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聖杯戦争の“if”を楽しむボードゲーム「Dominate Grail War」開発者インタビュー。デザイナー・BakaFire氏の考える“世界観とメカニクス”の幸せな関係
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印刷2019/08/10 00:00

インタビュー

聖杯戦争の“if”を楽しむボードゲーム「Dominate Grail War」開発者インタビュー。デザイナー・BakaFire氏の考える“世界観とメカニクス”の幸せな関係

「メカニクス」と「世界観」を一致させる必然性


4Gamer:
 BakaFireさんがこれまで手がけてきたオリジナル作品についてお聞きしますが,その多くに共通する特徴として,世界観へのこだわりを強く感じます。それも,単にバックストーリーが面白いとかでなくて,メカニクスと世界観の親和性の高さというか。そのあたり,ご本人としては意識されているのでしょうか。

BakaFire氏:
 そうですね,どこから話せばいいか……ボードゲームの構成要素として「コンセプト」「メカニクス」「世界観」の3つがあるとしたら,僕のスタイルは「コンセプト優先」と言うのが正しいかと思います。

4Gamer:
 なるほど,コンセプトですか。

惨劇RoopeR 5th
画像集 No.015のサムネイル画像 / 聖杯戦争の“if”を楽しむボードゲーム「Dominate Grail War」開発者インタビュー。デザイナー・BakaFire氏の考える“世界観とメカニクス”の幸せな関係
BakaFire氏:
 コンセプトを決めたあと,次に世界観とメカニクスのどちらに行くかというと,まぁメカニクスなんじゃないでしょうか。ただ「惨劇RoopeR」場合はここから外れていて……。

4Gamer:
 「惨劇RoopeR」は特定の原作があるわけではないにせよ,いわゆる“ループもの”というジャンル自体をベースとしてしているので,ある意味版権ものと言えなくもないですよね。

BakaFire氏:
 おっしゃるとおり,アレは先行作品への強烈なリスペクトが先にありましたので,実際は版権モノに近い作り方をしています。オリジナル作品の制作手法について語るなら,やはり「ふるよに」を例にするべきですね。

4Gamer:
 となると,「ふるよに」はコンセプトを優先して,そこからメカニクスを組み立てた作品というわけですね。

BakaFire氏:
 はい。あれはまず「2つの要素を組み合わせる」というコンセプトがあって,それを実現する方法を模索する中で,メカニクスが生まれてきたタイトルです。ただ,僕はゲームの世界観というのは,可能な限りメカニクスに寄り添うものでなければならないと思っているので,世界観にもめちゃくちゃ気を使っています。

4Gamer:
 世界観の話に戻ってきました。具体的にいうと,どんな風に世界観を絡めていくのでしょう。

BakaFire氏:
 「ふるよに」なら,メカニクスの中で「配置される場所によって意味合いが変化するトークン」が登場しますが,それは一体なんなのか。あるいは,彼らはなぜ1対1で戦い,しかも能力的には2つの要素を合わせ持つのかなど。そういった細かい部分に,整合性を持たせていくんです。

4Gamer:
 “配置される場所によって意味合いが変化するトークン”というのは,「桜花結晶」のことですよね。あれは,どういう経緯で今の形になったんでしょうか。

桜降る代に決闘を
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 2016年5月にリリースされ,大きな反響を呼んだ“眼前構築型”ボードゲーム「桜降る代に決闘を」のレビューをお届けする。「惨劇RoopeR」などで知られるヒットメーカー・BakaFire Partyが初めて挑んだリビングカードゲームは,いったいどんなものか。「にじよめ」でサービス予定のデジタル版に先駆け,人気を博しているアナログ版を紹介していこう。

[2017/10/23 15:00]
BakaFire氏:
 桜花結晶の場合は,スタッフ全員で「どんなフレーバーにすれば最も格好良い形に落ち着くか」をブレインストーミングした結果,出てきたアイデアでした。あるスタッフが「桜の花びらが良いんじゃないか」と言い出して,全員が「それだ!」となったという。それまで考えていた西洋風の剣闘士達が戦うコロシアムのイメージが,一瞬で和風に染まった瞬間です。

