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少年と大鷲の絆が,コントローラを通して感じられる。「人喰いの大鷲トリコ」をレビュー
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印刷2016/12/21 00:00

レビュー

少年と大鷲の絆が,コントローラを通して感じられる。「人喰いの大鷲トリコ」をレビュー

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアは,PlayStation 4専用タイトル「人喰いの大鷲トリコ」を,2016年12月6日に発売した。
 ゲームクリエイター上田文人氏が手掛ける,「ICO」「ワンダと巨像」に続く作品として,E3 2009にて電撃的に発表され,幾度かの発売延期や対応ハードウェアの移行などを経て,ついに7年越しの発売となったわけだ。果たして,待ちに待った“上田氏が創りあげたトリコの世界”は,どのようなものになっているのか。レビューをお届けしよう。

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 筆者が本作の映像を最初に見たのは,まさに本作が初めて世に出された前述のE3 2009現地でのことだった。SCE(当時)のカンファレンスでは,PSP goが初公開され,PlayStationプラットフォームそれぞれに供給される大作が発表される中で,上田氏の名前とともに,本作の北米タイトル「The Last Guardian」がPlayStation 3タイトルとして発表されたのだ。その模様は4Gamerでももちろんレポートしていて,客席からの歓声の大きさを伝えている。当日は筆者も客席でその様子を見ていて,スクリーンの映像をカメラで押さえていたのだが,4分程度の映像のみの披露だったにもかかわらず,当日発表された作品の中で一番シャッターを切った映像だということが,E3 2009の写真フォルダを見直して確認できた。
 その写真や当時公開された映像を見てみると,本作の主役となる大鷲「トリコ」の色味が若干白っぽいものの,緑が混じる遺跡のような場所をもう1人の主役となる少年と旅をしていたり,ゲーム中でも印象的なトリコがタルを食べるシーンなどがあったりと,基本的な概念はこの頃すでに決まっていたように思える。
 正直なところ,あれから7年も経過していることがあまり信じられないのだが,ともかく「人喰いの大鷲トリコ」は,この2016年についに発売を迎えたわけである。

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少年とともに旅をする,「トリコ」という生物


 本作は,トリコと少年がとあるできごとによって相棒のような関係となり,互いの長所を生かして助け合いながら,見知らぬ遺跡から脱出するための旅を進めていくことになる。プレイヤーが操作するのは少年であり,ゲーム中にはトリコを直接操作するようなシーンは存在しない。一応,物語の途中で少年がアクションをトリコに指示できるようになるが,どの程度実践してくれるかは,基本的にはすべてトリコ任せとなる。プレイヤーが操作することができないトリコの動きやその特徴を知ることこそが,ゲームの攻略に直結しているのだ。

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 ではそんなトリコとは,一体どのような生物なのだろうか。
 ゲーム中の少年の身長と比較すると,体高は5〜6m,体長は少なく見積もっても10m近くあるように見える,かなり大きな生物だ。「大鷲」という別名が表す特徴は,全身の羽毛と爪のある太い脚。実物の鷲を象徴するクチバシはなく,鳥とは違って四肢があり,猫のように長く伸びる体と長い尻尾,犬のような耳と顔,そして青く光るツノと体の割に小さな翼を持つ。伝説の獣グリフォンに似た特徴を持っているが,ゲームのオープニングに出てくる絵では,グリフォンとはまた別の存在として描かれていて,「トリコ」という名前がその種を表すものだということも分かる。

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 ゲーム中の少年のセリフに「翼が折れてて」というものがあり,普段はその翼を使って飛行することはできない。ただ,巨体の割に身が軽く,驚異的な跳躍力を備えていて,かなりの高低差がある場所への上り下りも容易に行う。さらに狭いところに体を潜り込ませる柔軟さもあり,トリコが移動できる場所を探すのも,旅を進めるための重要な要素となっている。

 タイトルにある「人喰い」という肩書きは,少年の住む村の伝承のようで,実際は,この地にときおり落ちているタルを好んで食べる(タル自体は残していて,食べているのはその中身の模様)。とくに激しく動いた後はタルを与えないと動けなくなってしまい,このとき少年は遺跡のどこかに落ちているタルを探しに行く必要がある。

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 涙の筋のような顔の模様から,心なしか悲しそうな表情に見えるが,その感情が表情ではなく光る瞳に表れるのも特徴だ。普段は黒い瞳が,食欲があるときや恐怖したとき,好戦的になったときなどに光るため,その色によってトリコの感情を判断できるようになっている。

