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同イベントは,次世代のゲームを作る「クリエイティブディレクター」を創出するため,現役のゲームディレクターが主任となり,課題作品のディスカッションを行う勉強会だ。
第11回となった今回は,プレイヤーがまばたきして意思表示するナラティブアドベンチャー「Before Your Eyes」(PC / PS5)を課題に,主任を初期の「Fate/Grand Order」(iOS / Android)の開発に携わったファーレンハイト213の塩川洋介氏が,助手をGame Creators Guildの宮田大介氏が務めた。
またゲストとして,さまざまなインディーゲームの支援を行うyospの吉田修平氏も招かれている。
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ゲームのプロが意見を持ち寄ることで,作品のさまざまな側面が見えてくる
そもそもだが,この勉強会が創出しようとしているクリエイティブディレクターとはなんだろうか。
ゲーム開発におけるディレクターは,チームのマネジメントが主な仕事であり,必ずしも“クリエイティブ”であるとは限らない。しかしこの勉強会におけるクリエイティブディレクターには,「0を1にする,クリエイティブなディレクションにフォーカスしたい」という塩川氏の願いが込められている。
そして,勉強会の参加者には「現役のゲームディレクターやその志望者,または業界に関わりのある人々であること」と,「あらかじめ課題作品をプレイしておくこと」が求められる。ゲームリテラシーの高い参加者が,あらかじめ課題作品をプレイして意見を持ち寄るのだから,自然と議論は濃いものとなるというわけだ。
加えて「ここは自分がどう考えているかを発表し,他者の意見から考えを深める場である」「意見に正解/不正解はない」「ディスカッションはいいが,単なる否定や批評はNG」といったルールが敷かれていて,この場を有意義なものにしようという方針が貫かれている。
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今回の課題作品である「Before Your Eyes」は2021年にリリースされた,まばたきでプレイするナラティブなインディーアドベンチャーゲームだ。
死んでしまった主人公は,死後の世界へ行くために,謎の「フェリーマン」に自分の人生を伝えなければならない。まばたきをする/しないという選択のみならず,生理的欲求から自然にしてしまいそうになるまばたきを抑え,目を見開くといった行動がゲームに組み込まれていて,オンリーワンのゲーム体験が楽しめる。
本作を課題に選んだ理由として,吉田氏は「自分はアクションゲーム好きだが,これまでに泣いたゲームが3本あり,その1本が『Before Your Eyes』。個人的に大好きな作品なので,皆にプレイしてもらえただけで目的を達成している」と語った。
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「Before Your Eyes」の原型となったのは,南カリフォルニア大学の学生が2014年に開発をスタートさせた「Close Your」だ。同作はIndieCadeやGDCのIGF(Independent Games Festival)で受賞したことで注目を浴び,2016年にクラウドファンディングによる資金調達を行ったものの,2018年にメディア企業のRYOTから資金提供を受けるまでは副業的な開発にとどまっていたタイトルだという。
つまり学生が思いついた革新的なアイデアが,苦難を越えて7年越しに完成を迎えたわけで,実にインディーゲームらしい出自を持つタイトルといえる。
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勉強会は,主任である塩川氏による発表からスタートした。
氏はディレクションにフォーカスして語るため,制作者の発言などの周辺情報はあえてインプットしていないと前置きしたうえで,PSVR2でのプレイを通じて,「本作のゲームデザインは,制約が重要な役割を果たしているのではないか」と分析してみせた。
VRゲームに特有の「時間(長くプレイさせられない)」「移動(VR酔いを誘発する)」「視線誘導(カメラが固定されないので,見せたいものに視線を向けさせるのに工夫が必要)」などの制約を,プレイヤーの目やまばたきで操作させることで反転させ,体験に結び付けたことが素晴らしいという。
「時間」の制約は,「展開するシーンを見ていたいが,まばたきすると次に進んでしまう」という仕掛けにより,目を閉じないように耐えるという体験に昇華した。「移動」は瞬間的に行われるため,VR酔いも起こりにくい。そしてゲーム内に地形を作らないことで「視線誘導」は自然に行われる。なるほど3つの制約は,確かに反転しているといえる。
また塩川氏は,目をテーマにしたゲームを考える人はいるが,多くの場合「目を使った,目でやり切るゲーム」になりがちだ,とも指摘した。ここでいう「目でやり切るゲーム」とは,おそらく手によるコントローラの操作を,視線やまばたきで代替したようなものを指していると思われる。
しかし本作における目の使い方は,プレイヤーの脳裏に焼き付くような体験をさせる手段になっていると塩川氏。目を単なる手の代替として使うのではなく,見開き続けると乾いていく眼球や見る行為そのものにフォーカスすることで,プレイヤーに主人公の人生を疑似体験させ,最後に「いい人生を送った」という感動を呼び起こす。それが,本作をオンリーワンたらしめる体験となっている。
