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タイ・バンコクで開催された「gamescom asia x Thailand Game Show 2026」の2日目に,フランスのDigixArtでクリエイティブディレクターを務めるYoan Fanise氏が講演「Road 96 vs. Tides of Tomorrow: What We Got Right, What We Got Wrong」を行った。題材は同スタジオの2作,2021年の「Road 96」と2026年に発売された「Tides of Tomorrow」だ。
Fanise氏はUbisoftに長く在籍し,同社では小規模な企画として「Valiant Hearts: The Great War」を手がけた。同じ規模の作品を自分のスタジオで作りたいと考え,2015年に南フランスでDigixArtを立ち上げ,4本のゲームを発売している。
2作のうち「Road 96」は商業的に大きく当たったのだが,「Tides of Tomorrow」は期待ほど売れなかった。うまくいかなかった理由を自分たちで率直に探ってみたい,というのが講演の趣旨だ。
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Fanise氏は,ゲームの成否を批評と売り上げの2軸で整理していた。批評で成功したか失敗したか,売れたか売れなかったかの組み合わせで,4つのケースができるわけだ。
Ubisoft時代から数えて13本の制作で,Fanise氏は4つのケースをすべて経験してきたという。ゲームごとにどの枠へ入ったのか,その理由を考えるのが面白いのだという。今回は2本に絞って取り上げると前置きした。
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要因は外と内の2種類に分けられる。開発者がどうにもできない外的要因には,ゲームの本数は増えているのにストーリー重視のゲームの遊び手は増えていないこと,YouTubeで見られて終わってしまうこと,プレイヤーが退屈に耐えなくなったことが挙げられた。
内的要因のほうは,DigixArtが現実の重いテーマを扱いがちなこと,受け身すぎて映画でいいのではと思われること,そして作りの豪華さが成功を保証しなくなったことの3つだ。Fanise氏がいちばん重く見ているのは最後の1つで,作品価値の受け止め方が15〜20年前とは違うのだという。
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外的要因の1つめは,見つけてもらえるかどうかだ。スライドには2024年にSteamで発売されたゲームが1万8996本とあり,2025年はさらに増えて2万本前後になったという。
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ストーリー重視のゲームに絞るともっと厳しい。Steamのタグごとの推移をまとめたスプレッドシートはネットで無料公開されていて,「Story Rich」タグの付いたゲームは2017年の391本から2021年には670本へ増えていた。
だが,1本あたりの所有者数の中央値は2018年の2万3313人から2022年には6405人まで落ちている。本数は毎年増え,遊ぶ人は減る。なかなか扱いの難しい隙間市場だとFanise氏は評していた。
それでも作れないわけではない。何千本ものゲームがあふれる市場で目立つには,本当に独創的で,しかも人が遊びたくなるものを作るしかないとFanise氏は結論づけた。
独創的なだけで誰も遊びたがらないゲームも,自分のために作るぶんにはいいのだが,長く商売を続ける助けにはならない。スライドに書くのは簡単でも,実現するのはとても難しいとも付け加えていた。
目的地は見えていても,たどり着く道筋も途中で出会う問題も分からない。オリジナルのゲームを作るのは,そんな未知の海を進むようなものなのだそうだ。
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ストーリー重視のゲームに特有の悩みが,YouTubeやTwitchなどでの実況だ。映画や音楽の業界は全編の公開を止めているが,ゲーム業界は宣伝になるからとプレイ動画を許してきた。
だがそれは,ゲームを遊ばなくても話が全部分かってしまうことを意味する。「That Dragon, Cancer」の開発者が,見るだけで満足する人の多さを見誤り,何百万人に見られても収益はゼロだったと嘆いていたというKotakuの記事が紹介された。
