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「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ」レポート。伝説のパソコン雑誌の内幕をレジェンドや関係者が明らかに
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印刷2024/05/27 12:00

イベント

「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ」レポート。伝説のパソコン雑誌の内幕をレジェンドや関係者が明らかに

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 去る2024年5月18日,東京都の大田区民ホール・アプリコにて,「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ」というイベントが行われた。伝説のパソコン雑誌「マイコンBASICマガジン」創刊時の編集長である大橋太郎氏をはじめとして,レジェンド関係者たちが集結。誌面を作っていくうえでの苦労や貴重な秘話などが語られた。

「マイコンBASICマガジン」創刊編集長である大橋太郎氏
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会場では,書籍やTシャツ,カレー(!)といったグッズ類の販売や,懐かしのパソコンによるゲームの実演も行われた
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当時の貴重な資料も展示された。左は「レスキュー!AVG&RPG」の没表紙。右は「レスキューアドベンチャーゲーム」に寄せられた,助けを求める投稿の葉書だ
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未発売のテーブルトークRPG別冊「ファンタジー通信」用に,くりひろし氏が描いたイラスト(左)と,リプレイ記事の校正紙(右)。手塚一郎氏がゲームマスターを務め,山下 章氏やTOMMY(ベニー松山)氏らがプレイヤーキャラクターとして参加したテーブルトークRPGリプレイを掲載する予定だった
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 通称「ベーマガ」こと,マイコンBASICマガジンは,1982年に創刊したマイコン(今でいうパソコン)の専門誌だ。当時はさまざまなパソコン専門誌が販売されていたが,その中でもベーマガは,ゲームにフォーカスしていたことで知られる。1983年には,いち早くアーケードゲームの情報を取り上げるようになり,全国のゲームセンターでハイスコアを集計して掲載するコーナーを誌面に設けるなど,コミュニティ作りにも尽力していた。現在のゲーム雑誌成立に大きな影響を与えた雑誌のひとつが,ベーマガであったのだ。

「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ」の司会を務めた山下 章氏
画像集 No.010のサムネイル画像 / 「ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ」レポート。伝説のパソコン雑誌の内幕をレジェンドや関係者が明らかに
 そんなベーマガの関係者が集って,秘話を明かすイベントが「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン」である。3回目となる今回は,実に6年ぶりに行われた。座席には,80年代に人気だったパソコンの機種名にちなんだ価格が付けられており,今回は6万8000円(税込)の「VIPペア席」が登場したが,司会の山下 章氏によれば,即座に完売したというからベーマガファンたちの熱量は高い。
 今回は,創刊編集長である大橋氏が電波新聞社を勇退するということもあり,多くの関係者と来場者が会場に集まった。

●ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ 出演者(敬称略,順不同)
  • 山下 章
  • 大橋太郎
  • 藤岡 忠(なにわ)
  • 土田康司
  • 古代祐三(YK-2)
  • 永田英哉(Yu-You)
  • 森 巧尚
  • 谷 裕紀彦(Bug太郎)
  • 断空我
  • 大堀康祐(うる星あんず)
  • 池田雅行(響あきら)
  • 鈴木宏治(見城こうじ)
  • 手塚一郎
  • 及川 健(編さん)
  • 増田克善(影さん)
  • 南雲津久美(つぐ美さん)
  • 倉元一浩
  • くりひろし
  • 斉藤久典
  • 中村伸彦(PANDA)
  • ベニー松山(TOMMY)
  • まかべひろし
  • 南 泰人
  • 宮崎良太
  • 山下信行(やんま)


開発エピソードから知られざる裏技まで,さまざまな情報のお蔵出し


 ベーマガを出版する電波新聞社のソフトウェア開発室が,「マイコンソフト」として独立し,当時のアーケードゲームをパソコン向けに移植していたのは,ゲームファンによく知られる話だ。イベントの第一部では「実録マイコンソフト」として,移植にまつわる秘蔵エピソードが明かされた。

