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デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか
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印刷2021/12/29 00:10

インタビュー

デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか

 のっけから恐縮だが,そもそもの話としてゲームというコンテンツと投資の相性は,あまり良くないと思われる。クルマやスマートフォンなどと違って,その国の経済やGNP/GDP,人口増加などとの関連性が乏しく,金融や投資の世界における計算ありきの方程式がほぼ通用しない。成功/失敗の予測が大変に立てづらいのだ。

とはいえ確実に成長している世界のゲーム産業。発展の先にはさらなる変革が待っていることだろう(画像はNewzoo「グローバルゲームマーケットレポート2021」より)
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 大きく投資したタイトルであっても普通に大失敗したり,数人のチームのインディータイトルが一夜にして大ヒットしたりする。どれくらいのお金をデベロッパに投下し,どのIPを使ってどのエンジンを採用し,どういうゲームを作ればどれくらい儲かるのか……という方程式は,いまだに解明されていない(または存在しない)。
 それ故,ゲーム業界では自分達の中ですら,専門的にゲームへの投資を行うファンドがほとんど存在しない(同じエンタメで言えば,映画などはそれに近いものがあり,映画「そのもの」に対する投資ファンドもほとんど存在しない)。日本のゲーム業界でも投資に熱心な会社はいくつかあるが,それらの多くは“ゲーム専門“というわけではない。ゲーム業界以外に目を向けても,投資信託の商品にテーマとして組み込まれることはあっても,やはり単独でフォーカスされることはまずない。

 ところが海外に目を向けると,ゲーム専門となる投資ファンドがそれなりの数登場してきている。ゲームは,ここ数年の業界の変貌に伴ってファンドの投資対象として成熟してきており,「これなら」というレベルにまで上がってきているということだ。
 そんな海外のゲーム専門のファンドの1つがフィンランドを拠点とする「Sisu Game Ventures」なのだが,このファンドに対してマイノリティ投資を行う投資家という立場で,国内では初めてとなるゲーム特化型のベンチャーキャピタル(VC)ファンドである「EnFiグローバルイノベーティブテクノロジー匿名組合」(EnFi)が組成された。

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 EnFiは本日,新たな投資ファンドとなる「EnFiグローバルイノベーティブテクノロジーファンド」の組成を発表した。同ファンドは,日本初のゲーム特化型ベンチャーキャピタルであることが特徴で,投資の第1号として,フィンランドのゲーム特化型ファンド,Sisu Game Venturesに投資を行うという。

[2021/11/01 10:42]

EnFi 公式サイト

Sisu Game Ventures公式サイト


 停滞気味の足音が聞こえ始め,再編やM&Aなどが急激に進む日本のゲーム業界に,ファンドマネーはどのような影響を及ぼすのだろうか。
 ファンドの規模もLPも,本稿執筆時点(2021年12月25日)では開示されていないが,一足先に代表取締役の垣屋美智子氏に,その目指すところを聞いてみた。

EnFi 代表取締役 垣屋美智子氏
画像集#003のサムネイル/デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか

4Gamer:
 本日はありがとうございます。まずは……そうですね,ゲームメディアにはあまり登場しないタイプの方なので,自己紹介的なものからお願いしてもいいですか?

垣屋氏:
 はい。じゃあまず経歴から……。
 私自身は日本人なんですけど,育ちは香港です。高校まで香港にいて,そのあとはアメリカの大学にいって。そのころ…… 90年代前後なんですが,日本を海外から見ていたんです。そしたらゲームって,日本の中でも「輝いている業界」みたいな感じだったんですよね。

4Gamer:
 それまでの積み重ねを足場に,まさにどんどん上っていく途上だった気はします。

垣屋氏:
 そうなんですよ。ですので,日本に帰って就職するのなら,やはりゲーム業界かなぁと思って,それでSCEに入社しました。

※ソニー・コンピューターエンターテインメント。1993年11月に設立され,翌1994年12月3日に初代「プレイステーション」を日本で発売する。2016年4月1日付けの組織再編で米国Sony Network Entertainment Internationalと統合,「ソニー・インタラクティブエンタテインメント」(SIE)となる。

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 20年以上にわたって「PlayStation」ブランドを支えてきたSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)の名称が事業統合によって消え,新たにソニー・インタラクティブエンタテインメントという新会社が発足する。今週は,北米ゲーム市場のさまざまな事情を絡めつつ,改めて今回のニュースを取り上げた。

[2016/02/01 12:00]

関連記事:SCEとSNEIの事業組織を統合した新会社「Sony Interactive Entertainment」が4月1日に設立。SCEの社名も変更に


4Gamer:
 そんな軽い気持ちで(笑)。
 私はソフトバンクの出版部門出身なんですが,当時は赤坂にオフィスがあったのでSCEのビルがすぐ近くで,ゲーム関係の編集者は近くてラクでいいなーって思ってました。

垣屋氏:
 はい,はい。赤坂御用地の前のところですね。
 それで開発部に入ったんですけど,私は別にエンジニアとかではないんですね。

4Gamer:
 入社はいつごろですか?

