ゲームのアイデアが最も尊いものである――お金を借りるのとはわけが違うんです
4Gamer:
実はおっしゃってるテーマ自体は,ずいぶん前からそこかしこで繰り返して話されるテーマですよね。
稲船氏:
そうですね。なにせみなさんご承知のとおり,海外から学んで,そのまま海外の猿真似をしたって仕方ないんです。日本のゲームのいいところと,海外から学んだものを融合して,日本らしいゲームを海外に提供すること,それが大事なんです。でもいまのところ,日本「らしい」ゲームで勝てるのは任天堂だけです。
4Gamer:
相手に応じた「一手間」はやはり必要ですよね。どんなものでもそうですが。
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そう。例えば納豆巻きがうまいんだ!といって,カリフォルニアで納豆巻きしかない寿司バー作ったって,誰もお客はこないんですよ。やはりアメリカ人に合った納豆巻きにしないと。
もちろんそれは納豆巻きがいけないわけじゃなくて,納豆という食べ物を,いかに食べやすくするかを海外のシェフからキチンと学んで,日本人が考える「納豆巻き」というものを違う形に変えないといけないんです。そういうことを言ってるのであって,納豆を否定しているわけじゃないんです。
だから,自分の作品を例に出しますが,デッドライジングはとても日本っぽいゲームですよ。意図的にその部分を残してるんです。それは,開発を担当したカナダの人も言ってましたし,そうしたほうがいい,とも言ってました。「外人が作ったゲームに見えるようにしろや!」と言ったわけではないんです。
4Gamer:
そういうものを目指していくために,完全独立系のデベロッパを目指す感じですか。
稲船氏:
はい。完全独立で,幅広くクリエイティブなことをしたいと思っています。どこかのパブリッシャの仕事を請け負うと,結局縛りが入って,いろいろなことができなくなるんですよね。それは出来れば避けたい。パブリッシャには得意不得意があって,いろいろないいところ悪いところがあるんですよ。そういうものを適宜判断しながら,対等な立場で物事を進めていきたいんです。
4Gamer:
完全独立と言いますが,現実的に,いまの日本のゲーム業界では難しいですよね。
稲船氏:
そうですね。なので,それが「出来る環境」を作りたいと思ってるし,そこに向かって努力していきたいです。何度も言うように,ゲーム以外のものを作ってもいいでしょうし。
ゲーム業界の人間はゲームだけ作ってればいいんだ,っていうのは,ある種の「常識」に過ぎないわけですよね。常識というか暗黙の了解かもしれませんが。そういうものに縛られたくないですね。そしてそういう常識はいっぱいあるんです。
4Gamer:
開発会社という話で言うと,下世話な話ですが「30億出すから2タイトル作れ。でもウチ以外の仕事はするな」とかもそうですね。
稲船氏:
ええ。まぁそれを言うほうもワガママですが,とはいえ,それをイヤだというほうもワガママだとは思いますが(笑)。でも対等に話ができる環境というのは重要だと思いますよ。
4Gamer:
ところであれはどういう慣習に基づいたルールなんでしょうか。金を出した人が偉い?
稲船氏:
それもあるでしょうけど,独占欲ですかねえ。
4Gamer:
独占欲といっても,ちょっとねじ曲がった方向だと思うんですが。たぶんそれは「金出して作らせてる手駒のくせに勝手なことすんな」という感覚に近いというか。
稲船氏:
あぁそうですね。そういう言い方は割と近いかもしれない。
あとこれも,パブリッシャさんに嫌われるかもしれないことを覚悟したうえで言っておきたいんですが,パブリッシャさんはよく「お金出してんだから」と言いますが,お金という話だけで言うならば,それを手に入れる道はいくらでもあるんです。
4Gamer:
早くて手軽な手段かどうかは別として,銀行とかVC(ベンチャーキャピタル)とかファンドとか,可能性だけで言うなら確かにいろいろありますね。あ,なるほど……言わんとしてることが理解できました。
稲船氏:
そうです。それに対して,ゲームのアイデアやコンセプトは絶対に借りられません。銀行もVCもファンドも,どこに行ったって貸してくれませんよ。でもゲームの業界は,お金を出したところがマルシー(編注:ここではコピーライトのことを指す)なんですよね。
僕が例えば素晴らしいアイデアを持って,辞めたあとでカプコンに行って「この作品をカプコンさんで作らせてくれませんか」って交渉してそれが通ったとき,「いいよ。いくらかかるの」「20億です」「オッケー」っていって順調に発売されたとして,なぜか(C)はカプコンなんですよ。これおかしくないですか?
