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AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?
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印刷2014/04/30 00:00

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AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?

CES 2014で披露されたゲーマー向けMullins搭載タブレットのコンセプトモデル。動作中のゲームはPro Evolution Soccer 2014
(C)Konami Digital Entertainment. KONAMI is a registered trademark of KONAMI CORPORATION. All Rights Reserved.
画像集#019のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?
 日本時間2014年4月29日13:01,AMDは,2014年中の市場投入が予定されている第3世代の低消費電力向けAPU,「Mullins」(ムリン,開発コードネーム)と「Beema」(ビーマ,同)の詳細を明らかにした。
 この2製品は,2013年11月にその存在と位置づけが公表されたもので,2014年1月の2014 International CES(以下,CES 2014)では,これらを使ったPCのプロトタイプが披露されている。

 今回の発表では,MullinsとBeemaの製品ラインナップが公開されたほか,ベンチマークテストでの性能や注目すべき機能も明らかにされた。AMDが公開したスライドをもとに,登場が間近に迫った両製品の特徴をざっくりとまとめてみたい。

「Brazos」と呼ばれた初代のモバイル向けAPUから数えて,MullinsとBeemaは3世代めにあたるAPUだ
画像集#003のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?


競合に対して消費電力あたりの性能は2倍を謳うMullinsとBeema


 現在AMDは,タブレット端末向けに「Temash」コア版のAMD A-Series APUを,2-in-1デバイスを含む薄型ノートPC向けに「Kabini」コア版のAMD A-Series APUやAMD E-Series APUをそれぞれ提供している。開発中のMullinsは,Temashコア版APUの後継製品に位置付けられており,同様にBeemaはKabiniコアAPUの後継となる製品だ。
 どちらのCPUも28nmプロセス技術で製造され,CPUコアに「Jaguar」(ジャガーもしくはジャギュア)マイクロアーキテクチャを改良した「Puma+」(プーマプラス)を2〜4基,GPUコアは「Graphics Core Next」(以下,GCN)世代を採用することが明らかになっている。
 そのラインナップは以下のとおりだ。

●Mullins
A10 Micro-6700T A4 Micro-6400T E1 Micro-6200T
TDP 4.5W 3.95W
CPUコア数 4基 2基
CPUコア
最大クロック
2.2GHz 1.6GHz 1.4GHz
L2キャッシュ容量 2MB 1MB
GPUブランド Radeon R6 Radeon R3 Radeon R2
Compute Unit数 128基
GPUコア
最大クロック
500MHz 350MHz 300MHz
対応メモリ DDR3L-1333 DDR3L-1066

●Beema
A6-6310 A4-6210 E2-6110 E2-6010
TDP 15W 10W
CPUコア数 4基 2基
CPUコア
最大クロック
2.4GHz 1.8GHz 1.5GHz 1.35GHz
L2キャッシュ容量 2MB 1MB
GPUブランド Radeon R4 Radeon R3 Radeon R2
Compute Unit数 128基
GPUコア
最大クロック
800MHz 600MHz 500MHz 350MHz
対応メモリ DDR3L-1866 DDR3L-1600 DDR3L-1333

画像集#006のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか? 画像集#007のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?
Mullins(左)およびBeema(右)のラインナップ

 MullinsとBeemaで最も重要な特徴は,競合他社の製品に対して,消費電力あたりの演算性能――GPUとCPUを合わせた演算性能――が2倍に達するという点にある。
 Temashのスペックを振り返ると,CPUコア4基搭載の「AMD A6-1450」が,最大1.4GHz駆動でTDPは8W,CPUコア2基搭載の「AMD A4-1200」が,最大1GHz駆動でTDPは3.9Wだった(関連記事)。これに比べてMullinsは,CPUコア4基の製品では最大動作クロックを2.2GHzへと大幅に引き上げながら,TDPはほぼ半減。2コア製品でも動作クロックを引き上げながら,TDPはほぼ横ばいを維持していることがわかる。

現行のTemashとMullinsの位置付けや性能を比較したスライド。各製品の下にある数値は,左から「3DMark 11」と「PCMark 8」,そしてOpenCLベンチマークプログラム「Basemark CL」のスコアである。このスコア比較は,今後のスライドでも登場する
画像集#004のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?

 この性能向上にAMDは大きな自信があるようだ。なにしろ,今回の説明を担当したモビリティ製品部門シニアディレクターを務めるKevin Lensing氏が,「競合は後を追うことすらできない」と豪語したほどである。
 AMDが想定するMullinsの競合CPUは,Windows 8.1搭載タブレットで採用されている「Atom Z3770」や,2-in-1デバイスに採用される「Core i5-4200Y」「Core i3-4010Y」だという。Lensing氏は,「Core i5/i3とAtom Z3770の間には,価格と性能の大きなギャップが存在しており,その隙間を埋められるMullinsと戦える製品は,競合には見当たらない」と主張していた。

Mullinsと競合に位置付けられるIntel CPUを比較したスライド。Core i3-4010YとAtom Z3770の間にギャップがあり,Mullinsはここに当てはまるという
画像集#005のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?

