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Access Accepted第721回:南カリフォルニア大学の恒例ゲームイベント「USC Game Expo」は今年も開催。大学におけるゲーム開発の取り組み
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印刷2022/04/18 12:00

業界動向

Access Accepted第721回:南カリフォルニア大学の恒例ゲームイベント「USC Game Expo」は今年も開催。大学におけるゲーム開発の取り組み

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 南カリフォルニア大学が,今年で6回目となるゲームイベント「USC Game Expo 2022」を日本時間の5月13日に開催することをアナウンスした。thatgamecompanyのジェノヴァ・チェン氏ケリー・サンティアゴ氏らを輩出した映画芸術学部のインタラクティブ・メディア&ゲーム部門が設立されてからはや20年。今回は,そんなアメリカ教育機関のゲーム開発における取り組みを紹介していこう。


20年の歴史を誇る名門大学のゲーム学科


 読者の皆さんは,南カリフォルニア大学(University of Southern California,USC)をご存じだろうか? 1880年にアメリカ西海岸最大の都市・ロサンゼルスに創立された総合私立大学で,全米大学総合ランキング第15位という名門校だ。経営,工学,法律などの他,ハリウッドにほど近いこともあって映画学でも有名で,同校の映画芸術学部からは「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカス監督,「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス監督,「遊星よりの物体X」のジョン・カーペンター監督を始め数多くの映画関係者を輩出している。
 そんな南カリフォルニア大学の映画芸術学部に,インタラクティブ・メディア&ゲームデザイン学科が設立されたのは,今からちょうど20年前の2002年のことだ。2年後(2004年)には,ゲーム学科の学生が,映画やコンピューター・サイエンス,教育など異なる学部の生徒たちと交流を深めてプロジェクトを推進するための橋渡しを行う「Game Innovation Lab」が発足し,MicrosoftやElectronic Arts,Take-Two Interactiveなどがスポンサーに就いて,かなり進んだゲーム専門学科として急成長した。2010年以降,全米で最先端のゲーム学科となっている。

2010年以降,アメリカの大学機関におけるゲーム学科部門ではトップの座を維持し続ける南カリフォルニア大学(USC)。公開されている施設内部もゴージャス
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 そのインタラクティブ・メディア&ゲーム学科の黎明期に入学したのが,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」「Journey(邦題:風ノ旅ビト)」で知られるthatgamecompanyのジェノバ・チェン(Jenova Chen)氏だ。元々は映画学での博士号を取得するために中国から留学してきたJenovaだが,インタラクティブなメディアの可能性に興味を抱き,Game Developers Conference (GDC) 2004に学生枠で参加し,さまざまなセッションに大きくインスパイアされたという。
 ちなみに,2004年と言えばMicrosoftが「XBLA」(Xbox Live Arcade)をリリースし,その前年には当初からサードパーティにも門戸が開かれると公言されていた「Steam」がローンチしたばかりといった時期だ。インディーズゲームのシーンが大きく盛り上がったのは2007年以降であり,2004年頃は学生制作のゲームが注目されることは少なかった。しかし,GDCで併催されるIndependent Game Festival 2004で,初めて“スチューデント・ショーケース”が評価カテゴリーとなり,10作品にスポットライトが当てられる。

南カリフォルニア大学在籍時のジェノヴァ・チェン氏とケリー・サンティアゴ氏らのチーム写真
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 ともかく,こうして大いに感化されたチェン青年がカンファレンスから帰ってきた後で意気投合したのが,同じ学科に在籍していたケリー・サンティアゴ(Kellee Santiago)氏で,仲間たちを集めて「メインストリームではないゲームプロジェクト」を企画する。これが,Game Innovation Labの学科長に認められて2万ドルの開発資金を捻出してもらえることとなり,チェン氏がゲームデザイナー,サンティアゴ氏がプロデューサーとして2005年1月にリリースしたのがパズルゲーム「Cloud」であった。
 「Cloud」は2006年度のスチューデント・ショーケースに選出されているが,この評価によってソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテイメント)の出資を得て,2人はthatgamecompanyを設立。その後に「Flower」(2009年)や「風ノ旅ビト」(2012年)をリリースしたのは皆さんもよくご存じだろう。この後サンティアゴ氏は同社を離れて幾つかのメーカーを渡り歩き,2019年以降はNianticに在籍しているが,この2人は南カリフォルニア大学のゲーム学科での,顕著な成功例となったわけだ。