4Gamer:
 ああ,それで和風なんですね。コンポーネントとしても,桜の花びらの形というのは目を惹きますし,確かにいいアイデアです。1対1で戦う部分は,格闘ゲームがモチーフなのかと思っていましたが違うのでしょうか。実際にプレイしてみると,確かに印象は異なるんですが。

BakaFire氏:
 最初の時点では,おっしゃるように格闘ゲームのタッグバトルのようなものを考えていたんです。だけどアレってタッグのように見えるだけで,実は同時に戦っているわけではなかったりする。「ふるよに」のメカニクスとは,ちょっとイメージがそぐわなかったんですね。そこで出てきたアイデアが,「プレイヤーは神の力を借りている」「両手にそれぞれ神を降ろすことができる」という物語です。こうすれば,無理なくシステムを世界観に落とし込めると。

4Gamer:
 タッグというより,一人のキャラクターの中に同時に存在しているイメージなんですね。

BakaFire氏:
 ええ。それと格闘ゲームの同キャラ対戦というものに,僕がずっと違和感を感じていたのも,こういう設定を導入した理由の一つでもあります。色違いの同一人物が戦うシチュエーションって,いったいどうすれば起こりえるのか。それがとくに説明もされないので,なんとも言えない気持ちになってしまうという。

4Gamer:
 分かります(笑)。

BakaFire氏:
 それが“手に神を宿している”という設定なら,同じ神を宿した者同士なんだってことで納得できるじゃないですか。

4Gamer:
 そうかもしれません。じゃあ,BakaFiraさんがメカニクスと世界観の整合性にそこまで重きを置く理由って何なんでしょうか。こう言ってはなんですが,海外のヒット作品を見渡しても,そこまで気を使っている作品はそれほど多くないように思えるのですが。

BakaFire氏:
 ゲームの没入感を最高にしたいからでしょうか。メカニクスと世界観の間にギャップがあると,ゲームと自分の間に壁が生まれてしまいます。その壁を取り払うためは,メカニクス先行であっても,世界観はどうしても必要なのです。

4Gamer:
 没入感,ですか。

BakaFire氏:
 ボードゲームの中には,現実世界とはまったく異なる物理法則(ルール)で動いている“ゲーム世界”が存在しているんです。世界観はそのルールに寄り添ったものでなくてはなりません。そうした確固とした世界観の元でルールが運用されたとき,ゲームのプレイは物語を生むようになるんですよ。

4Gamer:
 分かるような気がします。OWACONを遊ばせていただいたときに感じた,なんというか独特なプレイフィールといいますか。ワーカープレイスメントなのに,登場人物それぞれに物語があって……。

終わった世界と紺碧の追憶
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BakaFire氏:
 あれは,僕が「アグリコラ」にハマって「ワーカープレイスメントしか作れない病」を患っていたときの産物でして。だから,やっぱりメカニクス先行型ですね。「ハグル」という謎解きゲームがあるんですが,これをワーカープレイスメントと組み合わせたら面白いんじゃないかと考えたのが発端でした。
 その上で,世界を構成する情報がプレイヤーごとに断片的にしか渡されない状況において,どのような物語なら成立するのかを考えました。その結果生まれたのが,滅んだ世界に生きる人造人間のプレイヤー達が,かつての人間たちの遺した命令を遂行しているという世界観です。

4Gamer:
 国産のワーカープレイスメントって,ちょっと珍しいですよね。「Dominate Grail War」もそうですが,BakaFireさんのタイトルは国産タイトルとしては比較的“重たい”作品が多いように見えます。そこはどうなんでしょうか。

BakaFire氏:
 お答えとしてはちょっと迂遠になるかもしれませんが……「惨劇RoopeR」から「ふるよに」までの期間って,僕自身ヒット作が出ていなくて,いわばスランプだったわけなんですが,そんなときに自分で自分を分析し直してみたんです。本当は,自分は何が好きなんだろうって。

4Gamer:
 「OWACON」もその時期の作品ですね。

BakaFire氏:
 「OWACON」はまさに試行錯誤していたときのもので,例外的にヒットしたほうではあるんですけどね。ともあれ,そのときの分析の結論が「壮大さへの憧れ」だったんです。

4Gamer:
 壮大なゲームが作りたい,ってことですか?