垣屋氏:
 2001年ですね。

4Gamer:
 PS2の全盛期だ。

垣屋氏:
 そうです! ちょうどPlayStation 2が出て,PSP(PlayStation Portable)が開発中で。もうホントにSCE全盛期みたいなタイミング。
 あのころは,最先端のものを次に作るためにすごい勢いで技術を集めなきゃいけなかったんですね。それをどうやって集めたかというと,もちろんこれはソニーの内部で優秀な人がうんうん唸りながら考えたわけではありません。
 世界のゲーム会社にいろいろ作ってもらって,それを採用するという手を取ったんですね。そういうシステムが開発部の中に作られたんですけど,私はそこを担当しました。「Tools & Middleware Program」というものなんですが,PlayStationの開発機を貸し出すので,それを使って何か新しいアイデアを作ってください。作れたらサンプルをください,みたいな感じです。

※現在はPlayStation® Partnersと呼ばれる,ゲーム開発者が制作環境を構築するのに必要なソフトウェア群,または組み込まれるソフトウェアの部品(ライセンスプログラム)。

4Gamer:
 当時の4Gamerは完全にPCゲーム専門メディアだったのでよく分かってませんでしたが,なるほどあのシステムはそのころからあるんですね。

垣屋氏:
 そうなんです。ある意味,いまで言うベンチャーキャピタル(VC)みたいなものですよね。とはいえ当時はまだ,ゲームって投資の対象じゃないんですけどね。

4Gamer:
 そうでしょうね。ちょっとリスクが高すぎて。

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垣屋氏:
 当たるか当たらないかわからない,そういうもの(笑)。
 なので,Tools & Middleware Programというライセンスプログラムで開発ツールを貸与するという感じで。

4Gamer:
 しかしなかなかの大仕事ですね,いきなり。

垣屋氏:
 そのときのSCEはまだ小さかったので。英語もしゃべれるし,世界の会社とコミュニケーションくらい取れるよね? みたいな適当な感じでその担当に(笑)。
 でもそういう仕事で,いろんなゲーム会社やVC,スタートアップなどの皆さんとお付き合いして情報をもらっていくうちに,「なるほど,ゲームってこうやって進化していくんだ」みたいなことがだんだん分かってきたかな,というのはありますね。

4Gamer:
 そのころの経験がいまにつながって?

垣屋氏:
 もう一段階ありましたね。PSPの立ち上げにも関わって,PS3がちょうどローンチした年(2006年),なんとなくゲーム業界の流れは見えたかといったところで,SCEを退職して投資銀行に行ったんです。

4Gamer:
 ゲーム業界の開発部署から投資銀行ですか。

垣屋氏:
 はい(笑)。
 そこでテクノロジーのアナリストとか,ゲームのアナリストというのをずっとやっていたんですけど,私がSCE時代や投資銀行時代にスタートアップのゲームの企業などから得ていた情報って,なんて言うか,ちょっと早すぎたものだったんですよね。

4Gamer:
 今も昔もゲームって,新しいテクノロジーが集まる場所ですし。

垣屋氏:
 そうなんです。投資銀行と運用会社のアナリストを合わせて10年やっていたんですけど,私がSCE時代に培ったテクノロジーの知識に,どんどん世の中が追いついてくる,みたいな状況が本当にあって。

4Gamer:
 実際にそんなスピード感だったんですね。

垣屋氏:
 いまでもそういう感じはありますよ。何かテクノロジーの進化が起きると,それがまずゲームに来て,だんだんITに移動していって,最後に車,みたいな(笑)。

4Gamer:
 ああ。タッチパネルとかもそんな流れでした。

垣屋氏:
 やっぱりゲームのテクノロジーってすごい最先端だし,そこに関わっていけることをやりたいと思ったので,独立してファンドを作るときに,「ゲームのファンドを作りたいな」と思って今に至るという感じです。

4Gamer:
 なるほど。
 経歴を聞いたあとで「なんでファンドを立ち上げようと思ったんですか?」ってきっかけを聞こうと思ってたんですけど,全部話されてしまいました……。

垣屋氏:
 あはは(笑)。

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どこかに買ってもらってEXITするというエコシステムが完全にできあがっている


垣屋氏:
 それで投資銀行で,ずっとゲーム業界の上場株を見たりもしてたんです。私は2006年にゲーム業界から株式業界に移ったわけですけど,ある意味ではそのときがゲーム業界の時価総額のピークだったんですね。
 そのあとはプレイヤーが変わって……例えばディー・エヌ・エーさんとかグリーさんとか,ソシャゲ系を扱うプレイヤーが日本でどんどん台頭し始め,海外でもたくさん生まれてと,活発になってきて。

