インタビュー
「まずは日本が抱える問題の解決を」日本esports促進協会の理念と具体的な施策,そして目指すゴールとは。副理事長と評議員に聞いた
さて,創立記念式典が行われ,公式サイトで情報発信が始まっているとはいえ,JEFが具体的に何を目標とし,実際にどのようなことを行っていくかについては,未だに「よくわからない」という印象が強いのではないだろうか。
今回,JEFの副理事長である鴨志田由貴氏と,評議員である青木一世氏に直接話を聞く機会が得られたので,「JEFとはいったい何をする組織なのか」といった話を聞いてきた。
・鴨志田由貴(かもしだ よしたか,1976年7月3日生まれ)
日本eスポーツ促進協会副理事長。日本のビジネスプロデューサー。新事業・新商品・新店舗開発など「0」から「1」を生み出すことを得意とするビジネスプロデューサー・マーケター。Re-Public Initiativeの初期メンバー。作戦本部株式会社を設立(2012年1月11日)。京都造形芸術大学にてマンガ学科 学科長,准教授を務める。その他にも,経産省クールジャパンの芽プロデューサー / 6次産業化中央サポートセンタープランナー / 阿佐ヶ谷アニメストリートプロデュース・運営 / 2k540内 cafe ASANプロデュースなどを手掛ける。
・青木一世(あおき かずや,1993年生まれ)
日本eスポーツ促進協会評議員。カナダ留学後,ジャッキー・チェンの呼びかけにより中国成龍プロダクションへ所属し芸能活動を開始。同時に北京電影学院へ入学。卒業後,中国企業にてテーマパーク産業に貢献,その後日中・日韓のエンターテイメント産業を推進し,金融,エンターテイメント,サブカルチャー産業等幅広く事業を展開。日本帰国後,様々な人脈により日中間の架け橋となるべく幅広い分野で活躍中。
必要なのはスター選手の輩出
4Gamer:
よろしくお願いします。
それではまず最初に,JEF設立の目的を改めて教えてください。
JEFの公式サイトにも決意表明(関連リンク)という形で公表しましたが,より詳しく説明させて頂きます。
日本の今のeスポーツ産業には,さまざまな問題点や手の回っていない場所があります。JEFは高い公益性をもって,そうした諸問題を埋めていく団体です。「高い公益性」というのが重要なキーワードの1つで,特定個人や企業・団体に対する利益ではなく,あくまでユーザー目線で,現状の日本のeスポーツに何が足りないのかを,現実的かつ具体的に考えることを目的としています。
また日本人選手が世界の最先端を経験できるような道筋(ルート)を開拓し,世界へと羽ばたくためのお手伝いをしたい。そういった思いを強く持っています。
4Gamer:
昨年,ジャカルタで行われたアジア大会では,eスポーツが公開競技として行われ,日本人選手が「ウイニングイレブン」部門で優勝(関連記事)しました。こういった海外の大会に,選手を派遣したいということでしょうか。
青木氏:
はい。国内のeスポーツは大きく動き始めています。しかし,オリンピックなど国際性の高いイベントで日本の代表選手が活躍するためには,早くから選手やチームが「海外で戦う」という経験を積んでおく必要があります。
同時に我々は,これからの世代の育成も重視しています。その最初の一歩として考えているのが,スター選手の輩出です。現状でもスター選手はいますが,例えばサッカーにおける本田(圭佑)選手などと比べると,一般的な知名度はまだまだですから。
4Gamer:
本田選手と比べられるというのも,厳しいですね。
青木氏:
スター選手は「eスポーツをやりたい」「選手になりたい」という人にとっての目標になります。これは次世代の選手育成を考えるにあたって,とても重要なことです。
現実的な話ですが,世間的にはゲームの地位はまだまだ低く,鼻で笑う人もいます。そんな環境においても「eスポーツ選手になりたい」と思っている若い人たちはいるんです。
その小さな声を,まずは愛を持って受け止める。そして我々に何ができるかを具体的に考え,状況を変えていきたいと考えています。
4Gamer:
JEFの理事や評議会にはいわゆる“ゲーム業界”の人がいませんよね。これは意図的にそうしているのでしょうか。
意図したものです。JEFは一般財団法人であり,公益性の高い,中立的な立場というのは揺るがせないところですので。
ゲーム業界の方を拒んだとか,コネクションがなかったというわけではありません。あくまでも「特定ゲーム企業やゲーム業界団体の色をつけない」ことを意図しています。