BakaFire氏:
 作るにせよ,遊ぶにせよです。「とんでもないものの入口に立った」という感覚をゲームに求めているんだと。この先に続く壮大な世界の予感と,それを踏みしめていく過程にロマンを感じるといいいますか。なので,それを自覚してからは“大きく,夢を見られるゲーム”を目指してゲーム作りをするようになりました。

4Gamer:
 ゲームとしての“重さ”を気にするのは止めたわけですね。

BakaFire氏:
 もちろん重ければいいってわけではないですが,自分の作りたいモノを作ると重くなるのは確かですね。結果として生まれたのが「ふるよに」で,あれは一度プレイするくらいだと,それほど重くはないですから。ただ,デッキの組み合わせを考え出すと,それこそ考えることが無限にあるというだけで。

4Gamer:
 分かりました。もう一つ,BakaFireさんの主催するBakaFire Partyでは,「PSYLENT PHANTOM」「フラムルルイエ」など,BakaFireさんご自身の作ではないものも扱っていますが,これはどういった狙いがあるのでしょうか。

BakaFire氏:
 ほかのデザイナーの皆さんの素晴らしい作品の中で,僕の好きなエッセンスを持つものを広げていくお手伝いをしたいというのが理由の一つです。ただ,こういうウケの良い理由だけではなくて,仕事として成立させていくための試みという側面もあります。アナログゲームにおいて,デザイナー専業で食べていくなんて,世界全体で見てもほとんど成立していませんから。なのでデザイナーとしてだけでなく,デベロッパ,パブリッシャとしても活動することで,自らの地盤の安定化も図っているわけですね。

4Gamer:
 “食べていける”状況を作りつつ,BakaFireさんの好きなゲームを広めていこう,ということでしょうか。

BakaFire氏:
 はい。土台をしっかり作ったうえで,自分が夢見るものを実現していけたらと思っています。

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ディライトワークスがボードゲーム事業を手がけるワケ


4Gamer:
 BakaFireさんの話が続いたので,ディライトワークスさんからもお話をお聞きしてみたいと思います。すでに色々なところでお話されているかとは思いますが,スマホゲームのメーカーとして知られるディライトワークスが,なぜアナログゲーム事業を手がけるのかという点について,改めてお聞かせいただけますか。

高嶋氏:
 ディライトワークスは,理念として“ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。”という言葉を掲げていまして,その“面白さ”を実現できるゲームなら,プラットフォームやジャンルを問わずに世に届けたいと考えています。
 そんな中で,アナログゲームに注目した理由はその自由度や個性です。アナログゲームはそれぞれゲームのルールからコンポーネントのデザイン,箱の大きさなどに決まりがなく様々です。その個性的な魅力は弊社の理念に通じるところがあると思いました。

4Gamer:
 確かにデジタルゲームより作家性が高く,個性が出やすい気がします。

高嶋氏:
 さらには市場規模も年々拡大傾向にあり,かつファンの皆さんの熱量も高まっている国内のアナログゲーム業界には,大きな可能性を感じています。ゲームの面白さを追求するディライトワークスならば,ボードゲームの底知れない魅力を研究し,実際に自分たちで作り,販売したいと考えたんです。

4Gamer:
 これまでのところ,手応えはいかがですか。

高嶋氏:
 事業としてスタートしたのは2018年秋ですので,まだまだこれからというのが正直なところです。今後もしっかりとアナログゲームをリリースし続けながら,アナログゲーム業界を一緒に盛り上げていけるような存在になれたら,と思っています。

4Gamer:
 「Fate/Grand Order Duel」(以下,FGO Duel)の開発から始まって,「The Last Brave」「CHAINsomnia〜アクマの城と子どもたち〜」,そして今回の「Dominate Grail War」と,着々とタイトルを増やしているように思えるのですが。

高嶋氏:
 「FGO Duel」のパブリッシングはアニプレックス様で,ウチは開発のみなので,自社のボードゲームとしては,「The Last Brave」と「CHAINsomnia〜アクマの城と子どもたち〜」が初になります。様々な方にご協力をいただきながらですが,確かな手ごたえを感じますね。弊社はこれまでデジタルゲームをメインに開発してきたので,アナログゲームの企画・制作から販売までを自社で行うというのは,一つので挑戦でもありました。そこからも大きな知見が得られたと思っています。

