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「ELDEN RING」のグラフィックス開発体制やデータ制作過程などが明かされたメイキングセミナー聴講レポート
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「ELDEN RING」のグラフィックス開発体制
「ELDEN RING」のグラフィックスは,東京スタジオと福岡スタジオが協力して開発したという。東京スタジオには背景,キャラクター,モーション,ムービー,エフェクトのセクションがあり,社内で常時稼働している各プロジェクトに割り当てる人員の管理および育成などを行っている。一方,福岡スタジオには背景,キャラクター,ムービーのセクションが存在するとのこと。なお,以下のスライドには3つのプロジェクトが示されているが,実際のプロジェクト数とは異なるそうだ。
各プロジェクトには,各セクションから専任のスタッフがアサインされる。こうしてセクションを組むことにより,各プロジェクトで培われたノウハウをほかのプロジェクトに応用したり,社内のwikiなどを活用してセクション内で技術や知識の共有を行ったりして,開発の効率化や品質向上を図っているという。
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続いて,社内で使用しているツールが紹介された。
- 「3ds MAX」:モデリング,レイアウト,モーション,カットシーン作成,エフェクトの素材作成など,開発作業全般に使用
- 「MotionBuilder」:モーションキャプチャーやカットシーンのビデオコンテなどで使用
- 「MAYA」:キャラクターの髪の毛生成などピンポイントで固有機能を利用したい場合に使用
- 「Zbrush」:キャラクター作成や背景アセットの作成全般に使用
- 「MarvelousDesigner」:キャラクターの衣服全般やインゲーム中の布系アセットのほか,カットシーン中の布の形状変化などにも使用
- 「Substance3D」:主に「Painter」と「Designer」を利用して,キャラクターやアセットのテクスチャーを作成。そのほか,水中のコースティクステクスチャや天球の雲素材など,フローマップを絡めた表現にも使用
- 「Photoshop」:エフェクトの素材作成など,画像加工全般に使用
プロジェクトのマイルストーンと開発人員も紹介に。最初に「ELDEDN RING」は,約5年の開発期間を経て作られたことが明かされた。プロトタイプの作成開始時期は,「DARK SOULS III」のDLC開発完了後だったそうだ。当時のフロム・ソフトウェアは,オープンフィールド開発の経験がなかったため,土台となる環境の構築から始めたという。
基本的には,環境やデータ作成の仕組みなどは,社内のグラフィックスエンジン開発チームがすでに進めていたため,過去タイトルのリソースなどを利用して,フィールドの広さや作成,コスト,量産の見積もりと検証を行っていった。
プロトタイプの結果を受けて,挙がった課題の修正や追加,実装量産準備と仕様の整理などを行い,それを踏まえてファーストプレイアブル版の作成を開始した。なお,ここで言うファーストプレイアブル版とは,「ELDEN RING」の基本的なゲーム要素を入れ込んだ評価版だという。具体的には,本作から導入されたジャンプアクションや騎乗,遺灰による霊体召喚など新アクション要素を実装したとのことだ。
またオープンフィールドからレガシーダンジョンにつながる仕組みなども検証している。そののち,フィールドを仮接続し,メモリなどの目処を立て,全体容量的にできることとできないことを整理していったそうだ。
そこまでやってから,量産を開始。並行して3か月単位のサイクルで外部レビューを行い,そのフィードバックをゲームに反映させながらクオリティアップを繰り返していたという。
以降はデータ調整とデバックを行い,ネットワークテスト版をリリースして,マスターアップを迎えた。
開発人員については以下のスライドに示されたとおり。「ELDEN RING」の規模からすると人数が少なめに思えるが,その理由は,「DARK SOULS」シリーズの開発を経て長い経験を積んだ,少数精鋭のスタッフが開発にあたったからだという。
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「ELDEN RING」の開発で工夫した,4つのポイントも紹介された。1つめは「協力会社との連携」で,社内と協力会社の制作比率など,作業の分担を柔軟に考えることにより,広大なオープンフィールドを構築するデータの作成が可能になったという。大量のアセット作成など,コストが大きくかかる部分は協力会社に委託するなど,社内でできることできないこと,作業効率の良し悪しを精査し,上手に業務を分担することで,効率的な開発ができたそうだ。
2つめは,以前から取り組んできた「働き方改革」で,深夜残業や休日出勤を減らすことで,「ELDEN RING」のように長期間におよぶ開発でも,健康に配慮しつつ継続できたという。
