レビュー
TLC採用SSDの第2弾は何がどう速くなったのかを明らかにする
Samsung SSD 840 EVO
その製品概要は「2013 Samsung SSD Global Summit」のレポート記事でお伝えしているが,4Gamerでは容量250GBモデル(型番:MZ-7TE250B/IT)の実機を入手できたので,その特徴と性能をさっそくチェックしてみたいと思う。
SSD 840 EVOの性能を見るうえで欠かせない基礎情報をまとめてみる
というわけで,さっそくテストを……といきたいところだが,SSD 840 EVOにはいくつかユニークな特徴があり,検証にあたっては,それらを押さえておく必要がある。
具体的にどんな特徴があるのかは,やはり先のレポート記事でお伝え済みなのだが,ここでは入手した実機から見えてきたことも交えつつ,ポイントを押さえてみよう。
■TurboWrite
予備領域とは,NAND型フラッシュメモリに不良ブロックが生じたとき,代替として使用される領域のことだ。従来モデルであるSSD 840から引き続き,SSD 840 EVOでも,120GBやら250GBやら,2の累乗ではない半端な容量モデルが提供されているが,これはユーザーが使える容量がNANDフラッシュの総容量から予備領域を差し引いた容量だからである。
たとえば,容量120GBモデルは128GB分のNAND型フラッシュメモリを搭載して,8GBが予備領域。容量250GBモデルでは256GB分のNAND型フラッシュメモリを搭載して6GB分が予備領域という形になる。
と,ここで疑問を抱いた人もいると思う。筆者も,発表時には疑問をまとめきれず,後から気づいたのだが,そもそもSSD 840 EVOは,置き換え対象となるSSD 840から引き続き,1つのメモリセル(Memory Cell)に3個のビット情報を保存するTLC(Triple Level Cell)NAND型フラッシュメモリを採用する製品だ。そんなTLC NANDを,1つのメモリセルあたり1個のビット情報を保存するSLC NANDとして使うのだから,メモリセルあたりの容量は3分の1になるはずだ。
アラインメント(alignment)の関係もあると思われるので,総容量がきっちり3分の1にはならないはずだが,それでも,前述のとおり,250GBモデルの予備領域は6GB。それをSLCとして使うとしてざっくり3分の1にすると2GBにしかならず,TurboWriteの高速バッファ容量とされる3GBに届かないのである。
もっとも,Samsungの言う「3GB」が,「TLC NANDとしての3GB分」という意味なら,バッファ容量の正味は1GBということにもなる。この点は検証する必要があるだろう。
高速バッファが一切使えない状態になった場合に逐次書き込み性能が低下するというのは,先のイベント記事レポートでもお伝えしているが,Samsungによれば,最大で3分の1にまで書き込み速度が落ちるという。したがって,実使用時に高速バッファからのバッファ溢れがどの程度の頻度で発生するのかというのは気になるところである。
■MEXコントローラ
■RAPID Mode
以上はSSD内部のパフォーマンスに関わる部分だが,Samsungがイベントで強く押していたもののひとつに,SSD 840 EVOと合わせて提供予定の新型SSDユーティリティ「Samsung Magician 4.2」(以下,Magician 4.2)に搭載される「RAPID Mode」がある。
原稿執筆時点でMagician 4.2はリリースされていないものの,全世界のレビュワー向けに配布されたβ版Magician「Magician 4.2beta for review_porpose」でRAPID Modeを有効化できたため,今回はこれを使って,RAPID Modeの正体と有効性をチェックしてみたいと考えている。
大容量NANDチップの採用で驚くほどシンプルな基板になったSSD 840 EVO
さて,先代となるSSD 840は,上位モデルであるSSD 840 PROと共通の筐体を採用していたため,裏返してラベルを見ない限り見分けがつかなかった。それに対してSSD 840 EVOは,従来製品のデザインを踏襲しつつ,本体色が,やや光沢感のあるグレーに切り替えられている。
先のイベントで筆者は,SamsungでSSDやSDメモリーカードの製品デザインを手がけるHyungsup Shim氏に話を聞いているが,氏いわく「オレンジはSamsungのプレミアモデルにだけ使うことになった」そうで,それがゆえに,SSD 840の後継たる本製品では,グレーに黒い四角形のワンポイント(+Samsungのコーポレートロゴ)という形になったのだろう。
