ニュース
Samsungの新SSD「SSD 840 EVO」詳報。説明会で明かされた高性能の秘密とは?
製品説明会の午後の部となるセッションでは,SSD 840 EVOの技術説明が行われ,同製品が上位モデルである「SSD 840 PRO」に匹敵する性能を持つ理由も明らかにされた。ここでは,その概要を紹介してみたい。
Samsung,SATA接続のSSD「SSD 840 EVO」を発表。「SSD 840」の後継モデル
SSD 840 EVOの発売は8月上旬
250GBは約190ドル程度,1TBは約650ドル程度に
まずは,既報に入れられなかった製品構成と価格,および発売時期について触れておこう。
SSD 840 EVOの製品は,SSD本体とソフトウェアCD-ROMが含まれる「Basic Kit」と,SSDを取り付けるためのマウンタなどがセットになった「Laptop Kit」および「Desktop Kit」という,3種類のパッケージで提供される。この点は前モデルにあたる「SSD 840」や,SSD 840 PROと変わらない。なお,750GBモデルと1TBモデルはBasic Kitのみが予定されている。
Laptop Kit(左)とDesktop Kit(右)の中身。スペーサーやマウンター,使用中のシステムに接続してデータを移行するためのUSBケーブルなどが付属する |
価格は,米ドルによるメーカー想定売価が公開されており,最大容量の1TBモデルは,650ドル(約6万5000円)程度になる。個別のメーカー想定売価は以下の表を参照のこと。日本円による価格は追って明らかになるだろうが,おおむねSSD 840のスタート時と同程度と見てよさそうだ。
発売時期は8月上旬になるとのこと。あまり待たずに手に入れられるようになるだろう。
120GB | 250GB | 500GB | 750GB | 1TB | |
---|---|---|---|---|---|
Basic | 109.99ドル | 189.99ドル | 369.99ドル | 529.99ドル | 649.99ドル |
Laptop | ― | 199.99ドル | 379.99ドル | ― | ― |
Desktop | 124.99ドル | 204.99ドル | ― | ― | ― |
SSD 840 EVOで導入された3つの特徴
SSD 840 EVOはSSD 840と同様に,1セルあたり3bitを記憶するTLC
一般的には,TLC(Triple Level Cell)方式のNANDフラッシュメモリは,MLC(Multiple Level Cell)方式に比べて,とくに書き込み時にNANDコントローラの動作が複雑になるため,書き込み性能で劣るとされている。実際,MLCを採用するSSD 840 PROに比べて,TLCを採用したSSD 840は,シーケンシャルライトを始めとする性能がやや落ちることは,4Gamerでも昨年のレビューで確認している。TLCを採用するSSD 840 EVOが,なぜSSD 840 PRO並の性能を実現できたのだろうか。
Silva氏によれば,SSD 840とSSD 840 EVOの主な違いは,以下の3点にあるという。
まず,搭載されているTLC NANDフラッシュメモリの製造プロセスが,従来よりも微細化されているという点。SSD 840では,Samsungが「Advanced 20nm Class」と呼ぶプロセスで製造されていたが,SSD 840 EVOでは「Advanced 10nm Class」と呼ぶ,微細化されたプロセスで製造されるという。
ちなみに,Samsungは従来,プロセススケールの1桁めを明示していなかったのだが,SSD 840は21nmプロセス,SSD 840 EVOは19nmプロセスであると明らかにしている。
2点めは,SSDコントローラが従来の「MDX」から,「MEX」に変更されている点だ。
ARMアーキテクチャのCPUコア「Cortex-R4」を3基集積している点は変わっていないが,動作クロックが300MHzから400MHzに高速化されて,MDXより33%高速化されたという。動作クロック以外の違いは「(MEXのほうが)大容量のSSDに対応でき,SSD 840 EVOのNANDフラッシュに最適化されている」としか説明されなかったので,あるいはコントローラのチップ自体は,MDXと同じ物である可能性もないわけではない。