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 当時ベーマガの編集長を務めていた大橋氏が,電波新聞社の副社長だった平山哲雄氏(当時)から,移植ソフトを作るように指示されたのがマイコンソフトの始まりだ。平山氏からは「ゲームセンターへ行け」というお達しがあり,気乗りしなかった大橋氏の机の上に,100円玉が山積みされたこともあったという。
 大ヒット作「ゼビウス」を当時のパソコンに移植するにはさまざまな苦労があり,オリジナルの開発を手がけた遠藤雅伸氏からは厳しい指摘があったという。このあたりの事情については,大橋氏と,伝説の同人誌「ゼビウス 1000万点への解法」の著者である大堀氏の対談に詳しいので,興味のある人は一読されたい。

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 伝説の同人誌「ゼビウス 1000万点への解法」の著者として知られるマトリックス代表取締役・大堀康祐氏と,「マイコンBASICマガジン」創刊編集長・大橋太郎氏による対談記事をお届けする。40年の時を超えて再びタッグを組んだ二人が,黎明期のゲーム業界のあれこれを語る。

[2024/02/06 12:00]

 ゼビウスのスタート時に,ステージ右端にブラスターを撃ち込むと隠しメッセージが表示される話は有名だ。しかし,X68000版ゼビウスでは,逆側の左端にスタッフの名前など数種のメッセージが隠されている。同作の開発を手がけた藤岡氏によると,その中には奥さんへのメッセージも含まれているという。当時奥さんに見せたのは記憶しているものの,今となってはどうやっても出せないのだとか。「僕らも見つけられなかったので,解析して報告してほしい」と,山下氏は来場者に呼びかけた。

X68000版ゼビウスに隠されたメッセージ。藤岡氏によれば,奥さんへのメッセージも隠したはずが,どうしても出せないとのこと
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 マイコンソフトから出たX68000用ソフトは,アーケード版を非常に忠実なレベルで移植したことや,さまざまなアレンジで知られている。
 今回は,そうしたタイトルのひとつ「源平討魔伝」のグラフィックスと音声についても秘話が明かされた。グラフィックスは,デバッグ用の機器を使って実機ROMから抽出したデータが使われているという。

アーケードアーカイブス 源平討魔伝」より,義経との戦闘シーン
源平討魔伝(tm)&(c)Bandai Namco Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co. and Nippon Ichi Software, Inc.
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 音声も,ナムコからマスターテープを借りて再録を行った。土田康司氏いわく,「基板より明瞭に喋る」そうだが,ひとつだけマスターテープではなく基板のデータを使った音声がある。それは,義経の名台詞「殺してしんぜよう!」。当初はマスターテープから再録したものを使っていたが,プログラマーから「きれい過ぎて違和感がある」という意見があり,基板のデータに差し替えられたという。
 会場ではX68000版の音声も実演された。「殺してしんぜよう!」には,基板同様にノイズが混じっているものの,これこそがゲームセンターで聞いた義経の声と感じられた。無数の音が入り交じるゲームセンターで心に残った名台詞だけに,ゲームセンターと同じものが聞く人にとっての“本物”というわけで,移植の不思議を感じさせるエピソードだ。

 「ドラゴンスピリット」の移植に当たっては,縦画面のアーケード版を横画面で再現するために,敵のアルゴリズムを目コピする職人芸が用いられている。また,ディスプレイを縦置きにして,アーケード版のような縦画面でプレイするモードが存在するものの,こちらはブラウン管ディスプレイに悪影響を与えるということで,X68000の発売元であるシャープから強く注意されたそうだ。

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 「ファンタジーゾーン」では,ディスプレイを24kHzモードに切り替えての原作再現も行われた。こちらはリファレンスにも載っていないX68000の「隠しモード」を利用している。のちに発売となったシャープ製ディスプレイは,24kHzモードに対応していなかったため,ユーザーがソフト側で画面モードを切り替える必要があり,こちらもシャープから注意があったそうだ。