4Gamer:
うーん確かに言われてみれば違和感はありますね。でも昔からそうですよね。
稲船氏:
でも例えばマンガは違いますよね。鳥山 明氏とか。描いたバードスタジオも,それをパブリッシュした集英社も(C)を持ってるんです。マンガとゲームはどう違うんでしょうか。これも,ゲーム業界がいま抱える問題点だと思っています。
もちろん単に(C)をくれ,っていう話じゃなくて,パブリッシャ,デベロッパのあり方を考えるタイミングに来てるのかもしれません。そういう部分も含めて変えていきたいですね。何年かかるか分かりませんけど。
海外デベロッパとの協業に関する本音――みんながみんな,もっと変わらなくてはダメです
4Gamer:
そこに至るまでにまずやる最初の一歩はなんでしょうか。
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僕の得意なことは,100人の開発者を抱えて数字におびえながらやっていかなければならないこと……ではなくて,コンセプトをしっかり作り込んで,そのコンセプトを開発する人に伝え続けていくことです。どこの開発者と仕事をしても,うまく回せるんです。例えばパブリッシャ内部の開発者であっても,外部であっても,または海外のデベロッパであっても。いい意味での「協業」ができるんです。
4Gamer:
日本の開発者の方々は純粋な「職人さん」が多いので,そういうことは割と苦手ですよね。
稲船氏:
僕は20年以上カプコンにいた人間なので,やはり僕が持っているものは,どこか「カプコンらしい何か」だと思うんです。その何かと,例えば協業相手の開発会社が最初から持っている何かが融合された,新しい作品が誕生して,その作品がいい結果を生めれば,これは素晴らしいことですよね。
その協業相手について,僕は好んで海外デベロッパも候補に加えるだけです。
4Gamer:
先ほどもちょっと話に出ましたが,海外で売れる作品が求められているのであれば,それは大いに価値があることですね。
稲船氏:
ええ。そしてそれこそが,僕の得意分野です。例えばストリートファイターIVは,日本が20万本で海外230万本。バイオハザード5も,日本は60万本で海外は500万本です。
4Gamer:
数字を見れば見るほど,海外を狙わないでいいと思ってる人はいないはずだ,という気持ちになります。
しかし一方で,その数値の差を見るたびに思うんですけど,極論まで進めていくと「日本のマーケットは要らない」ということにつながっていきませんか?
稲船氏:
いやそんなことないでしょ。少なくとも僕はそう思ってませんよ。サッカーのない国ではサッカーしないですよね?
4Gamer:
また難解な例えが出てきましたね……。
稲船氏:
日本のサッカーは今はそんなに強くないし,ワールドカップで優勝できない。だから日本にサッカーはいらない。みんなでブラジルに行こう,っていう話にはなりませんよね。まぁブラジルに行ける人は行ったらいいし,ヨーロッパに行ける人は行ったらいいんです。でも,その国にサッカーがない限り,「サッカーやろうぜ」という動きは生まれないわけです。
それで,できることならサッカーが強くなったほうがいいに決まってるんです。だから努力が必要なんです。でも,国際大会で勝てないからって諦めちゃダメなんですよ。
4Gamer:
意地悪な言い方ですが,それならそれで海外で作ればよいのでは?