3つめは「チェックの分担」で,これまでより多くの職種において専任ディレクターを設けることで,細かい判断やチェックを分散した結果,ディレクターチェック前のクオリティを上げることができたとのこと。結果として,修正工数も削減され,効率化につながった。
4つめは「開発体制の変更」で,コロナ禍で業務体制を変更することが余儀なくされた一方,リモートを用いたミーティングや開発体制の採用により,効率化が図れた部分もあったという。とくにリモートによるミーティングは,自席や自宅で行えるという利点があり,異なる業務を並行しながらミーティングに参加することも可能なため,各自の時間を有効に活用できるというメリットも生じた。
背景デザインとデータ
次に,「ELDEN RING」の背景デザインおよびデータに関して説明された。まずは,オープンフィールド(オープンワールド)と「レガシーダンジョン」の違いだ。
本作におけるオープンフィールドは,広大なフィールドをプレイヤーが自由に移動し,未知の世界を冒険して発見したり,踏破したりするマップである。敵との個別戦闘やステルス要素はあるものの,レガシーダンジョンとは異なり,強い敵から逃げたり,探索を後回しにしたりできるといったように,プレイヤー自身がさまざまな行動を選んで冒険を楽しめるような自由度の高い設計になっている。
一方レガシーダンジョンは,作り込まれた立体的なダンジョンを探索し,敵との戦闘や駆け引きが楽しめるレベルデザインが施された攻略性の高いマップだ。重視しているのは,何度もゲームオーバーを繰り返す過程で,プレイヤーが敵の攻撃を学習し,逆境を乗り越えていく達成感だという。
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オープンフィールドは,「DARK SOULS」シリーズとは異なる神話をベースとした中世ファンタジーの世界観でデザインされた。デザインの発注は,ディレクターと背景担当のデザイナーが,イメージをすり合わせるための打ち合わせを何度も行ったという。
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レガシーダンジョンのデザインは,フィールドデザインのあと,場所ごとに魔術学院などの強い明確なコンセプトが提示され,個別にデザインが詰められていったそうだ。
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そのあと,各レガシーダンジョン固有のデザインを詰めていったとのこと。セミナーでは,ストームヴィル城の例が示された。
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また,黄金樹の影響についても解説された。「ELDEN RING」は,フィールド全体が黄金樹という巨木を中心としたデザインとなっており,ビジュアル的にも黄金樹の影響の強さを各地に反映させているという。
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たとえば王都ローデイルは,黄金樹の影響がもっとも色濃く出ており,配色的にも暖色が多く,装飾的にも旗や肖像などが配置され,華やかなデザインになっている。
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逆に黄金樹から離れた場所にあるストームヴィル城などは,黄金樹の影響が弱いため,辺境の自然の厳しさが伝わるような,色褪せ荒れ果てたデザインだ。
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「ELDEN RING」に限らず,普段から背景デザインで注意している3つのポイントも紹介された。1つめの「リアリティとフィクションのバランス」では,まず本作がファンタジーであることから,デザインに特徴を入れようとするとどうしてもフィクション要素が入ってしまうという。そのため,世界観として説得力のある見た目になるように,デザインを調整する必要があったそうだ。
たとえば城門は,現実のお城にあるイメージそのままだと印象が弱いため,重厚で力強さを感じられるようデザインを変更している。また見た目が不自然にならないよう,現実にある造型を取り入れてリアリティとフィクションのバランスを調整したことも明かされた。
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2つめの「印象や記憶に残るデザイン」では,プレイヤーが訪れた場所それぞれに,「怖い」「不気味」「美しい」「荘厳」といったさまざまな印象を受けるようなデザインを心がけたとのこと。どの場所でも同じようなイメージだと与える印象が弱まるため,場所によって見た目を変えるなど,メリハリのある演出を意識したという。不気味な印象を与える例として,たくさんの手足が吊され,奥に身体からたくさんの手足が生えている強敵の「接ぎ木の貴公子」が配置されたストームヴィル城内の1室が示された。