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DigixArtがいろいろ試したなかで,うまくいったのが「Road 96」の仕組みだ。選択肢を選ぶたびに枝分かれしていく普通の分岐型ではなく,用意した多数の場面(シーケンス)を,遊ぶたびにゲームが自動で組み合わせて並べる。そのため,どこから始まって次に何が来るのかは開発側にも分からない。
スライドには8.32×10の81乗通りという数字が出ていたのだが,計算上の組み合わせで意味はない,とFanise氏は笑っていた。順番を入れ替えただけでは別の物語にならないので,各シーケンスの中身もかなり変え,ちゃんと話が進んでいる感覚を作る必要があったという。
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ロードトリップの舞台になる国も架空のもので,道のりもプレイのたびにゲームが組み立てる。1人1人が別々の物語をたどるので,好きな配信者の実況を見たあとでも,自分の旅がほしくなり,遊びたくなる。プレイヤーからはそういう反応が返ってきたそうだ。
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2026年に発売した「Tides of Tomorrow」は,「Road 96」よりも予算をかけたタイトルだ。グラフィックスもアニメーションも,あらゆる面で規模が大きくなった。
仕組みの核は,物語が自分の選択だけでなく,ほかのプレイヤーの選択でも変わることにある。たとえば人気配信者のPokimane氏をフォローすると,Pokimane氏がある島で選んだ結果が非同期で自分のプレイに反映され,そのうえで自分も選ぶことになる。
また,友人や別の配信者をフォローし直し,別の島に向かうのも自由だ。机上ではとても面白い仕組みだったとFanise氏は振り返る。
だが実際には,ゲームの流れの多くがあらかじめ決まった順番で進み,遊ぶたびに組み替わるわけではなかった。大半のシーケンスは順番が固定で,そのなかの道筋や出来事がフォローした相手の選択によって変わる作りだという。
その結果,自分の冒険がほかのプレイヤーとどれだけ違うのかを感じにくくなり,自分だけに合わせた体験だという手応えが「Road 96」ほど得られなかった。独自の仕組みではあるのだが,プレイヤーからは見えにくかったかもしれない。
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プレイヤーの忍耐が変わった,という外的要因にも話は及んだ。昔のストーリー重視のゲームには長い会話が延々と続く場面もあったが,読むのが好きな人が相手でも,いまはもうそれでは遊んでもらえないという。
「Road 96」で手本にしたのはテレビドラマのリズムで,1回の旅が1話にあたる。何話あれば良いシーズンになるのかも考えたそうだ。
12話で8シーズン続くドラマもあるが,いまは6話や8話のミニシリーズがよく当たっている。誰もが忙しく,短いものに時間を使いたがるからだ。
「Road 96」の1シーケンスはおおむね10分で,長くても12〜15分。終わるたびに道へ戻り,新しい人物に会い,別のことをする作りで,1時間同じ場面が続くと感じさせたら退屈になる,というわけだ。
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DigixArtでは制作の早い段階から,3か月おきにプレイテストを行っている。スライドの写真は,ある作品の最初期のテストで,背景の緑一色の画面が当時のゲームだ。
テスターがあまり楽しめていないのが分かるが,それでも得るものは多いという。悪いプレイテストとは,開発者が頭の中に用意した答えを引き出そうとするテストのことで,何も期待せずに臨むのがいいそうだ。
もう1つ難しいのは,テスターが優しすぎることだ。スタジオに来た人は気をつかってくれるが,プレイテストの目的は,発売後にSteamの低評価レビューで書かれることを先に聞いておくことにある。
Fanise氏は,好きなところはどうでもいいので,気に入らないところを言ってほしい,ゲームをこき下ろしてほしい,とテスターに頼む。自宅でくつろいでいるときのように,遠慮なく言える場を作るのが肝心なのだという。
クリエイティブディレクターがこの役目を人に任せすぎるのも,よくない。チーム全員に関わってほしいので,担当者に,自分が担当したレベルのテストを見てくるよう頼むこともあるが,人によっては,否定された気分にならないよう感想を少し和らげて持ち帰ってしまう。
Ubisoftでも,プレイテストの結果が上へ伝わるたびに薄まっていくのを見てきたという。担当者が「ひどいが致命的ではない」と報告し,上司は「悪くない」と伝え,最後にCEOのもとには「素晴らしい出来だ」という話が届いて,発売後に驚くことになる。
だから,プレイヤーの感想は直接聞かなくてはならない。