NAND型フラッシュメモリチップ1枚の容量は,SSD 840比で4倍になっているわけだ。
基板上には,やや小型の「K4P4G324EB-FGC2」という型番のチップと,基板上のチップでは最も大きな「S4LN045X01-8030」という型番のチップも見えるが,前者はSSD 840やSSD 840 PROにも使われていたものと同じ,容量512MBのDDR2 SDRAMである。SSD 840 EVOの仕様上,容量750GBモデル以上ではDRAMキャッシュの容量が増えているが,試用した250GBモデルは前世代から変わっていない。
そして最も大きなチップのほうが,SSD 840 EVOから採用された「MEX」コントローラだろう。MDXコントローラの型番「S4LN021X01-8030」とは異なっているので,MEXコントローラは,MDXコントローラの単なる高クロック選別品というわけではなく,異なるチップと見ていいのではなかろうか。
ところで,基板の写真から気づいたと思うが,この基板には2枚を超えるNANDメモリチップを実装する空きパターンはない。したがって,容量500GB以上のモデルには,今回入手した製品とは異なる基板が使われているはずだ(※もちろんメモリチップが異なる可能性もゼロではないが)。
Samsungが公式に発表しているSSD 840 EVOのスペック(表1)で,容量250GB以下と500GB以上でランダム読み出しやランダム書き込み(シーケンシャルライト)の性能に違いがあることからすると,容量500GB以上の3モデルでは共通の基板を採用している可能性が高そうである。
少々余談気味に続けておくと,表1で容量120GBのスペックが明らかに低いのは,おそらく,NAND型フラッシュメモリを1枚しか搭載しないため,MEXコントローラとの間にある帯域幅が容量250GBモデル比で半分になってしまっているためではなかろうか。
それにしても,2.5インチ筐体なら,基板両面に最大16枚のNAND型フラッシュメモリチップを搭載できるわけで,価格を度外視すれば最大容量2TBが実現可能になったことになる。要するに,19nm世代のNAND型フラッシュメモリが登場したことによって,2.5インチHDDに匹敵するレベルの容量を実現できるようになったわけで,これは感慨深いものがある。
PC総合ベンチマーク「PCMark 8」のスコアはモデルナンバーどおりの結果に
前置きが長くなったが,ようやくテストのセットアップである。
今回は,容量250GBのSSD 840 EVOが主役ということで,置き換え対象となる容量250GBのSSD 840と,上位モデルで同クラスの容量となる256GB版のSSD 840 PROを比較対象として用意した。
そのほかテスト環境は表2のとおり。テスト対象のドライブは1台ずつ,Dドライブに設定している。過去のSSDテストでは,Windowsの起動時間を計測するため,テスト対象のドライブをCドライブ(=システムドライブ)としていたが,昨年末に掲載したSSDの横並び検証記事で明らかになったように,最近のSSDではどれもWindowsを高速に起動でき,違いを比較する意味がなくなってきた。そのため,今回は「スワップのためのアクセス」などの影響を排除できるので,より素の性能に近いスコアが得られるはずだ。
なお,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,一般的な用途において無効化するケースは少ないという理由と,有効化したほうがストレージ性能は高く出やすいことから,有効化している。
また,SSD 840 EVOは,Magician 4.2からRAPID Modeを有効化した状態でもテストを行う。これはグラフ中「SSD 840 EVO+RAPID」と書き,SSD 840 EVOと区別することにした。
では,テスト結果の考察に移ろう。
まずは,ユーザーが実際にPCを使うときの性能を推し量るヒントとなる,PC総合ベンチマークで,新製品の立ち位置をざっくり掴んでみることにしたい。
ここでテストに用いるのは,Futuremarkが6月にリリースした「PCMark 8」(Professional Edition,Version 1.0.0)だ。PCMark 8の「Storage」テストは,以下に挙げるアプリケーションを実際に利用したときのディスクアクセスパターンを再現し,その起動時間や平均的なリードおよびライトの転送速度を取得するワークロードを3回繰り返し,ストレージ性能の総合スコアを得るという,極めて負荷の高いものになっている。
