【第2部】伊藤氏とサウンド制作スタッフによる
聖剣伝説サウンド・クロストーク
4Gamer:
せっかく音楽制作のプロの皆さんに集まっていただいたので,音楽面からの聖剣伝説の成り立ちを伺いたいと思います。
まずは伊藤さん,オリジナルの制作当時,どんな思いで作曲をされていましたか?
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「Sa・Ga2 秘宝伝説」のときは植松さんとゲーム中の楽曲を半分ずつ担当していましたが,初めての作曲仕事ということもあって,植松さんと“同化する”気持ちがどこかにあったんです。当時のスクウェアの社長にも「(Sa・Ga2の曲は)どちらがどの曲を担当しているか分からないくらい溶け合っているね」という評価をもらいました。
片や聖剣伝説はソロデビューということで,自分のオリジナリティを出さないといけないという使命感もあって,アピールするのにいい機会だと頑張った覚えがあります。
4Gamer:
先日のライブ後には,かつて作られた楽曲について「足りないなりにいろいろ頑張っている」と振り返ってらっしゃいました。
伊藤氏:
ひと言で言うと“メロディアス”でしたね。メロディラインの基礎は聖剣伝説で作られて,今まで続いているんじゃないかと思います。理由としては,当時「ファイナルファンタジーIV」(以下,FFIV)がスーパーファミコンで開発されていて,ゲームボーイの音源と比較したらオーケストラが鳴っているように聞こえたんです。それが羨ましくて……。
上倉氏:
ちょっと恨み節みたいになってますね(笑)。
伊藤氏:
そうそう(笑)。何をやっても敵うわけがないんですよ。画面からしてスーパーファミコンはカラーで,ゲームボーイはモノクロだし。だからこそ,聖剣伝説チームはFFIVをライバル視しているところはありましたね。
FFシリーズが大黒柱としてあったからこそ,ほかのタイトルにも「負けてられない」という意識が生まれ,そうして競い合った結果,いいタイトルが生まれたんだなって,今となっては思いますけどね。
4Gamer:
ちなみに,FFIVに対抗する手段というのは?
伊藤氏:
とにかくチームのみんなで話し合いましたよ。
シナリオを磨き上げたり,音楽でいえばFFよりもメロディアスなものを採用したり。
4Gamer:
今回の取材にあたってゲームボーイ版を再度プレイしてみたのですが,思っていた以上に古めかしさを感じなかったんです。その理由は伊藤さんが先ほどおっしゃるような“エバーグリーン”というか,物語や音楽のポピュラリティ(普遍性)にあるのかな,と。
ところで,ゲームボーイ版では楽曲制作にあたってはどのように進めていったのでしょう。
伊藤氏:
まずシナリオがあって,それに基づいて楽曲を用意していきました。足りないシーンについてはあとから追加をしていくという流れです。ライブでは石井さんが「リテイクもあったと」とおっしゃってましたけど……。
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僕から補足してもいいですか? ライブ後の打ち上げで石井さんにいろいろお聞きしたんですけど,「こだわって作っていたから,イトケンには何度もリテイクを出して,お互いにとって納得したものにしたかった」とおっしゃっていたんです。その気持ちがあったから,25年を経てもみんなの心に残るものになったのかな,と。
ただイトケンさんはリテイクがあったことを忘れてしまったみたいで。
伊藤氏:
リテイクがあったのは覚えているんだけど,どの曲がというのは忘れてしまってるんですよね。
話は変わりますけど,当時はゲームのことを何も知らなかったので,最低限これだけを遊べと「イース」や「ゼルダの伝説」といった,アクションRPGの名作を並べられたんですね。同時に,音楽はこれを聞いておけと渡されたのがイングヴェイ・マルムスティーンのCDアルバム「ライジングフォース」だったんです。
上倉氏:
速弾きで有名なギタリストですよね。僕はヘビーメタル/ハードロックが好きだったのでイングヴェイも聞いていて,そのエッセンスが聖剣伝説の楽曲を彩る要素として感じ取られたんですよ。
当時はまだイトケンさんのお名前を知らなかったんですけど,「ああ,この曲を作った人はHM/HRが好きなんだな」と思っていたんですが……。
伊藤氏:
まったく気にしてなかった(笑)。
(一同爆笑)
上倉氏:
あの当時のゲームボーイ楽曲って,パッセージを速くして聴感上は豪華に響かせるという手法があったんですけど,イトケンさんの曲はそれに逆行してメロディアスで,かつそれが情緒的に聞こえるところがあって。
なので,イングヴェイのアルバムが参考にあったという話を聞いて,すごく納得がいきました。
伊藤氏:
ゲームボーイは3和音しかなかったので“音を濁らせない”というのは意識しましたね。速弾きフレーズにせよ,クラシカルなバロックスタイルにせよ,ノイズではなくてちゃんとメロディとして和音を成立させようと。
上倉氏:
今回アレンジのお手伝いをするために,原曲を聞き込んで“分解”したんですが,あえて不協和音にして恐怖感を煽るみたいなテクニックは使わずとも,メロディアスなんだけどオドロオドロしさを出していたりするんですよね。
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とくにダンジョンとかそうですね。すごくメロディアスな要素で固めているなという要素です。
上倉氏:
綺麗なメロディや響きで,聖剣伝説の物語を彩る楽曲が作られているんだなと,あらためて思いましたね。
岩﨑氏:
「Rising Sun」の“ライジング”ってもしかして,イングウェイのアルバム名……?
伊藤氏:
それは関係ない(笑)。
(一同爆笑)
4Gamer:
3和音という制限を使いこなすにあたって,どんな苦労がありましたか?