4Gamer:
 業界的にはターニングポイントみたいな時期でしたね。

垣屋氏:
 そうですね。なのでそういうのを見ていて,これは上場よりも未上場企業のほうが面白いんじゃないかと思ったのもあって,ファンドをやるなら未上場かなぁ,と。

4Gamer:
 ゲームのファンドって意外にもそんなにないんですよね。とくに昔は,ほぼ皆無だった気が。

垣屋氏:
 ほとんどないですね。そもそもゲームのファンド自体生まれたのが2015年ぐらいだと言われてますし。

4Gamer:
 そんなに新しいんですか。

垣屋氏:
 さっきもちょっと話に出ましたが,ゲームを作ることってギャンブルですからね。当たるか当たらないか分からないものは,投資の対象にならないんです。

4Gamer:
 でもVCって,そもそもハイリターンを狙うものですよね。

垣屋氏:
 そうですね。

4Gamer:
 リスクを背負ってハイリターンを目指すなら,ゲームというジャンルは意外と向いてそうなんですけど。

垣屋氏:
 なんと言いますか,「確率があるものに投資する」というのが信条ですから。

4Gamer:
 あ,なるほど。分かりました。

垣屋氏:
 ゼロイチじゃダメなんです。

4Gamer:
 成長曲線とかも描きづらいですしね。

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垣屋氏:
 いまおっしゃったようなこともあって,それまでは“投資”という観点では見てもらえない業界だったんです。なにしろ一番の問題は予測を付けづらいことです。
 それこそ自動車だったら,GDPと同じ成長率で台数が……みたいなことが言えるんですけど,ゲームはそういう部分が当てにならないから,投資対象としてみるのはすごく難しいという。

4Gamer:
 よく分かります。

垣屋氏:
 でも最近では流れがちょっと変わってきて。何が変わってきたのかというと,ゲーム業界そのものが変わってきたんですね。

4Gamer:
 先ほどの話つながりで言うならプラットフォーム的な?

垣屋氏:
 そうです。昔は事実上PCとコンソールだけだったんですけど,いまではスマホもそうですし,eスポーツなんかも影響してPCにも違う波が来てますし,多岐にわたってきているんです。
 だから「ゲーム業界」って言っても,一つのセグメントで語ることができなくなってしまってますよね。

4Gamer:
 確かにそれは感じます。VRもそうですし,もっと広い意味で言うならアニメ展開や映画展開なんかもそうでしょう。示す対象が広がっていますよね。

垣屋氏:
 昔だったら,XboxかPlayStationのどちらかを見ていればよかったようなものが,いまはそうではなくなってきてます。どのエリアにもプレイヤーがいなきゃいけないというのがいまのトレンドですよね。

4Gamer:
 マルチ展開的な意味ですか。

垣屋氏:
 それも含めて,どこもです。最近だとeスポーツ大会なんかもそうですよね。

4Gamer:
 あぁ……例えばTencent的な。

垣屋氏:
 まさにTencent的なあれです。まぁでも,そういうことってMicrosoftも普通にやってますよね。あとヨーロッパにMTGという会社があって,ESLとかドリームハックの親会社なんですけど,そこもかなりやってます。

MTG(モダン・タイムス・グループ),eスポーツ事業のESLとDreamHack,ゲーム会社のInnoGames,Ninja Kiwi,Kongregate,デジタルネットワーク会社のZoomin.TVなどユニークなポートフォリオを持ち,戦略・運営投資持株会社として活動している。

ESLはドイツの会社で,もっとも古くからeスポーツを事業として運営している会社。自身の名を冠した「ESLプロリーグ」だけでなく,インテルの「IEM」(Intel Extreme Masters)などの運営も行う。2015年7月,MTGが株式の74%を取得し,MTGの傘下となった。

DreamHack(ドリームハック)は,同名の世界最大LANパーティーを運営する会社。本社はスウェーデン。前述のモダン・タイムズ・グループ(MTG)の完全子会社。


4Gamer:
 まぁ世界の大手はほとんどやってますよねそういうことは。

垣屋氏:
 彼らの戦略は,まず最初にベンチャーキャピタル,うまくいったものがあったらそれを自分たちで買って取り入れる,と。

4Gamer:
 シードではないんですね。

垣屋氏:
 違いますね。シードを買って育てるというよりは,シードはVCとかにやらせて,そこでふるいにかける(笑)。でも,いまのゲーム業界って割とそんな感じですよね。

4Gamer:
 そうですね,M&Aありきで。

垣屋氏:
 スタートアップにしても,自分たちが上場するというよりは,どっかに買ってもらうことでEXITするというシナリオで,その流れのエコシステムが完全にできたという感じですね。

