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クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた
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印刷2014/09/24 00:00

インタビュー

クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた

日本のゲーム業界を活性化する最良の手段は,若手クリエイターの育成


4Gamer:
 先ほど,クラウドファンディングでの出資者を教育するアイデアがあるという話がありましたが,それとは別に,稲船さんが若手クリエイターを支援するプロジェクトに参加されると聞きました。

画像集#010のサムネイル/クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた
稲船氏:
 はい。シンガポールのInflexion Point Capital(IPC)という企業と組んで,アイデアはあるのにお金がないという人のスタートアップをサポートします。僕はアドバイザーとなって,投資に値するアイデアを推薦する立場です。
 IPCでは,とくに「このゲームで起業する」という日本の人達を支援したいと言っています。あまり大きな金額ではないのですが,それでも数千万円の投資をする予定で,2014年内にいくつか企画をスタートしたいと考えています。

4Gamer:
 どういった経緯でこのプロジェクトに参加することになったのでしょうか。

稲船氏:
 「Mighty No.9」を発表してから,たくさんのインディーゲームクリエイターと知り合えたんですが,大企業にいたら会えなかっただろうと思うような面白い人達がゴロゴロいるんですよ。技術力も,お金も,人材もないけれど,思いだけは誰よりも強くて,磨けば光るような人達が。そういう人達を支援したいと考えたことがきっかけですね。

4Gamer:
 もう,候補の企画は決まっているんですか。

稲船氏:
 ええ,いくつかは目星を付けています。
 また今後は,いい企画を発掘できるような体制を整えたいですね。今は僕のほうから声を掛けている状態なんですが,今後は企画の持ち込みをしてもらいたいと思っています。「いい企画ができたから,金を出してくれ」みたいな人が集まってくるような。

4Gamer:
 稲船さんが,「この企画はイケる」と感じるポイントはどこでしょう。

稲船氏:
 一番は,その人の「こうしたい」という気持ちが,直接ゲームに入っていることですね。と言うのも,最近は「こういうゲームがはやっているから」と,小手先の企画を出す人が多いんですよ。

4Gamer:
 「パズドラ」が売れているから,それをアレンジして……みたいな感じですか。

稲船氏:
 なぜそうなるかというのも分かるんです。たとえば専門学校の先生によっては,既存のヒットゲームをベースにした方が合格点をもらいやすい。
 そしてそれは,学校だけに限りません。僕らだって,ゲームの企画を持ち込んだときは,必ず「どんなタイプのゲームですか?」と聞かれます。

4Gamer:
 うーん……。すでにあるものの亜流が前提になっているんですか。

稲船氏:
 ええ。判断する側の創造力が欠けているからそういう事態が起こるわけですが,どういうタイプなのか分類できる企画にヒットはありません。僕が見るのはそこで,「同じタイプはないです」というゲームを求めています。そういった,一見理解できないようなゲームのほうが,理解できたときに「あ,これイケるかも」となるんですよ。

4Gamer:
 「ゲーム開発者は,ゲーム以外のことに触れた方がいい」という人もいますけれど,同じ意味でしょうか。

稲船氏:
 ゲームばかりやっている人は,ゲームから発想を得ようとしますから,新しさは出しにくいですね。ゲームをやっていない人のほうが,「何だそりゃ」というアイデアを出してきます。
 たまに「ソーシャルゲームは全部チェックしていますから,新しいアイデアを出すのは大丈夫です」と言う人もいますが,それって大丈夫じゃない(笑)。逆に,ほとんどやっていないけど,すぐに理解できる人は大したもんです。ヒット作のチュートリアルだけやって,「見切った!」と言えるような人がいたら,本当にすごいですね。

4Gamer:
 稲船さんは,「稲船塾」も開講していますし,後続の支援や教育に非常に熱心ですよね。

稲船氏:
 これはいろんなところで言っていますが,僕は2015年で50歳です。KONAMIの小島秀夫監督はもう50代,任天堂の宮本さんは60代です。なのに20代から40代前半ぐらいの,世界で評価される日本人クリエイターの名前はなかなか挙がってきません。言ってみれば,世界で活躍している日本のゲームクリエイターはベテランばかりなんです。