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3つめの「ゲーム都合にならないデザイン」では,最初にゲーム用件で構成された設計マップが示され,これをそのまま作り込んでも世界観に馴染まないビジュアルにしかならないと説明していた。
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そのため構造的に違和感がある部分は,いかに周囲の環境に馴染ませるかなどを検討して,デザインを落とし込むという。最終的なゲーム画面では,倒木や建築様式のアーチなど,設計マップの構造がビジュアルとして自然に表現されている。
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オープンフィールド
オープンフィールドの制作にあたっては,まず企画サイドで全体地形の目安となる白地図を作成し,それをもとにラフモデルを作成する。このラフモデルは,10万ポリゴン程度のポリゴンメッシュから,手動で高さを調整したという。
ラフモデルをベースに,ディレクターと背景のメイングラフィックス担当が,各場所の見え方などを相談しながら地形を作り込んでいき,そのあと各エリアに分割しデザイナーにイメージを発注する。
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また開発当初は,高さ情報のハイトマップを地形データに使用していた時期があったことも明かされた。しかし,「ELDEN RING」のフィールドはゲーム用件に絡んだ段差などが非常に多く,ディレクターや設計担当の要望に細かく対応することが困難だったため,ハイトマップの採用を見送り,ポリゴンメッシュによる編集に切り替えたという。
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続いては,時代表現についてだ。「ELDEN RING」では,配置された遺跡や跡地を通して,その土地で起きた過去の事象や歴史などをプレイヤーに想像させるよう,フィールドの見た目に深みを与えるような要素を追加している。たとえば王都へ続く紋様のある石畳が敷き詰められた道や破砕戦争の跡地,領地を示す燃えている壁,巨人の死体などがそれにあたる。
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こうしたオープンフィールドの作成にあたっては,効率化と最適化が重要になったそうだ。すなわち,フィールドにオブジェクトを配置するためにはDrawCallが必須となり,それだけCPUに負荷がかかるため,オブジェクトの配置数を削減する必要が生じたのである。
そこで,近景では複数のアセットで構築されたモデルを表示し,遠景では単一のアセットにまとめた軽量モデルを表示することで,CPU負荷の軽減を図ったという。具体的には,ゲームエンジン内で複数アセットモデルのテクスチャ要素を軽量モデル化するベイク処理を行っている。見た目が大きく変化しないよう,シンプルなシェーダーにアルベド(色),ラフネス(ざらつき感)などテクスチャの要素を割り当てたことも明かされた。
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近景に表示される樹木モデルと遠景に表示される板ポリゴンのモデルを重ねた画像も示された。遠景の軽量モデルは,カメラの回転に追従するスプライトにすることで,板ポリゴンでも見た目のボリュームを保つことができたという。結果として,DrawCallによるシェーダー負荷も下がり,オープンフィールドの配置数増加に対応することができたそうだ。
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「ELDEN RING」は,ほとんどの地形やシチュエーションが作り込みで構成されているため,自動配置ではなく,地形にペイントした頂点からの値をもとにアセットを配置する仕組みを活用しているとのこと。草や小石,瓦礫,骨などのアセットは,この手法で配置されているという。また,その密度や種類はパラメーターで管理していたため,プラットフォームごとに値を変更することによって,パフォーマンスの調整を効率的に行えたそうだ。
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背景のクオリティアップ
背景データの作成については,開発初期から後期に至るまで何度もクオリティアップが図られたという。
最初にマップの設計担当がマップ全体の広さや建物の構造,敵の配置,戦闘エリアなど,マップのゲーム要件を確認するために設計マップを作成。それをもとにして,背景担当のグラフィッカーがさまざまな装飾を加えていく。
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この事例では,見た目が一般的な城と変わらず,印象が弱いという課題があった。そこでリアリティとのバランスを保ちつつ,「ELDEN RING」の世界観にあったファンタジーらしさを追加したそうだ。具体的には,「城壁の意匠」「旗の追加」「風や茨の浸食」を加えた。
