思い入れが先走りすぎてアレンジが暴走!
こだわりの制作体制によるリメイク版楽曲
4Gamer:
ここからは,アレンジ版の楽曲の制作についてお伺いしていきます。具体的に,どのような流れで作業が進められていったのでしょうか?
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まずは弊社の小山田から聖剣伝説のアレンジの座組をヨロシクとの依頼を受けまして。で,スジとしては当然,伊藤さんに「どうしますか?」と確認を取りました。
伊藤さんは同時にサガの新作の楽曲も制作していて,そちらも僕が担当しているので「ここで聖剣伝説をやられると困るな」という状況だったんです(笑)。
4Gamer:
多忙なのが分かるだけに(笑)。
岩﨑氏:
とはいえ,作曲家の伊藤さんに何も言わずに進めるわけにはいきませんから,「お忙しいでしょうから,別にアレンジャーさんを立ててやりたいと思うんですけど」と相談したところ,「あ,自分でやりたいな」と言い出して。
こちらとしては青天の霹靂で,一緒にいた小山田と顔を見合わせましたよ(笑)。で,「全部は無理でしょうから,どうしてもやりたい曲だけというのは?」という提案をしたんです。
4Gamer:
ドキドキしたでしょうねぇ,それは。
岩﨑氏:
すると伊藤さんは,「分かった。だったらこの曲とこの曲をやりたい」と曲リストも見ずにスラスラと書き出して,「Rising Sun」「最後の決戦」「マナの使命」「聖剣を求めて」「哀しみのなかで」,「伝説よ永遠に」の6曲を担当することになりました。
で,残りのアレンジを誰に任せましょうかとなったところで,「アレンジも俺が噛みたいな」とおっしゃるわけです。またも小山田と顔を見合わせましたが,それだけ聖剣伝説に対する思い入れが強いんだなというのを感じましたね。
4Gamer:
そういう経緯で伊藤さん全面監修となったわけですね。
岩﨑氏:
ええ。それでアレンジャーの候補を何人かあげたところ,伊藤さんとは縁の深い上倉さん,成田さんが引き受けてくださることになったというワケです。
伊藤氏:
アレンジを丸投げして完成したものをチェックする,みたいな手段もあったんですけど,それだとプレイヤーさんから絶対に批判があがると思ったんですよ。上がってきたものをサラリと眺めるだけで,自分の血が入っていないわけですから。見た目は似ていても血肉がない。
だったら自分が参加したうえで,ほかの作家さんとのコラボレーションにして,最終的に自分がトータルチェックをしたほうが説得力が増すと判断しました。スケジュール調整などでかなり苦労はかけましたけど(笑)。
岩﨑氏:
なので,本来ミュージックディレクターという立場は,楽曲に良し悪しの判断をすべきなんですけど,今回は“イトケンさんをどうサポートするか”という黒子役に徹しました。
伊藤氏:
上倉君と成田君にアレンジを託すことで,ある意味冒険もしたかったんですよ。自分がこの曲をやってもらいたいなというのと逆のパターンもあったりして,そういった意味でのコラボレーションを実現させたかったんですね。
4Gamer:
上倉さん,成田さんを選ばれた理由というのは?
伊藤氏:
昔からの付き合いというのはありますが,やはり相性というのがあってのことですね。技術面はもちろんのこと,「肌触りが自分と合うな」という部分が大きいです。
なので,よほどのことがない限り,こちらからリテイクをお願いすることはありませんでした。
上倉氏:
たいへん嬉しい言葉ですよね(成田氏も頷く)。
実は先日のライブでも同じようなことを感じたんです。イトケンさんって,プレイヤーさんの気持ちになれるんですよね。それは僕らが思っている以上のもので,一つ印象的なエピソードがあって。レスターのハープのシーンで流れる,想いは調べにのせての部分で……。
伊藤氏:
実はさっきその話はしちゃった(笑)。
上倉氏:
そうでしたか(笑)。
リハーサルでのあの瞬間は,緊迫した空気になってましたよね。でもプレイヤー視点だと外せないところだし,自分も強くそう思ったんですよ。
成田氏:
僕もその顛末は舞台袖で見ていたんですけど,演奏家としてのこだわり以上にプレイヤーさん目線でのこだわりを感じました。
それに,普通はゲームの曲を書き終えた時点で一度はゲームから離れてしまうじゃないですか。それから25年も経過しているのに,「プレイヤーさんがこういうことを求めているだろう」というのが見えているのはすごいなと。それがうまくいった瞬間って,イトケンさんの想いもそうだし,プレイヤーさんにとってもグッとくる瞬間だったと思うんです。
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4Gamer:
本当にグッときました。
成田氏:
ライブを通して感じたのはそういうところで,単純にイトケンさんの曲をイトケンさんが演奏するということ以上に,“ゲームを作る人間としてのこだわり”が見えて,あらためてすごい人だなと思いました。本人を目の前にしていうのは恥ずかしいですけど(笑)。
4Gamer:
伊藤さんにとっては,それだけ当時の記憶が鮮明ということなんですね。
伊藤氏:
