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[CEDEC 2022]「ヘブンバーンズレッド」のマーケティング戦略とは。オリジナルIPとして超レッドオーシャンに飛び込むために必要だったこと
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印刷2022/08/25 20:47

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[CEDEC 2022]「ヘブンバーンズレッド」のマーケティング戦略とは。オリジナルIPとして超レッドオーシャンに飛び込むために必要だったこと

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」。2日目となる8月24日には「ヘブンバーンズレッド『最上の、切なさを。』伝えるマーケティング」と題した講演が行われ,WFS マーケティング部の部長である小泉義英氏と,同部の五十嵐美里氏が,ローンチ前後の施策について語った。

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WFS マーケティング部の部長である小泉義英氏(写真右)と,マーケティング部の五十嵐美里氏(写真左)
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超レッドオーシャンとなったスマホゲーム市場に挑むべく,自らの売りを定義する


 「ヘブンバーンズレッド」iOS / Android / PC)は,宇宙から来た謎の敵「キャンサー」に襲われて危機を迎える日本を舞台に,少女たちが決戦兵器「セラフ」で戦う物語である。「最上の、切なさを。」というキャッチフレーズの通り,少女たちが過酷な運命に立ち向かう様がプレイヤーたちの感動を呼んでいる。本作の詳細は公式サイトや4Gamerの記事を参照してほしい。

「ヘブンバーンズレッド」公式サイト

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 小泉氏は,昨今のスマートフォンゲーム市場を「超レッドオーシャン」であると分析する。2013〜2021年に,iOSで日本のセールスランキング1位を獲得した作品が50個。そのうちオリジナルIP(本講演では事前にアニメや漫画をリリースせず,ゲームが最初の展開であるIPのこと)は20個で,日本産のものはわずか11個。海外産タイトルの高クオリティかつ潤沢な資金によるプロモーションも行われており,超レッドオーシャンかつ群雄割拠の時代であるという。こうした状況でオリジナルIPのゲームを出すからには,確固たる戦略が求められる。

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 本作はKeyの麻枝 准氏がシナリオを,「アトリエ」シリーズのゆーげん氏がキャラクターデザインを務めている。そのため1st,2ndターゲットはKeyファンや,Keyの名前は知らなくても作品が好きなファン,3rdターゲットは美少女が出るゲームをプレイする人,4thターゲットはアニメラバー(趣味をアニメとしている人)と決定。KPI(Key Performance Indicator。重要業績評価指標)も,インストール数より,継続率や課金MAU(Monthly Active Users。月のアクティブなユーザー数)が優先されることとなった。本作を好きになってくれる人がゲームを続けてくれることが重視されたわけだ。

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 そして,多くの人にヘブンバーンズレッドを好きになってもらうためには,USP(Unique Selling Proposition),自らの強みを分析して,どこを売りとするかの戦略が必要だ。麻枝氏が15年ぶりに世に出す完全新作ゲームであること,こちらは他社にないUSPとなる。しかし,少女たちが戦う世界観はありふれておりUSPにはなり得ない。この状況で,USPを言語化する必要があったわけだ。それは,麻枝氏のストーリーとゆーげん氏のキャラクターが作り出す「切なさ」。他社よりも深く,キャラクターごとの物語へ没入できることが,ヘブンバーンズレッドのUSP,売り,アピールすべきポイントとされたのである。

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 切なさ=USPであるというところでめでたしめでたし,となりそうだが,そうならないのがマーケティングの世界。本作をよりマスへアピールするために,「最上の、切なさを。」を含めた7つのタグラインが作られ,Googleサーベイと運用型広告で調査が行われた。
 タグラインとは,企業や製品,サービスがどんな価値を提供するかを表す言葉で,優れた点を分かりやすく伝え,中長期的に使われる,企業と顧客の約束のようなものだ。「すべてはお客さまの「うまい!」のために。」(アサヒビール),「自然を,おいしく,楽しく。」(カゴメ)といったものがタグラインである。
 ここで作られたタグラインは「その全てが,胸を突く。」「ハイクオリティ3DRPG」「ドラマチックRPG」「最上の、切なさを。」「切なくも美しい群像劇」「少女たちの絆の物語」の7つ。いずれもヘブンバーンズレッドを象徴する言葉ではあるが,やはり他との差別化という意味で「最上の、切なさを。」が優れていると感じられる。事実「最上の、切なさを。」に対する反応も良かったため,これがタグラインとなった。
 なお,本作を手がけるシニアゲームデザイナーの小沼勝智氏によると,このフレーズは開発チームにおけるブランドアイデンティティでもあり,本作で作られるものは「切なさ」がキーワードになっているという。詳しくは「ヘブンバーンズレッドのゲームデザイン」レポートを参照されたい。

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 Wright Flyer StudiosとKeyの共同開発によるスマートフォン向けRPG「ヘブンバーンズレッド」。そのゲームデザインを支えるのは,「最上の,切なさを」をキーワードとしたブランドアイデンティティだった。CEDEC 2022の講演「ヘブンバーンズレッドのゲームデザイン」において,その秘密が語られた。

[2022/08/25 13:11]