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結果として,動きのある旗が追加されたことにより,ストームヴィル城のモチーフとなる“嵐”の印象が強調されることとなった。また,城壁の意匠が追加されたことで城の威厳が増し,風や茨の浸食により,ただ堅牢なだけでなく,経年劣化して狂ったり病んだりしているかのような不気味さも感じさせるようになっている。
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一方,魔術学院レアルカリアは,ライティングやフィルター,エフェクトなどを活用して世界観を表現した。調整前は暗雲が広がるようなイメージだったが「魔術学院」としての印象が薄かった。
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そこで全体のトーンをシアン系に変更し,雨や夜の星空,漂うような魔素表現などを追加。これらの要素は,作中の輝石魔法のモチーフになっている宇宙とも関連するため,より魔術学院らしさが強調された。
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またフィールドは当初,もっと自然に近い見た目だったという。しかし「ELDEN RING」ならではの,より特徴的なビジュアルを目指すことに。
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現場で検討し,空や植生の配色を変更することで,一般的なファンタジー表現とは異なる,黄金樹を中心とした「ELDEN RING」独自の世界観を盛り込んだ。結果として,魔術学院レアルカリア同様に,フォトリアルではなくアート要素を採り入れた本作ならではの外観となった。
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こうしたクオリティアップを行うには,作業のイテレーションを高めるために,DCCツール(Digital Content Creationツール。3DCGを作成するために使用する統合型ソフト)で編集した結果を即時ゲームエンジンに反映できる作業環境が重要になるという。そのためフロム・ソフトウェアでは,3ds MAXで編集した結果をゲーム画面上に即時反映する通信環境の「MapManipulator」を用意したそうだ。
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MapManipulatorを利用するメリットとしては,3ds MAXの配置機能や社内で用意したレイアウト用のスクリプトなどを利用して,効率的にレイアウトの作業を行えることや,カメラやライト,フィルターなどが適用された最終的なゲーム画面を確認しながら作業を行えることなどが挙げられた。
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キャラクターの制作工程
キャラクターの制作工程は,コンセプトを構築する「デザインイメージ工程」と,実際のゲームデータを作成する「データ作成工程」に分かれている。前者は「コンセプトアート作成」「イメージ共有ミーティング」「詳細デザイン作成」という過程で行われる。
そののちデータ作成工程にて「モデル作成」「リグ作成」「モーション作成」「エフェクト作成」という過程を経て,キャラクターが完成する。
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コンセプトアート作成は,基本的にディレクターからデザイナーに直接発注を行う。そのほか,ディレクターとのさまざまな議論から生まれたアイデアがコンセプトイメージとして採用されることもあるそうだ。
また重要なキャラクターのコンセプトアートを作成するときには,ディレクターから提示されたファンタジー小説の一節のような文章をもとに,キャラクターデザインを行うという。
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たとえばゲーム序盤に登場するボス・接ぎ木のゴドリックは,ゲーム中で「弱き男は,おぞましい接ぎに力を求めた」と説明されているが,その弱き男が力を求めた理由や,その後の結末などが諸々記された文章をもとにデザインされている。
そののち,複数のラフデザインが書き起こされる。ラフデザインは,イメージを固めるのが難しいキャラクターであれば,1キャラ当たり数十枚におよぶこともあるそうだ。
そうしたラフデザイン群の中から,コンセプトやイメージに合うものが選定される。場合によっては,ラフAとラフBにある要素を組み合わせて新たなラフデザインを作成する。その後も繰り返し調整を行い,最終的なコンセプトアートが完成する。
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イメージ共有ミーティングは,ディレクターとさまざまな職種の担当者が集まり,コンセプトをベースにキャラクターの設定や性格,イメージなどを共有しながら,追加のアイデアやネタなどを提案する場である。