聖剣伝説に限って言えばストーリーもコンパクトにまとまったものですし,メリハリがあって覚えやすかったんです。それだけにイベントの記憶も鮮明で,演奏や映像の出しどころもイメージがしっかりとありました。
岩﨑氏:
制作過程で僕と打ち合わせをしていたときも,「この曲は○○のシーンで××ってキャラがいて,□□って展開してさ」というシチュエーションを全部覚えていて,かつプレイヤーさんがどこにフックされているのかを理解しているんですよね。
今回のアレンジも,いい意味でリテイクが多かったんですよ。「これで終わりだ」と思ってから4回くらい手を入れたんですけど,それは「僕が好きだからこの楽器に変えて」といった独善的なものでなく,客観性を持っている。僕は今回コーディネーター的な立ち位置だったので冷静に曲を聞くことができたんですが,そこでの考えと伊藤さんの意見が重なることがけっこうありましたから。
4Gamer:
常に客観視ができている。
岩﨑氏:
それに面白かったのは,伊藤さんがまず6曲を選んだ後に,残りの曲をどう振り分けようかとしたところ,上倉君と成田君の両方から「この曲をやりたい!」という反応が即座にあって,思い入れのある感じがプンプンしてきて(笑)。
一部,やりたい曲が被っていたので,そこのジャッジだけ伊藤さんにしてもらったんです。
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僕と成田君は思い入れ全開ですから,作っていくうちにまるで映画音楽ばりにどんどん曲が壮大になっていくんですよ(笑)。その思いを詰め込んだ状態のモノを提出したら,イトケンさんからは冷静な声で「ちょっと違う」というジャッジがあって。完成したものをあらためて聞き直すと,イトケンさんには客観的に見ていたことがよく分かります。
成田氏:
具体的なものではないんですけど,全員での共通の感覚はありましたよね。
岩﨑氏:
イトケンさんは,こだわり加減と抜き加減が絶妙なんですよね。上倉君と成田君の2人もプロフェッショナルですから,ボツを出されたものがダメなわけじゃないんですよ。アレンジアルバムだったら満点なんですけど,そこに伊藤さんの「オリジナルはそこまでいかないんだよね」みたいな俯瞰した意見がスパッと入ったから,全体にまとまりが出た。
4Gamer:
実は小山田さんからも,果てしなき戦場のリテイクのエピソードを聞きました。
岩﨑氏:
そうなんですよ(笑)。メロディをトランペットで演奏したら,カッコイイんだけど元気が良すぎちゃって。オーボエに差し替えたんですよね。
上倉氏:
ええ。自分がフィールドの中で戦っているような燃えたぎるパッションを全部詰め込んだら,ちょっと盛りすぎてしまったようで(笑)。
実はその変更前の全部盛りバージョンは,ありがたいことに「果てしなき戦場 -More Rock! ver.-」としてサウンドトラックCDに収録していただいてます。
岩﨑氏:
さらにいうと,実は本来の締め切りを超えたタイミングで,小山田からの修正依頼が来たんですよ。異例なことですけど。しかも上倉君に修正をお願いできるかと確認したら「えっ,僕明日から台湾旅行で……」って(笑)。さらに伊藤さんに電話をしたら,「僕,これから沖縄で食事会なんだよね」って。
本来だったら作業がすべて終わっているタイミングでのことだったので,わりとバタバタと。ただ,曲そのものは完成していたので,上倉くんの帰国を待って最終段階でサクッと差し替えることで事なきを得ました。別のタイミングだったけど,成田君も香港ツアーの途中で修正データを送ってきてくれたよね。
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4Gamer:
皆さんがアジア圏を股にかけながら制作していたわけですね(笑)。
伊藤氏:
話を戻すと,このリメイクも含めてなんですけど,制作者の思い入れの強さをそのまま詰め込んだだけというのは,プレイヤーさんにとっては押し売りであって,作り手のエゴでもあると思うんですよ。
なので,作品に寄り添って思い入れをそっと入れる……さじ加減は難しいですけど,それが僕にとってはベストに思えるんですね。
成田氏:
制作途中は充実していたし,楽しかったですね。
上倉氏:
そうだね。実は制作期間にはすごくばらつきがあるんです。完成した日付が資料に残っているんですけど,最速で7月,最遅で10月と開きがあって。
岩﨑氏:
7月のは早くOKが出ていて,その後のはリテイクが出た曲ですよね。生録を再度行っているので,期間が空いて。
上倉氏:
Rising Sunは7月に完成していたんですね。
伊藤氏:
東京ゲームショウがあったからね。
岩﨑氏:
そうそう。イベントで配布するサンプラーCDに収録しようということで,先行して収録をしたんでしたね。ヴァイオリンを弾いてくれたのが伊藤友馬君という奏者なんですけど,彼も聖剣伝説は思い出のゲームということで,嬉しそうに演奏してくれましたね。
そういう意味では,遊んでいた世代がアレンジして演奏をし,という形にね。
伊藤氏:
楽曲制作の段階ではライブの予定はなかったんですけど,いざ決定したときはバンドメンバーの顔が浮かびましたもんね(嬉しそうに)。
ライブでは出演者すら思わず涙?