※EXIT(イグジット/エグジット)とは,ベンチャーキャピタルなどの投資ファンドの投資先について,第三者に株式を売却したり,IPO(株式公開)したりすることで,資金を回収して同時に利益を得ること。

ファンド設立時のリリースにあった,ゲーム特化型ベンチャーキャピタルによるエコシステムの構想
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4Gamer:
 日本ではまだそういうムーブメントは来てないと思うので,それは世界での話ですよね。

垣屋氏:
 そう,日本ではないです。でも世界ではこれが起きていて,かなりスピードが速いんですよね。ここでわざわざ言うことでもないですが,何かが起こるスピードがすごく早まっていて,ゼロから作るみたいなところを頑張る,そのことがすでに遅い理由になってきているという感じが最近の潮流ですね。

4Gamer:
 流れに置いていかれそうなのは,なんとなく感じます。


VCマネーが及ぼす変革は,開発会社にとってもプラスの要素が大きいはず


垣屋氏:
 今回のSisuなんかもそうなんですけど,海外のゲーム特化型のベンチャーキャピタルの何がすごいかと言うと,ただの投資家やベンチャーキャピタリスト,ファンドマネージャーみたいな人達が,ただ単にお金を集めて投資しますというものじゃないんです。

4Gamer:
 というと?

垣屋氏:
 「ゲーム会社で1回EXITした人」……例えばTencentに売ったとか,Microsoftに売ったとかElectronic Artsに売ったとか,そういう人ってまとまったお金を持ちますよね。

4Gamer:
 はい。

垣屋氏:
 その人達がベンチャーキャピタリストになるわけです。

4Gamer:
 なるほど,投資の知見だけでなくて業界の知見とノウハウがある,と。

垣屋氏:
 そうです。まず自分のお金があって,スタジオの立ち上げ方のノウハウがあって,みたいな。

4Gamer:
 ということはハンズオンなんかもできる人ばっかりなんですね。

※お金を出す側が,投資先にボードメンバーなどを派遣して経営に深く関与すること

垣屋氏:
 できますね。

4Gamer:
 元々自分達でやっていたわけですしね。

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垣屋氏:
 もちろん,会社の作り方や立ち上げ方も教えられるし,あとは業界内でのネットワークみたいなものも伝えられるし,勝率はかなり高くなると思います。ベンチャーキャピタルの中でも,ゲーム特化型はうまく機能している感じはありますね。

4Gamer:
 いま聞いてる感じだと,それはたぶんシーディングがメインですよね。

垣屋氏:
 おっしゃるとおりです。

4Gamer:
 この動きの速いゲーム業界で,いまシードにお金出して,その開発が進んで2回目の投資,3回目の投資とフェイズが進んで,完成するころには時代遅れになってる可能性はありませんか? 少なくとも,そのリスクは無視できるものではないと思うんですが。

垣屋氏:
 懸念されるポイントはなんとなく分かりますが,でもそれは大丈夫です。ベンチャーキャピタルで投資してるような会社ならほとんどが,1年以内には1本作っちゃいます。

4Gamer:
 はやっ。

垣屋氏:
 すごく速いんですよ。たぶんいまお考えだったのは,まず企画を作って会議を通して……。

4Gamer:
 はい。それです(笑)。

垣屋氏:
 そうやって慎重になるのは,やっぱり「絶対にお金を無駄にできない」って思うからでしょう。でもベンチャーキャピタルに投資を受けると,極論それは返す必要がないお金なんです。いくら売れというノルマもないので,もっと自由に作れるんですよね。

4Gamer:
 逆に制約から解放される,と。

垣屋氏:
 今世界でインディーズタイトルがすごい勢いで生まれているのって,その影響もあるんです。優れたインディーズがベンチャーキャピタリストからお金をもらって作るときには,エッジの効いたものを求められて,スタジオはそれを作れて。

4Gamer:
 なるほど。それならこの話の最大のメリットって,お金があるのないのっていう表面的な話とは,そもそも違うところにあるんじゃないですか?

垣屋氏:
 と言いますと?

4Gamer:
 例えば弱小のデベロッパーとか,いいアイデアがあって熱意もあるけどお金がないデベロッパーとかそういったところが,お金を得ることによって……何と言いますか,立場が上がりますよね。立場っていうか……なんか言い方が難しいんですが(笑)。

垣屋氏:
 そう! まさにそうなんですよ。そこが重要なんです。

4Gamer:
 名の知れたデベロッパでさえ,けっこうな下請け仕事をしているわけですが,それをしなくて済むことになるメリットは大きいかな,と思います。

垣屋氏:
 ええ。例えばアメリカにはVelan Studiosという会社があるんですけど,その会社がベンチャーキャピタルから700万ドルぐらい(約8億円)調達したんですね。それでゲームを作ってEAに持っていったんですが,これはEAのお金で作ったものではないので,下請けじゃなくて完全に対等な契約になるわけです。
 Velanは,Switchの「マリオカート ライブ ホームサーキット」の開発元でもあるんですけど,これもちゃんとホームサーキットの製品ホームページに載ってます。任天堂のお金で開発した下請けの作品ではないということなのでしょう。