このミーティングで挙がったアイデアなどをもとに,追加で武器をデザインしたり,新しいモーションテストや検証を行ったりして,キャラクター性を追加していく。
また,このミーティングはキャラクターによっては何度も行われる。最終的には,発注可能な条項にまとめて,各職種の担当者に作業として発注される。
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キャラクターや装備のデザインを行ううえで注意している点として,最初に挙げられたのは「固定観念の排除」だ。すなわち,イメージに対して観念的にならないように意識してデザインを行うということである。
たとえば一口に“ドラゴン”と言っても,一般的な西洋のドラゴンをそのまま描くのではなく,「そもそもこの世界では,ドラゴンとはどういう存在なのか」といったドラゴンの概念から考え,ゲームの世界観やキャラクターの個性を入れ込んで描き起こすようにしているそうだ。
次に「感情や情緒の入れ込み」が挙げられた。こちらはデザインの特徴として,感情や情緒を情報として入れ込むといった内容だ。とくに武器は,プレイヤーがずっと手に持って使うものなので,肌触りや重さ,冷たさ,気持ち悪さなどが伝わるようなデザインを心がけているという。
「ELDEN RING」のキャラクターは,オープンフィールドの特性上,比較的“メモリを食わない”仕様で作成したとのこと。ポリゴン数的には,トライアングルで2万から5万程度,テクスチャも1024ピクセルで3枚弱から7枚弱程度であることが言及された。また工数感は,小型の敵の場合だと1か月から1か月半程度だそうだ。
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特大〜最大サイズのキャラクターのゲームモデルだと,ポリゴン数はトライアングルで20万から30万程度,テクスチャは2048ピクセルで6枚から8枚弱程度だという。工数感は,巨大キャラや重要キャラは2か月から3か月程度となる。
なおテクスチャについては,50種類程度の汎用のものがあり,ディテールアップ用のタイリングテクスチャとして使用しているそうだ。
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またキャラクターモデル作成後,企画担当から「ボスバトルの途中でボスにドラゴンの頭を付けたい」といったゲーム要件の追加が行われることもある。つまり,キャラクターモデルの作成が一旦終わったからといって,それで完成したわけではなく,ゲームの要件に合わせて継続してゲームデータを調整する期間が発生する可能性が,常に存在するのである。 背景のブラッシュアップ同様,こういった調整作業は適宜行われるため,正確なキャラクターの総作成工数は分からないとのことだ。
キャラクターモデルの制作を行ううえでは,必要な情報を減らしたり,不要な情報を出さないように心がけていることも紹介された。そのためコンセプトアートに忠実なモデリングを行っており,具体的には「自分が作りやすいように,デザインを曲解した造形を入れ込まない」「3D化したときに,コンセプトアートの印象を損ねない見た目にする」「質感や造形などが不自然にならないように,リアリティ要素を盛り込む」といったことに注力しているという。
フロム・ソフトウェアのゲームには,鎧がボロボロでくすんでいるキャラクターが多い印象だが,例として挙げられたツリーガードは鎧が劣化して錆び付いていても,レリーフの情報量が残るように意識したと話していた。
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なお,このレリーフは参考資料こそ示されたものの,詳細なデザインはなかったという。そこで,黄金樹を守るキャラクターという設定から,レリーフも全体的に植物に関するディテールを入れ,世界観に遭った造形を追求したそうだ。
こうした判断はモデラーが行っているが,デザイナーも適宜モデルを確認し,互いにデザインの解釈や造形の相談などを行って品質の向上を図っている。
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![]() ツリーガードの盾も,植物をモチーフにした装飾が施されている |
![]() Substance3Dを使って,ツリーガードのアルベドテクスチャなどを質感を確認しながら作成する |
最終的なゲームモデルでは,鎧としての格好よさや強そうな印象など,コンセプトアートの雰囲気を見事に再現。ディテールについても,有機的な植物のラインと豪華な印象が表現された。黄金樹をモチーフとした兜の装飾や,マントの模様なども見て取れる。
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ゲーム終盤に訪れるレガシーダンジョン「崩れゆくファルム・アズラ」に登場するドラゴンは,ワイバーンなどと違い,知性のあるドラゴンというキャラクター付けがなされている。そのため表情などは,知性が高い印象を与えるよう配慮して作成したとのこと。