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 1988年に発売となったX68000版「ボスコニアン」は,永田英哉氏と古代祐三氏が手がけた楽曲が,使われていることでも知られている。永田氏が作った曲「Little Wave」には,当初曲名の候補として「Powder Taste」も挙がっていたという。この頃,永田氏は「グラディウスII」に大いにハマっており,その影響下で作られたのが「Little Wave」だ。

X68000版ボスコニアンの音楽について思い出を語る古代祐三氏(左)と永田英哉氏(右)
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 もうお気づきの読者もいると思うが,Little=小,Wave=波であり,Powder=粉 Taste=味ということ。リスペクトを込めたネーミングであったわけだ。そのほかにも,「GET "LADY"」では,本来のX68000では変えられないオーケストラヒットの音階を変えるため,「すべての音階におけるオーケストラヒットを,録音してデータ化する」という力技を用いたという。


ゼビウス1000万点の男が,令和にスーパープレイを披露


 イベント第二部は「令和に復活! 人気連載リバイバル」と題して,「移植テクニックマスター大作戦」と「うる星あんずが全16エリアを実演!」のコーナーが用意された。

森 巧尚氏(左)と谷 裕紀彦氏(右)
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 「移植テクニックマスター大作戦」では,当時連載を担当していた森 巧尚氏と,Bug太郎こと谷 裕紀彦氏が登壇。森氏は,PC-8001で文字を組み合わせて大きなキャラクターを作るための「先入観を廃し,文字をパズルのようにして作りたいものを作る」考え方や,BASICでゲームを作るときにプログラムを短くするテクニック,これをMSXに移植するときに,スプライトを用いたときの工夫などを披露した。

N-BASICで書かれた森氏作のゲーム「BREAK FAST」。BASICで大きなキャラクターを作り,かつプログラムを短くするために工夫が凝らされた
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 ちなみに,誌面に掲載されたMSX版「BREAK FAST」のプログラムリストでは,スプライトデータの記述に10進数を使っている。本来のデータは2進数であるが,誌面掲載を考慮して文字数の少ない10進数に変換したわけだ。16進数で記述することもできたが,当時の印刷では,誌面に載せたときに小さなアルファベットは判読しにくくなることから,あえて10進数にしたそうだ。

PC-8001シリーズ用に作ったBREAK FASTを,MSXに移植したときのテクニックを説明するスライドのひとつ。ドット絵を2進数で作り,そのうえで誌面に掲載するときは,読みやすさを重視して10進数に変換したという
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 谷氏は,当時投稿した縦スクロールシューティング「GIVERS」製作時に作った設定資料や,その続編という新作「GIVERS2 AABM EDITION」を披露した。GIVERS2は,スクロールする背景やBGMが付き,多関節の腕を振り回すボスキャラも登場するなど格段にパワーアップしており,場内もどよめいていた。

谷氏作のGIVERS(上)と,登場する敵キャラの移動パターンを検討したときの資料(下)
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GIVERS2 AABM EDITIONが公開されると,場内もどよめいた。GIVERSが背景なし,敵キャラの動きもシンプルだったのに対して,スクロールする背景や多関節のボスキャラ,自機の横座標に合わせて左右に動くレーザーが登場するのだから,驚きも当然だ
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大堀康祐氏
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アストロシティの筐体に入ったゼビウス
 それに続いて行われた「うる星あんずが全16エリアを実演!」のコーナーでは,「うる星あんず」のペンネームで,ゼビウスの攻略同人誌「ゼビウス 1000万点への解法」を作成した大堀氏が,実機でのプレイを披露した。