 一方,薄型ノートPC向けに投入されるBeemaを,現行のKabiniと比較してみると,Kabiniの上位モデルである「A6-5200」がTDP 25Wだったのに対して,Beemaの上位モデル「A6-6310」は15Wと,6割程度までの省電力化を実現しているという。
 また,両製品のベンチマークスコアを比較してみると,3DMark 11のスコアに顕著な向上が見られる。内蔵GPUはどちらもGCN世代であり,シェーダプロセッサ数も同じ128基だ。ただし,内蔵GPUの最大動作クロックは,A6-5200が600Hzだったのに対してA6-6310は800MHzとなっているので,GPUの規模は同程度に止めながらも,最大動作クロックの向上により性能向上を達成したと見ていいだろう。
 なお,メモリインタフェースはKabiniから引き続いてシングルチャネルのままであるが,A6-6310はDDR3L-1866をサポートしており「メモリ帯域も大幅に拡大している」(Lensing氏)とのことだ。

KabiniとBeemaの位置付けを比較したスライド。TDPを40%引き下げながら,グラフィックス性能は10%向上したという
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 Intel CPUに対するBeemaの優位点として,AMDは,GCN世代のGPUを統合することによるグラフィックス性能の高さを強調している。ただし,Beemaの比較対象は,Haswell世代のCPUでも下位モデルに当たる「Pentium 3556U」や,Bay Trail-MベースのCeleronシリーズである点には注意が必要だろう。

Beemaと競合に位置付けられるIntel CPUを比較したスライド。グラフィックス性能は大幅に上回るほか,OpenCL性能でも圧倒している点に注目
画像集#009のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?


MullinsとBeemaは賢い電力と動作クロック制御で性能を上げる


 MullinsとBeemaを語るうえで非常に重要な点は,いかにして消費電力当たりの性能を向上させたのかだ。その鍵の1つは,CPUコアの改良にあるという。
 冒頭でも触れたが,MullinsとBeemaのCPUコアには,現行の「Jaguar」マイクロアーキテクチャを改良した「Puma+」と呼ばれるコアが採用されている。AMDでチーフアーキテクトを務めるBen Bates氏によれば,このPuma+は,動作クロックの向上と消費電力の抑制を両立させることを目標に設計されたという。

4基のCPUコアを集積したMullinsのダイ写真(左)と,写真をブロック別に色分けした画像(右)。CPUコアはJaguarコアの改良版であるPuma+を採用している。なお,ブロック別画像の中央やや左下に「PSP」と書かれたブロックがある。これは後述する「Platform Security Processor」のことだ
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 このPuma+は,Kabiniに採用されたJaguarと比べて,CPUコアのリーク電流が19%も低減されているという。どのようにしてリーク電流を低減させたのかについて,Bates氏は説明を避けたが,CPUコアが改良されていることと,製造プロセス自体は変更されていないことから推測すると,CPUアーキテクチャの最適化によって低減を実現したと考えるのが妥当だろうと思う。

Puma+はJaguarの改良版だが,リーク電流が19%も低減されたという。TDPを抑えたままで動作クロックを向上させた背景には,この改善があったのだろう
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 GPUコアの消費電力は,CPU以上に大きく改善されたという。先述のとおり,MullinsとBeemaのGPUコアは,KabiniやTemashと同じGCN世代のアーキテクチャだが,リーク電流が38%も抑えられているとのことだ。GPUの最大動作クロックが引き上げられているのも,このリーク電流低減の効果とみていい。

 こうした大きな改良だけでなく,「爪に火をともす」ような改良も行われている。たとえば,消費電力が馬鹿にならないメモリインタフェースやディスプレイのインタフェースなどで消費電力を下げる改良が行われ、メモリインタフェースでは500mW,ディスプレイ側では200mWの省電力化に成功したそうだ。

メモリーインタフェースやディスプレイインタフェースの省電力化を説明したスライド。こうした積み重ねでAPU全体の消費電力低減は実現されている
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 アーキテクチャの改良による消費電力低減に加えて,MullinsとBeemaでは電力制御機能に,APU全体の処理能力を上げるための大きな改良が2つ導入されたという。

 1つめは「Skin Temperature Aware Power Management」,略して「STAPM」と呼ばれる電力制御機能だ。日本語にすると「表面温度を意識した電力制御」といったところだろうか。

 タブレット端末では,筐体表面の温度管理が重要だ。表面が手で持てないほど発熱したり,低音やけどを誘発しかねない温度まで上がったりしては商品にならない。一方,半導体そのものは,チップ内部の温度である「ジャンクション温度」(Tj)が動作の基準となっている。これは,「それを超えると半導体は正常に動作しませんよ」という物理的な上限であり,ユーザーが筐体の表面で感じる温度とは当然異なるものだ。
 半導体の内部温度と機器表面の温度(Tskin)には関係があるのだが,半導体内の温度変化が機器表面まで伝わるには,それなりの時間差が生じる。この時間差を利用して,設定された表面温度に達するまではCPUやGPUの動作クロックを上げて駆動することで性能を向上させようというのが,STAPMの考え方であるわけだ。
 AMDではSTAPMを導入することにより,重い処理に対して最大63%もの性能向上が得られるとアピールしている。