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またコンセプトが“岩肌のドラゴン”であることから,肌の造形などは岩の質感を再現している。詳細な質感は,シェーダーで表現することにより調整しやすくしたという。
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最終的なゲームモデルは,腕の関節構造などを人間のそれに近づけることで,武器を持つことが可能となり,結果としてワイバーンとは異なる,より上位の知性を持つドラゴンが表現された。そのほか,長い時間を生きている生物に見えるよう質感や造形を調整したことや,大きなキャラクターなので,どこから見ても格好よく見えるように意識したことも明かされた。
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デザイン画で提示された表現をゲーム内で再現するために,キャラクターによっては質感専用のシェーダーを用意したケースもあったという。本セミナーでは魔女ラニ,源流の魔術師ルーサット,プレイヤーキャラクターのシェーダー表現が紹介された。
ラニは本来の霊体の顔と,憑依している人形の顔が並んで表示されるという特徴を持つ。そのため本来の姿を,霊体シェーダーを使って表現している。
憑依している人形は,もともと“雪の魔女”をモチーフとしており,氷の結晶や霜といった要素を入れているため,顔の霊体シェーダーにも,それらを採り入れたとのこと。
ルーサットは,頭装備に水晶表現が使われている。またこれらのシェーダーは,汎用性を考慮して負荷の少ないシンプルなものになっているそうだ。
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話題は自由度の高いプレイヤーキャラのクリエイトにもおよび,本セミナーではその中から髪の毛の表現がピックアップされた。
髪の毛の質感については,「DARK SOULS」シリーズでは対応していなかった異方向性反射やトランスルーセント,シャドウベイク,リムライト,白髪など複数の表現を採用している。
こうした髪の毛の表現は,同時期に開発していた「SEKIRO」にも同様の処理が実装されている。セクション内における技術共有の恩恵が得られた事例である。
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![]() 白髪発生順を定義するマスク。マスク画像の明度が高い順に,白髪が発生するようになっている |
![]() 実際の白髪表現 |
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キャラクターのモーションに関しては,武器によるプレイヤーの攻撃モーションが例に挙げられた。「ELDEN RING」は,武器の種類や付与される戦技が多彩で,それぞれ重さや長さ,攻撃方法が異なるため,プレイヤーに各武器の特性が伝わるよう意識してモーションを作成したという。
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「ELDEN RING」では,武器ごとの片手持ち,両手持ち,二刀流など複数の装備モーションのほかにも,騎乗時の攻撃モーションを追加し,さらに戦灰によって戦技を付け替え可能にしたことにより,モーション数がかなり増えた。武器固有の戦技は個別に専用モーションを作成する必要があったため,武器の特性に合ったエフェクトやモーションを組み合わせて対応したそうだ。
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プレイヤーのモーションを作成した際のフィードバックや,制作時の注意点についても説明された。
まずモーションキャプチャは,社内の専用撮影施設を使っている。プレイヤーやNPCの待機ポーズやジェスチャー,カットシーンなど人間の動きを反映させやすい部分には,モーションキャプチャを利用しているという。また敵キャラにも,索敵や採掘など日常の仕草に代表される特殊待機部分には,モーションキャプチャを活用しているとのことだ。
またリアリティとアレンジも重要となる。日本や西洋の剣術の動きをそのまま参考にしてモーションを作成すると,動きが小さくなってしまうそうだ。その理由は,剣術や武術は堅実や合理的な動きを追求するため,無駄な動きが少なくなるからである。
しかしゲームのモーションとしては,プレイヤーが分かりやすい動き,例えば予兆,溜め,隙などのゲーム要件を入れ込む必要がある。加えて,身体をねじった格好いいアクションなど,モーションを通してキャラクター性を分かりやすく演出する必要性も生ずる。そのためリアルの剣術モーションは,あくまでもアレンジ元とし,基本の動きを参照するようにしているという。
モーション作成に関する作業の効率化については,どうしても手作業による細かい調整が多くなるので,技術的にはあまり対応できていないそうだ。
そのうえで工夫したのは,モーションを作り込む前に一旦全データを揃えて,クオリティアップを後から行うという手法だ。先にモーションデータを仮で揃えて,キャラクター制御を含めたゲーム要素を入れ込み,レビューを行った結果,最終的なゲーム要件が反映された精度の高いフィードバックが得られたという。
