングといった要素(PBL)を中心に,学習者のモチベーション向上策としてゲーミフィケーションは発展してきた。しかし15年が経過した現在,実践が単発的になりがちなことや,文脈依存の高さ,教育学理論との接続の弱さといった課題が浮き彫りになっている。

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 そこで近年注目されているのが,認知・感情・行動を統合した積極的な関与を示す「学習者エンゲージメント」を高める手段としての効果だ。さらに,学習者の個人差や文脈に応じた個別最適なアプローチ,自己決定理論などを取り入れたフレームワークの統合が進んでいるという。

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 小林氏は自ら手がけた実践事例として,言語学習の意味を問い直す「謎解きゲーム」や,水平思考パズルを用いた「質問活動のゲーミフィケーション」,リプレイ性(再提出の許容)を取り入れた「ライティング授業」などを紹介。よりゲーム的なアプローチから教育に寄せた設計まで,さまざまな切り口を提示した。

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 そして発表の締めくくりに提示されたのが,「教師研究」としてのゲーミフィケーションという新たな視点だ。
 どんな取り組みをするにしても,対象(学習者)が変わる以上,まったく同じ条件での実践は難しい。しかし,「実践者である教師自身」は一貫して関わり続けている。ゲームデザインやメカニクスをひとつの「鏡」に見立てることで,既存の教育構造をリフレクティブに見つめ直し,新たなオルタナティブを生み出すツールとして活用できるのではないか――。つまり,従来のカリキュラム研究や学習者研究にとどまらず,教師自身の成長や授業改善を促す手段としての可能性を伝えた。

小林氏いわく,テーブルトークRPGのマスタリングが得意な人は,教育者としての適性がある可能性が高いという
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高校生のつまずきをゲームフルデザインで解消
身近な疑問から自ら問いを立てる学習体験


 続いて登壇した岸本好弘氏が発表したのは,バンタンゲームアカデミー高等部(東京校)の1年生約20名を対象とした「ゲーム探究」の実践報告だ。
 生成AIが「調べる」「要約する」「文章を作る」といった作業を代替してくれる今,人間に求められるのは「何を考えるかという問いを自ら立てる力」であることは広く認識されるようになった。しかし,高校生に「自由に探究していい」と委ねるだけでは,テーマ自体が決まらなかったり,調査が途中で止まったり,発表に不安を感じたりと,さまざまな場面で「つまずき」が生じてしまうという。

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 そこで導入したのが,人が思わず夢中になる体験を設計する「ゲームフルデザイン」という考え方だ。岸本氏は毎年授業を行うなかで,その成果を見返しつつ,授業を以下の6つの視点から再構築していった。

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●能動
先生からテーマを与えるのではなく,対話を通じて個人の「好き」や「疑問」からテーマを決める

●達成可能
テーマ決定から発表・振り返りまでの道筋を細かく分解し,「次の一歩」を明確にする

●即時フィードバック
作業が止まった生徒にすぐ声をかけ,方向性を整える

●ソーシャル
互いの発表を聞いて評価し合い,仲間の探究から学びを得る

●成長の可視化
完成した資料や仲間のフィードバックを通じ,「どこまでできたか」を実感させる

●独自性
ひとつの正解を目指すのではなく,生徒それぞれの経験や個性を生かした探究を歓迎する

 これらの工夫により,生徒たちが決めるテーマにも徐々に変化が現れていったという。かつては「5Gでゲームはどう変わるか」といった,どこかで語られていたような技術的なテーマが多かったのに対し,近年では「ゲームはなぜ面白いのか」「ギリギリで勝つとなぜ楽しいのか」といった,生徒自身のプレイ体験に根ざした「自分ごと」の問いが増えた。

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 発表の終盤,ある高校1年生が取り組んだ「ゲーム依存の対策」という探究事例が紹介された。その生徒は各種データを根拠に,「生活習慣の乱れ」「親との関係の希薄さ」といった,依存の悪影響とみなされがちなものこそが,じつは依存を招く一因ではないかと指摘した。
 さらに「昨今のゲームは一試合の時間が長く,エンドコンテンツが重いため,システム側にも依存しやすい構造がある」とも分析する。自分なりの視点からスタートしつつも,現代のゲームデザインが持つ課題にまで踏み込んで考察してみせたという。

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 自ら立てた問いに夢中になって挑む姿勢をいかに支えるか。岸本氏の発表は,ゲームフルデザインが探究学習における強力な足場になり得ることを示唆するものだった。


「ゲーミフィケーション」は幻想?
綿密な設計と試行錯誤で挑んだ実践例


 前半の最後に登壇したのは,ヨーク・ジェームズ氏だ。ヨーク氏は,教育にゲーム的な要素を取り入れる「ゲーミフィケーション」とは一線を画す,実際のゲームそのものを教授法のなかで活用する「ゲーム利用型学習(Game-Based Learning)」の実践と,その背景にある理論について語った。

ヨーク・ジェームズ氏
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 ヨーク氏は冒頭,「教室でゲームをやらせているだけでは,絶対に勉強にはならない」と断言する。ゲームを単に与えるだけでは学びは生まれず,教員には「教授法の専門知識」「試行錯誤」「ゲームリテラシー」の3つのスキルが不可欠であるとした。