4Gamer:
 若手と言われると,確かにパッと名前が出てくる人は少ないかもしれません。「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」の吉田直樹さんなんかは,その一人ですね。

稲船氏:
 僕としては痛し痒しなんですが,日本のゲーム業界がダメな一因はベテランがのさばっていることにあるんです。たとえゲームのことがよく分からなかったり,ゲーム業界の経験が浅かったりしても「こういうものを作りたい」という思いを持った若い人達が出てくれば,日本のゲーム業界を再構築できると思っています。

4Gamer:
 ベテランのみなさんにも頑張ってもらいたいですが,やはり新しい人達が出てこないと,どうしても業界が硬直してきますよね。

稲船氏:
 そういった若手に大きな可能性を与えるのが,クラウドファンディングです。僕だって若いときは数千万円くらいの予算でゲームを作っていました。人もいないから,スケジュールに間に合わせるためには会社に泊まって作業するしかないわけです。おそらく,クラウドファンディングで資金を集めている人達も,同じような感じでゲームを作ることでしょう。そういったように,若手がゲーム作りの原点を体験し,ゆくゆくはゲーム業界を変えられるよう,ジジイとしてサポートしていこうと,僕自身はいろいろ取り組んでいるわけです。

4Gamer:
 その一環がIPCとの取り組みというわけですね。

稲船氏:
 もっと言えば,稲船塾もそうですし,大学や専門学校に行って年間数十回講演することもそうです。なぜそんなことをするかと言えば,ベテランが今の日本のゲーム業界を活性化する一番の手段は,若手を育成することだと思っているからです。今のゲーム業界で,いきなり大規模なプロジェクトに参加させても,若手は活躍できません。だから僕は,小規模予算のプロジェクトから始めて,段階を追って大きなプロジェクトを経験できるような取り組みを実践しているんです。クラウドファンディングを活性化しなければならないのは,僕ら自身のためじゃなくて……。

4Gamer:
 若いクリエイター,ひいては日本のゲーム業界のためであると。

稲船氏:
 ええ。「Mighty No.9」も僕が前面に出てはいますが,現場で作っているのは若手です。ディレクターはこの規模のディレクションをするのは初めてですし,プロデューサーも初めてプロデュースを担当します。でもゲームが好きという思いは誰よりも強い。だからこそ,育成の意味も込めて,このクラウドファンディングのプロジェクトに起用したんです。
 こういう試みを重ねて,次々にヒット作を出していけるようになれば,やがて世界に誇れる20代30代40代のクリエイターが誕生するんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど,そこまで考えている取り組みなんですね。

稲船氏:
 うまくいったら,僕の評価も変わってきますよね。今,僕が目指しているのは,松下村塾を開いて高杉晋作を世に送り出した吉田松陰ですから。ジジイが高杉晋作をやってもカッコよくないですけど,吉田松陰ならカッコいいでしょ(笑)。

画像集#012のサムネイル/クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた


何でも手に入る時代だからこそ,周囲と差を付けられる


4Gamer:
 今のゲーム業界が停滞している一因は,若手が出てこないことという話を聞きましたが,では,国内のほかの業界で若手クリエイターが活躍しているところというと,どこだと思いますか。

稲船氏:
 うーん……さっきも言ったとおりで,日本は才能のある人をあまり評価しませんからね。そういった部分では,日本は世界中で一番遅れているかもしれません。映画の興行成績を見ても,宮崎 駿さんまで行ってようやく評価される感じですよね。北野 武さんですら,日本では海外ほど評価されていないじゃないですか。
 僕自身も,海外なら入国審査で“歓迎”を受けますからね。「何の仕事してるんだ?」と聞かれて「ゲームを作ってる。『メガマン』って知ってるか?」と答えると,それまで無愛想だった入国審査官の態度が急にフレンドリーになりますから。