 衆人環視の舞台上であることに加え,この日に用意されたゲーム筐体の「アストロシティ」は,80年代前半当時よりもディスプレイが大きいため,プレイ感覚が変わってくるという悪条件下でのプレイ。しかし,ステージの各所に隠された「ソル」や「スペシャルフラッグ」も出し,「グロブダー」のフェイントにも引っかからず適切な位置を爆撃するなど,大堀氏のプレイは冴え渡る。個人的には,空中物のテーブルを戻す「ゾルバク」破壊に固執していないのが印象的だった。強い空中物が来ても対応できるテクニックがあるため,こだわる必要はないということなのかもしれない。
 敵の攻撃も激しくなった後半エリアで何度か撃墜されたものの,最終面エリア16を70%越えで突破して。満場の観衆を魅了した。

エリア10の8本ソルもすべて出現させ(上),エリア14の2連続「アンドアジェネシス」も危なげなく処理(下)。何度かやられて悔しがる様子も見せたが,大堀氏は大観衆の前で見事に全エリアを攻略した
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さまざまな苦労のうえで作られたベーマガ,そして大橋編集長の勇退


 イベント最後のパートは「編集部×ベーマガライターズ メモリアルトーク」。ベーマガを作っていくうえでのさまざまなエピソードが語られた。

メモリアルトークに登壇したベーマガ編集部の主要メンバー。左から大橋編集長,「編さん」こと及川 健氏,「影さん」こと増田克善氏,「つぐ美さん」こと南雲津久美
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 ベーマガは読者から寄せられたプログラムリストを掲載しており,投稿はカセットテープを編集部に送るという形で行われていた。カセットテープは,投稿者が自分で調達しなければならないが,年少の読者にとって新品を買うのは簡単なことではなく,音楽に用いられたものから流用されることも少なくなかったそうだ。投稿のチェックを行っていた及川 健氏が見たなかには,「冒頭に,父親が演歌を歌っている声が入っており,そのあとからプログラムが記録されている」といったものもあったという。

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 投稿作を機種別に仕分けするのが,「つぐ美さん」こと南雲津久美氏の初仕事。編集長からは,「お手紙など気持ちが入っていることもあるため,必ず封を開けて中身を見るように」という指示があったのだそう。1日にダンボール1箱分の投稿が届くこともあったものの,常連の投稿は,宛名書きの文字を見るだけで分かったという。

 プログラムの掲載ページには,投稿作に「Dr.D」や「編さん」,つぐ美さんがコメントする「CHECKER FLAG」という囲み記事もあり,選考担当者がキャラクターを活かしたコメントを付けていた。Dr.Dは専門的かつ辛口のコメントを付けるというキャラ立てだったが,担当者が技術的なことを書けない場合はCHECKER FLAGに登場しなかったり,誤った知識を語ってしまったりといったこともあったのだという。

「CHECKER FLAG」では,担当者の勘違いからDr.Dが誤った知識を語ってしまうこともあったという
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 読者はゲームをするために,ベーマガを見ながら自分でパソコンにプログラムを入力するのだが,ここで思い出深いのがバグ。雑誌の発売日になると,夕方には編集部に「プログラムを打ち込んだが動かない」という電話がたくさんかかってきたという。原因が読者側の打ち間違いというケースだけでなく,誌面のプログラムリストが誤っていることもあり,原因の究明も難しい。問題が解決しなかった読者のなかには,翌日の昼休みに公衆電話から再び連絡してくる人もいたという。
 誌面の誤りを産んだ理由には,当時の制作方法によるものあった。プログラムリストを印刷したものを,切り貼りして誌面を構成していたが,貼り方を間違えてしまったこともあったのだそうだ。

 Dr.Dや「影さん」,つぐ美さんのキャラクター性が確固たるものとなったのは,漫画を交えた解説連載「パソコン・レクチャー」。「ほのぼのとした絵柄で読者が親しみやすい」ということで,くりひろし氏が担当することになったのだという。
 氏が北海道で挙式するときには,原稿を編集部へ持っていく時間が取れず,及川氏と空港で落ち合って入稿したことも。及川氏からは,原稿と引き換えにご祝儀が渡されたそうだから,気が利いている。

