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堀井雄二氏が“師匠”小池一夫氏とドラクエ,キャラ作り,そしてゲーム業界について大いに語る。堀井氏はまさかの「ポートピア殺人事件2」を企画中!?
同大学の客員教授を務める小池氏が,かつて「小池一夫劇画村塾」で堀井氏にキャラクター学などを指導していた縁で実現したこの対談は,神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科が2010年4月に「キャラクタークリエイターコース」を設置することを記念して行われたもの。ちなみに神奈川工科大学では,2009年7月26日に実施されたオープンキャンパスにおいて,小池氏と漫画家・板垣恵介氏の対談形式の特別講義が行われており,今回はその第2弾ということになる。
神奈川工科大学 公式サイト
ゲーム作りのきっかけは漫画のプロット作成プログラム
堀井氏が小池氏に師事していたのは,1981年前後のこと。当時の小池氏は,漫画原作者としての全盛期を迎えており,一方の堀井氏は,漫画原作者を目指していた。堀井氏はそんな中,小説のプロットをコンピュータで作るという記事に興味を持ったという。そこで自作のプログラムを組んでみようと,堀井氏はコンピュータをいじりだすようになった。
小池一夫氏 |
堀井雄二氏 |
堀井氏のゲーム制作の発端は「占いプログラム」だ。これは,堀井氏の友人が前日に何をしていたかをあらかじめ調べて,その内容が表示されるようプログラムを組んでおき,家に遊びに来たときに見せるという他愛のないもの。しかしコンピュータをよく知らない友人達は,「昨日,映画を観ましたね」というようなメッセージが表示されるのを見て「なぜ,そんなことが分かるのか」と非常に驚いたそうだ。
それを面白いと感じた堀井氏は,プログラムをどんどん発展させていき,やがて会話でストーリーが進んでいくようなものを作り出す。それが,のちに堀井氏が世に出す「ポートピア殺人事件」やRPGのストーリーの原点だったのである。
小池氏の教えは,今も昔も「まずキャラクターを作ること」である。しかし堀井氏が作るようなゲームのプレイヤーは,ゲームの登場人物と化してしまうためキャラクターになりえないのではないかと,小池氏は疑問を投げかける。
それに対して堀井氏は,ほかの登場人物が自分の名前を呼んでくれるため,プレイヤーは感情移入ができることを挙げ,それをもって「キャラクターが立った」といえるのではないかと,ゲームの特性を交えた形で返答した。
すなわち,わりと誰でも知っている“ドラゴン”と,あまり世間に馴染みのなかった──今でこそゲームプレイヤーの大半は意味を知っているだろうが──“クエスト”という言葉を組み合わせたわけだ。そのほか,「タ行に濁音をつけるといい」といったことも,小池氏の教えにあったという。
ここで小池氏が「ところでドラクエ以外のゲームは作らないのか」と尋ねると,堀井氏は「ポートピアの続編を作ろうかと考えている」と冗談めかして答えた。その名も「ポートピア殺人事件2 〜犯人はヤス〜」で,登場人物のほとんどは「安井」「安木」など,ヤスがつく名前になるという。
何か事件が起きると,いまだに「犯人はヤス」というコメントをつける人が多いことを逆手に取るというわけだ。無論,筆者も含めた聴講者達は,一連の流れを堀井氏の冗談ととらえて笑っていたが,ひょっとするとひょっとするかもしれない。
今後求められるのは,能動性を刺激する
「分かりやすく簡単だが奥が深い」ゲーム
そして話題は,会場に集まった聴講者達の最大の関心事であろう,堀井氏から見た現在のゲーム業界についての話へ。堀井氏は「ゲーム業界は今,大変厳しい」とズバリ核心を突く。
というのも,そもそもゲームは暇つぶしの道具として商品価値を築いてきたからである。しかし現在では,ネット上の無料ゲームや携帯電話で遊べる安価なゲームが溢れており,暇つぶしには事欠かなくなっている。
そうした中で,堀井氏のようなクリエイターが作るゲームは「本当にやりたいと思ってもらえないと,遊んでもらえない」という状態に陥っているのだ。
すなわち,「ここをこうすればこうなる,ならば次は,ここをこうすればいいんじゃないか」という事象を段階的に発生させることで,プレイヤーが能動的に遊べるよう配慮したというわけである。