 遺跡にときおり現れ,少年をさらっていこうとする「鎧」に対しては激しい敵意を示し,全員を排除するまで暴れ回り,少年がなだめてやらないと収まらない興奮状態になる。その一方で,各所に設置された目玉模様のステンドグラスには動けなくなってしまうほど恐怖するという弱点も。このときは,少年が目玉模様を壊すなどして対処しないと,トリコは先に進んでくれない。

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 こうしたトリコの特徴は,ゲーム中の少年のセリフやナレーション(この物語を過去の出来事として語る,成長した少年らしき声)などで一部は判明するものの,それ以外はプレイヤーが少年を操作しながら掴んでいくことになる。トリコはゲームの中で,完全に独立したキャラクターとして存在していて,その動きは実在する生物のように,現実味にあふれている。普段のトリコは,一瞬たりとも静止していることはなく,パターン的な動きを連続して繰り返すようなこともない。本作のトロフィーの一つに「トリコが用を足している姿を目撃した」というものもあり,プレイヤーに見えないところでも何かしらの動きをしているというこだわりようだ。単純にその動きだけを抽出した生物シミュレーションが成立しそうなほどで,おそらく,実際にそのようなプログラムが内部で動いているのだろう。プレイ中は,ぜひトリコの挙動の1つ1つに注目してほしい。

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 いわゆる「人と獣とのバディもの」がテーマのゲームというと,単純に両者をプレイヤーキャラクターとして交互に操作して進める仕組みだったり,極端な例では従順な獣キャラクターが人の命令を聞くだけの単なるアイテム扱いだったりすることもあるわけだが,本作のトリコは言葉が通じない獣の相棒として,非常に純粋かつ神秘的な存在だ。
 前述のとおり,トリコはある程度少年の指示を聞くようになるが,基本的には自らの意志に任せた行動を取る。少年のようには自在に操作できないし,指示とは違ったほうへ行ってしまうようなこともしばしば。プレイ中にもどかしさを感じることも少なくない。
 しかし,ともに旅を続けていくことで,その性質や特徴を少しずつ理解し,自分は一体何をすればトリコを導けるのか,あるいはトリコをどう導けば自分が行くべき道が切り開けるのかを考えつつ,多少間違った行動をしたとしても,可愛い相棒として許容するぐらいの気持ちで接するのが,本作の正しいプレイスタイルのように思えた。一息付けるような場所までたどり着いたら,トリコと心ゆくまでふれ合ってみるのもいいかもしれない。

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トリコとともに挑む,謎の巨大遺跡


 少年とトリコが旅するのは,朽ち果ててその一部を緑が覆っている遺跡のような場所だ。オープニングで少年が目覚める場所は地上のように見えるが,ゲームを進めていくと意識していないうちにどんどん高いところに上がっていることに気付くはず。中盤前後からは目もくらむような高さの連続で,高所恐怖症の人はもしかすると辛く感じるかもしれない。ただ実際にプレイをしてみると,操作ミスをして落下してしまうことは少ない仕様で,狭い足場などを渡るときなども簡単には落ちないようになっている。

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 遺跡は一見無造作に作られているように見えるが,移動してみると巧妙な迷路のような構造になっていることに気付くはず。少年が登ったりぶら下がったりして移動できるポイントは,周囲を観察すればなんとなく分かるので,とにかく動き回ってそれらしい場所を探していくことで,自ずと進めるはずだ。ただし複雑な遺跡の構造に加えて,スイッチと連動した機械的な仕掛けや,光って作動する不思議な仕掛けなどもあり,これらを複合したギミックはパズルのようになっていて,とくに中盤から先は頭をひねる必要があるだろう。筆者もゲーム中で数か所かなり悩んだところがあり,そこは「ひらめき」を要するところで,一旦ゲームを止めてしばらく経ってから再開することで突破することができたわけだが,そういう謎解きもいくつか存在していた。

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 これまで述べたように,この遺跡の旅は,少年とトリコが協力しなければ成立しない。少年は小さな体を利用して,穴や壁の隙間,狭い足場などを通ってギミックのスイッチを作動させるといった行動が可能だ。トリコの体高程度の高さから飛び降りても平気で,それより高いところから落ちたときはしばらく足を引きずる動作を見せつつも,その後は元気に走り出すというタフさも持ち合わせている。また泳ぎも得意だ。