伊藤氏:
当時はゲーム音楽のアルバムCDに楽譜が付いてきたので,それを何度となく写譜(譜面を手書きで写し取ること)しながら理解を深めていったんです。聖剣伝説はその応用だったので,Sa・Ga2ほどの苦労はなかったんですけど,あえてギミックな響きをさせないことや,曲として成り立たせる組み方を学びながらやっていました。
僕は体系的な音楽理論を学んだことがなかったんですが,聖剣伝説を通じて対位法などといった音楽理論を身につけられましたね。
上倉氏:
僕がアレンジを担当した「マナの神殿」は平行5度といって,音楽理論でいう禁則のオンパレードなんですよ。でも,聞き手のほうは理論ではなく,響きやメロディラインを重視します。当時小学生だった僕も,「なんて綺麗な響きなんだ」と思って聴いてました。ゲーム音楽ってやはり試行錯誤のうえで形作られるものというのもあって,理論を超えたものがあるんだなと。
伊藤氏:
僕の場合,イントロができれば半分完成したようなものだしね。
岩﨑氏:
最初に曲自体の世界観を固めるみたいな?
伊藤氏:
そう。イントロでグワッとつかむというのが自分の手法。クラシックピアノを学んではきましたけど,自分の音楽の根幹って歌謡曲やポップスといったポピュラーミュージックなんですね。
いずれにせよ,メロディが自分で“歌えない”といやだなと。別に歌詞はなくとも,ラララと口ずさんで気持ちいいことを意識しています。なので,歌メロに近くなってくるのかも。
上倉氏:
それは感じますね。歌だと息継ぎの関係から難しいかもしれないけど,演奏家の立場からすると,楽器の使い方に無理がない。いわゆるゲーム音楽では生演奏不可能な楽曲もありますが,イトケンさんの楽曲ではそれが少ないんです。
その証拠に,今回,成田君とのアレンジで生楽器をいくつか使わせてもらったんですけど,トランペットやオーボエといった単音の楽器のメロディがすごくキレイに響くんです。
成田氏:
演奏をお願いしたミュージシャンの方々も,すごく感情移入しやすそうでしたよね。メロディにのめり込みやすい。
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伊藤氏:
ライブでドラマーの滝山清貴さんが「僕はゲームをプレイしていないけど情景が思い浮かびますよ」と言ってくれたのは嬉しかったなあ。
岩﨑氏:
最初から完成されていたんでしょうね。曲を聞いただけで「ああ,イトケンさんだ」って分かりますもん。長い作家人生でタッチが変わっていく人もいるけど,伊藤さんは最初から“イトケン節”。
成田氏:
原曲を聞き込むと,それぞれごとに“こういうテーマを盛り込もう”という意図が見えるんですが,総じてイトケン節というか。
岩﨑氏:
単純に興味があるんですけど,初めての作品って「これでいいのかな?」という気持ちが多かれ少なかれあるんじゃないかと思うんですが……どうでした?
伊藤氏:
自分の中では満点に近いものを出しているんだけど,相手がイコールとは限らない。それはわきまえていたから,「これは合わないからボツだな」と言われても納得して次に取り掛かるスタイルで。
なにしろ自分は,最初からゲームが好きでゲーム会社に入ったわけではなくて,就職の一環として入社したというタワケた人間なので。申し訳ないんだけど「スクウェアってどんな会社?」みたいな感じだったから(笑)。
上倉氏:
初めて聞きました(笑)。
伊藤氏:
いろんなところで言ってるんだけどね。だからこそ,ボツを食らおうがそれが当たり前だと納得してクサらずにいられたんだと思う。
4Gamer:
先入観がなかったからこそ,自然と鍛えられていったと。
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もう一つ聞いてもいいですか? ゲームが売れて自分も認知されたというのは一つの成功体験じゃないですか。「これでいいんだ!」という意識や,その次の作品に対する影響は生まれました?
伊藤氏:
「それはそれ,これはこれ」でしたね。前の成功をなぞるのではなくて,また違う世界観でベストを尽くそうと。
なので,自分の中では聖剣伝説とサガは別物だし,それ以降のフリーになってからのタイトルも,根底に流れるものは同じかもしれないけど表現するところは違います。だから,自分の中で似通ったところはないし,自分の中では消化できるからピアノ一つで弾くことができる。それぞれのベストな出し方をしていたから,今までうまくやってこれたんでしょうね。
4Gamer:
……ひょっとして“イトケン節”と言われたりするのは,ご自身としてはピンときていないのではありませんか?
伊藤氏:
まさに自分が一番分かっていないと思います(笑)。一つ意識しているのは“自分の好きなメロディを出そう”というところだけですね。
4Gamer:
やはり(笑)。変に意識しないからこそ,常に新鮮な気持ちで取り組めるのかもしれないですね。
ちなみに伊藤さんは原曲を作っていたときに,アレンジで聞けるような,それぞれの楽曲をイメージしながら作っているのでしょうか。それともゲームボーイの音源ありきなんでしょうか。
伊藤氏:
ぼやっとした楽器のイメージはありますが,基本はあくまでゲームボーイの音源を活かした曲作りになっています。当時,植松さんからは「アレンジ版があるのを理由にオリジナルをおろそかにするんじゃない」と教えられたんですよ。ゲームボーイはピコピコした音しか鳴らないけど,それを活かして完結した世界観を作れ,と。なので,オリジナルはあくまでオリジナルです。
岩﨑氏:
イトケンさんの話を聞いていると,植松さんって,昔はいいことを言ってたんだなと(笑)。人生を左右するような言葉をたくさん言っているように思える。
成田氏:
自分も今(EARTHBOUND PAPASのリーダーとして)いいことをたくさん言ってもらってますから。
伊藤氏:
きっと,植松さんの中で何かが一周したんだと思う(笑)。




