4Gamer:
 生々しい話で恐縮ですが,ビジネスとしてはどうなんでしょうか。ぶっちゃけ儲かりますか,これ(笑)。

高嶋氏:
 (苦笑)。そもそもアナログゲームは長く売れ続ける商品なので,「すぐに収益をあげなければ」とは考えていないません。さらに言えば,今は継続的に商品をリリースすることで“アナログゲーム業界でのディライトワークス”を根付かせて,コミュニティを形成することが大切なんじゃないかと思っています。

画像集 No.020のサムネイル画像 / 聖杯戦争の“if”を楽しむボードゲーム「Dominate Grail War」開発者インタビュー。デザイナー・BakaFire氏の考える“世界観とメカニクス”の幸せな関係

4Gamer:
 確かにそうですね。

高嶋氏:
 さらに言えば,ゲームマーケットに出展したことで,お客様に直接製品をお届けできる機会が得られました。この体験がとても大きく,大切にしたいと思っています。私自身も現場にいたのですが,そうするとお客様から「これはどういうゲームですか?」と聞かれるわけです。それを自分の言葉で説明してゲームの楽しみをお伝えするのですが,普段はなかなかそういう機会がなくて。

4Gamer:
 ああデジタルゲームだと,直接プレイヤーと話す機会ってそうそうないですよね。

高嶋氏:
 そうしてお客様とお話しながら刺激を受け,また次の制作に活かせるボードゲーム事業は,ディライトワークスの掲げる理念に合っているんじゃないかと思いました。

4Gamer:
 分かりました。では今回の「Dominate Grail War」についてお尋ねしますが,ディライトワークスのこれまでのボードゲーム作品と比べるとかなり大型,かつ製造においても手間のかかる商品にように思います。そのあたり,いかがでしたか?

高嶋氏:
 大変ではありましたが,やっぱり箱が大きくて,かつ開けたら中身がギッシリ詰まっているボードゲームって,嬉しいじゃないですか。せっかくBakaFireさんがドカンと力強い作品を提案してくれたわけですから,箱やコンポーネントの一つ一つも,それに応えるものにしたいと思いました。結果として,Fateの重厚な世界観に見合うコンポーネントが用意できたのではないかと。

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BakaFire氏:
 箱を開けただけでワクワクできるというのは,わたしが目指している場所でもあるんです。それを体現したかのような製品になっているので,開けるときを楽しみにしていただければと。

4Gamer:
 確かに。実際,ボードゲームって大きな箱を開けてみたら「中身少な!」ってことも普通にありますからね。

BakaFire氏:
 海外では箱が大きいことが好まれる傾向があるんです。住宅も広いので,箱が大きくても気にしないみたいです(笑)。

高嶋氏:
 「Dominate Grail War」は中身もギッシリですので安心してください(笑)。店頭で箱を持ってもらうと分かりますが,1.75kgくらいあって,持つだけでズシッと来る重量感です。こういう版権モノって「ファンなら買い!」みたいなウリ文句が常道ですけど,本作はまさにその言葉がピッタリだと,自信を持って言うことができます。

4Gamer:
 とくにこだわったポイントというと,どこになりますか。

高嶋氏:
 BakaFireさんのラフをベースに,インタフェースや装丁などのデザインは,ディライトワークス側でディレクションさせていただきました。細かな部分がプレイアビリティに直結するので,完成までには何度もスクラップ&ビルドを繰り返しています。

BakaFire氏:
 構成要素を分解して考えてみると,本当に要素が多いゲームでして,かなり苦労されたと思います。プレイアビリティのみならず,いざ製品化しようとすると,どうやって箱に収めるかなど,考えることがたくさんありますから。

高嶋氏:
 ええ。例えばメインボードとプレイヤーボードのサイズは,ボードゲームカフェなどのテーブルからはみ出ないサイズを心がけ,要素をかなり圧縮しました。プレイヤーボードは,原作のステータス画面を意識しつつ,魔力トラックなどの要素を加えています。