正直なところ,ゲーム業界の方にお声がけしたら迷惑かな,というのも考えました。JeSUさんとの兼ね合いもあるでしょうから,そこで返答に苦慮させてしまうのは申し訳ないので。
4Gamer:
JeSUとの連携などは考えているのでしょうか。
青木氏:
JEFの設立前にご挨拶をさせていただきました。そこで,JeSUさんは海外展開よりも国内展開を優先するという話をうかがったんです。そこで「海外展開を重視する組織も必要だ」と思ったのが,JEFが海外を重視する理由の1つではありますね。
ですので,JEFはJeSUと対立する組織ではないですし,あえて言うならば住み分けするような感じになるのかなと。今のところ話し合いの機会があったわけでもないので「連携する,しない」といったレベルの話はありません。
JeSUさんの国内での活動は素晴らしいものがあると思っていますし,協力できることがあれば協力していきたいと考えています。もちろん,JeSUさんのお力を借りられるところではお借りできればいいですね。
4Gamer:
先ほどオリンピックへ言及されていましたが,JOCへの加入は考えているのでしょうか。
青木氏:
IOCを含め,オリンピックに関するeスポーツ分野の現状から推測する限り,正式種目として採用されるには,様々な課題が日本だけでなく世界的にあると考えています。
現状で日本のeスポーツ団体が,JOCに加盟する事による選手レベルの貢献度は薄いと考えており,当協会としては「ユーザーのPC離れへの対策」「世界メジャータイトルの普及」「認知の拡大」「学術的研究」など,日本が抱える緊急性の高い問題を解決することが最優先となっています。
現段階では,アジア大会といった国際大会への日本選手出場に関しては,協会の統一が必須ではないため,然るべき時がきた段階で然るべき対応をして行きたいと考えています。
4Gamer:
海外展開を重視しているということですが,すでに海外に拠点を持つeスポーツチームもあれば,海外企業のスポンサーを獲得している選手もいます。こうした状況において,JEFならではの強みとしては何が挙げられるのでしょうか。
先ほども説明しましたが,我々はスター選手の輩出を目的の1つとしています。そのための選手の活動支援や育成支援などを考えていますが,それらは海外での対戦や交流などを主眼に置くものとなります。
こうした海外での活動を無理なく支えられる,海外とのルートの太さと多さが我々の強みと言えます。すでに構築されているルートはもちろんですが,そうしたルートの開拓は続いており,いまも広げ続けていますよ。
また海外とのコネクションは「現在」だけを見ているものではありません。例えばですが,先人である中国で,どのような問題が起こり,どういった方法で解決してきたのか,という情報が得られるので,日本で起こりうる問題の予測も可能になります。これもJEFの強みと言えますね。
例えばですが,選手の引き抜きといった問題も,日本で問題が大きくなる前に,ルールやレギュレーションを提示することができると思います。
4Gamer:
日本人選手に海外で戦う経験を積んでほしい,というお話がありましたが,具体的なものがあれば教えてください。
青木氏:
すでに告知はしていますが,ChinaJoyにて行われる,ChinaJoy Cupですね。
またJEFがイベントを主催することも計画しています。もちろん国際的なものです。今年,来年,再来年と定期的に大会を開催していきます。他団体との共同開催も視野に入れていますよ。
4Gamer:
ゲームは開発会社やパブリッシャが権利を持っているので,eスポーツのサポートには国内企業との連携が不可欠になってきます。この点はどう考えてますか。
青木氏:
もちろん,国内企業との連携も深めていくつもりです。そしてそこに何かの制限をかけるつもりはありません。JEFに加盟していないとダメだとか,加盟しているから優遇処置をとるだとか,そういうことは一切ナシです。我々はあくまでも“公益性”を重視します。
そのうえで,一緒に協力していけるところとは協力していきたいですね。「自社のIPを使ってeスポーツをやりたい」という場合に選手を紹介したり,選手間で問題が起きたら,その解決をサポートする,といったことも行います。
実際のところ,国内企業とそういったお話もしています。海外の企業とも同じように進めていますよ。
4Gamer:
既存のeスポーツコミュニティとコンタクトは取っていたりするのでしょうか。私が観測できる範囲では「JEFという組織ができて,こういうことをしようとしている」という情報をほとんど耳にしなかったのですが。
鴨志田氏:
