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「きみしね20周年 トーク&ライブ★スーパーずんずんナイト」レポート。「きみのためなら死ねる」開発陣のトークとライブで発売20周年を祝福
イベントには当時の開発スタッフやゲストが登場し,きみしねの開発秘話や作品にまつわるエピソードが披露された。20年前,新宿で行われた路上ライブをオマージュしたライブパートも盛り上がったイベントをレポートする。
出演者は吉永 匠氏(きみしねディレクター),幡谷尚史氏(きみしねサウンドディレクター),山下 靖氏(きみしね名付け親),光吉猛修氏(きみしねボーカリスト),西村ケンサク氏(きみしねMC),あさみほとりさん(きみしねゲスト)の6名。きみしねファンの声優・あさみさんを除き,かなりのキャリアを持つベテランのセガ社員が揃った。
きみしねの開発ディレクターを務めた吉永氏は,100人以上のファンを前に「2004年から20年が経って,まだきみしねのことを覚えてくれている人がこんなにいるなんて,ちょっとどうかしている世の中だなと思いました(笑)」と挨拶し,来場者は笑いと拍手で喝采した。
トークパートはきみしねの企画開始から発売以降まで,時系列に沿って掘り下げていく流れで進行した。
2004年3月,吉永氏はそれまで所属していたセガの開発子会社ユナイテッド・ゲーム・アーティスツ(UGA)が解散し,ソニックチームに転属したあたりで,同年末に任天堂から発売される新ハード「ニンテンドーDS」(以下,NDS)に向けた企画を任されたという。
当初用意した企画の1つは,きみしねの原案となるもの。そしてもう1つは,ソニックやアレックスキッドといったセガのキャラクターを使い,タッチデバイスで遊ぶ「ソニックワイワイワールド(仮)」的なものだった。
後者は来場者だけでなく,出演者も知らない企画だったが,内容自体は比較的当たり障りないもので,吉永氏は任天堂のローンチタイトルに埋もれてしまう懸念を抱いていたそうだ。
一方,きみしねの原案となる企画も,ほかのタイトルに負けない弾けた内容にするのであれば,既存のキャラクターを使うことは困難。そこで遊びもキャラクターもすべてイチから作ることを提案したところ,こちらの企画にゴーサインが出た。
3月に企画書を用意して,年末には発売する強行スケジュール,しかも新ハードということで開発機材がなかなか到着せず,ゲームを試せないままスケジュールが迫ってくる状況だったとか。
企画屋である吉永氏はNDSに対する印象について,タッチデバイス付きの携帯ゲーム機は画面と手元を一度に見られるので,とんでもない操作を構築しても,作る側は説明しやすく遊ぶ側も分かりやすいものだったと語る。
それまでの家庭用ゲーム機とは明らかに毛色が違い,マイクの音量認識を使って画面のロウソクを吹き消したり,恥ずかしい言葉を叫んだりする,吉永氏いわく「ろくでもない操作(笑)」も遠慮なく入れられたという。
「売る」側の立場だった山下氏も,「スペースチャンネル5」を作った吉永氏がNDSの機能を使い倒した変なゲーム(当時の仮題は「プロジェクト・ラブ」)を作っているという話は聞いていて,とくに口を出されることもなく開発は進んでいった。
会場のスクリーンでは,初期の企画書も披露された。「愛と青春のコスリまくりゲーム集」というコンセプトのもと,イメージソングも作られており,実際にゲームに採用されてトレードマークにもなった「キンギョ」のゲーム画面もすでに完成している。企画書に書かれていた「You shall never return」のメッセージは,KONAMIの「グラディウスII」から引用したパロディだそうだ。
現在,セガの営業本部長である山下氏は,企画書を見て「今でもイカシていると思う」と太鼓判。「でもこれは“吉永流”なので,似たようなものが出てきたら“吉永っぽい”と感じてしまうかもしれない」と続けた。
次の話題はタイトルについて。スクリーンには多数のタイトル候補が映し出され,その中には完全にネタと思えるものもチラホラ。「夜明けのコーヒータイム」というタイトルを見た山下氏は,開発陣が徹夜でタイトルを考えて行き詰まった状態にあったことを実感し,この中から選ばなければならないのがキツかったと吐露した。
そんなタイトル候補から終盤まで残った「電撃恋愛」「奇跡の恋人 恋愛タッチ」は仮のロゴも作られたが,やはり納得できるものではなく時間ばかりが過ぎていった。タイトルが決まらないまま8月に入り,NDSの体験会の出展なども決定し,追い詰められた吉永氏は「地球,滅ばないかな……」とまで考えるようになっていたそうだ。
「きみのためなら死ねる」というタイトルは,山下氏が読んでいた本に書かれていた「愛と誠」のキャラのセリフから,漫画「愛と誠」「1・2の三四郎」などから,女性のために命をかける際の「君のためなら死ねる」というフレーズとゲームのストーリーがマッチしていたことから提案した。会議では開発陣からも爆笑の賛同を得られたが,プロデューサーの小川陽二郎氏には却下されてしまったという。
ところが翌日,出社すると小川氏から「一晩寝たら,ほかの候補が思い出せなくなった」と考えが変わったことを知らされ,ついにタイトルが決定。その時点で,お盆を過ぎていたというから大変だ。
そうこうしているうちに,謎めいたティザーサイトが公開となり,幡谷氏が手がけた耳に残るサウンドも流れていた。
吉永氏からの楽曲のオーダーは「一度聴いたら,一生忘れない曲」というもの。すでに設定があったラブラビッツや企画書の「ずんずんずん……♪」を参考に,比較的早い段階でメインテーマ「きみのためなら死ねる」を作り上げていて,2ちゃんねるなどのBBSでバズる結果につながった。