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BakaFire氏:
 僕が強く推した部分としては,プレイヤーボード上に山札と捨て札の置き場所を明示することでした。正体隠匿の要素がある都合上,捨て札は裏向きで捨てなくてはならないので,どっちが山札なのか分からなくなってしまう懸念があったので。

高嶋氏:
 加えて役割が異なるカードは,裏面が異なるデザインになってますので,セットアップの手順どおりに遊べば混乱しない作りになっています。なので,ボードゲーム慣れしていない方でも直感的に遊べるかと。

4Gamer:
 (コンポーネントを確認しつつ)本当だ。よく考えられてますね。

高嶋氏:
 実際,社内でのテストプレイでは,ボードゲームへの習熟度のはもちろん,Fateの知識量も含めて,さまざまなタイプの人間に意見を出してもらいました。そういう色んな視点を取り入れた結果が,今のこのデザインというわけです。

4Gamer:
 カードのイラストも,新規のものが多い印象ですね。

高嶋氏:
 サーヴァントとマスターはokojo先生に描き下ろしていただいています。本作ではデッキが武器や宝具に相当しますので,それに合わせてサーヴァントは武器を手にしていない状態で描いていただきました。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 聖杯戦争の“if”を楽しむボードゲーム「Dominate Grail War」開発者インタビュー。デザイナー・BakaFire氏の考える“世界観とメカニクス”の幸せな関係

4Gamer:
 ふむふむ。これ,サーヴァントのタロットは特殊サイズですか?

BakaFire氏:
 実はこれ,「ふるよに」や「PSYLENT PHANTOM」のカードサイズ(62×118mm)と一緒なんです。なので,「ふるよに」用のスリーブがあれば,ぴったりサイズが合うようになっています。これは意識的に合わせたというか,とくに変える理由がなかったからなんですけども。

4Gamer:
 ちなみにディライトワークス側から見て,企画から流通まで含めた今作の作業の中で,一番大変だったのってどのあたりになるでしょうか。

高嶋氏:
 やはりコンポーネントの製造面ですね。カードを1枚作るにしても,サイズや紙質は? といった無数の意思決定があるわけです。我々はまだそのあたりの知見が豊富ではありませんでしたから,アドバイスをいただきながらも,ゼロからコンポーネントを作り上げていくのは大変な作業でした。
 加えて流通面も苦労しました。アナログゲーム業界に参入して間もない弊社が,問屋や小売店の信頼を得て,売り場を確保してもらう必要がありますから。そうした部分は,“とくに”と言えるかもしれません。

4Gamer:
 流通面は,とくに足を使う仕事ですね。

高嶋氏:
 まさにそれです。アナログゲーム事業に関しては営業チームが明確に存在するわけではないので,制作チームの皆で頑張りました。ただ苦労した点ではありますが,同時にアナログゲームのロマン的な部分でもあったので,ある意味楽しかったですけど(笑)。

4Gamer:
 これ,生産は国内ですか? あと流通や製造を外部に委託することもできたんじゃないかと思いますが,そこは何かこだわりがあったのでしょうか。

高嶋氏:
 初期ロットは国内工場で製造していて,パーツを別々の工場で作ってアセンブリしています。流通や製造を外部に委託しなかったのは,そうした知見を蓄積するためでもありますが,単純にプレイヤーの皆さんの手元まで,我々の手でしっかりと作品を届けたい,という想いが強かったからですね。

4Gamer:
 それは,ロマン的な意味で?

高嶋氏:
 それもありますが,デジタルゲームだと単純に開発の規模が大きくなるため,制作に携わっているスタッフも,担当の業務以外,全体像を見て把握することが難しいんです。
 その点アナログゲームは,企画から販売まで,自分の作ったゲームをゼロからゴールまで全員が見届けることができる。それは関わったクリエイターをはじめとしたスタッフにとって,純粋に思い出としても,そしてゲーム制作の全体像を知るという意味でも,かけがえのない経験になると思うんです。

4Gamer:
 そうか……そうですね。分かる気がします。そういえば,4Gamerでも何度か記事として取上げていますが,社内にボードゲームカフェがあるんですよね。