- Microsoft Word
- Microsoft Excel
- Microsoft PowerPoint
- Adobe Photoshop
- Adobe After Effects
- Battlefield 3
- World of Warcraft
グラフ1は,そんなPCMark 8のStorageテストにおける総合スコアをまとめたものだ。SSD 840 EVOは,SSD 840に対して約1%のスコアアップが見られるが,SSD 840 PROには届かない。
また,RAPID Modeの効果は,無効時に対して約1%のスコア上昇を確認できた。わずかな効果が認められるとはいえそうだ。
もっとも正直なところ,「スコアに大差はない」という表現のほうが,結果を端的に示している印象を受ける。一般的なアプリケーションで比較する限り,今回用意した3製品に大きな性能の違いはないと見るほうが正解かもしれない。
グラフ2の「Storage Bandwidth」は,Storageテストから,ワークロード中に生じたSSDへの読み書き転送速度平均を抜き出したデータだ。SSD 840 EVOは旧モデルのSSD 840に対し約11%という,高い転送速度向上率を示している。SSD 840と同じTLC NANDを使いつつ,ここまで転送速度を引き上げられたのは,ひとえにTurboWriteの効果だろう。
また,目を引くのは,RAPID Modeの効果が極めて大きく,標準状態のSSD 840と比べて約63%も転送速度が上がったこと。総じて,総合スコアに比べると大きな違いが出ている。
PCMark 8に含まれるテストから,4Gamer的に最も関わりの深いBattlefield 3(※PCMark 8上の表記は「BattleField 3」,以下 BF3)とWorld of Warcraft(以下,WoW)の個別スコアも抜き出しておこう(グラフ3,4)。
個別スコアはワークロードの3回繰り返し実行に要した平均時間なので,グラフが短いほど速いことを示すが,スコア差は非常に小さい。PCMark 8は同じワークロードを繰り返して平均をとっているため,小さな差でもまったくの無意味とまでは言えないことまで踏まえると,「まったく体感できないレベルで,ごくわずかな速度差はある」といったところだ。
先の転送速度の差に比べるとRAPID Modeの効果が見られない点も特徴といえ,少なくとも,これら2タイトルだとRAPID Modeはあまり効かないということだろう。
CrystalDiskMarkでは主に書き込み速度がSSD 840比で順当に向上
続いては“素”の性能チェックだ。まずはストレージベンチマークツールの定番「CrystalDiskMark」(Version 3.0.2f)である。
最初に,テストサイズ「1000MB」,テストパターン「デフォルト(ランダム)」,テスト回数「5回」という,CrystalDiskMarkの標準設定におけるテスト結果を見てみよう。標準設定ではスコアが揺らぎやすいため,今回は3セットの平均をとっている。
そこから逐次読み出しおよび書き込み性能のスコアを抜き出したものがグラフ5で,SSD 840 EVOのスコアは,SSD 840比で読み出し性能が若干落ちている一方,書き込み性能は2倍強という大幅なスコア向上を果たしている。これは言うまでもなくTurboWriteの効果で,少なくともテストサイズ1000MBでは,TurboWriteの高速バッファに収まり,結果,高い性能を発揮できるというわけだ。
なお今回は5回のテストシーケンスを3セット実行したため,計15回のスコアを画面上で確認できたわけだが,この15回中,一度として,SSD 840 EVOのスコアが大きく揺らぐことはなかった。
CrystalDiskMarkは逐次読み出し×5回,同書き込み5回,ランダム512KB読み出し5回,同書き込み5回……と,順番にテストを実行していく。テストサイズ1000MBでも5回の逐次書き込みを連続して行えばTurboWriteの高速バッファが溢れても不思議はないが,書き込みを行っている最中や,次のテストに移るわずかな間にも高速バッファからTLCの領域に移動させる内部処理が行われているため,バッファ溢れが表面化しないのだろう。
そう考えると,「一般的な利用ではバッファが3GBあれば十分」いうSamsungの主張(関連記事)は妥当と言えそうだ。ゲームに限定すると,ゲームではランダム性が高いデータの読み書きが多いと考えられるが,「512K」(ランダム512KBアクセス)のデータはバッファ溢れが表面化しているようには見えないので,ゲームにおいてもTurboWriteの高速バッファが溢れる可能性は高くないと言えると思う。