稲船氏:
いやいや。優秀なサッカー選手がヨーロッパに行ってるのと一緒ですよ。あの人達は,ヨーロッパに移住するために行っているわけじゃないですよね。世界のサッカーを学びに行ってるわけですよね。
言うならば伊藤博文と一緒ですよ。世界を見て日本に帰ってきて,総理大臣をして,政治を,そして日本を変えるんです。彼ら優秀なサッカー選手がそのうち戻ってきて,良き指導者になって,日本のサッカーを変えていくわけです。
4Gamer:
はい,おっしゃることはよく分かります。しかしそれには一つどうしても必要なものがあると思うんです。それは「ユーザー側の知識」です。
稲船氏:
まったくそのとおりですね。世界のサッカーはこうなんだ,ということを視聴者が知って理解していないと意味ないですもんね。そのために4Gamerのようなメディアがあるんです(笑)。
4Gamer:
うう,おっしゃるとおりです……。
稲船氏:
僕達がどんどん海外に出て行けば,その情報が伝播して,ユーザーさんも海外を理解して,海外のゲームにもっと注目しますよね。それはすなわち,日本のゲームに注目することでもあります。Red Dead Redemptionが日本で100万本売れる時代にならなきゃいけないんですよ。あれは10万やそこらで終わっているゲームじゃないと思うんです。クリエイターもユーザーも経営者も,もっと変わらなきゃいけないんです。
4Gamer:
しかし今までの発言を,客観的に捉えてあえて下世話な言葉で言うと「洋ゲー至上主義」にも聞こえてしまうのですが。
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少なくとも今は,洋ゲーの方が面白いし勝っています。さっきの例で言うなら,今はヨーロッパのサッカーのほうがずっと上です。根性だけではスペインには勝てないんです。だから今僕達がやらなくてはいけないことは,スペインのサッカー,フランスのサッカー,イギリスのサッカー,それぞれを知ることなんです。そういう意味で言うなら,「稲船さんってヨーロッパのサッカー番組ばっかり観てるよな」と言われても仕方ないと思います。でも,今負けていることを認めて,相手から学びとることはとても重要です。
でも,日本のゲーム作りの精神だって,そんな簡単には消えないですよ。日本人の団結力は,本気出したらすごいんです。僕は日本が大好きだからこそ,アメリカやヨーロッパに負けたくないんです。だって日本がどうでもいいなら,僕は向こうに行っちゃえばいいだけの話じゃないですか。
4Gamer:
おっしゃるとおりです。
稲船氏:
だから,できれば日本のゲーム業界を変えたいんです。見捨てたくないんです。このあと僕がカプコンを辞めて,たとえばEAとActivisionとRockstar,3本の仕事を受けました。っていう風にはしたくないんです。それって結局見捨ててるわけですから。
僕はカプコンというパブリッシャしか知らないので,例えば日本のほかのパブリッシャのいいところと悪いところを見たり,海外のパブリッシャのいいところと悪いところを見たりして,それらを全部日本のゲーム業界にフィードバックして取り入れて,業界を変えたいんです。
4Gamer:
日本のゲーム業界が変わるためのトリガーの役目を果たす,と。
稲船氏:
第一のトリガーは,実はもういますから(編注:稲船氏は以前よりレベルファイブの日野氏をリスペクトしているので,日野氏を指していると思われる),僕はそれをさらに引っ張る感じの牽引役,ですかね。
そしてずいぶん前の話に戻っちゃいますが,そういういろんなことをきっかけに,クリエイターがもっと自覚を持って,サラリーマンを辞めてほしいと思っています。全てのクリエイターが同じ考え方を持ったら,きっと業界は変わりますよ。変わらざるを得ないんです。
僕は実は経営をしたい人なんです――社長の仕事は二つしかありません
4Gamer:
しかし独立するのであれば,おそらくは社長という立場になるわけですよね。何かそこに向けて抱負のようなものはありますか。
稲船氏:
僕は実は経営をしたい人なんです。
4Gamer:
普通やりたくないと思うんですけど。
稲船氏:
そうですね(笑)。でも例えば,また最初のほうの話に戻るなら,45歳前後のクリエイターってそれなりにいるわけじゃないですか。そういう人達が「経営」をやればいいんですよ。
4Gamer:
それはまたどんな理由で?
