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本イベントは,国内外のゲームクリエイターやアーティストを迎え,トークセッション,ライブ,展示など,さまざまなプログラムが展開されたものだ。
その初日,トークセッションのトップバッターとして行われたのが,「ドラッグ オン ドラグーン」「NieR」シリーズなどで知られるヨコオタロウ氏と,「ENDER LILIES: Quietus of the Knights」「ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist」を手がけた岡部佳祐氏の対談だ。
異なる世代の2人は,何を見て,どのようにゲームを作り上げているのか。ヨコオ氏が岡部氏に問いかける形で話は始まった。
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漫画家志望からゲーム開発へ。「ENDER LILIES」はどう生まれたのか
岡部氏は,もともとゲームクリエイターを目指していたわけではなく,学生時代には漫画家になりたいと考えていたという。
Pixivやmixi,ニコニコ動画などが広がり始め,個人が作品を発表する文化が勢いを増していた時代。漫画やイラストを公開していた岡部氏は,同人ゲーム制作に誘われたことで,チームでものを作る楽しさに出会った。それがゲーム業界を志すきっかけになったそうだ。
あえて超大手メーカーを避けて就職活動を行っていたとき,ちょうど企画職を募集していたのがネバーランドカンパニーだった。そこからどのようにディレクターとなったかについて,岡部氏は「自分は特殊なパターン」だと振り返る。
ネバーランドカンパニーに入社後は,絵を描けるという強みを生かし,モバイルゲームの新規案件でイラストとシナリオを兼任。少人数開発のなかで,徐々にディレクターの役割も担うようになっていった。
「ENDER LILIES」の原案は,社内Slackで行われた企画公募に提出したものだった。イラスト付きの企画書が採用され,約3か月でモックアップを制作。本格的な開発へ進んだという。
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ヨコオ氏は,毎日数多くのインディーゲームがリリースされる現在において,なぜ「ENDER LILIES」が幅広いユーザーに届いたのかを尋ねた。
岡部氏は,当時勢いを増していたメトロイドヴァニアというジャンルと,チームが得意とする2Dアニメーション,日本的なアートスタイルがうまくかみ合ったのではないかと分析する。
話題が開発規模に及ぶと,ヨコオ氏は「ENDER LILIES」の開発において3〜5億円は極めて低予算だと驚きを示した。
岡部氏のチームはコアメンバー約10名,シナリオとプログラミングは各1名という体制で,3〜4年をかけて開発を行っているという。近年は開発費の高騰が話題となっているが,少人数体制を取り,適切な開発期間を確保することでコストを抑えられると話した。
ヨコオ氏は岡部氏を「市場分析に長けた人物」と評す。そのうえで,2Dプラットフォームアクションを作る際には「自分が作りたい」というモチベーションと市場の状況のどちらが先にあるのかを尋ねると,岡部氏は「状況が先」と答えた。
岡部氏はSteamのランキングや新着作品を日常的にチェックしており,自分自身がユーザーであるからこそ,市場のニーズを感じ取れる部分もあるという。そうしたユーザー感覚も,作品を届けるうえで重要だと述べた。
分かりやすいファンタジーの世界を舞台とした「ENDER LILIES」がヒットし,シリーズとしての基盤ができたことで,「ENDER MAGNOLIA」ではより岡部氏自身のアートスタイルを前面に出せたという。
一方で,メトロイドヴァニアというジャンルで自身がやりたかったことは,この2作品で出し切ったとも語る。
今後は別ジャンルに挑戦したいものの,ヒット作によって作り手のイメージが固定される難しさもある。この制作者特有のジレンマに,ヨコオ氏は共感を示しつつ,冗談めかして「呪い」と表現していた。
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岡部氏の「ストレスものづくり」と,ヨコオ氏の作品でひどいことが起きる理由
続いて話題となったのは,ゲームの世界観をどのように作るのかということだ。
岡部氏は,まずキャラクターのコンセプトや物語の結末を決め,それを成立させるために舞台や背景を組み上げていくという。
「ENDER LILIES」「ENDER MAGNOLIA」では,「白くて可愛くか弱い少女」と「黒くて醜く力強い騎士」といった,相反する要素を持つキャラクター同士をバディにしている。テキストによる説明を抑えた作品だからこそ,ビジュアルを見ただけでも関係性や魅力が伝わるよう,強い対比を置いているそうだ。
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ヨコオ氏は,どのメーカーから発売されるのか,どのジャンルなのかといった要件がまず存在し,そこへ要素を肉付けする形で,パズルを解くように世界を構築していくという。
「NieR」シリーズでも,男性主人公から女性主人公へ,ファンタジー的な世界からSF的な世界へと,シリーズ内で意識的にコントラストを設けてきたそうだ。
同じく対比を使って世界を構成していても,キャラクターから始める岡部氏と,外部から与えられた条件を起点とするヨコオ氏。そのスタート地点は大きく異なっている。
岡部氏の制作姿勢を象徴する言葉として出てきたのが,「ストレスものづくり」である。
ゲームを遊んでいて「ここをこうしたほうがいいのに」と感じたストレスを,自分の作品に持ち帰る。良い作品に対して抱く嫉妬も含め,他者のゲームを遊んだときに生まれた感情を制作のエネルギーに変えているという。
なお,最近強く琴線に触れた作品は,氏の作品と同じ“バディもの”であるカプコンの「プラグマタ」だ。
評価が伸び悩んでいる作品からも学ぶことがある。岡部氏はその一例として「主人公の行動とプレイヤーの感情が乖離している」ケースを挙げた。
