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おなじみのコーヒーマシンの作動音を聞いた瞬間,ああ,またあのカウンターの向こう側に戻ってきたんだな,と実感が湧いた。
目の前にいるのは,以前シアトルでも見かけたヘンドリー。ほら,あの猫又の子・レイチェルの父親の……と,ついシリーズ経験者にしか分からない話から入ってしまったが,まさか東京でも彼と再会するとは思わなかったし,その変わらない佇まいにこちらの頬も緩んでしまう。
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2026年5月21日にコーラス・ワールドワイドからリリースされた「コーヒートーク トーキョー」(PC / Switch2 / PS5 / Xbox Series X|S / Switch / Xbox One)は,国内外で多くのファンを生んだ人気アドベンチャー「コーヒートーク」シリーズのスピンオフ作品だ。
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前2作のデベロッパはインドネシアのToge Productionsだったが,本作は,これまでパブリッシャとしてシリーズを支えてきたコーラス・ワールドワイドが中心となって開発している。Toge Productionsは監修・サポートという形で関わっている。
[インタビュー]「コーヒートーク トーキョー」はなぜ別会社が作ったか。Toge ProductionsのCEOが語るインディースピリット[BitSummit]
カフェで客の話に耳を傾けながらコーヒーを淹れる――多くのプレイヤーの心をつかんだ「コーヒートーク」シリーズ最新作が5月21日に発売された。開発したのは生みの親Toge Productionsではなく,日本の別スタジオ。その意図はなんだったのだろうか。
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ネオン輝く東京の「真夏の夜の夢」。人も,そうでない者も集まる“かの店”にて,ローファイでチルなBGMに浸りつつ,お客にとっての最高の一杯を探していく。それはシリーズが自分の中に思いのほか深く残っていたことを,気づかせてくれた体験だった──。本稿では,そんな本作のプレイフィールを,ネタバレに配慮しつつお伝えしたい。
ついに店員を雇ったカフェ。そしてひとクセある常連客たち
本作の舞台は,オルタナティヴな2026年の東京。人と妖怪,そして神の末裔たちが共存して暮らす,どこかファンタジックで,それでいて多人種・多宗教のメタファーとも受け取れる世界だ。
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本作を遊んでまず新鮮に感じたのは,シリーズで初めて,自分以外の店員(バリスタ助手)がいることだ。一緒に接客を手伝ってくれるヴィンは,かつての事故の影響で記憶が曖昧で,きゃしゃな体とは不釣り合いなサイバネティックアーム(義手)を使っている。
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どうやら幻肢痛(失った部位がまだあるかのように痛み続ける症状)に苦しんでいるようで,スタッフとしては少々頼りないのだが……そんなヴィンの抱える苦悩も物語に深く関わってくる。
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店に集まってくる常連客たちは,相変わらずひとクセもふたクセもある面々だ。以下で紹介しよう。
・ジュンとブルー
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ミュージシャンのジュン(右側)と,その熱心なファンであるブルー。ジュンは最近スランプ気味で,受けたオファーにも積極的になれないでいる。
・アヤメとフク
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死後の世界に逝ききれない幽霊のアヤメ(左側)。そんな彼女を彼岸へと送ろうと奮闘するマレビト(福の神や貧乏神の総称)のフク。互いに歯に衣着せぬ物言いだが,意外と相性は悪くない。
・ケンジとマコト
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電力会社を定年退職したカッパのケンジ(左側)。その元部下であるマコトは誰に対してもフラットな青年。のっぺらぼうだけに。
・アッシュ,エミ,エリカ
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イギリス生まれのピクシー・アッシュと,日本人のエミの夫妻。そしてその娘のエリカ。エリカにはなぜか狐耳が生えているが,エミにもなんらかの血が流れているのかもしれない。
・ユキ
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割烹のような料理店を営んでいる雪女のユキ。言葉数は少ないが,優しさや心遣いが温かい。
本作では,彼らが「店に来る以前からの関係性」と,このカフェを介して「新しく生まれる関係性」が,ゆったりしたテンポで描かれていく。
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飲み物を淹れるだけがバリスタの仕事ではない
彼らのリクエストを聞き,ときには曖昧なイメージを具現化させていく。それが本作におけるバリスタの仕事だ。適切な材料を組み合わせれば,あとはコーヒーマシンがうまくやってくれる。
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本作では,酷暑の東京をしのぐ「冷たいドリンク」が作れるようになったほか,ステンシル(型)を使ったラテアートも可能になった。一方で,「2」にあった忘れ物のシステムはオミットされている。そのため,遊びの手触りは初代にかなり近いものとなった。