以前は,一部のモーションを先に作り込んだり,制御への組み込みを後回しにしたりした結果,キャラクター自体がボツになるケースがあったのだとか。
さらに,職種間のやり取りも重要になる。とくにモーションの場合は,企画担当とモーション担当の間でゲームの要件を相互に相談しながら作っていく。単に企画担当から発注されたモーションを作るのではなく,キャラクター性にあった演技表現などを含めてモーションを作成していく。攻撃モーションなどについてはフレーム単位で調整が必要となるため,企画担当とモーション担当が綿密な打ち合わせを行うそうだ。
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敵キャラクターのモーションを作成するうえで,意識している3つの点も紹介された。1つめは「プレイヤーの感情に訴えかけるようなモーション」だ。「ELDEN RING」は圧倒的な絶望感と,それを乗り越えた達成感をプレイヤーに提供することが,戦闘における1つの目標となる。そのため,敵と対峙したときに怖い,逃げたいという感情を喚起させ, 敵は本気で殺しに来ているという体験をしてもらえるようなモーションを作成しているという。
具体的には,攻撃時に頭1個分奥に剣を振りかぶるモーションによって,敵がプレイヤーに迫ってくる圧力や怖さを表現していることが挙げられた。
2つめは「武器の特性を考える」。各武器にどのような強みや弱み,特性があるかを,モーションを通してきちんと差別化を行うことを指す。たとえば刀とバスタードソードを比較すると,バスタードソードは斬るというよりも押し裂くという使い方に近いため,切っ先がプレイヤーの位置を撫でるような円弧を描くのではなく,刃の根元を押し当てるような動きにすると,重さや圧力を感じさせやすくなるそうだ。
3つめは「敵の風格による差について」で,同じ人間の敵であっても風格の差をモーションで表現することを意識しているという。具体的には,雑兵はプレイヤーよりも格下なので,命知らず,一心不乱に武器を振ってくるような怖さが出るようにしている。
一方,騎士はプレイヤーよりも格上なので,剣術の手練れのような印象で,プレイヤーを追い込んでいくような怖さがにじみ出るような表現となっているのだ。
また巨人は,人間などよりもかなり格上の存在なので,プレイヤーを意に介さない,生まれながらに強い,絶対的な恐怖といったことが伝わるような表現をしているという。
そうしたキャラクターのリグは,3ds MAXのBipedを使って作成している。その理由として,ツールの安定性が高くモーションの移植がしやすいこと,機能が明確でできることとできないことなどが分かりやすいこと,社内に蓄積されたノウハウが活用できることが挙げられた。その結果,「ELDEN RING」は少人数でもリグの運用管理を行えたそうだ。
一方,リグ作成時に注意しているポイントは, モーション班のやりたいことをどれだけ作りやすく反映できるかに気を配ることだという。モーション班は,リグ班が事前に用意したキャラクター要件に合ったリグを使用してアニメーションを作成していくのだが,その過程でモーション班から追加要望が挙がることもある。その場合は,機能を追加したリグを適宜用意して対応していく。
リグ制作の具体例として,満月の女王レナラの制作過程が示された。このキャラクターは,第1形態では,空中で漂っているような動きをする。漂う布の動きなどをすべて手付けで行うのは効率が悪いので,3ds MAXスタジオマックスのモディファイヤ機能を複数組み合わせた専用のリグを用意したとのことだ。
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ゲーム終盤に登場する神肌のふたりは,イメージミーティングで片方は身長が伸びて身体をひねり出して攻撃を繰り出す,もう片方は身体が膨らむことで武器を使わずに攻撃を行うという要件が挙がった。ただし,関節を無視して曲がるようなモーションは避けてほしいという要望もあったため,伸縮に向くスプラインIKを使ってリグを作成したという。またこの手法は,「SEKIRO」に登場したボスの獅子猿からムカデが飛び出す表現でも使われていることが明かされた。
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まとめとして,小川氏は「今回紹介したワークフローは『ELDEN RING』開発時のものなので,あくまでも参考程度に留めてほしい」と前置きしつつ,「フロム・ソフトウェアのグラフィッカーは,グラフィックスデータの作成にかける時間同様,プレイヤーのゲームプレイや,ゲーム体験に影響する部分の調整にも多くの時間を割いていることをご理解いただけたのではないか」とコメント。「モチベーションとスキルがあれば,職種の幅を広げて,さまざまな仕事に参加できる可能性のある会社なので,関心のある方は,ぜひ弊社採用の応募をご検討ください」と語って,セミナーを締めくくった。
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