良いところからも悪いところからも吸収する岡部氏の姿勢を,ヨコオ氏が「邪悪なやりかた」と表現すると,岡部氏は,ものづくり自体がある意味では邪悪なものであり,「ダークサイドも取り入れたほうが強いのでは」と応じていた。
一方のヨコオ氏は,他作品に対して嫉妬する感覚はあまりなく,良い作品を見つけると「ほしい」というコレクター気質が先に来るとのこと。優れた作品を生み出している岡部氏であっても,他作品に嫉妬することに驚いたようだ。
「ICO」や「斑鳩」のように,自分のなかですでに完成されていると感じる作品に出会うと,「その領域はもう自分が作る必要がない」と考えるのだという。美しいものが先人によって作られてしまっているから,自分ではひどいことが起こるゲームしか作れない。そんなヨコオ氏らしい説明には,会場から笑いも起きていた。
現実の出来事が作品へ与える影響については,「ENDER LILIES」がコロナ禍のさなかに制作,発売された作品であることにも言及。鬱屈した世界や人の救済というテーマは,あの時代,あのタイミングだったからこそ生まれた部分もあるのかもしれないと振り返った。
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ひとり用ゲームが生き残るには「個人の感性」が必要になる
話は,現在のゲーム市場にも及んだ。
岡部氏は,ゲームがコミュニケーションツールとして使われることが増え,「完全にひとりで遊ぶゲーム」の領域は以前より狭くなっていると見る。
十数年前には「DARK SOULS」のように,地面にメッセージを残して他者と緩やかにつながるオンライン要素が注目された。一方で現在は,家族や友人と遊ぶ作品や,ボイスチャットを介して交流するオンラインマルチプレイなど,人と人をつなぐものとしてゲームが使われることがより一般的になっている。
そうした時代にフルプライスのシングルプレイ作品を手に取ってもらうには,「この人が作ったから遊びたい」と思わせるほど,作り手個人の感性が強く出た作品である必要があるのではないかと語った。
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ヨコオ氏は,「もうすぐ自分は死ぬので,日本のゲーム業界がどうなろうと知ったことではないですが……」というシニカルな冗談を交えつつ,新世代のクリエイターの勢いについて語った。
ゲーム会社に所属しなければ大規模な3Dゲームを作ることが難しかった時代と比べ,現在は若いクリエイターが自由に自分自身の作品を制作できる環境が整ってきたと指摘。その流れで,勢いのある世代が作る作品の炎に自身が包まれてしまうのではと戦々恐々としているとも語った。
これに対して岡部氏は,技術の敷居が下がってきていることは,ポジティブに捉えたほうが健全ではないかという考えを語った。
また,名作ゲームを遊んで育ってきた自身の世代は,「ゲームとはこういうもの」という捉え方そのものが狭まっているように感じるとも話す。同じ名作を現在の10代,20代が遊んでも,自分たちの世代とまったく同じ感情を抱くとは限らない。だからこそ,もっと若い世代から,既存のゲーム観に縛られない自由な作品が出てくることに期待しているという。
その一方で,ヨコオ氏は,SNSなどによって他者の評価が常に見える環境で育った若い世代について言及。「見る人」を早い段階から意識した賢い作品作りができる反面,否定されることを恐れて作品を出せなくなるケースもあるとした。
岡部氏も,ランキングや評価が常に可視化される環境で育った世代には,そうしたプレッシャーが無意識のうちに根付いているのではないかと同意。「世間知らずゆえの無敵感」が失われつつあることを,もったいないと感じているという。
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岡部氏が次に作りたいのは「2DのJRPG」
「ENDER LILIES」以降,岡部氏のチームはフルリモートでの開発を続けている。
毎朝のミーティングで進捗を共有し,金曜夕方にはチーム全員でゲームを遊ぶ試遊会を実施。少人数であること,前作から続くメンバー同士の信頼関係があることで成立している体制だという。
また,プログラマーなど職種ごとのセクション内では日々細かな連携を取り,全体会議では全員が確認すべき内容に絞る。こうして情報の粒度に応じてコミュニケーションの場を分けていることも,フルリモートを成立させるポイントだそうだ。
そして今後挑戦したいものとして岡部氏が挙げたのが,JRPGだ。とくに2Dをベースとした表現に興味があり,市場に決定版と呼べる作品がまだ見当たらない今だからこそ,挑戦する余地があると考えているようだ。
対するヨコオ氏は,自身について「初期にやりたいことを出し切った。現在は『余生』を過ごしているような感覚」と語り,現在もゲームを作り続ける理由のひとつとして,まさかの「認知症予防」を挙げた。
仕事中心で生きてきた人がリタイア後,一気に認知症が進むことがあるという話を耳にし,自分はそうならないようあえてストレスのかかるゲーム制作を続けているのだという。
ヨコオ氏だけにどこまで本気なのかは定かではないが,これを聞いた岡部氏は,いちファンとして「認知症に怯えながらでも,死ぬまでものづくりを続けてほしい」と返していた。
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質疑応答では,ゲームというもの自体が既存の常識に縛られているという,ヨコオ氏のゲームデザインに対する考えも語られた。
たとえば「ゲームにはエンディングがある」といった,当たり前すぎて疑われない機能や構造についても,本当に必要なのかを問い直し,そこに別の意味を与える。
既存のゲームで意味なく受け継がれているものを再定義し,「変化球」を探すことが,新しいゲーム体験へつながるのではないかと考えているそうだ。
市場を見つめながら,自分の美意識を作品へ落とし込む岡部氏。すでにある美しいものを避け,当たり前とされてきたものを疑いながら,まだ形になっていない体験を探すヨコオ氏。スタート地点は異なるが,自分なりの方法で既存のゲームの枠を疑い,その外側を探し続けるという点では,意外なほど近い2人なのかもしれない。
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