さらに堀井氏は往年のファミコンソフト「頭脳戦艦ガル」の例を挙げた。当時堀井氏は,実のところ,このゲームをどうにも面白いと思えなかったそうだが,一緒に仕事をしていたチュンソフトの中村光一氏が一生懸命遊んでいる姿を見て「どんなゲームでも,プレイヤーが能動的に遊ぶことができれば面白くなる」と実感したという。
「プレイヤーにとってつらいのは,何をどうしていいか分からない状態」と,堀井氏は話を続ける。そこで,ちょっと背中を押してあげるようなこと,「あ,これならできそう」と思わせて,実際にプレイしてみても面白いことが重要なのだと,堀井氏は述べる。
そうした「何をすればいいのか分かりやすい」観点から見た場合の優れた例として,堀井氏は「トモダチコレクション」と「ラブプラス」を挙げた(ちなみに堀井氏は,最近「ラブプラス」をプレイし始めたそうだ)。
また堀井氏は,「トモダチコレクション」や「ラブプラス」が多額の予算をかけていないのにヒットしたことを指摘し,まだまだ新しく面白いアイデアが出てくる可能性を示唆する。
むしろ,歳を取って身体が思うように動かなくなってからも,ゲーム内なら自由に動き回れる,しかも時間は山ほどあるという状態になるので,ゲームに熱中するようになるのではないかというのだ。
そう考えるもう一つの根拠として,堀井氏は漫画に対する世間の考え方の変化を挙げる。つまり,20〜30年前までは「大学生が漫画を読むなんて嘆かわしい」くらいの意見が多数派だったが,今では60歳代も含めた大人が漫画を読んでいる姿は普通になっている。
これについて堀井氏は,以前の世代が漫画との付き合い方を知らなかったために,そうした論調がまかり通っていただけと指摘し,ゲームもまた今のプレイヤーが年齢を重ねることで,同様の変化をたどるだろうと述べる。すなわち,高齢ゲームプレイヤーが増えるだろうというわけだ。
また,ゲームの主流が据え置き機から携帯機に移っている理由の一つとして,堀井氏はテレビの大型化を挙げた。居間に大きなテレビがあったとしても,それをゲームのために家族の誰かが独占できるかというと,必ずしもそうはならないというのだ。
そういう状態におかれたら,むしろ携帯機でいつでもどこでも──場合によっては,テレビを観ながらでもプレイできる方を選ぶのではないかと,堀井氏は分析する。
そうしたプレイスタイルの変遷に絡んで,今度はゲームの難度の変遷について,小池氏が疑問を投げかける。その性質上,どんどん難しくなっていく傾向のあるゲームに,高齢者はついていけなくなるのではないかというわけだ。
しかし堀井氏は,「簡単だが,奥が深いもの」が受けるようになっていると,現在の事情を説明。今後は,さらにその傾向が強まっていくだろうと見解を述べた。
頭の中にあるうちは,どのゲームも傑作。
実際に形にしていく過程を経験せよ
そのあと,話は小池氏の専門であるキャラクター学へと移っていく。堀井氏は,「短いセリフに面白さを凝縮する」ことを小池氏から教わったことなどを披露する一方で,理系の大学にキャラクター学のコースが設置されることに興味と関心を寄せていると述べた。
というのも,もともと堀井氏自身が理数系が得意だった──だからコンピュータの導入に抵抗がなかった──にも関わらず,漫画原作者を志望していたことから,あえて文系に進んだ事情があるからだ。
またロボットに関しては,ただそれだけではダメで,“転ぶ”“ずっこける”といった面白さを加えることで,初めてキャラクター足りえるとポイントを指摘する。
最後に堀井氏は,ゲーム業界を志す会場の学生に向けて,いくつかアドバイスを提示した。曰く,今は大資本・大人数で作るゲームが主流になり,個人制作のゲームは商品になりにくいが,その一方では少人数で作ったFlashのゲームもヒットしている。そうした状況の中,まずは自分の頭の中にあるゲームを,何でもいいから1本作ってみてほしいという。
というのは,どんなゲームでも頭の中にあるうちは大傑作で,実際に作ってみるといろいろ問題が発生するからだ。そうした問題を何とか解消したり,当初考えていた要素を泣く泣く削ったりしながら形にしていく過程が大事と堀井氏は述べる。そして,若い世代がゲーム業界に新たな息吹を吹き込むことを期待しているとして,対談を締め括った。
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