なぜこういう結果になったかは少し補足が必要だろう。実は,1セットめのデータは(筆者のテストでも)逐次読み出し性能1000MB/sを超えている。だが,2セットめ,3セットめは500MB/s台に留まり,計3セットのスコアで1000MB/sを超えたのは1セットめの逐次読み出しだけだったのである。
RAPID Modeはメモリキャッシュなので,ストレージへの書き込みを繰り返し,ライトバック(Write Back)の負荷などが高まれば,SSDが本来持っている性能に近づいてしまうのも無理もない。SamsungはRAPID Modeで現行のPCI Express接続のSSDに肉薄する性能が得られるとしていたが,コンスタントに逐次読み出し性能が1000MB/sを超えるような現行世代のPCI Express接続型SSDには,当然のことながら及ばないのである。
続いてグラフ6は512KB単位のランダム読み出しおよび書き込みのスコアをまとめたものだ。SSD 840 EVOは既存モデルのSSD 840に対しランダム書き込みで約56%高いスコアを示している。これも間違いなくTurboWriteの効果だろう。
ただ,その書き込み性能も,SSD 840 PROと比べると約76%程度に留まる。TurboWriteの高速バッファが正味3GBあるなら,SSD 840 EVOのランダム書き込み性能はSSD 840 PROに肉薄しても不思議はないのだが,そうなっていないあたりは面白い。あくまでも推測であることを断ってから述べると,「高速バッファからTLCの領域に転送する内部負荷が高まるため,SSD 840 PROに及ばない」という可能性はありそうだ。
もう1つ,512KB単位のランダムアクセスでは,RAPID Modeの効果が極めて高いことも,スコアからは見て取れる。RAPID Modeの内部処理の特性によるものと思われ,それ以上の理由は分からないが,RAPID Modeが得意とするアクセス形態ということなのではなかろうか。
4KBのランダムアクセスをQD(Queue Depth)=1で実行するテストの結果をまとめたものがグラフ7となる。
QD=1はSamsungが「WindowsではQD=1のアクセスが多発するため体感しやすい改善と考えた」として,SSD 840 EVOにおける性能向上を強調していたところだが,たしかに,SSD 840と比べると,読み出しでは約23%の性能向上が見られた。ただ,書き込みではむしろ約88%に落ち込んでおり,Samsungがあえて謳うほどの違いは見られない印象を受ける。
なお,RAPID Modeの効果はこのテストでも極めて高い。SSD 840の標準状態と比べ,読み出しで約2倍,書き込みで約2.67倍なのだから,これもRAPID Modeが得意とするテストなのだろう。
グラフ8は,4KB単位のランダムリードライトをQD=32で実行するテストのスコアをまとめたものだ。QD=32だと,SSD 840 EVOのスコアは対SSD 840で読み出しが約82%,書き込みが約118%で,総合的には大差ないという結果といったところか。
また,RAPID Mode有効時の効果が意外とないのも目を引く。原理的にはQD=32でもメモリキャッシュ効果を持たせることは可能なはずだが,これもRAPID Mode内部処理の特性によるものだろう。
いずれにせよ,このテストではSSD 840 PROが明らかに優位と言えそうである。
以上がCrystalDiskMarkの標準的なテスト条件における結果だが,特定条件で書き込み時にTurboWriteによる高速バッファが効果を発揮するのは確かなようだ。
そこで今度は,TurboWriteの高速バッファが溢れるであろう,テストサイズ「4000MB」でもテストすることにした。テストパターンを「デフォルト(ランダム)」としたのは先のテストと同じだが,テストサイズを4000MBにまで大きくするとスコアの揺らぎはかなり抑えられるため,今回はテスト回数を「9回」とし,1セットのみの実行とする。
というわけでグラフ9は逐次アクセスのスコアだ。SSD 840やSSD 840 PROは,おおよそテストサイズ1000MBと大差ない程度のスコアを残すのに対して,SSD 840 EVOは書き込みのスコアが落ちている。グラフ5の513.65MB/sと比べると約78%。TurboWriteの高速バッファが溢れたのだろう。