4Gamer:
 ほかのクリエイターの方の経験談にも似たような話がありました。日本ではちょっと考えられないですね。

稲船氏:
 日本にいるときに声を掛けてくれるのも,だいたい外国の人ですからね。「イナフネ!」とか「ケイジ!」とか。それは,「メガマン」を作った人がすごいと思ってくれるからなんです。もちろん「メガマン」自体もすごいけれど,それを作った人もすごいと。でも日本では,そういった認識が薄い。ここは本当に変えていかなければならないですよね。ゲームに限らず,映画もアニメも。

4Gamer:
 稲船さんもそうですけれど,クリエイターが表に出てくると叩かれがちですよね。

稲船氏:
 叩かれるから表に出たくない,二度と表に出ないというクリエイターもいるくらいですよ。Twitterでもフォロワーとか言ってますけれど,全然フォローしてくれないですよね(笑)。むしろ発言の揚げ足を取ったり,曲解したりして,それを不特定多数で叩く場になっていたりする。

4Gamer:
 海外のファン層だとそういったことはないんですか。

稲船氏:
 海外の人はフェアですね。いろいろ文句を言う人と,メチャメチャ褒める人にはっきり二分されます。これが日本だと,褒めてくれるのは1割か2割くらいで,さらにその人達が,ほかの人達から叩かれたりする。結果として,褒めてくれる人がどんどんいなくなってしまうんです。

4Gamer:
 それはなぜなんでしょうね……。

画像集#013のサムネイル/クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた
稲船氏:
 もともと日本に褒めて育てる文化がないからでしょうね。でもそれでは,周囲から褒められて調子付いている世界のクリエイターには勝てません。クリエイターなんて,おだてて調子に乗らせてナンボですから。もちろん度が過ぎてはダメですが,ある程度は気分よくやらせないと,人を楽しませるものなんて作れませんよ。

4Gamer:
 自分に自信がないとやっていけない仕事でしょうからね。

稲船氏:
 ともあれ,日本のクリエイターを日本人が応援する状況になってほしいですね。日本人が誰も応援せず,海外のファンだけが応援しているっておかしな構図じゃないですか。僕は,海外に行くとパワーをもらえるのに,日本に帰ってくるとそれを吸い取られる感じがする(笑)。

4Gamer:
 そう言えば稲船さんは以前から,日本のゲーム業界がこのままだとマズい,世界では勝てないとおっしゃっていますけれど,それから変化を感じたことはありますか。

稲船氏:
 コンシューマゲームに限っては変わっていませんね。僕が言ったとおり,マズい状況になっています。

4Gamer:
 今日ここまで稲船さんの話を聞いてきて,その「このままではマズい」がさらに一歩進んでしまったような印象を受けるんですが……。

稲船氏:
 ここで「未来がない」と言ってしまうと,きっと僕はまた叩かれますよね(笑)。「まだ日本のゲームは負けてない」「これからコンシューマゲームで大逆転する」と耳障りのいい言葉を並べたほうが建前上はいいんですけども,そう言ってもできないものはできないですから。正直なところ,今のままで何かが変わるとは思えません。
 「じゃあ,突破口がどこにあるのか言ってみろ」と言われても困ってしまうんですが,僕としてはクラウドファンディングや若手の起用といった形で新しい芽を育成するほかないと考えています。

4Gamer:
 稲船さんは若手クリエイターの育成に力を入れているわけですが,稲船さんが若手の中から人材を起用するときに重視するポイントはどこでしょう。

稲船氏:
 ゲームの企画と同じで,思いの部分です。本当に若い人から「コイツできる」「すごいスキルを持っている」と感じることなんて,ほとんどないですから。もう「ゲームを作りたい!」「このゲームをディレクションしたい!」という思いしかないんですよ。そういった思いの強い人間を,教育していくんです。教育なくしてよくなることはまずありません。

4Gamer:
 稲船さんのおっしゃる教育とは,どんなものでしょう。

稲船氏:
 何も手取り足取り教えることではなく,必要なことをきちんと伝えることです。その中では,叱ったり,褒めてあげたりを繰り返します。叱らない教育はあり得ませんから,僕と一緒にやると結構叱られますよ。最近の若い人は叱られるとすぐに落ち込んでしまうので,なかなか叱り方が難しいんですけれど(笑)。