USC Gamesというブランドで開催される大学内エキスポ


 このように20年の伝統を育んできた南カリフォルニア大学のインタラクティブ・メディア&ゲーム学科が,学生プロジェクトの発表会の場として2017年から開催しているのが「USC Game Expo」だ。モバイル向けのゲーム開発を行うJam Cityというメーカーがスポンサーとなり,同校の敷地内にあるイベントスペースで生徒のプロジェクトを展示する。また,Sony Interactive EntertainmentやActivisionといったロサンゼルス近郊に拠点を持つゲーム会社などから著名なクリエイターが毎年10人ほど招待されて講演を行うという,本格的な内容だ。
 第6回となる「USC Game Expo 2022」は,アメリカ時間の5月12日14:00時(日本時間13日06:00時)に開始するが,部外者はライブストリーミングでの参加のみとなる。まだ講演内容などは決まっていないものの,Advanced Gamesプログラムに参加する生徒のプロジェクトと,卒論用プロジェクトの中から選ばれた60あまりの作品が紹介されるという。

ストリーミング放送という特性上,「USC Games Expo 2022」(外部リンク)のチケットは一般向けにも無料で配信されている (Eventbriteへの登録は必要,こちらも無料)
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 USC Gamesのディレクターであるダニー・ビルソン(Danny Billson)氏は,開催に向けて,「USC Games Expoは,生徒がゲーム開発のスキルや直面した課題を示し,懸命に取り組んだ結果を世界と共有するためのユニークな機会です。私たちは,トロージャン・ファミリーとJam Cityの友人たちが,才能のあるゲームデザイナーと次の世代の開発者をフィーチャーした,新たなショーケースイベントに参加していただけることに非常に興奮しています」と述べている。
 トロージャンとは,南カリフォルニア大学の有名なUSCの非公式マスコット「トミー・トロ―ジャン」のことで,「トロージャン・ファミリー」は,このプログラムに資金提供する卒業生たちを意味している。この20年で多くのゲーム業界人がファミリーとなっているのは,言うまでもないことだろう。

現地で公開された「USC Games 2019」の様子。卒業論文代わりのプロジェクトの公開の場でもあるため,ユニークな作品が並ぶ
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 面白いのは,こうした作品群がまるで企業のように「USG Games」とブランディングされていることだ。チェン氏とサンティアゴ氏の「Cloud」の例から分かるように,実際にほとんどのプロジェクトは大学側から出資を受けており,商業リリースに漕ぎつけた作品の利益は大学と共有されるという。2017年の「Walden, a game」のように,Steamストアページ(外部リンク)でもこのブランドで販売されているケースもある。

 また,インタラクティブ・メディア&ゲーム学科は2021年,その前年から盛り上がったBlack Live Matter運動を受けて,黒人系アメリカ人およびネイティブアメリカ人のゲーム学科への入学を後押しする「ジェラルド A.ローソン(Gerald A. Lawson)ファンド」を,Take-Two Interactive協力のもと,立ち上げた。ジェラルド A.ローソン氏は,コンピュータービジネスの黎明期にカリフォルニア州中部に存在した半導体メーカー,フェアチャイルドセミコンダクターに在籍していたときにゲーム用カートリッジのコンセプトを発案し,”ゲームカートリッジの父“として知られる黒人系エンジニアだ。

ちなみに南カリフォルニア大学は,いまどきの大学らしくeスポーツ部が存在。トロージャンズの公式ユニフォームもカッコ良い
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 USCは私立大学であるために授業料が高いこともあってか,奨学金制度があるにもかかわらずインタラクティブ・メディア&ゲーム学科に在籍する黒人系アメリカ人は全体の3%程度しかいない。黒人系アメリカ人の人口比率はアメリカ全体で13.4%なので,それと比べてもかなり少ないのが現状だ。
 ゲーム業界も同じ比率であると言われており,多くの黒人系アメリカ人の若年層は子供の頃からゲームに親しんでいるにも関わらず,その就職先としてゲーム業界を選ばない(あるいは選べない)人が多いという。そのため,人材育成の場としての教育機関の役割が大いに問われている。
 そうした学生が参加するプロジェクトも始動している様子で,今回のUSG Games Expo 2022ではきっと,さらに多様性のあるユニークなプロジェクトが披露されることは間違いない。やがてはゲーム業界に巣立っていくであろう彼らの姿を,イベントに参加してチェックしてみるのも良いのではないだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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