ただ,それでもSSD 840に対しては約55%も高いスコアである。Samsungが公開している「SSD 840 EVOのTurboWrite無効時の性能」はSSD 840と大差ないので,「TurboWriteが効かなくなっているわけではないが,溢れた分の性能は低下したため,総合スコアではこの程度に落ち着いた」といったところだ。
また,当然といえばそれまでだが,最大1GBのキャッシュを確保するRAPID Modeの効果が,4000MBというテストサイズを前に,ほとんど失われている点も指摘しておきたい。逐次書き込みでは,RAPID Modeを有効にするとむしろ遅くなるが,これはキャッシュのライトバックなどの処理がビジーになることに起因するものかもしれない。
グラフ10は512KB単位のランダムアクセス結果だが,SSD 840 EVOは,テストサイズ1000MB時のスコアである388.33MB/s比に対し約69%までスコアが低下している。
一方,4KB単位のランダムアクセスだと,テストサイズ4000MBのスコアは1000MB時に比べ上下しているが,規則性があまりないため,上下する理由が余り見えてこない(グラフ11,12)。たとえば,QD=1のランダム書き込みでSSD 840 EVOでは1000MB時より4000MB時のスコアがやや高くなっていたりするわけだが,その理由は内部処理の関係かもしれない。
以上のように,テストサイズを大きくすると,SSD 840 EVOは,逐次書き込みや512KB単位のランダム書き込みにおいてTurboWriteの高速バッファが溢れ,顕著に転送速度を落とすことが分かった。
ただ,CrystalDiskMarkだけでは高速バッファのサイズが分かりにくい。1000MB以上4000MB以下ということは推測できるが,実際にはどれくらいなのだろうか?
TurboWriteの高速バッファ容量は公式どおりだと,HD Tune Proで確認
気になる高速バッファの容量を知るべく,HDDベンチマークの定番である「HD Tune Pro」(Version 5.50)の「Benchmark」を実行してみることにした。
HD Tune ProのBenchmarkは,先頭セクタから最終セクタまで順に読み出しもしくは書き込みを行って,転送速度の変化を表示するものだ。HDD時代には,ディスク内外周の性能差を調べることができるテストでもあった。
当然のことながらSSDには「ディスクの内外周」といった物理的な違いがないため,何か特殊なことをしていない限り,先頭セクタから指定した容量まで同じ転送速度が得られる。
そこでまずは,SSD 840を使って,先頭セクタ(0GB)から100GBまでのテスト結果を示してみよう。下がそのスクリーンショットで,細かな揺らぎこそあれど,0〜100GBまで,ほぼ横一直線の結果が得られる。
SSD 840の読み出しテスト結果(0〜100GB) |
SSD 840の書き込みテスト結果(0〜100GB) |
一方,SSD 840 EVOの場合,書き込みテスト時に,高速バッファが溢れるサイズのところでがっくりと転送レートが低下するのを確認できた。
「がっくりと落ちるところ」がどこなのかをはっきりさせるべく,0〜5GBのテスト結果も合わせて示してみるが,ぴったり3GBで転送速度が低下するのを確認できる。つまり,TurboWriteの高速バッファサイズは正味3GBで,SamsungがSSD 840 EVOの250GBモデルで示した公称値と合致したわけだ。
SSD 840 EVOの書き込みテスト結果(0〜100GB) |
SSD 840 EVOの書き込みテスト結果(0〜5GB) |
「合計6GB分のTLCをSLCとして使っているはずなのに,なぜ3GBも確保できているのか」という疑問は,テストからは判断できないが,いずれにしてもSamsungが明らかにしたTurboWriteの高速バッファのサイズは「正味」ということになる。
SSD 840の読み出しテスト結果と比べると,帯域の上下幅が大きく,ノコギリの刃のような形になっている。その理由は,おそらくSSDコントローラの動作クロックが引き上げられているためだろう。
SSDコントローラの動作クロックがSSD 840や同PROより高速なので,内蔵DRAMキャッシュがヒットしている間は転送速度が高く,ヒットしていないときの転送速度との差が大きくなって,ギザギザが大きくなったのだと推測できる。
ここで示しているのは書き込みテストの結果だが,転送速度のぶれ幅が異常に大きい。ただこれは,キャッシュのライトバック動作との兼ね合いによるものと考えれば納得できるだろう。ここでむしろ注目したいのは,「RAPID Modeのキャッシュ動作によって,TurboWriteの高速バッファ溢れの影響がほとんど見られなくなる」ことのほうだ。