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 一方のトリコはその体の大きさだけでも,少年が高所に登るための足場となってくれる。そこに脅威の跳躍力を加えれば,高所に飛んだり,少年を乗せて一緒に移動することもできる。また少年を襲う鎧に対しては絶対的な強さを持ち,バラバラにするまで破壊する頼もしさを発揮するが,このときは興奮しすぎてしまうため,体をなでてなだめてやることも必要だ。

 ゲームの進行上,遺跡は少年とトリコの体躯や動作に合わせて作られているのだが,不自然さをあまり感じさせないレベルデザインの妙も本作の見どころと言えるだろう。しかも毎回違ったギミックがあるわけでもないのに,組み合わせや演出によって最後まで飽きさせない作りになっているのにも感心させられたところだ。
 こんなものを一体誰が何のためにどうやって作ったのかという,常識的な疑問は出てくるわけだが,トリコがいる世界の建造物なので,そこを深く追求する必要はなく,物語を進めていけば,この遺跡の正体が分かることもあるかもしれない。
 個人的には,ゲーム中に見上げたり見下ろしたりするばかりだったので,この遺跡全体を見渡せるビューワーか,立体模型のようなものを,クリア後に見たかったところだ。

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全てのシーンをドラマチックに見せるための演出とカメラワーク


 本作をプレイしていて感じたのは,画面の「見せ方」にかなり力を入れているということだ。
 とくにカメラワークが独特で,一般的なTPSのようにカッチリ決まるものではなく,少年やトリコ,あるいはその場所にあるギミックがフレームに入るように調整しつつ動くという,ゆったりとした手触りとなっている。シーンによっては引いたり寄ったり角度が変わったりもする,クセのある仕様だ。
 そのため,非常に画面の見栄えが良く,本稿で使用しているスクリーンショットの撮影でも,多大な恩恵を受けられた。とにかくどんなシーンでも“良い画”が撮れるので,撮影が心地よく,気付けばその枚数は1000枚を超えていたのだ。

 一方で,これがゲームプレイに関わるとなると,多少なりとも苦労させられることもあった。とくに遺跡の狭い場所で少年がトリコの胴体あたりにしがみついているとき,やむを得ずカメラがトリコの中を通り過ぎる状態になると,その間画面がブラックアウトするという演出があり,そこにストレスを感じた人は多かったはず。見せることに重きを置いた本作において「トリコの体が変に透けて見えてしまうよりは……」という判断だということも理解できるので,悩ましいところなのかもしれないが。

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 そんな見せるカメラワークのもと,画面に映し出されるグラフィックスもまた,独自のテイストを出している。トリコの体毛や羽毛などに見られる生物感や背景となる遺跡は写実的なのに,少年だけはアニメのキャラクターのように陰影が抑えられ描写されている。それでも,色味などを合わせてあるからか,不思議とアニメ的に表現された少年の存在が背景に浮いて見えるようなことはなく,最後まで違和感なくゲームをプレイできた。

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少年とトリコの,純真無垢な物語を一気に味わえる喜び


 ゲームは終始,少年とトリコの脱出劇を描いていて,そこには一点の曇りもない。それゆえ,寄り道的な要素はゲーム中のタル探しと,あとはトリコの観察ぐらいしか見当たらず,行き詰まってしまったときに,何かヒントを探したり,別の目的のことをして遊んだりするようなことは基本的にできないため,そこでゲームをあきらめてしまう人もいるだろう。
 しかし過去に上田氏が手掛けた作品のゲームデザインを考えれば,その内容はある程度予測できたものであり,筆者もそこをマイナス要素として捉えるつもりはないし,それが許容できないという人は,別のゲームを探したほうが賢明かもしれない。

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 本作における最大の魅力は,トリコを完全に独立した,実在感のある生き物として描くことにより,ゲームを進めるなかで,コントローラを通してトリコとの「絆」のようなものが感じられるということ。一緒に旅を続けて,クライマックスを迎えられたときの嬉しさは,格別なものだった。クリア後に2周目をプレイするときは,トリコに最初に会ったときの意識もずいぶん変わるのではないかと思う。
 設定もストーリーもゲームデザインも,すべてにおいて純真無垢。余計なことを考えることなく,トリコと少年が紡ぐ壮大な物語を,素直な気持ちで楽しんでみてほしい。

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