STAPMの概念を説明したスライド。右側のグラフは,縦軸が温度で横軸が経過時間を示す。水色の線はジャンクション温度を,オレンジ色の線はボディ表面の温度を示している。ボディ表面の温度が規定値に達するまでは,動作クロックを上げたままにしておき,規定値に達したら動作クロックを落としてCPUの温度をジャンクション温度まで下げる。こうすればボディ表面の温度は規定値以上に熱くはならない
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 2つめの仕組みは,「Energy Aware Boost」と呼ばれる機能だ。
 こちらも発想としてはシンプルで,動作クロックを抑えて処理時間を長くするよりも,動作クロックを上げて処理時間を短くするほうが,トータルでの消費電力を抑えられる場合があるという考えに基づいた機能である。
 要は,自動車で目的地に向かう場合に,速度を上げて短時間で到着するほうが,時間をかけてゆっくり走るよりも燃費がいい場合があるのと似たようなもの,と考えてもらえれば分かりやすいかもしれない。

Energy Aware Boostの概念を説明したスライド。重要なのは右側のグラフで,消費電力と動作クロックの関係を示したものだ。縦軸がトータルの消費電力を,横軸が動作クロックを示しており,2GHz程度まで動作クロックを上げたほうが,消費電力は少なくて済むことが読み取れる
画像集#014のサムネイル/AMD,次世代モバイル向けAPU「Mullins」と「Beema」の概要を公開。Bay Trailを追撃する切り札となるか?

 AMDのコーポレートフェローを務めるSam Naffziger氏によると,MullinsとBeemaに搭載された電力制御システムは非常に賢く,動作クロックを上げたほうが消費電力が抑えられるのかそうでないのかを処理に応じて適切に判断し,総合的な電力消費が抑えられるように動作クロックを変える仕組みになっているのだという。

 こうした高度な電力と動作クロックの制御によって,MullinsとBeemaは従来よりも高いベンチマークスコアを発揮できるという。実アプリケーションでも性能向上やバッテリー駆動時間の延長に効果がありそうに思えるが,実機で検証してみなければ確実なことはいえない。

左のグラフは,Beemaの電力制御システムによりKabiniと比べてベンチマークスコアを向上させつつ,消費電力を削減できたことを示している。ちなみに,スライドには「BATTERY BOOST」なる名称が書かれているが,NVIDIAが同じ名称を先に使ってしまったため,Energy Aware Boostに変名したらしい
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セキュリティ用コプロセッサとしてCortex-A5を内蔵


MullinsとBeemaはCortex-A5コアを内蔵し,ARMが開発したセキュリティ機能を提供する
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 最後に,ゲームにはあまり関係なさそうではあるが,MullinsとBeemaが持つ,従来のx86プロセッサにはなかった特徴を説明しよう。それは,セキュリティ機能を処理するためのコプロセッサとして,ARM製のCPUコア「Cortex-A5」を内蔵していることだ。なお,MullinsとBeemaに組み込まれるCortex-A5は,「Platform Security Processor」(PSP)と呼ばれている。

 Cortex-A5は,極めて小規模ながら,ほかのCortex-Aシリーズと共通の命令セットに対応するプロセッサだ。先に掲載したブロック図でも分かるように,PSPが占める面積はごく小さいサイズに留まっている。
 実のところ,x86 CPUにCortex-A5を組み合わせてセキュリティ機能を処理させるというプランは,2012年6月に発表されていた(関連記事)。それが2年越しでようやく日の目を見たわけだ。

 さて,そのPSPは,ARMが開発したセキュリティ技術「TrustZone」によって,2つの機能を提供するという。1つは重要なデータやファームウェアを保護する機能で,TrustZoneの用意するAPIである「Trusted Execution Environment」(TEE)によって実現されるとのことだ。もう1つは暗号化処理のアクセラレーションである。

PSPのブロック図。独立したSRAMやROMを備えており,データやファームウェアを保護する機能や,暗号化のアクセラレーション機能を提供するというもの
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CES 2014で披露されたファブレットサイズのMullins搭載PC「Nano PC」。こんなPCが日本でも登場することを望みたい
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 今回発表されたMullinsとBeemaの特徴は以上のとおりだ。AMDはこの2製品によって,CES 2014でAMDが披露した「Nano PC」のような製品を実現できるとアピールしていた。しかし,日本市場でMullinsやBeemaを搭載する製品がきちんと販売されるのかについては,疑問があるというのが正直なところだ。
 x86 CPU搭載の2-in-1デバイスやタブレット端末といえば,Intel製CPUの独壇場である。しかし,3Dグラフィックスのゲームを動かせる性能のGPUコアを内蔵しながら,タブレット端末や2-in-1デバイスに搭載できる消費電力を実現したMullinsとBeemaは,ゲーマーにとって魅力的な製品を実現可能なAPUだろう。日本のゲーマーでも気軽に購入できる製品の登場を期待したい。

AMD 日本語公式Webページ


  • 関連タイトル:

    Beema,Mullins(開発コードネーム)

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