現状で既存コミュニティとのつながりは薄いと言わざるを得ません。私が個人的に知っている人には話をしていますし,別の人を紹介されて話をしに行くといったこともありますが,現段階ではまだ協会として動けてはいません。これからもっとつながりを強めていく必要は切実に感じています。
ただ,これは強調したいことなのですが,JEFは「囲い込み」的なことがしたいとはまったく考えていません。ライセンスがないと大会に出場できないとか,そういうことは一切ありません。
日本で活躍されているeスポーツコミュニティの皆さんとお話ができる機会があれば,こちらから積極的にお伺いしたいと思っています。今の日本のeスポーツに対する不満などをぶつける場所でも構いません。「リアルな話をしようぜ」という場は必要だと思います。4Gamerさんの主導でそういうイベントをやってくれると,とても嬉しいですね(笑)。
そうした話をすることで問題解決に向かうのは良いことですし,そうやって選手やコミュニティをサポートすることがJEFの役割だと思っています。
想像以上に高い「PCゲーム」の壁
4Gamer:
具体的に,いまの日本のeスポーツが直面する問題についてうかがっていきたいと思います。
まずは「モバイルのeスポーツについて」です。近年,スマートフォンを中心としたモバイルゲームもeスポーツ的な盛り上がりを見せています。ここでは選手自身のデバイスを利用した際のチート対策の難しさなどが問題になっていますよね。
モバイルのeスポーツの勢いはすごいですよね。スマートフォン1台で参加も観戦もできる,この手軽さは他に類を見ません。
ご指摘のチート対策の難しさですが,もちろんそういう側面はあります。eスポーツにおいて自分の使用しているデバイスというのは,野球でいうグローブやバットと同じで,手に馴染んだものを使いたい。しかし,普段使用しているスマートフォンが本当に安全なのかを調べるとなると,大変難しいわけです。
この問題について,中国では大会で使う新品の端末を主催者側が用意するといった解決策が採られることが多いですね。こうしたレギュレーションの制定は着実に進んでおり,中国ではすでに細かいレギュレーションが制定されています。
また,チートや違反行為の有無を判断するジャッジに対して,ライセンスを発行するシステムもできています。
4Gamer:
なるほど。チートを防ぐには一定の効果がありそうですね。
青木氏:
ジャッジについては,JEFでも公認制度を作る予定です。JEFが主催する大会においては公認のジャッジやスタッフを置いて,チートや違反行為に対する管理をしっかりと行っていきます。
4Gamer:
モバイルが盛り上がってきているとはいえ,世界的に見ればeスポーツの中心はPCゲームです。一方で,日本において,PCゲームはマジョリティとは言えません。このギャップをどう埋めていくのでしょうか。
青木氏:
その問題は我々も感じています。
こうした現状は,仕方ないというのが正直なところです。日本だとそもそもPCゲームに触れる場がありません。そこで認知度が高まらないのは,当然のことでしょう。コンシューマゲーム機に比べてゲーム用のPCは高価ですしね。
一方,海外では「リーグ・オブ・レジェンド」などのようにPCゲームタイトルが重要な位置を占めています。これって日本では,選手が育つ育たない以前の問題で,そういった大会の実況を見ていても「遊んだことがないと何をやっているのか分からない」というのが現状なんです。
そして「PCゲームに馴染みがない」というのは,MOBAがどうこうよりも,もっと根の深い問題なんです。
4Gamer:
具体的には何が問題になるのでしょうか。
「PCゲームに馴染みがない」ということは,つまり「事実上ほとんどPCに触れたことがない」ということでもあるのです。最近では学校でパソコンに触れることもあるでしょうが,それは我々が思う「PCに触れる」とは話が違います。
PCゲームは「キーボードとマウスを操作して遊ぶゲーム」なわけです。キーボードに馴染みがないというのは,大きな弱点になってしまいます。「PCゲームに対するハードルの高さ」を考えるとき,このレベルでの「ハードル」が存在すること自体にも注意しなくてはなりません。
4Gamer:
「キーボードとマウス」で遊ぶということが,我々が感じるハードルの前の,もう1つ別のハードルとして立ちはだかってしまうわけですね。
青木氏:
そうです。そうなると当然,PCゲームはプレイされにくくなりますよね。だからこそ我々は「実際にPCゲームを体験できる場所」というのが重要だと考えています。