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ターゲット層を見据え,スピーディな対応でコミュニティを作り上げていく


 五十嵐氏は,プロモーション戦略における具体例について語った。タグラインとなった「最上の、切なさを。」が,本作に関わるクリエイティブに影響を及ぼしているのは前述の通りで,プロモーションについても例外ではない。ファイナルトレイラーは,事前登録の準備期間では一部の人にしか届いていないという判断のもと,本作を理解してもらうため,日常と非日常の落差にフォーカスして制作された。これがリリース直前生放送で発表された際は,声優陣が涙ぐむ一幕も見られたという。

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 また,ビジュアル面も差別化が意識されているという。萌え要素の強い,アニメ絵的で色合いがハッキリしたビジュアルは既に沢山存在するため,ゆーげん氏の淡いタッチによる絵を強みとして再定義。重厚長大なストーリーや切なさが感じられるイラストを部隊ごとに8枚用意し,広告などにも活用している。

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 本作のプロモーションでは「広げるマーケティング」「深めるマーケティング」が行われている。前者はTVCMや交通広告など,作品を広く知ってもらうためのもの。そして後者は定期的な生放送やTwitterのアクティブな運用といった,ファンの愛情を深めるためのものだ。
 いずれも「ヘブンバーンズレッド」とターゲット層の親和性を考慮した施策が行われている。中でも話題となったのが,乃木坂46の齋藤飛鳥さんが出演するもの。とにかく「切なさ」にこだわり,齋藤さんが涙する様に長い時間を使った大胆な構成だ。ターゲット層の認知度と好感度を基準とした齋藤さんの起用も含め,USPとターゲットが明確にされているからこその施策といえる。
 また,バーチャルYouTuberグループのホロライブが起用され,不知火フレアさんによるリリース直前生放送のミラーや配信後2週間にわたって実況プレイが行われ,WEB番組「わしゃがなTV」とのタイアップもなされたが,こちらも同様の判断によるものだという。

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 しかしながら,プロモーションも順風満帆というわけにはいかなかったという。リリース直前生放送では,「広げるマーケティング」で作品を知った新規層とコアファンとの間で温度差が発生してしまい,「コメント欄が健全でない状態になったところもあった」(五十嵐氏)そうだ。
 普通ならこのままリリース日を迎えるところだが,放送終了後に追加の生放送を行う事を決定。リリース直前生放送の翌日に台本を作成するなどの対応を進め,わずか4日後に「ゆったり番外編Vol.2」として配信を行っている。

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 「深めるマーケティング」としては,コアファンに向けてリリースまでに12回の生放送を行ってファンコミュニティを形成。生放送をリアルタイムで追えない人のために,必ずコーナー毎の切り抜き動画を公式で作成するという工夫も凝らしている。
 その甲斐あり,リリース前に1000程度だった生放送の同時接続者数も,リリース後には3.5万を達成。初期に事前登録したプレイヤーは高い継続率を示しているというから,運営型ゲームにおけるコミュニティ作りの大切さが分かる。

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 こうした戦略が効を奏し,リリース後3日間で100万インストールを達成することができたというが,プロモーションの仕事はそこで終わりではない。2022年のゴールデンウィークには,リリース100日を記念し,渋谷での大規模な広告掲出,山手線のラッピングトレイン運行,初のコラボカフェといった取り組みが行われたのは記憶に新しいところだ。

 そして,同時期にはTVCM第2弾が放映されている。これはユーザー調査によって,“ヘブンバーンズレッドに興味はあるけれど,プレイしない理由”として,スマートフォンの空き容量が不足していることや,レビューなどの評価を重視している姿勢が見えてきたことによるものだ。これに対応するため,著名人などの評価コメントを散りばめたCMを作成している。
 この話の中で,個人的に印象深かったのが,空き容量の不足問題だ。単に面白さを競い合うだけでなく,既にインストールされたアプリをアンインストールさせる空き容量争いの側面もあるということが指摘されているが,そうした超レッドオーシャンでのリリースがいかに大変なことであるかを再認識させられた。

 また,ハーフアニバーサリーではリアルイベントが開催されたが,その模様を収録したアフタームービーはその翌日に公開されている。開催日の夜にラフを作成し,そのまま各所へ確認を回すというスピーディな対応が行われたというから驚きだ。

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 また,TVCM第3弾も作成されている。一般層への認知が低く,メディアなどの評価を重視するという特性を踏まえ,ゲーマーとして有名なマヂカルラブリーの野田クリスタルさんが起用されている。

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 これらのプロモーション戦略について,小泉氏は「何か発明したわけではない」と総括する。情報を大量に出すことと,ユーザーと密にコミュニケーションを取ることをサイクルとして回していくことが同社の戦略であり,「組み合わせとタイミング」こそが大事であるとして講演を締めくくった。

 オリジナルIPとして超レッドオーシャンへ飛び込んだ「ヘブンバーンズレッド」。そこにあったのは魔法ではなく,ターゲット層を見据えること,生放送をしっかり続けること,スピーディに対応することといった,当たり前だが大変な仕事であったというわけで,興味深い講演だったと言えるだろう。

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