業界動向
Access Accepted第582回:PlayStation 4版「Fortnite」で起きたクロスプレイの話題をまとめた
プラットフォームホルダーは,いわゆる「囲い込み」を望むが,ほとんどのオンラインプレイヤーにとっては,どんなコンシューマ機やプラットフォームであろうと,対戦相手探しに時間を取られることなく気持ち良くプレイできる環境であるかどうかが重要になる。8000万ものアクティブアカウントを抱え,メジャープラットフォームへと登り詰めたPlayStation Networkだが,PlayStation 4版「Fortnite」のクロスプレイに関してはゲーム業界内外で論争が起きているようだ。
多くのゲーマーがPlayStation 4とXbox Oneのクロスプレイ化を望んでいる
現在,欧米のゲーム業界で話題になっていることの1つが,“PlayStation 4向けにリリースされたEpic Gamesの「Fortnite」で,クロスプレイができない”というものだ。正確に言うと,PlayStation 4版の「Fortnite」は,PC,Mac,iOS,および2018年第3四半期にリリースされる予定のAndroid版のプレイヤーとクロスプレイできるのだが,Xbox OneとNintendo Switchとではできない。
そのため,例えば他作品ですでにEpic Gamesのアカウントを取得したPlayStation 4のユーザーが,Nintendo Switchで「Fortnite」をプレイしようとしてもアカウントが共有されず,結果として別のアカウントを作り直さなければならないのだ。もちろん,Nintendo Switch版にPlayStation 4版で獲得したり購入したりしたアイテムを持ち込むことができず,これが一部のプレイヤーに不便な状況になっている。
Free-to-Playになって一気にファンのハートをつかんだ,「Fortnite」のバトルロイヤルモード「Fortnite Battle Royale」だが,3月にはモバイル向けのリリースがアナウンスされ,PlayStation 4版もPC版だけでなくモバイル版ともクロスプレイが可能になると発表された。さらにEpic Gamesはモバイル版発表の翌週,Xbox One版でもPC版およびモバイル版とのクロスプレイができると追加発表した。PlayStation 4とXbox Oneのクロスプレイが実現されないことにファンが気付き始めたのは,この頃からだ。
このときには,いかなる理由でクロスプレイがブロックされるのか,多くのプレイヤーは理解していなかったが,あるゲーマーがMicrosoft GamesでXbox部門を率いるフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏のTwitterに「PlayStation 4とXbox Oneのクロスプレイを,多くの人達が望んでいます」とコメントしたところ,スペンサー氏が「Me 2」(me too=私もだ)と返事をしたことで注目が集まる。
この件についてはEpic Gamesも公式アカウントで,「We 3!」(我々もだ)とリツイートしており,こうしたことからSony Interactive Entertainment(以下,SIE)が何らかの理由でXbox Oneとのクロスプレイを拒んでいるらしいという話になってきたのだ。
6月に開催されたE3 2018では,SIEの隣りにブースを構えた任天堂が,6月12日に発売されたばかりのNintendo Switch版「Fortnite」の試遊台をSIEの目の前に設けたことで,来場者はどうしてもクロスプレイ問題を意識せざるを得なくなった。Nintendo Switch版は“PlayStation 4以外とのプラットフォームでクロスプレイを実現”していたため,SIEに対する風当たりはさらに強くなった。
We 3!
— Fortnite (@FortniteGame) March 11, 2018
メジャープラットフォームとなったPlayStation Network
このようにクロスプレイの欠如が問題視されるSIEだが,E3 2018開催中の北米時間6月14日,BBCの質問に答える形で声明を発表している。それによれば,「我々(SIE)は,PlayStationコミュニティのゲーム体験をより良いものにするため,常に彼らの意見に耳を傾けています。月に8000万人のアクティブユーザーがいるPlayStation Networkで,我々はすでにプレイヤーがFortniteやほかのオンラインゲームを楽しめる環境を構築しました。PC,Mac,iOS,Androidデバイスとのクロスプレイをサポートしており,PlayStation 4のFortniteファンは,ほかのプラットフォームのゲーマーとプレイできるようになっています」と述べている。
8000万というアカウント数はほかのプラットフォームに比べるとかなり多いようで,それなりのオンラインゲームなら,対戦相手に困ることはないだろう。PlayStation Networkはそれだけで十分に完結しており,ユーザーからの不満がない以上,ビジネス上の視点からも競合機とのクロスプレイをこれから実現することに意味はないということになるだろうか。
SIEは過去にも,「Minecraft」や「Rocket League」などでほかのコンシューマー機とのクロスプレイを実現しないことが指摘されてきたが,今回ほどの問題になった記憶はない。しかし「Fortnite」の場合,PCでβ版がリリースされたときからEpic Gamesは専用のランチャーや配信サービスなどを用意してコミュニティを積極的に育成しており,可能な限りのプラットフォームでクロスプレイができることをメリットに,膨大な数のプレイヤーを獲得してきたのだ。
もっとも,考えてみれば複数のコンシューマ機でクロスプレイができるのは,いまだに珍しいことでもある。Nintendo Switch以前の任天堂は,現在と違ってかなりクローズドな印象を与えていたし,SIEが「ファイナルファンタジー」などでPCとPlayStation 3のクロスプレイを実現させ,ハードウェアの垣根を越えようとする姿勢を見せていたとき,ユーザー数でリードしていたXbox 360はクロスプレイについてあまり積極的ではなかった。
しかし,こうした囲い込みは過去のものになるかもしれない。Ubisoft EntertainmentのCEOを務めるイヴ・ギルモ(Yves Guillemot)氏は,海外メディアのVarietyの取材の中で,「既存のタイプのゲームハードウェアはもう1世代進化するだろうが,そのあとは(ストリーミング技術などの進化によって)減少するだろう」と述べている。コンシューマ機はいずれ,ストリーミングによるプレイを提供するだけの簡易なデバイスに変化すると予想しているのだ。
フィル・スペンサー氏は,E3 2018に合わせて開催された「The Xbox E3 2018 Briefing」でXbox Oneの後継機を開発中であることを発表して会場を沸かせた(関連記事)。SIEもまた,次のモデルの準備に入っているだろう。プラットフォームホルダーは次の世代でどのようなビジネスモデルを採用することになるのだろうか。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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