「遊んでみたら楽しかった」という前の段階として「キーボードとマウスでゲームを遊んでみる」という体験を提供することそのものに,意義はあると思っています。
4Gamer:
なるほど。たしかに「キーボードとマウス」「ゲームパッド」「タッチパネル」では,遊ぶ姿勢からして違います。
青木氏:
また実況の在り方の問題という指摘もできます。
これは今,実況をされている方も感じていることですが,例えば「リーグ・オブ・レジェンド」のようなゲームを「知らない人が見ていても面白さが分かるように実況する」のは,とてつもなく大変なことです。解説者や会場の観客,あるいは実況のコメント欄は盛り上がっているけれど,初めて見た人は「何がすごかったのか分からない」というのは,MOBA実況では特に起こりがちです。
4Gamer:
PCゲームに限らず,一般に認知されていないもの全般に言えることですね。ルールが複雑になるほど,状況を伝えるのが難しくなります。
青木氏:
ゲームを知らない人が「どう見てくれるのか」というところから構築していかなくてはなりませんから。ほかにもさまざまな問題が山積みですから,みんなで協力して,それこそ国をあげて頑張らないと,PCゲームの問題は解決してはくれません。
もっとも,日本以外の国でもeスポーツは特有の課題を有しており,国や地域によって解決方法さえ変わってきます。この辺りは「こうすれば絶対にうまくいく」と言えない部分ですね。
ただ,我々としてはやはり,初めは「触れてもらって,面白さを知ってもらう」ことから始めたいと考えています。パッと見て分かりにくくても,実際に遊んでみるとハマる,というのはよくあることですから。
4Gamer:
あくまで個人的な経験に基づくことですが,ファンやクリエイターが「実際に遊んでもらえば面白さが分かる」「実際に会場に来てもらえれば凄さが分かる」と力説するタイトルやジャンルほど,一部のファンが愛好する範囲にとどまる傾向があるように感じます。裏を返すと「一度でも遊んでもらう」こと自体が難しいわけなので。
実際,モバイルゲームにおいては「一度は遊んでもらう」ために各社がしのぎを削っている状況です。こうした状況で「遊んでもらえば面白さが分かる」「会場に来てもらえば凄さが分かる」というのは,少し楽観的すぎないでしょうか。
私も「遊んでみる」ことに対するハードルの高さは強く感じています。もう少し肩の力を抜いた,参加しやすいイベントがあっても良いと感じています。「大会だ!」というような,ガチガチのeスポーツではなく,「フェスティバル」のようなワイワイ遊べる場を作ることは大事だと思うんです。
いずれにしても,こういった課題や問題に対して,知見を共有する場として,カンファレンスを開き,コミュニティを作って問題解決を目指していきます。
4Gamer:
そのあたり,海外ではどう解決しているのでしょうか。海外でも同様にPCゲームは高価ですよね。
青木氏:
ネットカフェがPCゲームを広める役割を担っていました。手軽に遊べる場所があることで,広がっていったパターンですね。
そして今,いわゆるネットカフェが「eスポーツ館」と呼ばれるものに変わっています。学校が終わったらeスポーツ館に行ってみんなで遊ぶという文化が成立しているんです。
4Gamer:
「eスポーツ館」ですか。聞きなれない言葉ですが,具体的にどのような施設なのでしょうか。
青木氏:
ハイスペックなPCが置いてあり,座席の配置が5対5などのローカル対戦が行いやすいようになっています。日本の一般的なネットカフェと比べて,eスポーツタイトルで実際に対戦することに比重を置いた形です。
大会の予選や,プロクラブチームがeスポーツ館を借りてミーティングを行ったりもします。そういうレベルの要求に耐えられる場所,ということです。
4Gamer:
JEFでは上海に「eスポーツ館」を設立する予定とのことですが,こちらの施設について詳しく教えてください。そもそもなぜ日本ではなく上海なのでしょう。
青木氏:
中国で上海はeスポーツイベントの中心だから,というのが最大の理由です。世界において先端を走る中国や韓国のクラブチームが拠点として選ぶのも,上海が多いのです。日本の選手が遠征などで使用することも想定しています。
JEFが設立するeスポーツ館は,メルセデス・ベンツアリーナのB1階になります。広さは2000平方メートルで,5対5のスペースはもちろん,アリーナもあり,小規模〜中規模のイベントの開催が可能です。短期集中レッスン向けの個室やグリーンバックの配信室,教育用のセミナールームも完備しており,JEFが主催する国際大会の場としても想定しています。
