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[SIGGRAPH]想像以上に怖い? 無限に上り下りできるVR体験「無限階段」を体験してみた
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印刷2017/08/04 14:06

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[SIGGRAPH]想像以上に怖い? 無限に上り下りできるVR体験「無限階段」を体験してみた

画像集 No.002のサムネイル画像 / [SIGGRAPH]想像以上に怖い? 無限に上り下りできるVR体験「無限階段」を体験してみた
 SIGGRAPH 2017の先端技術展示イベント「Emerging Technologies」に,東京大学大学院情報理工学系研究科の廣瀬・谷川・鳴海研究室が出展していた。同研究室は2016年に,「無限回廊 ― Unlimited Corridor」(以下,無限回廊)というVRコンテンツを発表して話題を呼んだことがある。今回は,その続編というか,発展型のVRコンテンツである「無限階段」を引っさげての登場だ。

 廣瀬・谷川・鳴海研究室は,人間の知覚が引き起こす認知科学の現象をVR体験に組み合わせた新しい表現の開発に取り組んでおり,今回の無限階段は,そうした取り組みによる最新の成果である。いったいどんな体験ができるのか,展示の概要をレポートしよう。


視覚と触覚を同時に感じると,人間は存在しないはずの感覚を感じる


 無限回廊や無限階段は,視触覚間相互作用をテーマにしたVRコンテンツである。視触覚(Visuo-Haptic)とは,文字通り「見る」と「触る」を組み合わせた知覚のことだ。

 人間は,視覚,触覚,嗅覚,聴覚,味覚といった知覚能力,いわゆる五感を有している。この五感のうち,複数の感覚を同時に感じると,人間は本来は存在しないはずの感覚を,過去の経験から補って感じてしまうという不思議な現象が確認されているという。
 これは,「クロスモーダル現象」(Crossmodal Perception)と呼ばれていて,実際の商品にも応用されている。たとえば飲料メーカーは,シロップと炭酸水の組み合わせは同一のまま,そこに加える果物の香料を変えるだけで,オレンジ味やメロン味といった炭酸飲料のバリエーションを作り出している。
 また,PlayStation VR用ゲームであるサマーレッスンシリーズは,このクロスモーダル現象を積極的に活用して女子高生の存在感を演出したと,プロデューサーの原田勝弘氏が説明したことがあるという。

廣瀬・谷川・鳴海研究室の公式Webページ
画像集 No.004のサムネイル画像 / [SIGGRAPH]想像以上に怖い? 無限に上り下りできるVR体験「無限階段」を体験してみた
 廣瀬・谷川・鳴海研究室は,このクロスモーダル現象を利用し,複数の感覚を組み合わせて与えることで,体験の説得力が増すという現象をVRに応用する取り組みを進めている。五感の組み合わせのうち,とくに同研究室が有望視しているのが,視覚と触覚を組み合わせた視触覚とのこと。視覚と触覚をVRコンテンツに組み合わせると,得られる体験がよりリアルに感じられるというのだ。
 筆者が過去のSIGGRAPHレポートで紹介した「MagicPot」や「Air Haptics」は,研究室の前身である廣瀬・谷川研究室時代に行った研究の成果である。

 廣瀬・谷川・鳴海研究室による視触覚VR体験の研究成果として発表された無限回廊は,日本科学未来館で行われたイベントで体験できたこともあり,広くメディアに取り上げられることとなった。実際に体験してみたという読者もいるかもしれない。
 無限回廊で体験者は,実際には曲がった通路をぐるぐる回るように歩くのだが,目の前に映るVR映像は直っすぐな廊下で,そのうえ横にある壁を触りながら移動するため,真っ直ぐ歩いているかのように誤認してしまうのである。

無限回廊の例。湾曲している部分を歩いている人は,真っ直ぐ歩いているように感じている
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 体験者が触っている壁は,通路に合わせて湾曲しているのだが,湾曲に気づくか気づかないかのギリギリの曲率なので,真っ直ぐ平らな壁を触っているように感じられる。そのうえ,目に入るVR映像は真っ直ぐな廊下なので,曲がっているのに直進しているように錯覚してしまうわけだ。



無限回廊のアイデアを上下移動に応用した無限階段


 さて,今回発表された無限階段は,SIGGRAPHでは「Infinite stairs: simulating stairs in virtual reality based on visuo-haptic interaction」(無限階段:視触覚に基づいた無限に続く階段のVR再現,関連リンク)という論文で発表されたもので,そのデモを展示会場で実際に体験できた。