パソコン・レクチャーは,Dr.Dや影さん,つぐ美さんのキャラクターが親しまれて長期連載に
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 表紙のデザインを担当した斉藤久典氏も,こうした入稿に関するエピソードの持ち主だ。
 1988年1月号の表紙を制作する時のこと。斉藤氏は,電波新聞社にあるパソコン「FM-77AV」で表紙を制作していたが,年末年始でビルが閉まってしまい,作業ができなくなった。そこで大橋氏が提案した解決策は「近所のショップでマイコンを借りて描かせてもらってくれ」というもの。斉藤氏は,大橋氏の名刺を持ってショップを訪れ,なんとか機械を借りることができた……が,これで解決というわけにはいかなかった。斉藤氏は普段,ディスプレイを90度回転させた状態で作業していたが,さすがにそこまでの許可を得ることはできなかったのだ。仕方なく身体を横倒しにして作業を進めたという斉藤氏。ショップの店員も不憫に思ったのか,枕を貸してくれたという。なんとも牧歌的な時代といえるだろう。

パソコンショップ店頭の機材を使わせてもらって斉藤氏が描いたという1988年1月号の表紙
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 「チャレンジ! パソコンアドベンチャー・ゲーム」は,アドベンチャーゲームの攻略を扱ったコーナーだ。大橋氏の「とにかく画面を出したほうがいい」というアドバイスを受け,画面写真を多く使った記事となった。
 ゲームの解答をそのまま書いてしまうとゲームの寿命を縮めることになるため,ヒントに留めるようにはしたものの,ゲームメーカーの中には難色を示すところもあり,たとえば「デゼニランド」や「サラダの国のトマト姫」のように,画面を隠す例もあった。ゲームメディアの黎明期だけに,メーカーとメディアの間でさまざまなやり取りがあったわけだ。

サラダの国のトマト姫の攻略記事では,重要な場面をイラストで隠すことに。隠れている部分には,主人公や敵方のロボットが描かれていた
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 そんな山下氏が,大橋氏との思い出として挙げたのが,エニックス(当時)のアドベンチャーゲーム「ジーザス」のインタビューをしたときのこと。無事に入稿を済ませたはずが,校正が戻ってくるとインタビューのページが真っ白のままだった。どうなっているのかと大橋氏にたずねたところ,大橋氏は「原稿がどっかに行ってしまった」という答えが返ってきたという。当時の山下氏は,録音を取らずに記憶して記事を書くスタイルであったうえ,インタビューから日数が経過していたため,青ざめたそうだ。しかし,「こうした出来事のおかげで鍛えられた」と山下氏。ライターの手元に残ったデータを再入稿すればいい現代では,考えられないエピソードといえるだろう。

トラブルを乗り越えて掲載されたジーザスの記事。右下にインタビュー部分が見える
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 アーケードゲームのスコアを集計して掲載する「チャレンジ!ハイスコア」のコーナーは,大堀氏の発案によるもの。「ハイスコアを集計する店があれば,プレイヤーたちが集まるハブとなってコミュニティができるのではないか」という考えで始まったそうだ。
 各地から寄せられたスコアを集計する担当者は代替わりしているが,「見城こうじ」こと鈴木宏治氏が備考欄を作り,「やんま」こと山下信行氏は,名誉をさらに称えるべく名前やスコアを大きくするなど,それぞれに改良を加えていった。

「チャレンジ!ハイスコア」の歴代担当者たち。左から宮崎良太氏,山下信行(やんま)氏,鈴木宏治(見城こうじ)氏,大堀氏
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チャレンジ!ハイスコアがスタートした初期の誌面(左)と,しばらく経った頃の誌面(右)。名誉を称えるため,スコアやスコアラーの名前はより大きくなった
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 スコアラーたちがスコアを申請するときは,ペンネームのような名前を使うこともあったが,一時期,文字を「○」で囲んだ「囲み文字」が流行して,写植や校正のスタッフを苦労させたという。掲載した名前やスコアに誤りが出てしまうこともあり,鈴木氏がゲームセンターで抗議されることもあったそうだ。