そして迎えた発売日には「マリオ」や「ワリオ」「ポケモン」など,錚々たるローンチタイトルと共にきみしねが店頭に並んだ。パッケージもまたぶっ飛んだもので,青空をバックにシルエットの少年が砂浜にハートマークを描いている。
この青空はサイパンで撮影したもので,山下氏によると「青空と言えばサイパンだよね(※力強く)」」という誰かの発言から,実際にスタッフが現地に向かったそうだ。シルエットの少年が誰だったかは記憶になく,「現地のそこらにいる少年だったかもしれない(笑)」とのこと。
発売日には新宿東口駅前でライブも実施している。今はなき「新宿ステーションスクエア」を舞台に2日間,8回の路上ライブが開催されたのだ。
これもまた「発売と言えばライブだよね(※力強く)」みたいなノリで企画されたものらしい。山下氏ら関係者は11月に代々木のスタジオに呼び出されると,ステージで歌うことをその場で知らされ,そのままリハーサルを行った。
「きみのためなら死ねる[完全版]」の歌詞は後付けのものだ。元々ライブで歌うことを想定していない低音ボイスの楽曲で,オリジナルはコンポーザーの床井健一氏がボーカルを担当していた。しかし,シャイな床井氏の客前で歌いたくないという要望から,光吉氏が代役として駆り出されることに。光吉氏は「この曲はキーも違うし,歌詞も難解。歌いづらかった」と主張している。
ライブと言っても,その時点でボーカル楽曲は「きみのためなら死ねる[完全版]」しかなかったが,光吉氏が現在もライブで使っている「盛り上がってるか!」の三段活用(3回連続で観客を煽る)で場をつなぎつつ,約8分のライブを1日4回こなしていた。
嵐のような9か月の開発期間を経て,世に送り出されたきみしねは,NDSのローンチタイトルでも目立つ存在となり,国内では約10万本のセールスを記録した。ゲームの歴史において大きな記録ではないかもしれないが,プレイヤーの記憶に残り,20年後もイベントが開催されている。
トークパートの中盤,ゲストのあさみさんにスポットが当たる。彼女がゲストとして呼ばれた理由は,きみしねファンというだけでなく,趣味の模型制作が高じて,ゲームのラストシーンのストーリー4コマに1カットだけ出てくる「ラブラビッツロボ」の造形を作ったことがきっかけだ。
2018年に開催された,ゲームをテーマにした模型展示イベント「16bitModels」に出展し,4Gamerをはじめとするメディアに掲載されたことで吉永氏の目に止まる。その後,2020年には吉永氏の推薦により「スペースチャンネル5 VR あらかた ダンシングショー」にベロ役として出演した。
模型展示会「16bitModels」第3回の出展作品を紹介。1/12 せがた三四郎や美少女版のハリアー&オパオパなど個性派作品が目白押し
2018年4月14日にコトブキヤ秋葉原館で開催された第3回「16bitModels」の展示作品を紹介する。今回は,同じく秋葉原で開催されたセガフェスの会期に重なることもあってか,“セガ”をテーマとした作品が集められた。
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- 編集部:早苗月 ハンバーグ食べ男
2018年のイベントはセガがテーマだったので,ファンとして好きなだけでなく,ほかの作品とは絶対に被らないことを見越して,ラブラビッツロボを制作している。さらに時間があれば,ゲーム画面と同じコクピットのシーンも作りたかったそうだ。
あさみさんはただ純粋に自分が好きで作ったものが,まさか開発者の目に止まり,それをきっかけにイベントやゲームの出演につながるとは思わず,「人生,何があるか分からない」としみじみ振り返った。
トークパートの終盤には,光吉氏から「きみしねのキャラクターはなぜシルエットなのか」と吉永氏に質問が投げかけられた。
その理由は2つあり,まずは「シルエットのキャラクターを動かしたい」というアイデアを具現化したものだったから。その発想は「ウルトラマン」のオープニングからインスパイアされている。
もう1つは,きみしねが恋愛ゲームであることから,キャラクターに情報量を持たせすぎるとプレイヤーの好みではなくなる懸念があり,あえて想像の余地を残したという。それゆえ,主人公やヒロインにキャラクター性を持たせることが難しく,デザイナーはかなり苦労していたそうだ。
そのほか,吉永氏がUGAの地下でオバケらしき何かに遭遇した話,他社の引き抜き工作があった話,セガの就職セミナー的な話,そして出演者が「あと何年で定年するのか」といった話も飛び出したが,きみしねとは直接関係ないので割愛する。
また,きみしねのメインテーマが決まる前に幡谷氏が制作したマイナー調のボツ曲も会場では流された。これらが気になる人は,イベントの有料アーカイブ配信を視聴してほしい。
アーカイブ配信 視聴チケット販売ページ(視聴期限:2024年12月15日23:59 まで)
イベントの後半はライブパートに突入。光吉氏がボーカル,幡谷氏がベースを担当し,ほかの出演者はラブラビッツよろしくコーラスとして参加した。
20年前のライブは「きみのためなら死ねる[完全版]」のみだったが,今回は続編「赤ちゃんはどこからくるの?」のメインテーマ「赤ちゃんはどこからくるの?[完全版]」と挿入曲「天国と地獄[完全版]」に加えて,きみしねの「愛のエンディングテーマ」が披露された。
ラストはアンコールの「きみのためなら死ねる[完全版]」を“おかわり”して,20周年イベントは盛況のうちに締めくくられた。
(C)SEGA
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