 体験者はHTCのモーショントラッキングデバイス「Vive Tracker」を取り付けたサンダルを履き,VR HMDの「Vive」を着用する。体験スペースの床には,放射状に並べられた金属の棒があり,体験者はViveを着用した状態で,その上を歩く。放射状に並んだ金属の棒を見れば,「これを階段の縁(へり)に見立てて,ぐるぐる回るのだな」ということはすぐに予想できるだろう。

ViveのオプションパーツであるVive Trackerを取り付けたサンダル(左)。このサンダルを履き,頭にはViveを被った状態で,放射状に並べられた金属の棒の上を歩く(右)
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 VR体験としてはシンプルで,VR HMDに表示される螺旋階段を登っていくというもの。周囲は宇宙空間となっており,螺旋階段を上っていくと,VR空間の上に見えている別の惑星に近づいていく。螺旋階段の頂上まで行くと,目的の惑星に到着した。すると,「スーパーマリオギャラクシー」のように,世界の上下がぐるんと反転。今度は螺旋階段を降りて,惑星の地上に降りることになる。地上に到着すればデモは終了だ。

階段の縁に見立てた金属に足が触れることで,クロスモーダル現象を狙っている
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 さて,いざデモがスタートすると,一歩進むたびにサンダルが金属棒を踏んだときの振動と「ガチャリ」という音が足元から伝わってくるので,予想以上に階段を上っている実感があるのに驚いた。

 とくに感動的だったのは,上るときよりも降りるときだ。階段を降りるときは,「落ちないように注意しよう」という意識が働くので,上るときよりも足元に注意を払う。しかも,惑星の地表に立てられたむき出しの螺旋階段を最上段から降りるので,高所恐怖症の人なら,足がすくんで動けないのではないかというくらい,本能的な危険を感じる。それだけに,体験中は足元に神経が集中するわけで,その集中したつま先からそこから伝わる金属の縁を踏んだ音と振動には,正直,胆を冷やした。
 シンプルな体験だが,視触覚による体験の説得力の強化は十分に味わえたように思う。

上りのときは上を見上げ(左),下りのときは下を見下ろす(右)といった具合に,視線の向きは自然と変わる。怖いのは下りのときだ
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VR業界で盛り上がる「Hybrid Reality」


 無限回廊のデモシステムは,設置する空間に多数のモーショントラッキング用カメラも設置する必要がある,いささか大がかりなシステムだった。それに比べると,無限階段は標準的なViveのシステムで可能な範囲内で実現されているので,仕組みとしてはシンプルである。
 足の位置は,サンダルに取り付けたVive Trackerで検出して,VR空間内における歩行を再現しているわけだが,意外なことに,外部に設置するベースステーションを使ったViveの位置検出は行っていないのだという。Viveが内蔵する慣性計測装置(Inertial Measurement Unit,IME)を用いて,頭部の向きや方向だけを検出しているそうだ。

床に配置した金属棒の位置は,VRシステム側では把握していない。これを改善すると,体験のレベルが上がりそうだ
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 また,床に設置した金属棒の位置は,VRシステム側では把握していないそうで,ブースの床に配置したあとは,VR空間と適当にマッチング調整しているだけだという。
 たしかに体験中は,足元と金属棒の位置が完全に一致していない状況もしばしばで,「あれ?」と思うこともあった。ここをうまく調整できると,より臨場感が増すかもしれない。

 また,筆者は足元の金属棒を踏んだ触覚と同じくらい,金属棒を踏んだときに生じる「ガチャリ」という音に強いクロスモーダル効果的な恐怖感を感じていたのだが,このことをブースの担当者に話して見ると「まあ……,そういう効果も多少はあるかもしれませんね」と,賛同は得られなかった。クロスモーダル効果が効くポイントは,人によって違いがあるということだろうか。

 VR体験中に実体物に触れることで,視触覚演出によるクロスモーダル効果を狙ったVR体験のことを,アメリカ航空宇宙局(NASA)は「Hybrid Reality」と命名している。NASAでは,専門の研究機関「NASA Hybrid Reality Lab」まで設立するほどの入れ込みようで,VR業界全体でも,トレンドな研究分野になりつつある。
 視触覚演出によるクロスモーダル効果は,アイデア次第でいろいろな広がりも期待できそうなので,今後もさまざまなVRコンテンツで採用が進んでいくのではないだろうか。

廣瀬・谷川・鳴海研究室 公式Webページ


4GamerのSIGGRAPH 2017レポート記事

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