Velan Studuiosが開発した「マリオカート ライブ ホームサーキット」,4Gamerの会議室でカートを走らせた人もいた。当時の記事は「こちら
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4Gamer:
 なるほど。

垣屋氏:
 すでに海外においては,ベンチャーキャピタルマネーが入ることによって,旧来のエコシステムは変わっています。
 日本ではどうかと言うと,今まさに少しずつ起きようとしているんです。クオリティの高いゲームで育った人たちが,いまデベロッパになってるわけですしね。

4Gamer:
 世代的にまさにそんな感じだと思います。

垣屋氏:
 いい人材が“いるに決まってる”国が日本で,世界がそこに手を付けないはずがない(笑)。みんな狙ってるというのが今の状況ですね。

4Gamer:
 最近だとTencentとNetEaseはほんと激しいですね。

垣屋氏:
 確かに。でも,その2社に限らず,例えばSisu Game Venturesなんかも日本の会社に投資してますし,これからけっこう来ると思いますよ。


シードで少額投資を大量に行うことによって見えてくるものは,次の投資に必ず役立つ


4Gamer:
 しかし今までのお話を聞いてる限り,もしSisuがお金を入れたら,黙ってじーっと見てるような感じじゃなさそうですよね。

垣屋氏:
 もちろんお金だけを出すこともありますし,そうじゃないこともあります。……でも彼らとかだと,逆にファンドとして会社を作っちゃう場合もあり得ますね。

4Gamer:
 そっちもですか。

垣屋氏:
 例えばクラウドゲームを作りたいというぼんやりしたものがあるとして,それに詳しい人を用意して,その人を通じたネットワークもあるので人を探しつつ,この人たちはちょうどEXITしたところだから起業できる,みたいな人たちを集めて会社を作って……。

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4Gamer:
 軽いなぁ……いや軽いわけないんですが。

垣屋氏:
 そこにはSisuのメンバーもアドバイザーみたいな形で入って,しっかりインキュベーションするみたいな感じで。お金も出すし,計画的に作ることへのフォローもきっちりやって勝率を上げているという感じですね。

4Gamer:
 なるほど。そういう体制だから,一年で1本とか出せるんですね。

垣屋氏:
 そうなんですよ。

4Gamer:
 最新の動向はちょっと分かりませんが,日本だとスマホゲームの開発で2,3年かかったりするわけで,出るころにそれは一線を張れるのかとちょっと心配になります。

垣屋氏:
 そうですね。なので,彼ら(Sisu)が日本の会社に投資するだけじゃなくてインキュベーションするのもアリだと思うし,逆に日本の会社さんがSisuに投資することによって,世界の状況を“投資家”として見るのもいいと思います。

4Gamer:
 最先端の情報が入ってきそうですね。

垣屋氏:
 ある意味協業……じゃないですけど,日本の会社さんが海外進出するなり,海外のものを日本に持ってくるなり,そういうこともできるんじゃないかと。

4Gamer:
 SisuのLPでゲーム会社って結構いるんですか?

※Limited Partnershipの略で,訳どおりに有限責任を持つパートナーのこと。簡潔に言うと,出資者。

垣屋氏:
 いますいます。TechCrunchですでに名前が出てますが,SonyとUbisoftとSupercellが,すでに出資者となっています。

外部サイト:SEC Form D filing reveals new $50M Sisu Game Ventures fund aimed at gaming startups(TechCrunch)


4Gamer:
 なかなかのラインナップですね。日本の会社は?

垣屋氏:
 それがまさに私たちの仕事でして,日本の会社さんはEnFiでやらせてもらってます。

4Gamer:
 なるほど。
 ……しかしSisuに直で投資しないメリットは何があるんでしょうか。EnFiを通してもそのままSisuにいくわけですよね。

垣屋氏:
 “日本のファンドで海外投資できる”というのはどうですか。最初から最後まで日本語でできることは,けっこうハードルを下げると思うんです。

4Gamer:
 なるほど契約もEnfi相手になるわけですね。通貨は?

垣屋氏:
 もちろん日本円で大丈夫です。

4Gamer:
 バックオフィスの人達の手間が結構軽減されるかもしれませんね確かに。

垣屋氏:
 そうなんです。契約書も,単に英語であるという以外にも,お金周りとか税制の用語とかいろんな要素が入るじゃないですか。ものすごく大変だと思うんです。

4Gamer:
 基本的にEXITはどこかに売却ですか?