世界の最先端を把握したうえで,最先端の技術を導入して作っています。
オリンピックだけがゴールではない
4Gamer:
日本を含め,世界的に「eスポーツをオリンピック競技に」という動きがあります。これについては賛否両論あるところですが,JEFとしては,オリンピックの正式競技化に対してどう考えているのでしょうか。
青木氏:
我々が「世界と連携する」ことを重視する大きな理由の1つは,eスポーツのオリンピック正式競技化にあります。こればかりはひとつの国や組織,あるいは国内世論といったレベルの問題ではなく,世界的に「無視できない」という環境を作っていくしかないな,と。世界各国のeスポーツ団体と連携してIOCに対して声をあげていかなくては,達成できないゴールですよね。
そこに至るまでの問題は山積みです。だからこそ,国際的な連携と情報共有を通じ,みんなで声をあげられる組織づくりが大事になっていくと考えています。世界のeスポーツがスポーツとして認められる,その一助となる活動をしていきます。
それともうひとつ,eスポーツは,オリンピックの正式種目化以外にも,大きなゴールがあることを,しっかりと認識しておくべきだと思っています。簡単に説明すると,FIFAみたいな組織があって,ワールドカップという大会を行う,というのもeスポーツが目指すゴールの1つだと思うんです。
個人的にはこちらの方が実現できる可能性が高いのではないかと思っています。いろいろと問題も少なくなりますし。
4Gamer:
その問題とは具体的にどんなものでしょうか。
鴨志田氏:
オリンピックは4年に1度の開催ですよね。ですが,1つのゲームタイトルが4年後も世界的にプレイ人口を維持できるかどうかなんて誰にも分かりません。最悪,そのゲームを運営している会社がなくなっていることもあり得ます。
国際的なeスポーツ団体が主催するワールドカップだと,もっと短いスパンでeスポーツに即した大会を開催できるわけです。ですからまず,そちらから作り上げて,オリンピックはそれから考える,という順番なのかなと。
4Gamer:
オリンピックなどは華々しい国際的な巨大イベントですが,そうした舞台がある一方で,地方における草野球プレイヤーのような層の厚さがシーンにとって重要になったりもします。
茨城国体でeスポーツが採用されるなど,日本では「地方でのeスポーツ大会」に注目が集まりつつある状況です。地方自治体においてもポジティブな反応を示しているとことは少なくありません。
こうした「地方とeスポーツ」という動きに対して,JEFとしては何か計画や指針はあるのでしょうか。
鴨志田氏:
地方も含めた活性化で,最初に必要となるのは大都市圏での盛り上がりです。7大都市が起点となりますね。日本におけるeスポーツ館の展開はまずはそのあたりから行っていきます。
eスポーツの国際大会はインバウンド需要が発生するので,海外のチームや団体を誘致しながら盛り上げていくプランになっていくのかなと。大都市圏で「国際大会を誘致したい」というところがあれば,我々はお手伝いできます。その際は会場となる地元の人たちを含めて,話し合いながら進めていきたいと思います。
一方,地方ではあまり活用できていない施設や空いている施設も増えています。そういった場を何か活用できないか,という話はたくさん出ていまして,そういう場で行うイベントの1つとして,eスポーツの大会やフェスティバルというのはあり得ると考えています。複合施設に提供できるコンテンツとしてのeスポーツという形です。
4Gamer:
たしかに地方で活用できていない施設というのは,しばしば耳にしますね。
鴨志田氏:
ただ,国際大会によるインバウンド効果は確かに高いのですが,その結果として宿泊施設などのインフラキャパシティを超えてしまうこともあり得る,ということです。
4Gamer:
地域活性化を目指して大会を誘致した結果,宿泊施設の確保が難しかったり,移動手段が限られていたりと,それ自体がストレスになり,悪印象を与えかねない,と。
鴨志田氏:
そういうトラブルはわりと簡単に起こるのです。ですが,しっかりとした「大会」という体にこだわらなければ,実現できることもあります。
例えばですが,私が伊豆大島をプロデュースする際,50〜60人くらいのゲーマーを島に連れて行って対戦会のようなものを行ったことがあります。
4Gamer:
eスポーツを使った地方の活性化において「大会」が必ずしも正解ではない,ということですか。
鴨志田氏:
