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連載
Access Accepted第713回:「ライブゲーム」を機軸に,SIEによるBungieの買収を考える
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Take-Two InteractiveとZynga,MicrosoftとActivision Blizzardに続いて,ソニー・インタラクティブエンタテインメントがSF系シューティングゲームで知られるBungieを買収したことで,2022年1月のゲーム業界は,例年になく賑やかなニュースで溢れている。Bungieが「マルチプラットフォームでのリリースを継続する」とアナウンスしたことで何のための買収なのか分かりづらいが,その裏に浮かび上がるのは,ライブゲーム※というSIEの核心的な方向転換だ。
※ここで言うライブゲームは,持続的にコンテンツを提供するタイプのゲームのこと
36億ドルの価値
先週の当連載「第712回:「メタバース」を機軸に,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意を考える」(関連記事)ではMicrosoftによるActivision Blizzardの買収というビッグなニュースを解説したが,その連載記事を掲載した直後。アメリカ時間の1月31日中に,今度はソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)が「Halo」や「Destiny」などSF系シューティングゲームで名高いデベロッパのBungieと買収の合意に達したことがアナウンスされた。Bungieは今後,人事や開発の意志決定にSIEが関与しない独立したメーカーとして存続しながら,引き続きマルチプラットフォームでの作品を手掛けていくことになるという。
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その買収金額は36億ドル(約4139億円)。MicrosoftがActivision Blizzardのために用意した687億ドル(約7兆8792億円)の20分の1ほどだが,最近のソニーグループのエンターテイメント関連事業では,ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントがアニメ専門のビデオストリーミングサービス「Crunchyroll」を2021年8月に買収した11億7500万ドル(当時,約1300億円)を大きく上回る。しかも,現状では「Destiny」というIPしか持たないBungieなのだから,最近の「ゲームIPの価値」がどれだけ高いのかがわかるだろう。
しかし,主力IPという点では,例えばActivision Blizzardで価値を生みだせるものと言えば,Activisionの「コール・オブ・デューティ」と「クラッシュ・バンディクー」,Blizzard Entertainmentの「Warcraft」(Hearthstoneを含む)「Starcraft」「Diablo」「Overwatch」,そしてKing.comの「キャンディ・クラッシュ」という7つのIPが挙げられる。主力IPの数だけで見ると,Activision Blizzardが7作で687億ドルだったのに対し,Bungieは1作で36億ドルと,SIEにとってはお買い得だったと考えることもできる。
サービスインから5年以上も経つ「Destiny 2」は,2021年度にはGolden Joystick Awardsの「ベスト・ゲームコミュニティ賞」,そしてThe Game Awardsの「ベスト・コミュニティ・サポート賞」を受けている。コミュニティ側,それを支えるBungieのライブチームの双方の熱量が非常に高いわけで,その盛り上がりはTwitchなどで配信されるストリーミング動画数や視聴者数の多さが証明していることだ。
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もっとも,Bungieは「私たちはこれからも自分達の運命を担って(中略),1つのBungieコミュニティを牽引していきます。私たちのゲームは,皆さんがプレイすることを選択したプラットフォームに関係なく,私たちのコミュニティが存在する場所であり続けることを誓います。」という声明文を,買収合意があった際に表明している (関連記事)。
PCはともかく,最大の強豪であるXboxプラットフォームで今後もBungie作品をプレイすることができるのであれば,SIEにとって「36億ドルという投資のどこに旨味があるのか,傍から見ている限りでは良くわからない」というのが多くのゲーマーの本音だろう。
今後4年間で10作のライブゲーム創出に賭けるSIE
前回の連載でお伝えしたように,MicrosoftのActivision Blizzard買収の理由として挙げられたものが,現状では実態の伴わない「メタバース」という未来への投資だったが,SIEのBungie買収の理由は「ライブゲーム」という,比較的現実寄りな視点でゲーム市場を見たキーワードであるようだ。
“ライブゲーム”とは,短いスパンでの長期的なコンテンツを追加し続け,シーズナルイベント,トーナメント,その他さまざまなファンとの交流やアニメ化などのメディアミックス戦略により,オンラインゲームのロングテール化を図るものだ。Bungieの「Destiny2」はその先駆者であると言える。
「ゴッド・オブ・ウォー」「アンチャーテッド」「The Last of Us」,そして「Ghost of Tsushima」や「Horizon Zero Dawn」「ラチェット&クランク」といった有力IPを多数抱えるSIEだが,こうしたライブゲームのポイントとなる点が,非常に弱いことは否めない。
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加えて,「FPS」(ファーストパーソンシューティング)という人気ジャンルでは,他と競合できるようなヒット作がなく,この点でもPlayStationプラットフォームとBungieの相性は非常に良さそうだ。PlayStation Studiosを率いるハーマン・ハルスト(Harman Hulst)氏は,「グランツーリスモ7」や「Ghostwire: Tokyo」などの詳細が発表されたオンラインイベント「State of Play」に合わせて,北米向けの公式ブログサイト「PlayStation.Blog」(関連リンク)にて公開されたポッドキャストに登場。自身が「キルゾーン」の制作を担当して売り上げもサービスも全く太刀打ちできなかった経緯から,「Bungieの能力がどれほど高いのかは我々は痛烈に感じている」と賛美を惜しまない。