TurboWriteの高速バッファが溢れると有意に転送速度が低下するSSD 840 EVOだが,RAPID Modeを有効にすると,その動作に隠蔽されて転送速度の低下が表面化しなくなる。RAPID Modeが高速バッファ溢れの影響を緩和してくれるという見方もできるので,それゆえにRAPID Modeの提供においてSamsungはSSD 840 EVOを優先させたのではないか,とも推測できそうだ。
IometerでもRAPID Modeの隠蔽効果を確認
最後に「Iometer」(Version 1.1.0-rc1)の結果も掲載しておきたい。今回は4KB単位のランダム読み出しと書き込みを50%ずつ混在させた状態でディスクアクセスを5分間実行し,その間のIOPS(I/Os Per Second。1秒あたりのI/O数)を取得してみた。そのほかの設定は,テストサイズ1GB,QD=32にしてある。
念のため,テスト設定のスクリーンショットを下に示しておく。
テストでは5分間の平均IOPSを得ると同時に,5分間の間に生じるIOPS値の揺らぎを目で観察しているが,その結果はグラフ13のとおりとなった。
この結果は,ここまでの全体的な傾向を踏襲するもので,端的に述べると,SSD 840 EVOの性能はSSD 840より高いが,SSD 840 PROには及ばないというものになる。また,RAPID Modeの有効化に,若干の効果も期待できることが分かる。
SSD 840とSSD 840 PROは,テストの開始から終了まで,おおよそ一定のIOPSを維持し続けるのだが,SSD 840 EVOは,テストスタート時に32000〜34000あたりの総合IOPSを超える性能を示したあと,値を前後させながら徐々にIOPSを落としていく特性を示すのである。
これは恐らく,TurboWriteの影響だろう。TurboWriteの高速バッファが十分に効果を発揮している間のIOPS値は高いが,TurboWriteのバッファからTLC領域への転送負荷などが高まってくるとIOPS値が落ちてくるというわけだ。
ところが,RAPID Modeを有効にするとIOPS値はほぼ18000前後で一定する。ここからもRAPID ModeがTurboWriteのもたらす影響を隠蔽する効果があるといえるように思う。
置き換え対象からの順当な性能向上があるSSD 840 EVO
ただしRAPID Modeの扱いはやや注意が必要か
一方,少なくとも当面の間はSSD 840 EVOのみに提供されるRAPID Modeだが,こちらは見方によって評価が分かれそうである。PCMark 8のテスト結果を見る限り,転送速度を向上させる効果は多少なりともあり,また,TurboWriteがもたらす「転送速度の変動」を隠蔽してくれる効果もあるのは確かだ。
ただ,RAPID Modeの有効化によって,現行世代のPCI Express接続型SSDに匹敵する性能が得られるというSamsungの謳い文句は,相当甘めに評価しても眉唾ものである。なので,RAPID Modeは,「ひとまず有効化してみて,明確なメリットが得られる,もしくは(RAPID ModeもしくはMagicianによる)明確なデメリットが感じられないなら,使い続ける」という判断でいいと思われる。SSD 840 EVOは“素の性能”が悪くないので,RAPID Modeが必須というわけではないからだ。
- SSD 840 EVO容量120GBモデル ベーシックキット:1万2000円前後
- SSD 840 EVO容量500GBモデル ベーシックキット:4万1000円前後
- SSD 840 EVO容量750GBモデル ベーシックキット:6万1000円前後
- SSD 840 EVO容量1TBモデル ベーシックキット:7万6000円前後
一方,SSD 840は在庫整理の価格改定が入ったため,容量250GBモデルの実勢価格は1万4000〜1万6000円程度だ(※2013年7月25日現在)。そのため,SSD 840 EVOはその登場当初,若干の割高感があるという判断をされるのではなかろうか。
ただ,性能の向上率,とくにSSD 840における明白な弱点であった書き込み性能の改善率を踏まえるに,価格対性能比は悪くない。手頃な価格のSSDが欲しいという人にとっても,大容量SSDが欲しいという人にとっても,SSD 840 EVOは相応の満足感をもたらしてくれるはずである。
ITGマーケティング(Samsung製SSD販売代理店)
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