将来的には武道館2daysも!?
4Gamer:
先日のライブで披露された楽曲は,伊藤さんが別途アレンジをされたそうですね。
伊藤氏:
ストリングスを含めて,全曲をライブ専用にアレンジしました。なので,それも含めて1か月くらいは準備に力を注ぎましたね。新作サガの制作や,12月頭にはプラハでの「サガオケ!」の収録,さらに「闘会議2016」での演奏などもあったので,12月,1月は恐ろしい忙しさでした。
岩﨑氏:
僕としては伊藤さんがTwitterで「○○にいます!」とつぶやいてるのを見るたび,スケジュールは大丈夫かなと心配が募るばかりでした(笑)。
4Gamer:
上倉さん,成田さんは出演者としてはいかがでした?
成田氏:
ライブのMCではちらっと話したんですけど,イトケンさんには以前からお世話になっていたのに加えて,バンドマスターの太田さん,上倉さんも数年来のお付き合いになっていますが,ステージに一緒に立つのは実は初めてでした。ですから,イトケンさんの曲をご本人や諸先輩方と弾かせていただくのはドキドキしましたし,楽しかったです。
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上倉氏:
僕はですねえ……リハーサル時からけっこうウルウルきてたんですよ(笑)。スクリーンに映し出された映像を見ながら曲を演奏していると,当時プレイしていたことに加えて,幼い当時の環境も思い出されてきて,ウルっとしてしまって。自分で「本番は泣きじゃくったらまずいな」と不安になるほどに(笑)。
成田君も話しましたけど,初めて一緒に音を出す方が多かったので,どんなサウンドになるか未知数な部分もあったのですが,面白いもので一度音を出してみたら,皆さんのプレイがガッチリとハマったんですね。皆さんすごくいい方ばかりで,イトケンさんの人柄によるのだろうなと。
成田氏:
楽屋もすごい楽しかったですね。
上倉氏:
そうそう,すごくアットホームでしたね。
岩﨑氏:
最後には泣かされてたしね(※アンコール後に伊藤氏に呼び込まれた上倉氏が,ステージ上で結婚を祝われるという一幕があった)。
4Gamer:
不思議なもので客席にもアットホーム感は伝わってきていて,いつも以上に温かいムードになっていましたね。
伊藤氏:
今回はずっと以前からライブをやりたいと言い続けていた中野サンプラザでの公演ということもあって,バンドメンバーやスタッフに恩返しをしたかったんですね。これまでのライブだと,僕自身が刺激を受けたいということもあって,だいたい新しいバンドメンバーを呼ぶんですけど,ストリングスの方々以外は過去に接点のあった人ばかりなんです。
そういう“ご縁”のある方々と中野サンプラザという大きなステージで演奏したというのもあったからこその,アットホーム感だったのかもしれないです。
4Gamer:
中野サンプラザへの思い入れは,これまでのインタビューで何度も口になさってましたよね。
伊藤氏:
ここしかない! というタイミングだったんです。実は当初,別のプロジェクトのためにイベント製作会社が押さえていたんですが,それが立ち消えて,主催者の方が僕に「サンプラザが空いているんですけど……」と相談に来たので,だったら聖剣伝説をやろうよ,と切り出したんです。
休日は会場を押さえるのが難しいし,中野サンプラザは近年改修工事の噂もありますから,本当にこのタイミングしかなかったんですよ。
上倉氏:
僕もイトケンさんとの一緒の活動の中で,渋谷公会堂やサンプラザなど,立ちたかった舞台に立つことができているんです。サンプラザという話も最初,「本当に?」と疑ってかかりましたから。
伊藤氏:
やっぱり,音響の広がり方が違いましたよ。渋谷公会堂は客席からの拍手の音が素直に包まれるような感覚だったんですけど,サンプラザは拍手がまとまって天井から降りてくるという感覚でしたから! これが多くのアーティストの言う「いい音」なんだなと感激しました。
成田氏:
ステージに変な跳ね返りがなくてクリアに聞こえるんですね。
岩﨑氏:
次なる野望は,大宮ソニックシティとか?