垣屋氏:
 それが基本ですね。今までのSisuはファンドとして小さかったので,大体そういう感じでした。でも今回は外部のお金を入れて,50ミリオン……大体55億円ぐらいのファンドにはなったので,IPOもちょっと入れていくんじゃないかと思ってます。

※IPO(新規公開株/新規上場株式)は,Initial Public Offeringの省略系。未上場企業が,株を投資家に売り出して証券取引所に上場し,株取引を出来るようにすること。

4Gamer:
 なるほど。でも基本コンセプトは変わらないんですよね。

Sisuの公式サイトを確認してみると,ポートフォリオのところにずらりとロゴが並んでいた。確かに大量に種をまいている(シーディング)ように見える
画像集#009のサムネイル/デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか
垣屋氏:
 はい。基本的にはシードで,少額を出して……という感じのスタイルですね。少額なので何十社にも投資できますし,そこまでの数の投資をすることで,逆に見えてくるものもあるわけです。

4Gamer:
 業界の流行りとか潮流とか?

垣屋氏:
 そうですね。なのでますます投資の勝率が上がって…… という,いい循環に入るわけです。

4Gamer:
 確かにそれだけの数お金を入れたら,いろいろなものが見えてくるかもしれませんね。


海外のベンチャーキャピタルからお金を引っ張るために,まず海外向けのプランを練ったほうがよい


垣屋氏:
 でも実はこのサイズの投資相手って,とても探しづらいんですよね……。

4Gamer:
 会社ですらないことが多いかもしれませんね。

垣屋氏:
 そうなんです。Sisuの場合は,ペーパーの段階(企画段階)で投資するかしないかを決めるんですが,それでもなかなか……。

4Gamer:
 ペーパーの段階で企画を見てるGPの人たちが,業界で場数を踏んでいる人たち?

※GP(General Partner)とは無限責任組合員のこと。ファンドの運営に責任を負う組合員のことで,いわゆるファンドマネージャーのポジションを担うことが多い。その名のとおり「代表パートナー」と呼ばれることもある

垣屋氏:
 はい。3人いるんですけど,その3人は90年代くらいから15社ぐらいのスタジオを立ち上げている。立ち上げてEXITして,立ち上げてEXITして,という連続起業家ですね。

※この3名はそうそうたるメンバーだ。まず,Samuli Syvähuoko氏。彼は,「Max Payne」の開発元として知られるRemedy Entertainmentの創設者の一人だ。次に,UberやUnity,Nianticなど200社以上の会社と幅広く携わっている,Paul Bragiel氏。そして3人目は,ノルウェーに本拠を置く大手ゲーム会社Funcomの創設者およびCEOを務め,その後もATARIやElectronic Arts,Disneyなどでキャリアを広げた"エリックG"ことErik Gloersen氏だ。

4Gamer:
 ホントにそういう人達がシーディングしてるんですね。

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垣屋氏:
 そこももちろん魅力なんですが……例えばこう,100億ドル級の時価総額の会社だったら,まぁ買収とかは絶対できないわけじゃないですか。でもこっちの場合は,買収も可能なサイズなんですよ。ちょっとSisuが投資してみて,いい感じだなーと思ったら例えばEnFiファンドに投資している事業会社が買っちゃうとか,そういうことが出来るくらいの規模ですね。
 なので今回いろいろ見てみて,ゲームベンチャーキャピタルの中でもSisuが一番いいなと思ったんです。


4Gamer:
 コンテンツを探し回ってる中堅〜大手さんも好きかもしれませんね。とくに世界の大手はとにかくM&Aしたがってますし。

垣屋氏:
 M&Aって,カルチャーフィットとかがすごく難しいじゃないですか。ファンドを通して1年とか2年とか見ておけば,その間に判断できますし,いいと思いますよ。売り込まれてすぐに判断せざるを得ず,そこで失敗する会社さんってけっこうありますし。

4Gamer:
 デューデリやってもカルチャーとか「合う/合わない」は分からないですし,見ておくのは確かにお互いにとってよさそうです。

※デューデリジェンス(Due Diligence)を「デューデリ」「DD」などと略称で呼ぶこともある。投資やM&Aを行うときに,その対象となる企業が持つ価値やリスクを調査すること。

垣屋氏:
 小さい段階であれば協業できるし,もし相性がよければ「このまま一緒にやる?」とかもできるし。どっちかの国にオフィスを構えて海外展開の足がかりにしたりとか,そういうときにも便利かと。

4Gamer:
 海外展開で,いまだにちょっと二の足を踏んでしまう会社なら,大きなメリットかもしれませんね。

垣屋氏:
 日本で老舗と言われているゲーム会社で,今後どうしようかと考えている会社に対しても,日本でスタートアップしてここから世界に展開していくという会社でも,お役に立てると思いますよ。