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また,2月2日にソニーグループが行った,営業利益1兆円越えのマイルストーンを達成した2022年3月期第3四半期の連結決算の発表にて (外部リンク),「Bungieとプレイステーションスタジオとの緊密な連携により,2025年度までに10タイトル以上のライブサービスゲームをローンチすることを計画しています」と投資家に対して発表しているのも見逃せないポイントだ。
事実,ソニーグループは以前から,Epic Gamesが推進する「メタバース」事業に積極的に投資している(関連記事)。そうしたことも勘案すれば,SIEが送りだそうとしている10本以上のライブゲームが,メタバースコンテンツとなり,Epic Gamesが掲げる「Megaverse」の「接続されたソーシャル体験」(Connected Social Experiences)の1つとして,数えられる可能性も十分に考えられる。
SIEは現在,Naughty Dog,Sucker Punch Productions,ポリフォニー・デジタル,最近買収したHousemarqueやFirespriteなど17のゲーム開発スタジオを傘下に持っているが,彼らの作品群の中で,オンラインサービスを拡充させるタイプのライブコンテンツを提供しているスタジオはほとんどない。もし,彼らがBungieからライブゲームのデザインやコミュニティサポートのノウハウを得て,人気シリーズもしくは全くの新作IPを生みだしたら,どれだけハマれるゲーム群が登場してくるのか,考えただけでもワクワクするだろう。
とはいえ,Microsoftと比べるとSIEは,シミュレーション,ストラテジー,そして何よりミリタリーシューティングといったジャンルで層が薄いのが気になるところ。しかも,これまで時限独占の恩恵を受けていた「コール・オブ・デューティ」のアドバンテージを失ったことは,SIEにとって痛いはずだ。
ファーストパーティ作品はヒット連発だが,身内で競合を生み出しかねないアクションADVに偏ったポートフォリオになっていることは否めず,ライブゲームに適したゲーム作りを今後3〜4年のうちに(おそらくは多くの傘下スタジオにとっての次のプロジェクトで)オンライン化,少なくとも何らかのライブサービスを持った形へと方向転換していく腹積もりなのかもしれない。これまで未来的な展望をあまり示してこなかったジム・ライアン体制発足後のSIEの戦略が,ようやく見えてきたわけだ。
2022年度は,ゲーム業界でまだまだ激震が続く?
SIEにとって,実弾不足のライブゲームを拡充する手っ取り早い方法は,例えばMicrosoftが「マインクラフト」のMojangを買収したときのように,すでに認知されたIPを抱えるデベロッパの買収をさらに推進させていくこと。ソニーグループの中でも主役級に躍り出たエンターテイメント分野だけに,今後もビジネスを成長させるべく投資を続けていくはずだ。
著名な北米ジャーナリストであるジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏は,最近のTwitter(外部リンク)で,「複数の人から聞いているけど,皆さんが感じているように,ゲーム業界での大きな買収の話がさらに幾つか最終段階に入っている。面白い1年になりそうだ」と呟いている。これは必ずしもSIEのことではないかも知れないが,ノウハウの蓄積と膨大な開発費が顕著にプレッシャーとなり始めているメーカーが,この新世代ゲーム機市場の世代において身売りするのは,今が最良のチャンスと考えていてもおかしくはないだろう。
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Bungieの内情についても語っておくと,同社も昨年末に開発チーム内部でのセクシュアルハラスメントや差別的な待遇を受けたという26人の従業員が立ち上がるという,Activision Blizzard同様に内部で混乱を起こしかねない状況にあった。CEOのピート・パーソンス(Pete Parsons)氏は謝罪をするとともに人事部代表を解雇し,さらに調査を継続してくことを従業員およびゲーマーコミュニティに誓っており,同時期のActivision Blizzardの話題の高さもあって,それほど話題にならなかったものの,企業イメージという点ではマイナスとなり兼ねなかった。
さらにBungieは,2018年にNetEase Gamesの1億ドルと言われる大口の出資を受けて,「MATTER」という新作らしき名称の商標登録をヨーロッパで出願手続きしていたことが明らかになっていたが(関連記事),この件のその後については3年以上経過した今も全く明らかになっていない。NetEase Gamesとの関係が解消したのかも知れないし,実際にSIEのファーストパーティタイトルとなって,内々で開発は続けられているのかも知れない。
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SIEの場合,デベロッパを買収した後には,わりと早い段階で新作が発表される傾向が見られるが,Bungieは今月末の2月23日にも,「Destiny 2」の最新拡張コンテンツである「漆黒の女王」ローンチを控えている。そのため,早々に次回作がアナウンスされる可能性は低いだろうが,もし900人というBungieの開発メンバーの一部が新作の開発に動いているのなら,やはり「Destiny 3」というマルチプラットフォームなのか,もしくは「PCとPlayStationプラットフォーム」という形の新IPになるのか,新IPでもライバルのプラットフォームで発売されるのか,さらには「MATTER」(物質/要素)から連想させる科学的なテーマの作品になるのかどうかなど,さまざまな点で多くのファンに注目されていくことだろう。
もう1つ,ソニーグループの強みであるメディアミックスも十分にあり得る話だ。2月18日の公開が迫る実写映画版「アンチャーテッド」,そして実写ドラマ化がアナウンスされた「The Last of Us」など,SIEのIPを利用した実写映像展開は活発だ。そう考えると「Destiny」が実写映画になる可能性さえあるわけで,ライブゲームの資産の1つとしてさらなる成長も見込めるだろう。いずれにせよ,SIEはBungieの買収によって,現在のゲーム市場の在り方に対応しようとしているのであり,“36億ドルの成果”は2025年から26年頃までには結ばれていることになりそうだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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(C)2021 Bungie, Inc. All rights reserved.
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