そうですね。伊豆大島の場合,島の人は「なんだかたくさん若い人が来たぞ」と,お祭り的な雰囲気になりましたし,連れて行ったゲーマーは発信力のある人達でしたから,SNSなどで伊豆大島の魅力を自然に発信してくれるわけです。これは1つの例ですが,こういった方法であれば,地方のインフラをパンクさせてしまうこともありません。
「国際大会によるインバウンド効果は高い」と言いましたが,例えば「Dota 2」のような人気を誇るタイトルの世界大会,それも決勝戦となると,行政の強力な支援が欠かせないくらい大きな話になる,ということは伝えておきたいです。事実,世界大会「The Invitational 2019」を上海で開催するにあたって,上海の副市長と上海市浦?区の区長がアメリカに渡り,誘致活動をしていますから。
正しいことをひたすらやる
4Gamer:
「eスポーツはスポーツなのか」という議論が,業界のみならず,さまざまなところで行われています。eスポーツ業界の中ですら意見が分かれていますが,オリンピックを目指す人には特に「スポーツ」派の人が多い印象です。
個人的な見解ですが,無理に「スポーツ」という括りの下に,eスポーツを入れてしまうから反発が起きてしまうのではないか,と思うのです。このあたりの見解を聞かせていただけないでしょうか。
鴨志田氏:
なるほど。たしかに「スポーツ」の下にあるのは「球技」や「陸上」などですね。そして「eスポーツ」の下には「格闘ゲーム」や「FPS」「MOBA」がある,と。つまり「スポーツ」と「eスポーツ」は,同じ高さにある,別のものではないか,という考え方ですね。
4Gamer:
その通りです。
鴨志田氏:
言い方の問題ととらえることもできますが,面白い考え方だと思います。
ただ,スポーツもeスポーツも,そこに従事している選手はどちらも「競技者」である,ということは重要かなと。
4Gamer:
eスポーツはどうしても特定企業のタイトルに依存する。それゆえ,持続性に対して疑問が持たれることにもなる。このあたりについてはどのようにお考えでしょうか。
指摘されている通り,特定企業のタイトルに依存している状況で,「いま,eスポーツシーンでものすごく人気があるゲームが,ある日,突然なくなる可能性がある」という懸念は,完全に拭い去れません。
大事なのは現状「この問題に対する答えを誰も持っていない」と認めることではないかと思います。eスポーツ自体が世界的に見ても「まだ始まったばかり」のもので,未知の領域はまだまだ広いんです。
4Gamer:
eスポーツの話となると「巨大な市場規模」だとか,この波に乗り遅れるな,という話が多いのですが,今回はそれ以外のお話をうかがえたことがとても興味深かったです。最後になりますが,今後の抱負を聞かせてください。
遠慮なく申し上げるなら,JEFに対してeスポーツファンやコミュニティからは疑念の声や一定の拒否反応が示されると思いますし,現段階でもいくつかを目にしています。そういった声を踏まえて,メッセージを頂ければと。
鴨志田氏:
我々が認めてもらうには「正しいことをひたすらやる」しかないと思っています。具体的には選手にどれだけ機会を提供できるか,というところですね。ひたすら真摯にやる。それしかないと思っています。
誤解されてしまう部分もあると思います。SNSなどでいろいろ言われていると思いますし,現状は,言われても仕方ないかな,と。eスポーツに関わらず,日本にはそういう批判をされても仕方ない「協会」みたいなものが,たくさんありますしね。
だからこそ,着実に,やれることをやって行動で示すしかないです。国内のeスポーツの状況を改善するため,さまざまな面で選手の育成を促進するため,いま存在する諸々の問題を解決して,その実績をもって「JEFはこういうことをします」というのを示すしかないと思っています。
4Gamer:
行動をもって示さなければ,信頼は得られない。基本ですが大切なことです。
鴨志田氏:
繰り返しになりますが,JEFは海外にあるロールモデルをローカライズしたり,国際ルールを提示したり,さまざまなハードウェアや施設を用意する予定です。そのうえで,利用したいと思った人に利用してほしい,というのが基本姿勢です。今はとにかく「そういうことをやっていきますよ」というのを多くの人に知ってもらう必要があると感じています。
選手がJEFを利用して強くなれたと感じられる――そんな組織運営をしていきたいと思います。
4Gamer:
本日は長時間,ありがとうございました。
「日本eスポーツ促進協会」公式サイト
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