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伊藤氏:
いいですね〜。僕が埼玉にずっと住んでいたこともあって,いつか“凱旋”したいですね。段階を踏むとしたらNHKホールや東京国際フォーラムといった会場でしょうけど,本当にシャレで一回だけ日本武道館でやってみたいですね。ミュージシャンにとっては憧れですからね。
4Gamer:
それ,見たいです!
伊藤氏:
今のゲーム系コンサートで武道館ワンマンってほぼないじゃないですか。その状況であえて挑戦してみて,「テヘ,やっちゃっいましたぁ」みたいな感じでできたら,オシャレでいいかなって(笑)。
岩﨑氏:
いいっすねぇ。でもどうせ武道館なら,2daysですよね。
伊藤氏:
それぞれで毛色を変えて,初日はエレクトリックで2日目はアコースティックとかね。東京ドームクラスになると全然イメージが沸かないですけど(笑)。
4Gamer:
野望がどんどんと溢れ出てきますね。伊藤さんがショルダーキーボードを弾きながらドームの客席上空をフライングする姿は,それはそれでちょっと見たい気がします(笑)。
(一同爆笑)
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で,話をサンプラザに戻すと,山下達郎さんや佐野元春さんといった僕の好きなミュージシャンと,同じ場所に立って拍手を浴びることができたのかと思うと,ジーンとしましたね。
4Gamer:
そういえば,4年半前のインタビュー(関連記事)では「年齢や体力的にキツいからもうバンドでのライブはやらない」とおっしゃっていましたけど,なんだか年々回数が増えてませんか……。
伊藤氏:
ホントですよね(笑)。でもこれがピアノソロコンサートだったら本当に音を上げていたでしょうけど,仲間と一緒にワイワイとできるということが楽しくなってきたんでしょうね。目覚めてしまった。
4Gamer:
固定のバンドメンバーでのツアーも良さそうですね。
伊藤氏:
ふふふ(笑)。今回はこれまでのサガシリーズのライブと比べるとミュージシャンの年齢層が高くて経験を積んでいるので,“上手い”という感覚があったんですね。そうした高いレベルの音楽を皆さんに提供できたことがうれしいし,今後もそうしていきたいと思います。
4Gamer:
さて,そろそろお時間ですね。
最後に,聖剣伝説のサウンドトラックを心待ちにされている方へのメッセージをお願いします。
岩﨑氏:
内容に関しては100%良いものになっているし,イトケンさんが大事にされている部分がディレクションにも込められているので,きっとゲームボーイ版の聖剣伝説が好きな方が聞いても「ええー! こんなアレンジになっちゃったの?」ということはなく,スッと聞いていただけるサウンドになっていると思います。ともかく聞いてほしいですね。
上倉氏:
当時僕もプレイしていたゲームということもあって,プレイヤーと開発者の両方の視点で曲を作ることができました。曲そのものもすごくいいんですけど,ゲームの中で聞いてもらうことで「曲とシーンがすごくマッチしているね」と感じていただけるものになっています。ぜひ,ゲームもサントラも楽しんでもらえればと思います。
成田氏:
作り手としての思いもそうですし,プレイヤーとしての思いもそう。いろいろなものが詰まった音楽になっていると思います。伊藤さんの楽曲が好きでサントラCDだけ聞かれる方もいるかもしれませんが,どうか一度ゲームと合わせて楽しんでいたければと思っています。
伊藤氏:
まず,成田君と上倉君には「インペリアル サガ」などの楽曲制作にも協力してもらっているんですが,今回は聖剣伝説というカテゴリの中でのサウンドの打ち出し方といった部分もお楽しみいただけると嬉しいです。
音楽的なことでいえば,小山田プロデューサーが言う“原作へのこだわり”というのはサウンド面にも影響を与えています。それを踏まえてのアレンジの打ち出し方であり,また今回のアルバムであると。きっと新旧両方のファンが楽しんでくれると信じて送り出しますので,なるべく多くの方に聞いていただきたいと思っています。
4Gamer:
ありがとうございました。皆さんのさらなるご活躍を期待しております!
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