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 ヨーク氏が英語スピーキングの授業で導入しているのは,6週間かけて1つのゲームを徹底的に活用する授業案だ。しかし,この形に至るまでには大きな試行錯誤があったという。

●失敗期(反転学習的な試み)
 事前に家でルールを学ばせ,授業ではゲームのプレイ(英語のみで会話して遊ぶ)に専念させる手法を試した。しかし,学生がルールを読んですらいなかったり,理解のために日本語を使わざるを得なかったりと,テンポが速すぎて失敗に終わった。

●改善期(前後の活動の追加)
 ゲームの前後にルール学習や評価などの活動を挟んだものの,ゲームを1回プレイするだけでは学習内容が定着しなかった。

●完成形(分析と再プレイの導入)
 6週間の流れのなかで,遊ぶゲームの選定,ルールの学習を経て,3週目に英語でプレイを実施した。
 プレイ時の会話を録音・文字起こしさせ,「文法や語彙を正しく使えていたか」を自ら分析させる。そのうえで5週目に同じゲームをもう一度プレイさせた。1度目のプレイと改善後の2度目のプレイを比較・評価させることで,初めて深い学びと成長が確認できた。

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 こうした手法の背景には「タスクに基づく言語指導法」などの確立された言語教育理論が存在する。そして「安全に失敗できる」「他者とともに体験から学ぶ」「実世界の複雑なシステムをモデル化して学べる」といったゲーム特有の強みが,教育的効果を増大させたとヨーク氏は分析する。

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 「遊ぶ余裕と知識さえあれば,ゲームはあらゆる教科の単元に活用できる」と語るヨーク氏。大学という自由度の高い環境だからこそ実現できた事例ではあるが,適切な授業設計さえあれば,ゲームそのものが強力な教材になり得ることを示す発表だった。

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ゲーミフィケーションは教員と学生を騙している?
対立から見えた「ゲーム×教育」の本質


 後半のクロストークでは,発表内容をさらに深掘りし,「ゲーム×教育」に対する考え方の共通点や違い,そしてAI時代における役割について,登壇者による議論が展開された。

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 まずは3人が現在の取り組みを始めたきっかけが明かされた。ゲームクリエイターでもある岸本氏は「授業=自身が作ったゲーム,学生=プレイヤー」と捉えて,夢中になれる設計を追求したことがゲームフルデザインの始まりだったという。
 小林氏は大学時代のアナログゲームサークルでの活動が原点であり,ヨーク氏は2005年ごろに「World of Warcraft」の海外サーバーにて,日本人ギルドとアメリカ人ギルドの架け橋(通訳)となった体験から,ゲームと言語学習の親和性に気がついたという。それぞれのバックボーンが,現在のアプローチの違いにも現れているようで興味深い。

 場の盛り上がりが最高潮に達したのは,ヨーク氏が強烈な一言を投じたときだった。

「ゲーミフィケーションは教員を騙している最悪のものです」

 ヨーク氏は,安易にポイントやバッジ(PBL)を導入して“ゲームっぽさ”を演出する手法を厳しく批判する。時間がなく,ゲームに詳しくもない教員がそれに飛びつき,学生もすぐに飽きてしまう構造を「教員が騙されて,さらに学生を騙している」と容赦なく切り捨てた。

 これに対し小林氏も「ゲーミフィケーション初期のPBL的な手法は,報酬で人間を条件付けする『パブロフィケーション(パブロフの犬化)』と批判されており,自分も反対だ」と同意する。
 ただ,「教育現場ではすでに『ゲーミフィケーション』という言葉が定着している。だからこそ,リフレクションという本質的な効果につながるように,言葉の概念そのものを内側から変えたい」という意欲を示した。

 言葉の定義や手法をめぐって対立しつつも,3人が共通して目指しているものもある。それは,受動的になりがちな学習者を「自ら動くプレイヤー」へと変え,主体的な探究や試行錯誤を引き出すことだ。

 AI時代における「ゲームと教育の価値」については,小林氏は「AIがあればいくらでも調べられる時代だからこそ,自ら問いを立てるための『ゲームプレイヤー的な主体性』を育てる必要がある。そこにゲームの力は役立てられるはず」と見解を語る。
 一方でヨーク氏は「AIは教員が授業に合うゲームを探すパートナーとして,あるいは学生が自身の会話の書き起こしを解析し,課題を発見するツールとして,学習を強力に拡張するだろう」と述べた。

 以上,ゲームの教育利用とは,「ゲームの仕組みの利用で学習効果が高まる」「ゲームで遊んでいたら学べた」という単純なものではない。
 受動的なプレイではなく,プレイヤーが自発的に遊び,学んでいく効果を引き出すため,ゲームとその構造をどう活用するのか。まだ確固たる正解がない領域だからこそ,「ゲーム×教育」は今後より深い議論が交わされるべきテーマといえそうだ。
 ちなみにクロストーク後は質疑応答が行われたのはもちろん,次のセッションの開始直前まで,3人と聴講者たちによる活発な意見交換が続いていた。

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