稲船氏:
45歳ならまあまだ経営者としてはそれなりに若いほうでしょう。経営サイドに立って,かつての自分の苦労を思い出して,20代30代の人間にいい環境を作ってあげて,いい作品を作り上げて成功する。そういうのも悪くないと思うんですよね。それがひいては,業界の発展にもつながるし,プレイヤーさんだって絶対に楽しいはずです。
4Gamer:
後進育成ですね。
稲船氏:
あとダレットの社長やってて思ったんですけど,社長の仕事って簡単ですよ。数字のことなんてプロにまかせておけばいいんです。本当に大事なことは二つしかなくて,部下を評価することと,夢を語ること。これだけです。夢を語らないと,みんながどこに行けばいいのか分からないですからね。
4Gamer:
とくにこういう仕事だと,数字にこだわることと業務内容は相反しがちですしね。
稲船氏:
ええ。原価率のパーセントを気にしたり,利益を前年比で何%にしろとかは,「夢」じゃないですよね。
あと,部下が何かを考えたかのように動かしてあげることは重要だと思います。いい方法でもあるし悪い方法でもあるんですけど。とくに僕達のような仕事をやっている人は,命令じゃ動かないんです。こんなゲームを考えたからこうしろ,って言っても動かない。やりたくないんですね。
4Gamer:
それはそれで単なるワガママだと思うんですが。
稲船氏:
まぁそうかもしれませんね(笑)。そういうときは,一緒にやればいいんです。「オレいまこんなゾンビゲームを考えてるんだけど,いまんとここんな風にしようと思ってるんだよね。そこにどういうゾンビがいたらいいと思う?」とか。
4Gamer:
誘導によるプロジェクトへの参加ですね。
稲船氏:
そう。「あーじゃあこういうのがいいんじゃないですかねー」って返ってきたらオーケー。「お,それいいね。いただき」って。当然ですが,僕は答えをいくつか持ってるわけです。でもそこに向かって誘導してあげれば「あ,意見が取り入れられた」って思ってくれるだろうし,実際に「なるほど,それは気付かなかった」という意見をもらえることもあります。お互いにとって良い手法だと思うんですよね。意見を取り入れられた瞬間に「稲船が勝手に作ってる何か」から「俺のゲーム」に変わるわけです。
4Gamer:
その瞬間にモチベーションも変わります。
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あとよくやるのは,これは例えですけど「北に行け」って指示するわけです。これは命令です。ただ,北へ行くための手法やルールは指示しません。自由にまかせます。タクシーで行ってもいいし,電車で行ってもいいし,歩いて行ってもいいし。最重要な部分以外を完全にまかせるんです。たとえばキャラクターデザインであれば,本当に重要な部分だけは自分が握りますが,あとは全部まかせて好きにしてもらうわけです。
その瞬間に「自分のゲーム」になるわけで,当然パワーの入り方も違うわけです。ズレないようにハンドリングはする必要はありますが,そういうことをやって,その作品がヒットしたら,自信がつきますよね。自信をつけてもらって,また頑張ってもらうわけです。
4Gamer:
先ほどおっしゃっていた「悪い方法でもある」というのはどういう部分を指してるんでしょうか。
稲船氏:
これを続けていくと,どこかで必ず「あぁ稲船がいなくてもできんじゃん」って思うはずなんです。「北に行けばいいのは分かったよね。じゃあとはまかせたよ」っていうと,なぜかこれが西とか南とかに歩き出すわけです。まあそれでもなお,この手法には大きな価値があると思っていますが。



















