![]() |
本作は,東京藝術大学の卒業制作として発表された作品に手を加えたもので,故人をAIとして再生できるようになった世界を舞台としている。
AI再生を担当する「Human Build Company」という会社は,再生された故人を停止させなければならない事態に備え,「二度目のおわかれプラン」を提供している。それは,PCをシャットダウンすることで,会社側がAIのデータを破棄するというものだ。本作は,「二度目のおわかれプラン」におけるいくつかのケースを描くインタラクティブ・シミュレータを謳っている。
本稿には,「Realize in Peace」のネタバレを含む。Steamで無料配信されているので,気になる人は自分でプレイしてみてほしい。
![]() |
1つ目のケースで扱われるのは,亡くなった妻をAIで再生した夫だ。本作の舞台となるのは,「二度目のおわかれプラン」を実行するPCのデスクトップである。AIと会話したり,PCに残る記録を読み進めたりしていくと,妻の死因が事故であること,残された夫がひどく傷ついたこと,「二度目のおわかれ」をする理由が夫の再婚であることが分かる。
妻は自分がAIであることを知っていて,今日が別れの日であることも承知している。「おわかれする心の整理がついてよかった」「あなたのような人を拾ってくれて(再婚相手には)感謝している」と笑うのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
これは実に複雑な話である。亡くなった妻をAIとして再生したばかりか,再婚するといって消すのだから,夫にとって都合の良すぎる話とも思える。しかし,これは部外者が振りかざすたぐいの正論だろう。望まずして妻と引き裂かれたところに,AI再生という手段があったのだから,すがったとしても責めることはできない。
そして,妻はこうした事情をすべて理解したうえで,夫の新たな幸せを願っているようにも見える。愛し合った男女の別れには,そうしたところがあるのは確かだ。もしかすると,プレイヤーには見えないところで妻が抗議し,十分話し合ったうえでの「二度目のおわかれ」かもしれない。会社が提供するサービスなのだから,AIは納得するようにできているのかもしれない。そもそも人間は,相手が人間であろうとも,自分に都合が悪くなれば,ひどい方法で厄介払いをすることもある。
真相は闇のなかだし,こと恋愛の話だけに,善悪や倫理だけで測ることはできない。普通では考えられない献身や譲歩をしたり,その逆になったりもする不条理が起こる。結局,2人の事情は2人にしか分からないとしか言いようがないのである。
![]() |
![]() |
ここには,お別れのリアルがあると感じられた。プレイヤーとしてはいつでもPCをシャットダウンできるのだが,目の前で話しているこの人と別れたくない。しかし時間は流れ,話題も尽きて互いが無言になり,もうお別れしないといけないことに気付く。そんななかでPCのシャットダウンボタンを押すというのは,なかなかに苦しい体験だった。同時に,こうするしかなかったのだろうという納得感もあり,一言で言い表せない感情の混乱があった。
AIの存在にしろ,妻の死にしろ,すでに起こってしまった圧倒的な現実に対しては,善悪を問うている余裕などなく,自分ならどう考えるかを突きつけられる。まさにインタラクティブ・シミュレータ,自分で操作するメディアならではの体験といえるだろう。
![]() |
![]() |
いろいろな感情が渦巻くなか,夫婦の物語にはひとまずの区切りがついたが,本作はここで終わりではない。とある事情を抱えた子供であったり,名士であったりと,別のエピソードが幕を開ける。インタラクティブ・シミュレータ体験が引き起こす感情のうねりや,設定の巧みさなど語りたいところはあるのだが,配信されたばかりのナラティブ作品についてすべて語ってしまうのも無粋だろう。興味を惹かれた人は自分でもプレイしてほしい。
![]() |
![]() |
人間の生と死,残される者など,考えさせられるところの多い作品であると同時に,自分で操作するからこそ真正面からテーマと向き合わされる体験であると感じられた。
![]() |
