4Gamer:
 しかしゲームは「嗜好品」ですから,最初のプランニングが肝ですね。

垣屋氏:
 そうそう! だから日本で成功した“から”海外に…… ってなるとそれは割とダメなことが多くて,なにせ日本で売れるものと海外で売れるものは違いますし。そういう意味では,日本の起業家の皆さんは,海外のベンチャーキャピタルからお金を引っ張るために,まず海外向けのプランを練ったほうがいいと思います。

4Gamer:
 海外の会社は最初から普通に世界展開を念頭に置きますしね。
 ワールドワイドのお金を入れることによって,必然的にワールドワイドを目指すようになるというのは,流れとしてはいい方向なんじゃないかと思います。

垣屋氏:
 ええ,そういう方向もアリだと思うんですよ。

4Gamer:
 日本はお金のことを表立って口に出すのはなんとなく品がない……みたいなイメージがまだ少し残っている気がするので,そういうカルチャー的な部分から見ても投資とかM&Aとかファンドとか,ちょっと敬遠しがちな傾向がまだまだ抜け切れてないと思うんです。

垣屋氏:
 そういうのありますよね。あと,なんでもお金で買ってくるのはよくない,とか。

4Gamer:
 あー,ちょっと分かります。特に,アートとかエンタメ的な話には付いて回りそうですね。

垣屋氏:
 お金払って作らせるものは良くない,みたいな。でも実際は下請けにバンバン(笑)。

4Gamer:
 でも大手ゲーム会社でも,全額出して作らせてるのにお金を出したことは一切外に出さないとかが普通にあるので,そういうイメージって意外に根強く残ってるのかもしれません。


日本のように下請けの開発会社が苦労する状況だと,ゲーム業界は伸びていくのが難しい


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垣屋氏:
 あとSisuのようにゲーム特化型VCのメリットに,プロジェクトがなくなったり会社がツブれたり,何かの理由で手が空いた開発者がいたら「じゃあこっちの投資先を頼む」みたいなこともできるんですよね。VC側にはネットワークがあって,ゲーム企業に集まる開発者にはすごくいい人材が多いので。

4Gamer:
 先端のテクノロジーを把握している人たちですし。

垣屋氏:
 とくに最近は,昔よりスピードを増して新しいものがどんどん生まれてきていますけど,そんな状態でもなお「いい情報」というものを彼ら(Sisu)は持っているんですね。まだ世の中で話題になってないようなことまで含めて。

4Gamer:
 その情報をもって次のビジネスを作る?

垣屋氏:
 そうなんですよ。海外ではやはり,みんなが得してうまく回るようなシステムが成立してると思うんですね,ゲーム業界においても。だから業界がどんどん伸びていく。
 日本のように下請けの会社が苦労するみたいな状況がベースにあるのは,ちょっと伸びていくのが厳しい業界になってしまうと思うんですね。

4Gamer:
 なるほど……。

垣屋氏:
 投資したら,投資家にはリターンが出てハッピーだし,投資されたほうは,自分の事業が大きくなって売却できてハッピーだし。
 そういうふうにみんながハッピーになれるシステムが,ちゃんと機能してるんですよ。

4Gamer:
 なんであれお金の心配をしなくて済むのは,デベロッパにとってかなりハッピーだと思います。

垣屋氏:
 銀行借り入れでもなく,業務委託でもなく。

4Gamer:
 そうでなくても銀行はあまり貸してくれない感じがしますが……。
 そういえば最近は,スマホゲームもコンソール並に開発費がかさむようになってきていますが,スマホゲームもターゲットに入っていますか?

垣屋氏:
 北欧って,クラッシュ・ロワイヤルとか,そういうのが生まれた国ですから。

4Gamer:
 あ,そうか。そもそもSupercellがそうですね。聞くだけ野暮でした。

垣屋氏:
 そう,最初からスマホなんですよね。カルチャーがNokiaからスタートしていると言うのか。なのでスマホ文化がけっこう強くて,Sisuもスマホが多かったです。

4Gamer:
 そうなんですね。

垣屋氏:
 まあでもいわゆる「ガチャゲー」は対象外だと思います。なんて言うか…… しっかり遊べるゲームとか。

4Gamer:
 表現が難しいですね…… うーん,北欧ですし,Angry Birds的な?

垣屋氏:
 そうですね。ゲーム性をウリにしていると言ったらいいですか。

4Gamer:
 その場合でもとくにSisuの方針は変わらずですか。

垣屋氏:
 お金だけ出すからあとは頑張ってください,みたいなパターンもゼロではないですが,結局それはその人たちがどこまでできるのか,ということによります。
 自力で走りたいならその方向でバックアップするし,お金が足りなければ出すし,もちろん出した分の回収をどこかでしたいですけど。

4Gamer:
 バックアップとかサポートというのは具体的にはどんな?