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内的要因の1つめ,重いテーマについては,自分たちと同じように意味のある題材を扱いたいスタジオは多いだろう,と前置きしたうえで話した。2014年の「Valiant Hearts: The Great War」から12年,「This War of Mine」のような重いテーマのゲームは,人を集めにくくなっているという。
会場では「Valiant Hearts: The Great War」の映像が流された。楽しい場面も多く入れたとはいえ決して明るいゲームではなく,2014年にはそれでうまくいったが,いま同じ種類のゲームを何百万本も売るのはとても難しいという。
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DigixArtでは,まったく別の面でプレイヤーを引きつけることにした。「Road 96」は表向きは楽しいロードトリップのゲームで,遊んでみると実はかなり政治的だと分かる,という作りになっている。
配信者のxQc氏は発売初日に,ロードトリップのゲームなら面白そうだと遊び始め,登場人物のSonyaたちに出会ったところで,かなり政治的なゲームだと驚いたそうだ。視聴者の前では居心地が悪そうだったが,見ていて面白かったとFanise氏は笑う。
最初から政治的なゲームだと売り込むことはしない,というのがDigixArtのいまのやり方なのだ。
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受け身すぎる,という2つめの要因については,人類がAI以前に積み上げてきた直線的な物語の量を示した。フィクション映画が約50万本,フィクションの書籍が1億3000万冊,アドベンチャーゲームが9450本以上で,AIが加わるこれからの数年で,さらに加速度的に増えていく。
スタジオを立ち上げたばかりの開発者から,ストーリー重視のゲームの構想を聞くと,面白そうだと思うことは多いという。だが良い物語を書くのは難しく,直線的な物語だけで勝負するのはなおさら厳しい。
DigixArtの面々もすごい書き手ではなく,ゲームと組み合わせることでどうにか戦えているとFanise氏は話す。ストーリー重視のゲームとは,物語を読ませるゲームではなく,物語を使って遊ぶゲームだと考えたほうがいいのかもしれない。
例として挙がったのは,物語を組み立てること自体が遊びになっている小さな2Dゲームで,Netflixのゲームとしても配信されている作品だった。
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Steamのレビューでよく見かける不満が,自分の選択が何の影響も与えない,というものだ。Fanise氏のアドバイスは,最初の1時間のうちに,プレイヤーの道のりへ本当の結果を返すことだった。
あなたの選択はすべてエンディングに影響するという作りでは,終盤を迎える前にプレイヤーが離れてしまう。ゲームのあいだずっと,世界への影響が目に見えることも欠かせないという。
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3つめの要因,価値の受け止め方については,Humble Gamesが2023年のGDCで発表した調査を引用した。インディーゲームを買う人が評価しているのは,リスクを取ること,創造的な語り口,作家性のある手触りといった点だ。
物語の面では,オリジナルの世界や深いストーリー,非直線的な語りや環境で語る手法などが好まれていた。プレイヤーは作りの豪華さよりも新しさと挑戦に報いるらしい。
小さなスタジオにとって,これがいちばん大事な教訓だとFanise氏は言う。見た目は決して豪華ではないのにSteamで大成功したゲームも,いくつか示された。
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最後の助言は,プレイヤーから見える部分に力を注ぐことだった。プログラマを含めてチームの誰もがすごいシステムを作りたがるが,プレイヤーにコードは見えず,目に入るのは画面に映るものだけだ。
プレイヤーはどこで時間を使い,何を見て,何をしたがっているのか。チームの努力がゲームのUSP(ほかにない売り)とそろっているかどうかも,もちろん問われる。
チームの時間の半分以上を売りではない部分に使っているなら,方向を間違えているのかもしれない。いま手がけている要素がゲーム体験に価値や感情をもたらしているかを,作っているあいだずっと問い続けてほしい,という言葉で講演は締めくくられた。
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