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 ディライトワークスは2018年3月28日,同社オフィス内に新設されたボードゲームカフェのプレス向け説明会を開催した。この説明会には,同社でクリエイティブオフィサーを務める塩川洋介氏と,JELLY JELLY CAFEのオーナーである白坂 翔氏が登壇し,本カフェの概要や設置の狙いなどを語った。

[2018/03/29 15:32]

高嶋氏:
 はい。ボードゲームカフェについては,スタッフがさまざまなアナログゲームに触れる機会を増やすことで得られるクリエイティビティの向上に期待したものです。極めて自由な発想によって作られているアナログゲームを遊ぶことで,デジタルゲームも含めたスタッフ達のアウトプットにプラスの影響があると考え,設置しました。

4Gamer:
 ちょっと「Dominate Grail War」そのものからは脱線するかもしれませんが,デジタルゲームの制作において,アナログゲームのデザイン手法というのは参考になるんですか。その逆もしかりなのですが。

高嶋氏:
 両方を知ることによって,どちらにも良い影響を及ぼすと私は考えています。とくにスマホゲームの場合,“画面上でできること”という前提があるため,いわゆるシステムの“型”がある程度決まってきています。その点アナログはコンポーネントからして自由度が高いので,枠にとらわれない発想が可能です。その発想の自由さをアナログゲームから学び,そのほかのゲーム制作にも活かせたらと思っています。
 逆にデジタルの方にも,アナログゲームにまだ持ち込まれていない発想やシステムが存在している可能性があります。それをうまくアナログゲームの形に翻訳できれば,面白い物が生まれるのではないかとも考えています。

4Gamer:
 じゃあ,今後のディライトワークスのマルチプラットフォーム展開に,ボードゲームが入ってくる日もそう遠くない?

高嶋氏:
 そう……なったらいいですねえ(笑)。今後の展開は何とも言えませんが,ディライトワークスはこれからもボードゲーム事業に真剣に取り組んでいく予定です!

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4Gamer:
 期待しています(笑)。BakaFireさんにも聞いてみたいんですが,本作の制作において,とくに苦労したところというと,どのあたりですか?

BakaFire氏:
 その手の話はし出すとキリがないですけど(笑)。ただディライトワークスさんとのやり取りの中で言うなら……アサシンの「燕返し」が大変でしたね。

高嶋氏:
 あれは……大変でした(苦笑)。

4Gamer:
 というと?

BakaFire氏:
 先の経緯から,キャスターとアサシンを別の陣営として分けることになったんですが,となると宝具デッキもそれぞれ単体で用意しなくてはなりません。同じように,ギルガメッシュと真アサシンもそれぞれ用意する形にしたんですが,中でもアサシンはとくに厄介でした。なにしろ,彼の宝具(に相当するスキル)は「燕返し」の一つだけなので……。

4Gamer:
 なるほど。切り札である宝具デッキが,まったく同じカード3枚というのも寂しい話です。

BakaFire氏:
 一応,バーサーカーは「12の試練(ゴッドハンド)」が3枚の構成なので,それ自体がダメというわけではないんです。しかし,こちらの場合は12個の命を持つというイメージを表現しているので,同じカードを3枚入れる理由がちゃんとある。カード1枚が3個分の命に相当していて,本体の3個分と合わせて12個ですから。だけど「燕返し」を3枚並べることには……なんの必然性もなかった。

高嶋氏:
 結果として,一つの「燕返し」を分割して表現することになったんですよね

4Gamer:
 分割ですか?

BakaFire氏:
 はい。「燕返し」は3つの太刀から構成されているので,それを「一の太刀」「二の太刀」「三の太刀」という個別のカードに分けたんです。アサシンは,持っている剣自体が宝具というわけではないので,それぞれのカードを個別に使用しただけでは真名が開放されません。3つまとめて使用したときのみ“燕返し”という宝具になるんです。

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高嶋氏:
 制作途中では,クラス特性に関わるスキルを2枚入れて,「燕返し」は1枚に収めるという案もありました。しかし,やっぱりアサシンの宝具といえば「燕返し」じゃないですか。

BakaFire氏:
 アサシンは剣士としても強力なサーヴァントですから。なので様々な案を出して試行錯誤を繰り返したため,TYPE-MOONさんとはディライトワークスさんを通じてかなりやりとりさせていただき,ご迷惑をおかけしました。

高嶋氏:
 開発スタッフと夜遅くに電話したりとか,ありましたね(苦笑)。こちらこそ,その節はありがとうございました。

4Gamer:
 (カードを見ながら)ははあ,なるほど。それぞれの太刀を単体で使って真名を隠したままにもできるし,3枚同時に使えば宝具にもなると。面白いですね。……あれ,アサシンと真アサシンがそれぞれ単独ということは,7騎のサーヴァントの中にアサシンが2騎ということもあり得るわけですか。

BakaFire氏:
 あり得ます。同様にアーチャーが2騎もありえます。そこは冒頭でお話しした“if”の物語を重視した結果ですね。まあアサシンが山門から動かないわけにもいきませんし。

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4Gamer:
 あ,そうだ。“if”の物語なのだとしたら慎二と桜を分けるのではなく,バゼットを入れる手もあったのでは? いちおう彼女も第五次聖杯戦争の関係者なわけですし。

BakaFire氏:
 ええ,お気持ちはよーく分かります。でも今回は,あくまでSNのボードゲームなので。「Fate/hollow ataraxia」の登場人物であるバゼットは入れませんでした。

4Gamer:
 むむ……お話を聞いていると,これすぐにでも拡張セットが作れちゃいそうな気がしますね。安直ですけど,第四次聖杯戦争のサーヴァントを入れたらどうなるだろうとか,無限に妄想が広がっていきそうです。まだ具体的にお話いただける時期ではないとは思いますが,現状で何かしら教えてもらえることってあるでしょうか。

BakaFire氏:
 ……僕個人としての回答としては,先にお話した“Fateの素晴らしいところリスト”の中に,“拡張性”というのがありまして,当然ながら「Dominate Grail War」も拡張できるように作っています。

高嶋氏:
 BakaFireさんのおっしゃるとおり,物語や世界観が大きく広がっていくのがFateの魅力であり,プレイヤーの皆さんが当然期待されることだというのは,我々も良く分かっているつもりです!

4Gamer:
 お二人のその言葉だけで,読者には十分伝わるかと思います(笑)。インタビューの締めに,何かメッセージをいただけますか。あるいは,何か言い残したことでもいいのですが。

高嶋氏:
 BakaFireさんはいろいろありそうなので,まずは私から。ディライトワークスはアナログゲームにも真摯に向き合って,プロダクトを作り上げていきます。著名なデザイナーさんとのコラボはもちろん,自社オリジナルのタイトルも今後継続してリリースしていきたいと考えていますので,ぜひご期待ください。

BakaFire氏:
 何はともあれ,まずは「Dominate Grail War」をよろしくお願いします。僕としてはうまくいくことを祈るばかりですが,今後の展開は買ってくれる皆さんにかかっておりますので,どうかよろしくお願いします。
 それから「ふるよに」については,デジタル版が9月にリリースされますし,KADOKAWAさんからは書籍が発売されるなど,今後もマルチな展開が予定されていますのでお楽しみに。あと「惨劇RoopeR」は,来年の2月頃に舞台化が予定されています。次回のゲームマーケットあたりから動きがあると思いますので,こちらもご注目いただきたいですね。

4Gamer:
 BakaFireさんの次回作については,何かお話いただけることはありますか?

BakaFire氏:
 ……いま考えているのはですね,「『ふるよに』は“眼前構築”の活用方の一つでしかない」ということでして。あの仕組みには,まだ先があるんじゃないかと思っているので,いつかお届けする新作では,それをお目にかけたいと思っています。
 あ,あと先ほど話題に登った「OWACON」ですが,あれもそのうちリメイクしたいです。ずっと品切れ状態なので!

4Gamer:
 盛りだくさんでしたね。お二人とも,本日はありがとうございました。

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「Dominate Grail War -Fate/stay night on Board Game-」公式サイト


 
  • 関連タイトル:

    Dominate Grail War -Fate/stay night on Board Game-

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