垣屋氏:
 人材の紹介なんかが多いですね。でもクリエイターの方たちは制作作業や会社のカルチャーを邪魔されることを嫌がる人が多いですから,様子を見ながら距離感をちゃんと保ちつつ……みたいな。

画像集#012のサムネイル/デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか


パブリッシャーの見識を広げることで日本のゲーム業界を変えていきたいし,そのための第一歩となりたい


4Gamer:
 聞いてると投資される側の話ばかりになってしまいがちですけど,実はこれLPという観点でも結構重要な話じゃないですか?

垣屋氏:
 そうなんですよ。日本のパブリッシャーさんとかにVCのLPになって「VC側から見る」という視点を提案したいんです。
 こういうベンチャーキャピタルマネーで作ったゲームが,今までどおりにパブリッシャさんのところに行くかというと,たぶんそうじゃないですよね。Steamだけでいいやって思われかねないし,なんなら別に海外のパブリッシャだけでいいとか。マルチプラットフォームで出しやすいし。

4Gamer:
 大手のデベロッパでさえ,昔に比べたらずいぶんとSteamでゲームを出すようになっている時代ですしね。昔はPC版なんて作ってなかったのに。

画像集#013のサムネイル/デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか
垣屋氏:
 パブリッシャさんの方ではどんな対策を考えてるのかな? と思ったりもします。

4Gamer:
 ゲーム会社を作って,うまいこと審査に通ってSisuからお金もらってシーディングされて,タイトルを作ったときにもちろんグローバル版も一緒に作って……。
 そこからパブリッシャを探して持っていって交渉するなんてことをするくらいなら,別にSteamでいいやってなるかもしれませんね。

垣屋氏:
 ですよね。日本でも何か特別なマーケティングをやってくれるなら考えようかな,みたいな。

4Gamer:
 パブリッシャという存在がちょっと危うくなってきている?

垣屋氏:
 いや,まさにそうです。音楽業界なんかが実際,そうなってきてるわけで。

4Gamer:
 なるほど……。ゲーム業界がそうなってもおかしくないですね。

垣屋氏:
 なので,こういう動きが海外では主流だというところを,まず知ってほしいんです。

4Gamer:
 最近は大手に所属していたクリエイターさんたちの独立も目立ちますし。

垣屋氏:
 投資家的に見ると,とてもよさそうです。

4Gamer:
 そりゃもう。場数を踏んでた人たちですから……。

垣屋氏:
 Sisuだけじゃなくて,ゲーム特化のベンチャーキャピタルであればいろんなところが狙ってると思いますよ。

4Gamer:
 VCだけでなくて会社もですよね。さっきも話題に出たTencentとかNetEaseに限らず。

垣屋氏:
 でも考えてみると,やっぱり地域が近いからNetEaseなりTencentが目立っているだけなのかもしれません。もし日本がヨーロッパの中にあったら,ヨーロッパのベンチャーキャピタルが大挙して来ていたかもしれないし。

4Gamer:
 その発想はなかったです。

垣屋氏:
 そうしたら,もっと早く日本のゲーム業界のターニングポイントが来ていたかもしれないですね。まぁでもドルとユーロで商売しようと思ってる日本の人がどれくらいいるかということなんですけど。

4Gamer:
 国内市場だけである程度利益が出るので,外に出ようとするモチベーションがいまいちこう……。

垣屋氏:
 そうなんですよ。ほんとはもっと行けるのに!

4Gamer:
 ガラパゴス体質なのかもしれないですが,実はあんまり嫌いじゃないです。居心地いいですし。

垣屋氏:
 そうなんですね(笑)。

4Gamer:
 なのでまぁ「英語版どうしよう」の会議とかで,「あとでもいいんじゃない?」みたいな話になるわけです。

垣屋氏:
 いやいや先でしょう? という感じなんですけど(笑)。ゲーム業界を見て,ちゃんとマーケットの数字を見たら分かると思うのですが。

4Gamer:
 まだちょっと余裕が感じられます。

画像集#014のサムネイル/デベロッパーが力を持つことが,今後とても重要になる―――ゲーム特化のファンドは,日本のゲーム業界に新たな道筋を示せるのか
垣屋氏:
 でも日本の業界の方たちとお話すると「Tencentとかが荒らしててさ……」みたいなことをおっしゃるんですけど,そこにはベンチャーキャピタルが割と関わっていて,しかもそのベンチャーキャピタルの原資はSonyとかMicrosoftとかTencentであって……みたいなところは,皆さん分かっていないような気がするんですよね。

4Gamer:
 畑が違うからですかね?

垣屋氏:
 かもしれません。
 でもなんていうか,それを分かった上で,自分たちで作ってもいいわけですし,そうやってパブリッシャが変わることによって日本のゲーム業界も変わっていくわけです。SisuとEnFiがその最初の一歩だった,みたいな感じになれるといいですね。

4Gamer:
 なるほど。次にお会いするときの結果報告を楽しみにしています。長いお時間,ありがとうございました。

―――2021年11月18日収録
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