○で囲まれた「囲み文字」が流行。写植や校正のスタッフを苦労させたことも
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 電波新聞社のゲーム書籍でもとくに有名なのが,「ALL ABOUT NAMCO」シリーズだ。攻略法だけでなく,ゲームの設定や楽譜も収録しており,何度か再版,復刻されている。資料としての価値はナムコ(当時)も認めたもの。当時編集に携わったスタッフが,別の仕事でナムコに資料を依頼したとき,自分が書いた記事が送られてくることもあったという。

 同誌ではゲームのマップも目玉のひとつ。当時は画面を撮影したものをつなぎ合わせていたが,源平討魔伝は1ページ分の画面写真が十数m分もの長さになったこともあったという。画面を撮影するといっても,アーケードゲーム基板の中には,ポーズ機能がないものもある。その場合,基板のICにボタンをハンダ付けして,即席のポーズボタンを作っていたそうだ。失敗するとゲームが暴走することもあったそうで,当時ならではの苦労がうかがえる。

こちらは「パックランド」のマップ。画面を何度も写真撮影して,これらをつなぎ合わせて作られた労作だ
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 会場では,電波新聞社を勇退された大橋氏に向けて,ベーマガ関係者と来場者が揃って「大橋編集長,ありがとうございました!」と心からのお礼を述べる一幕も。大橋氏は「自分は後期高齢者だが,後期は好奇心の好奇。遊んでいるような,楽しんでいるような態度で新しく仕事をやっていきたいので,皆さんも頑張ってください。こんな素晴らしい体験を次の世代へ伝えて欲しい。そのためのツールは私たちで作りましょう」と会場に向けて呼びかけた。

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つぐ美さんから大橋編集長へ花束が贈られた
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サプライズ発表も盛りだくさん


 このイベントでは,山下氏からいくつかのサプライズ発表が行われているので,最後にまとめておこう。

●PasocomMini PC-8801 mkII SRが発表
 1985年登場のホビーパソコン「PC-8801 mkII SR」を復刻した「PasocomMini PC-8801 mkII SR」が,マイコンソフトから発売されることが発表となった。

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 詳細は2024年8月8日に改めて告知されるとのことだ。詳しくは以下の記事を参照されたい。

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 開催中のイベント「ALL ABOUT マイコンBASICマガジン III」で,1985年に発売されたNECの8ビットマイコン「PC-8801mkII SR」を復刻したミニゲーム機,「PasocomMini PC-8801 mkII SR」が発表された。価格や発売時期など,詳細については2024年8月8日に改めて告知するという。

[2024/05/18 16:43]


●「チャレンジ!! AVG&RPG」シリーズ復刻
 さまざまなアドベンチャーゲームやRPGの攻略法を掲載した「チャレンジ!!パソコンAVG&RPG」シリーズが復刻されることに。山下氏によると,オリジナルの大きな判型は維持しつつ,再編集的なものになるかもしれないとのことだ。

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●「クラシックゲーム ワールドミュージアム」オープン
 山下氏が秘蔵のコレクションを使い,1980年代前半までのゲーム黎明期をまとめていくWebサイト「クラシックゲーム ワールドミュージアム」がオープンした。これまであまり触れられてこなかった時期の情報を,未来に向けて残していきたい,ということで今後更新が行われていくという。

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 イベントは6時間を超える長丁場となったが,非常に充実した内容で,時間があっという間に過ぎていったという印象だ。会場で明かされた秘話は貴重なものばかりで,映像ソフトや書籍などの形でもまとめてほしいと感じた。

ALL ABOUT マイコンBASICマガジンⅢ 特設Webページ

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