3点めはキャッシュメモリの容量増加だ。750GBと1TBの大容量モデルでは,容量1GBのLPDDR2 SDRAMを用いた大容量キャッシュメモリを備えている。
しかしこの3点だけでは,SSD 840 EVOがSSD 840 PRO並の性能を持つ理由は見えてこない。先に述べたように,TLCはNANDフラッシュメモリの制御にともなうオーバーヘッドが大きいので,SSDコントローラの動作クロックをあげた程度で,それだけの性能を発揮できるとは思えない。そこでSilva氏が明かした高性能の秘密が,SSD 840 EVOに搭載された「TurboWrite Technology」(以下,TurboWrite)である。
予備領域の一部をバッファとして確保
SLCで書き込むTurboWrite Technology
「TLCではなくSLCで書き込む」と聞いて,「なるほど,そうか」と納得できる人は,フラッシュメモリの仕組みに精通している人くらいなものだ。SSD 840 EVOは予備領域もTLC NANDを用いているのだから,それにSLCで書き込むと聞いても,意味が分からないという人が大半だろう。この技術を理解するには,TLCの仕組みについて説明する必要がある。
そもそもSLCでは,電圧が“ある”か“ない”かで1bitの情報を記録する方式だ。それに対してMLCでは,メモリセルに蓄えられた電圧(正確に言うと電荷)レベルを変化させることで複数bit,TLCなら3bitの情報を記録する仕組みである。いずれにしても,電圧を保存するという点では,TLCもSLCも変わりがない。
そこで,複数段階の電圧レベルを見るのではなく,あるなしだけで判断すれば,TLC NANDをSLCと同じように扱える。TLCでは電圧レベルを正しく保存するために,SSDコントローラは余計な動作が必要になるが,SLCならばそれが不要になるので,結果としてTLCより高速に書き込めるというわけだ。前掲のスライドに「Simulated SLC」と書かれているのは,TLC NANDをSLCのように扱うという,TurboWriteの本質を表したものだろう。
予備領域の一部を使うTurboWrite用のバッファサイズは,当然ながらSSDの総容量によって異なる。それを示したのが次のスライドだ。
売れ線とされる250GBモデルや120GBモデルの場合,バッファサイズは3GBで,あまり大きくない。その理由についてSilva氏は,「一般的な利用で,3GBのデータ量を一度に書き込むことは,そう多くない」という同社の見解を示した。動画ファイルなら3GBを超えるデータ量も珍しくないが,120〜250GBクラスのSSDに,巨大な動画ファイルを頻繁に保存するというのは,確かにあまり考えにくいかもしれず,3GBのバッファでも十分だろうと考えるのは,間違いではないだろう。
TurboWriteはあくまで,高速に書き込めるバッファを使って性能を上げる技術であるから,バッファサイズを超えるデータ量を一気に書き込もうとすれば,当然ながら遅くなる。Silva氏はこうした場合に,どの程度遅くなるかのデータも示した。製品の容量によって大きく差がある理由は説明されなかったが,TurboWriteが無効になることで,シーケンシャルライトの速度は20〜65%程度低下するという。これだけ差があるのならば,TurboWriteの効果がSSD 840 EVOの高速化に,大きな影響を与えているというのも頷ける。
なお,TurboWriteが無効になるのは,大きなデータを書き込もうとしてバッファがあふれたときだけでなく,SSDが長期間使われることで劣化が進み,バッファに回せる予備領域が減少して使えなくなった場合にも,無効になることがあるという。SSDの特性を考えると,これは致し方ないことだろう。
「そもそも信頼性を担保するための予備領域を,高速化用のバッファに使ってしまっていいのか?」という疑問もあるのだが,その点についてSilva氏は,「TLCは極めて信頼性が高いことがSSD 840で立証できている」ために,実用上問題はないという見解を示した。