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吉田氏は,本作から学ぶべき要素として「泣かせたら勝ち」「親子愛は世界共通」「まばたきはギミックだが,没入させる」という3つのポイントを挙げた。
ゲーム歴の長い氏だが,これまでに泣いたゲームというと,「風ノ旅ビト」「ダレカレ」,そして本作「Before Your Eyes」だけだという。そして「Before Your Eyes」は,2回プレイして2回とも泣いたそうだから,いかに本作が氏に刺さったかがうかがえる。
ゲーム自体は短いのに,しっかりと感情に訴えかける内容だからこそ,賞を取れたのではないかと,吉田氏は話していた。また本作で扱う親子愛はどんな文化圏でも不変のテーマであり,没入感を高めるためにまばたきが使われているのが素晴らしいと絶賛。ディレクターとしてゲームを作るなら,こうしたものを心掛けてほしいと来場者らを激励した。
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来場者のディスカッションで話題になったのが,本作が「システム/メカニクス先行か,それとも物語/体験先行か」という論点である。
目やまばたきを使うゲームを思い付き,そこから物語を作ったのか。それとも死んだ主人公が走馬灯のように人生を見るストーリーがあり,これを実現する手段として目を使ったゲームデザインが考案されたのか。どちらが先かで,話は大きく違ってくる。
来場者の意見を集計したところ,システム先行派が7割,物語先行派が3割という比率だったのは,ゲームディレクター研究会という場の性質ゆえだろうか。
宮田氏は「メカニクス先行だと思いたい。開発者が学生のときに制作がスタートしているのに,ああした物語から作られたのなら,そんな人にはもう敵わない」「人生を何周かしたような物語だ」と開発者を絶賛した。
また来場者からは,「ゲームを作るなら,あれもこれも入れたいと考えるはず。学生とは思えないくらいの絞り込みや引き算だが,プロデューサーもついた状態で7年作り続けたと聞いて納得した。このプロデューサーが作品を磨き上げたのでは」といった予想もあった。
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余計なものを入れずに,見るという行為だけに振り切った点にも賞賛が寄せられた。
来場者からは「人生を体験させるうえでユーザーインタフェースを削り,首を振ったりまばたきをさせたりという行為に絞って,プレイヤーへの負荷を極限まで下げたからこそ,主人公に完全に同調できた」「プレイを体験にするため,あえてコントローラを捨てたのではないかとも思うし,意気込みも感じた」といった声もあがっていた。
このように斬新な「Before Your Eyes」だが,類似するタイトルがないだけに,商業的な利益が予想しづらい部分があるのも確かだ。
塩川氏が指摘するように,前例のない作品は,開発中に「まばたきがゲームになるのか? カメラが必要なのはハードルが高いのではないか?」といった懸念の声が上がりかねない。にもかかわらず,本作は長い間作り込まれ,グローバルに通用する作品として世に出ている。
これはアメリカに開発者を支援する体制が整っていたからでもあるし,若い人ならこれくらい独創性の高いことをやらないと時間がもったいないのではないか,と吉田氏は話していた。
また「プロデューサーの仕事は皆を幸せにすること。会社にはうまくビジネスをやっていると話をして,うまく折り合いをつけてやりたいことを進めつつ,出資者も含めて幸せにするのが大事」と,来場者へのアドバイスにつなげている。
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ゲームのプロたちが自分の意見を持ち寄るというだけでも興味深いのに,課題図書ならぬ課題ゲームをプレイするというルールや,「出席者全員に1回は発言の機会を」という運営方針など,意欲的な試みが詰め込まれた今回の勉強会。ただ聞いているだけでも知的好奇心が刺激され,実に楽しい時間だった。ゲームをただ遊ぶだけでなく,そこからいろいろなものをくみ取って話し合うというのは,クリエイターでなくとも面白い。そう実感した取材となった。
最後に会場で交わされた来場者の意見のなかから,印象深いものをいくつかピックアップして本稿の締めとしよう。会の雰囲気が,少しでも伝われば幸いだ。
「人生のシーンを見続けたくて目が乾く,主人公が不安になると画面が揺れるなど,プレイヤーの身体から感情を操作しているところがあり,ストーリー性がありつつもインタラクションがあるのがすごいと感じた」
「死や誤った選択などがテーマとなっていて,抗えなさや後戻りできない焦りを強く感じた」
「自分の人生から目を背けるな,というメッセージを感じた。まばたきを我慢させることで,プレイヤーの心情とメッセージをリンクさせているのが面白い」
「穏やかな場面はアースカラー,危険なところでは赤と,カラーコントラストも印象的」
「目を閉じることも体験に組み込まれているのがすごい。目の体験が面白くできたなら,耳やボディパーカッションも加えようというのは思いつくが,目を閉じるという裏返しの体験を面白くするのは難しいのではないか」



