4Gamer:
 稲船さんが考える若手のよさはどんなところですか。

稲船氏:
 やっぱり,若い人の発想は面白いですよ。今は環境が充実していて,昔の映画も簡単に観られますし,資料も簡単に手に入りますから,うらやましいです。僕が若かった頃は,DVDもYouTubeもなくて,例えば「黒澤 明作品を観たい」と思ったら,大阪の新世界でリバイバル上映されるのを会社休んで観に行くほかなかった。酔っ払ったオッサンがイビキかきながら寝ている隣で,一生懸命観ましたよ。

4Gamer:
 クリエイターを目指す人にはいい時代ですよね。

稲船氏:
 ハリウッド版「ゴジラ」を観て面白いと思ったら,その日のうちに過去のシリーズ作品を観ることもできるんです。でも今の若い人達はそういったものを欲しがらないんですよ。簡単に手に入るから。でも意識してそういった優れたものを吸収した人は,どんどん知識が蓄積して,周囲と差を付けられます。ゲームも同じです。今はアーカイブが充実していますから,昔のゲームもすぐに遊べるんです。

画像集#011のサムネイル/クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた

4Gamer:
 「Mighty No.9」の開発で,そういった若手のパワーを感じることはありますか。

稲船氏:
 「Mighty No.9」は,comceptからディレクターを出して,実際の開発はインティ・クリエイツさんがやっているんですが,comcept主導というよりは,皆が「自分達のもの」という意識で作っていますね。僕が「こうしたい」と思うのと同じように,それぞれが「こうしたい」という思いを持っているんです。それを「自分達のゲームだから,うまく混ぜ合わせよう」という気持ちをすごく感じます。「仕事だから作っている」という感じじゃないんですね。そこは,僕が若い頃のゲーム開発に近いと感じています。

4Gamer:
 さきほど話に出た“本来のゲーム開発”ですね。

稲船氏:
 自分達のゲームだから,面白くないのが許せない。だから本来自分の役割じゃないところにも突っ込んでいくんです。僕の役割はキャラクターデザインですけれど,マップや敵の攻撃が悪かったら,企画担当者にこう変えたほうがいいんじゃないかと提案します。
 これが仕事だと思うと,そこまでしないですよね。キャラクターのデザインが完成したら,そこで終わり。ほかの部分に不都合があっても知ったこっちゃない。でも「Mighty No.9」の開発では,そんなことにはならないんです。

4Gamer:
 そういったチーム内の雰囲気は,自然にできあがったんでしょうか。

稲船氏:
 そうです。もっとも,インティ・クリエイツは「ロックマン ゼロ」などを開発したところなので,もともと「ロックマン」が好きな人は多いんですよ。そんな人達ですから,本格的な横スクロールアクションゲームを作ることに,すごくやりがいを抱いているんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 「ロックマン」好きの人が稲船さんとゲームを作れるとなったら,力が入るでしょうね。

稲船氏:
 常に真剣勝負でぶつかっている感じを受けますね。

4Gamer:
 それを聞いて,発売がさらに楽しみになってきました。話が多岐に及びましたが,最後にあらためて,「Mighty No.9」に期待している人に向けてメッセージをお願いします。

稲船氏:
 クラウドファンディングはただの資金集めではなく,クリエイターの呼びかけにユーザーが応え,それぞれの思いを乗せて一緒にゲームを作るということを実現する仕組みです。そういった,個々の思いを積み重ねると大きな物作りができる,というところを理解していただけるような仕組みを作っていきたいと思っています。
 日本でクリエイティブが発展するには,クラウドファンディングを広げていくことが必要ですし,僕自身,今後もクラウドファンディングを利用したゲーム作りと,同時に若手へチャンスが与えられる環境作りを進めていきます。ぜひ今後の動向に注目してください。

4Gamer:
 今後の展開に期待しています。本日はありがとうございました。

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