ちなみに,バッファに書き込まれたデータは,SSDのアイドル時にTLCの領域に自動で移動させられるが,それには7秒以上かかるという。つまり,バッファに大量のデータが書き込まれている場合,バッファを整理してTurbo
いずれにしても,TurboWriteがこうした仕組みである以上,ベンチマークテストで書き込みサイズを大きくすると,SSD 840 EVOは顕著に性能が低下するという特性を示すはずだ。SSD 840 EVOを評価するうえで,注意しておくべきポイントになるかもしれない。
なお,SSD 840 EVOではシーケンシャルアクセスだけでなく,ランダムアクセス性能の向上にも力を入れている。とくに力を入れたのが,「Queue Depth=1」(以下,QD1)での性能だという。Queue Depthとは,先行して発行できるコマンドキューの数のことで,SATAでは最大32のコマンドをまとめて発行できる。
しかしSilva氏は,「WindowsにおいてはQD1のアクセスが多発する」と述べる。つまり,実際は細切れのアクセスのほうが多いので,SSDコントローラのアルゴリズムを改良してQD1の性能を向上させることで,ユーザーが体感するランダムアクセス性能を引き上げたというわけだ。
SSD 840 EVOに導入された信頼性向上の仕組み
性能の向上も重要だが,SSD 840 EVOで気になるのは,10nmクラスに微細化されたNANDフラッシュの耐久性だ。SSD 840 EVOではSSDコントローラの制御が改良され,「Advanced Signal Processing」という技術を使って信頼性を確保したという。
このAdvanced Signal Processingが,具体的に何をやっているのかについては言及されなかったが,SSDコントローラのアルゴリズムを改良したことで,20nmクラスと同じ信頼性を確保したという。Silva氏は,社内での耐久テストでも,良好な結果が得られていると主張した。
また,信頼性の点で面白い特徴が,「Dynamic Thermal Guard」という機能だ。NANDフラッシュは温度が上昇するとエラーが増えるが,SSD 840 EVOでは信頼性の低下が始まる目安の70℃を超えると,内部的に速度を落とすことで発熱を抑えて熱を冷ますのだという。
とはいえ,デスクトップPCに関して言えば,SSDが70℃を超えるほどの高温になることは,あまりないのではないかと思われるので,これによる性能低下が頻繁に起こることはないだろう。
付属ソフトウェア「Magician」もバージョンアップ
SSDを大幅に高速化するRAPID Modeを搭載
RAPID Modeとは,Samsungが2012年に買収した企業,NVELOの技術を使った,ソフトウェアキャッシュの一種だ。NVELOで副社長を務め,現在はSamsung SSD Solutionsの副社長を務めるDavid Lin氏によれば,RAPID Modeは「頻繁に使うアプリケーションやデータをDRAM(メインメモリ)上に保存して,読み込みの高速化を行う」ものだという。
これと似たような仕組みには,Windows自身が持つキャッシュ機能「SuperFetch」がある。SuperFetchはアプリケーション起動の高速化だけを目的とした技術だが,RAPID Modeはデータに対しても有効である点が異なるそうで,使用するデータやアプリケーションをインテリジェントに判断すると,Lin氏は述べていた。また,書き込みキャッシュに関しては,詳細は明かされなかったものの,「SSD 840 EVOに最適化することで,高速化を図っている」(Lin氏)とのことだ。
以上のように,TLC NANDを使いながら,TurboWriteというユニークな工夫によってMLC NANDのSSD 840 PROと肩を並べる性能を持つSSD 840 EVOは,謳い文句どおりであれば,なかなか面白い製品となりそうだ。店頭に並ぶのが楽しみという読者も多いのではないか。実機がどのくらいの性能を示すのか,今から楽しみでならない。
ITGマーケティング(Samsung製SSD販売代理店)
Samsung SSD 製品情報
- 関連タイトル:
Samsung SSD
- この記事のURL: