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[CEDEC 2023]メタスコア85点を獲得した国産インディーゲームは,いかにして作られたのか。セッション「『メグとばけもの』のつくりかた - 心を揺さぶるゲームの技術」をレポート
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印刷2023/08/26 16:57

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[CEDEC 2023]メタスコア85点を獲得した国産インディーゲームは,いかにして作られたのか。セッション「『メグとばけもの』のつくりかた - 心を揺さぶるゲームの技術」をレポート

 2023年8月25日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,セッション「『メグとばけもの』のつくりかた - 心を揺さぶるゲームの技術」が行われた。

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 本セッションには,インディーゲームデベロッパ Odencatの代表取締役社長 佐藤大悟氏(以下,Daigo氏)が登壇し,同社の「メグとばけもの」PC / Mac / Xbox Series X|S / Nintendo Switch / Xbox One)の開発過程を披露した。

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「メグとばけもの」とは


 Daigo氏によると「メグとばけもの」は,HP99999の化け物が少女を守って戦うゲームで,内容は「ありきたりな設定で,はじまる前からオチがある程度見える」「ゲーム要素ほぼなし。地味なコマンドバトル」「数時間で終わってしまう短い体験」という,そこだけ切り取るとパッとしない感じだが,2023年3月2日にリリースされて以来,Metacriticにおいてメタスコア85点を獲得したことを筆頭に,圧倒的な高評価を得ている。

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 その理由をDaigo氏自身は,「一点突破で泣けるところが評判になっている」と捉えているという。そしてそのシーンこそが,Daigo氏らが「これを表現したくて,このゲームを作りました」という部分だったそうだ。

 本作の開発チームは,全6名で構成。そのうち本作にかかりっきりだったのは,ディレクター兼シナリオ担当のRyota氏とアート担当のTomas Anker Præstholm氏の2名だけ。また開発期間は約2年半で,内訳はコンセプト作りに2か月,プロット作りなど開発準備に4か月,通しで全要素をプレイできるところまで作る本開発に8か月,そして仕上げに15か月というものだったという。

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コンセプト編


 Daigo氏によると,コンセプト(企画)はゲームのほとんどすべてを決めるもので,成功するかどうかも半分以上がこれにかかっているとのこと。本作の始まりは,社内で共有しているDiscordのストーリーアイデアチャンネルに,Ryota氏が投稿した「子連れモンスター」という企画で,少女と魔物が出会って一緒に旅をしながら成長していくという,ほぼ本作の内容そのままだったそうだ。さらにRyota氏の頭の中には,その時点で「ちょっと気持ち悪いモンスターが,純真そうな子供をあやしている」というビジュアルがあったとのこと。

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 なお,Ryota氏は元ITエンジニアで,あるときTwitter(現X)に「仕事を辞めたい」といった旨の投稿をしていたため,Daigo氏が声をかけたところ,一緒にゲームを作ることになったという。

 最初に2人が作ったのはモバイルゲームの「スノーマン・ストーリー」iOS / Android)で,このときはまだRyota氏がどんな人物なのか分からなかったため,Daigo氏がコンセプトとプロットのほぼすべてを決めてから,開発を依頼したとのこと。
 「スノーマン・ストーリー」の仕上がりが良かったので今度は一緒に作ろうと,2人はやはりモバイルゲームの「ねずみバスターズ」iOS / Android)の開発に取り組んだ。このときはDaigo氏がコンセプトを決めて,Ryota氏がプロットを手がけたという。こちらもいい仕上がりではあったのだが,コンセプトが弱かったとの反省があり,ここから「ゲームはコンセプトで半分以上決まる」と考えるようになったそうだ。

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 そうやって,Ryota氏の人となりを十分に理解できたときに出てきた「子連れモンスター」のコンセプトに対して,Daigo氏は心が動く予感がし,「自分もやってみたい」と思ったという。

 次は,コンセプトに合ったゲームシステムの模索である。ゲームデザインとシナリオを並行して考えていくにあたり,「バケモノ×少女」は外せないポイントだったそうだ。それを踏まえて考えていくと,「バケモノは強いので無敵」「少女を“守る”要素」という二つのポイントが必須であるというところに,かなり早く行き着いたとのこと。

 また,上記のRyota氏が描くビジュアルから,「子どもが泣いたらゲームオーバーになるべき」と考え,せっかくだから壮大な感じにしようと「世界が終わる」ことにしたという。ここから「少女が泣くと世界が終わる。」というキャッチーなフレーズが生まれたそうだ。

 そこからは自然にできていったとのことで,「UNDERTALE」の成功事例を踏まえたコマンドRPG風のバトルシステムや,「おもちゃ」コマンドなどの要素が企画の初期から決まっていったという。

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 Daigo氏は,HP表示のあるゲームならではの体験として,「FINAL FANTASY V」のエクスデス戦にて,ガラフがHP0になっても倒れないシーンに感動した記憶が残っており,本作でもぜひそうした表現にチャレンジしたいと考えたそうだ。例えば,ゲーム後半に登場する敵の攻撃に被ダメージはせいぜい4桁とのことで,HP99999の魔物ロイが相当に強いことを数字で表現できるというわけである。

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 また,HPではないが,少女メグにもゼロになると泣いてしまうパラメータがあり,仮にそれがゼロになると世界が終わってしまう。本作のプレイを続ける中で,ずっとそれを体験してきたプレイヤーが,終盤にそのパラメータがゼロになったときの演出は感動できるものになるだろうというイメージを抱いたとのこと。さらにDaigo氏は,そうした試みを実現できたのも,ゲームデザインとシナリオ担当が同一人物だったからだと語っていた。

 ここまで考えたところで,Daigo氏は本作の成功を予感したそうだ。

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開発準備編


 コンセプトができたら,開発に取りかかるのではなく,開発の準備期間を設けるとDaigo氏。まずはスコープを決めたとのことで,本作の場合は,1年で2〜3人を使って完成させる規模感,ゲームの基本の流れはすでにノウハウのある「くまのレストラン」PC / Mac / Nintendo Switch / iOS / Android),「ねずみバスターズ」と同じ2部構成で,プレイ時間は5時間前後を考えたという。

 また,バトルは前例がなかったが,そこはチャレンジすることにした。ただ,本作ではストーリーを語りたいだけなので,成長要素は入れないことにしたそうだ。仮に成長要素を入れると,ショップシステムやダンジョンの宝箱,あるいはスキルツリーやバトルごとのバランス調整といった要素にも時間を割かなければならなくなるからである。
 そうした理由で,本作のバトルはすべてストーリーの進行に沿って発生し,内容も一つ一つユニークなものになっているとのこと。

 プロット作りは,当初ディレクターのRyota氏が1人で進めたという。このタイミングでは,バトルシステムの簡単なアイデアや,ストーリーの起承転結のアイデアが出たそうだ。

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 次にプロデューサーのDaigo氏が編集者的な立場で加わり,2人でプロットを洗練させていった。とくにOdencatは一つのブランドなので,Ryota氏にやりたいことがあるとしても,ブランドイメージから逸脱するようであれば,Daigo氏がハンドリングする必要があったとのこと。そのため,2人で議論をしていると言い争いになることもあったという。

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 そこでご意見番としてヒロセ氏に参加してもらい,意見を交わしているところにヒントや客観的な感想をもらったところ,最終的にうまくプロットがまとまったそうだ。

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 またプロットを作るにあたっては,必要となるシーンを先にキービジュアルとして描いたという。これは,旧スクウェアが「クロノ・トリガー」の開発時に行った手法を参考にしたとDaigo氏は語っていた。

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 これらキービジュアルの中には,Daigo氏が遊んできたゲームや,体験してきた事柄などにインスパイアされたものが含まれており,ゲームの進行上なくても構わないものもあるとのこと。Daigo氏は,「パッとひらめくものや理屈ではなく,自分の中にあるもので,自然に浮かんでくるものなのかなと思う」とし,「すごく楽しいフェーズなので,苦しんでやるのではなく,楽しんでやるべき」と持論を披露した。

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 プロットが完成したら,次はプロトタイプを作成する。Odencatでは,最初にオープニングとエンディングを作るとのことで,Daigo氏によると「ゴールを明確に決めてそこに向かって走っていくほうが(自分達に)向いているから」だという。本作の場合は,前半のエンディングに相当する部分──実際にプレイして,心が動くと感じる部分を最初に作ったそうだ。

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 ゲームデザインも次々に改善し,バトル中にストーリーが進行したり,スキルを廃止したりしていった。また,おもちゃは当初ガチャのようなシステムを入れて,いろいろ集めてコレクションできるようにしようというアイデアもあったが,本質的な要素ではなく,工数もかかるため見送ったという。
 バトル画面もさまざまなアイデアがあったが,より魅力的な構図を求めて,最終的にはDaigo氏が「ポケットモンスター」ライクなものを提案したとのこと。

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 ここまで来て,Daigo氏は本作が「もはや,できたも同然」と考えたという。しかし実際には,ここからリリースまで2年近くかかっているのである。

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開発編


 本開発では,仮のグラフィックスを使って,ゲームを通して遊べるものを最初に作ったそうだ。それで感動できたので,Daigo氏は「本番のグラフィックスなら,もっと感動できる」と考えたとのこと。また,アーティストのリソースが余りがちだからと,無理にアートを入れて失敗した経験もあるそうで,今回の体験を機に,可能なら今後も仮グラフィックスを活かした開発にチャレンジしていきたいと話していた。

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 ここでアート担当のTomas氏がジョインし,キャラクターデザインをしたり,ドット絵を描いたりするフェーズに入っていく。主人公であるロイのキャラクターデザインは,最初にRyota氏が思い描いたビジュアルをベースに,「寄生獣」に出てくるミギーなど微妙に気持ち悪いが,ファンからは可愛いと言われるものを目指したそうだ。

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 ただ,ミギーが可愛いと言われるのは,ストーリーを通じてその内面を知っているからであり,外見だけをパッと見て伝わるものではない。そこでロイのキャラクターデザインを,ちょっと落ち着いたバランスに持っていったところ,どこか物足りないものになったという。

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 そこにDaigo氏自身がアートディレクションを加えて出来上がったのが,右腕に目玉とカニのハサミの付いた,微妙に気持ち悪くて可愛い最終的なロイのキャラクターデザインである。ヒントになったのは「バイオハザード」のGーウイルスだったそうで,Daigo氏は「ここでも過去のゲーム経験が活きた」と話していた。

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 またDaigo氏は,このタイミングで本作のアートが「UNDERTALE」や「ポケットモンスター」っぽいと思い始めたとのこと。実際,他人からそう指摘されることもあったが,モバイルゲームのマーケティングの経験から,「まったく新しいものよりも,知っているもののほうが手に取ってもらいやすい。何だったら『UNDERTALE』も,ほかのゲームにインスピレーションを受けているし」と,自分を納得させていたという。なお,リリースしてからは「何かっぽい」というような指摘は,ほとんどなかったそうだ。

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 並行して,ミュージック担当の裏谷玲央氏がジョイン。裏谷氏は「モンスターハンター」シリーズや「Hi-Fi RUSH」などの音楽を手がけた人物で,本作においてはコンセプトである「気持ち悪いモンスターと純真な子ども」を踏襲した楽曲を制作してもらえたと,Daigo氏は話していた。

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仕上げ編


 本開発が一通り終わると,今度は仕上げである。本作の仕上げは,ひたすらフィードバックを受けて,それに基づいた改善を施していったという。最初はDaigo氏とRyota氏,そしてヒロセ氏の3人でゲームに対するフィードバックを出していったとのこと。その理由は,この段階で多くの人にプレイしてもらっても,大半から同じ問題を指摘される事態に陥るからである。また,本作のようなストーリーメインのゲームでは,繰り返しプレイすることで感動が薄れてしまうケースも少なくないため,最初は人数を絞りたいという理由もあったそうだ。

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 次の段階では,チームの皆にプレイしてもらう。ローカライズ担当のEVAN氏はアメリカ人ならではの,裏原氏は音楽担当ならではの,プログラマーのHAJIME氏はレトロゲーム好きならではの,それぞれの視点からフィードバックを出してきたという。

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 それだけではまだ足りないので,Daigo氏の知り合いの「めんどくさそうなオタク」や感受性の強い女性からフィードバックをもらう。そして英語対応が完了したため,それまでプレイできなかったアート担当のTomas氏からもフィードバックをもらったそうだ。

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 それらフィードバックを通じて指摘された部分は,840か所にも上ったとのこと。その内容は,単純なバグや表記の揺れはもちろん,シナリオの矛盾や「こいつはこんなセリフ言わない」といったキャラクターの揺れに至るまでさまざまで,すべて対応したところ15か月かかったという。

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具体的な改善例も紹介された
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Daigo氏を筆頭に,チームメンバーがそれぞれ裏でいろいろやっていたことも明かされた
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マーケティング編


 本作のマーケティングは,Daigo氏によると特別なことはやっていないとのこと。ただ,海外向けにPRを打ったところ,日本のインディーゲームでは珍しくメタスコアが付いたそうだ。

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 また本作の主題歌は,シンガーソングライターの鴫原ローラさんがボーカルを務めているが,Daigo氏は彼女が楽曲を提供した「To The Moon」PC / Mac / Nintendo Switch / iOS / Android)の音楽のファンで,鴫原さんがOdencatの「くまのレストラン」を遊んでいたのを知ったことから交流が始まったという。
 さらに鴫原さんには自身が関わるインディーゲーム「RAKUEN」PC / Nintendo Switch)を日本で売りたいという思惑があり,本作とはさまざまな形でコラボすることとなった。

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 また上記の裏谷氏も,単なる音楽担当に留まらない形でマーケティング的なサポートをしてくれたという。

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まとめ


 セッションの終盤には,Daigo氏が本作の開発を振り返り,まず「コンセプトが明確なのが良かった」とコメント。4か月をかけて,コンセプトがズレないようにプロットをしっかり練った価値もあったという。さらに,仕上げには15か月かかったが,本当に自分達が納得できるところまでやれたと話していた。
 マーケティングに関しては,やりだしたらキリがなくなるが,本作では後悔しない程度にやれることはやったので,十分だと捉えているそうだ。


 最後にDaigo氏は,自身が会社員だった時代に「会社に勤めながら,インディーゲームを作りたい」と考えていたことを明かし,「当時はプログラマだったが,今評価されているのは人を感動させる部分。会社で評価される才能は実はほんの一部分でしかなく,もっとほかにも才能があるかもしれないので,いろいろチャレンジするといいと思います」と聴講者に呼びかけていた。

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[2023/04/08 08:00]

「メグとばけもの」公式サイト


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