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営業を続けていくうちに,「この人は本当にほうじ茶が好きだな」「今日もしょうが入りのドリンクか」など,客の好みが見えてくる瞬間がある。そこを把握しておくと,不意に変化球を求められたときも,外しすぎずに対応できるわけだ。
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それは,シリーズの変化ともどこか似ている。初代で築かれた味わいを土台に「2」で新たな広がりを見せ,そして「トーキョー」はもう一度,核となる味へと立ち返る。“常連客”の好みにそっと寄り添うように,このシリーズ自体が姿を変えてきたわけだ。
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また,会話の最中に意外と重要になってくるのが,プレイヤーの視線の置きどころだ。基本的には,今話している相手の話に集中すべきなのだが,その場に居合わせた「別の相手」のことも目の端でそっと追ってみてほしい。彼らが浮かべた表情や,わずかな仕草から,話題への「言外の反応」が伝わってくる瞬間がある。
バリスタとは記憶力と観察力の商売――これは筆者が適当にでっち上げた格言だが,まさにそんな言葉がしっくりくる。
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なお,作中の会話は,テキストの表示速度が非常に速いものや,一瞬しか表示されないセリフなどもある。現実の会話でもそうだが,人間はその場に出た話をすべて把握できるわけではないし,聞き取り損ねることもある。演出として,そうした「コミュニケーションの不完全さ」を意識しているのだろう。
ただ,いつでもバックログで確認することはできるので,気になったときは遠慮なく使ってしまおう。そこはゲームだけの特権といえるかもしれない。
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そして「そういえばあの話,その後どうなったんだろう?」と気になったトピックの結末は,ゲーム内SNS「トモダチル」のポストやコメント,ハッシュタグの追跡によって明らかになる場合もある。
これはストーリー進行上はスルーしても問題ないが,伏線回収やキャラクターたちのプライベートな一面にも触れられるので,目を通しておいて損はない。
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ゲームのボリュームとしては,飲み物作りにどう取り組むか,テキストを読む速さによっても変わってくるが,1周クリアするのにかかる時間は,6〜8時間ほど。一晩で終わらせようとすると少し無理があるので,週末を使って一気に遊ぶか,あるいは毎晩少しずつ遊ぶのがよさそうだ。
シアトルの風が吹く東京で,ふと思い出した過去の東京
タイトルに「トーキョー」と冠されていることから,筆者はプレイ前,本作が描く「東京の空気感」に期待していた。だが実際に遊んでみると,どこか「海外から眺めた東京」に留まっていた印象だ。
キャラクターデザインや話すテーマが日本風になっただけで,メンタリティや人物同士の距離感は,やはりシアトル的というか,あるいはToge Productionsが拠点を置くインドネシアのカフェ文化がベースにあるように思える。
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初代「コーヒートーク」の雰囲気を,舞台を変えつつも大切に守っている意味では嬉しいポイントでもある。「これこれ!」とお馴染みの世界に飛び込んでいける安心感は,「孤独のグルメ」などのお約束を期待するドラマをつい観続けてしまうような,なんというか,自由で,救われている感覚に近い。
2022年に,シリーズの中心的なクリエイターだったモハメド・ファーミ氏が急逝していることも踏まえると,これはこれで誠意ある作品作りだとも思える。だが,しっかり日本らしい日本を描いた作品が世界的に大ヒットしている,2026年5月のタイミングでプレイすると,もう1歩2歩,日本らしさに踏み込んでもよかったように感じる。
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ただ本作をプレイしていると,筆者自身のさまざまな思い出が蘇ってきた感覚があった。
少し昔話になるが,かつて筆者が高円寺あたりで飲んでいたとき,先に酔いつぶれた先輩をタクシーに押し込んで,お店に戻ってカウンターで飲み直していたことがあった。そこで,2つ離れた席にいたプロデューサー風の人が「大変だったね。何やってる方?」と声をかけてくれ,そこからとりとめもなく話が続いた経験があった。
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また,お世話になっている編集者と神保町界隈のバーに行ったとき,彼の知り合いがたまたまいたことがあった。その方はがんで声帯を失っていたのだが,言葉にせずとも再会をとても喜んでいる様子が胸に染みたことも思い出した。
SNSが普及する以前の日本の都市部には,こうしたパブリックな交流の文化が確かに,もっと強く息づいていたのだと思う。人はいつの時代も,本質的に孤独であり,他者を求めるものだ。
そうした時代を肌で知り尽くしている,筆者よりひと回り上の世代が本作を手に取る機会は,現実的にはそう多くないのかもしれない。だが,もし彼らがこのゲームを遊んだら,きっと言葉にならない「懐かしさ」を覚えるような気がしている。
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そんなコミュニケーションの横には,決まって店主の料理や,名前が書かれたキープボトルがあった。本作においてその役割を果たすのが,プレイヤーが淹れる一杯の飲み物なのだ。
もちろん,そんな話は別世界のように思える人だとしても,純粋にバリスタになってみたかったり,カウンターの向こうの会話に耳を傾けてみたかったりするなら,遊ぶきっかけとしては十分。あなたにとって「コーヒートーク トーキョー」は,贅沢な一杯となってくれるはずだ。
さて,書き終えたので,コーヒーでも淹れようか。
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