イベント
「ドラゴンクエストIX」のために「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」を開発――400万本へのプロモーション戦略を市村龍太郎プロデューサーが語る
そして11月27日には,スクウェア・エニックス「ドラゴンクエスト」シリーズプロデューサーである市村龍太郎氏による,“〜ドラゴンクエストIX 400万本への道〜 新規ユーザー開拓の突破口は「コミュニケーション」にあり!”というセミナーが開催された。
「宣伝会議 プロモーション&メディアフォーラム2010」
「ドラゴンクエスト」シリーズは,ゲーマーならいわずと知れた国民的RPGであり,第1作「ドラゴンクエスト」から最新作の「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」(以下「ドラゴンクエストIX」)まで,23年の歴史を持っている。
最新作である「ドラゴンクエストIX」では,“新しいユーザーの獲得”が課題とされ,“コミュニケーション”をキーワードに,さまざまな新しい試みを導入。今まで「ドラゴンクエスト」シリーズに興味がなかった/知らなかった層にアプローチした,そのプロモーション戦略が本セミナーの主旨である。
「ドラゴンクエストIX」の新規ユーザー層獲得のため
「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」が開発された
「ずっと遊べる」では,クリアしたあとでも長時間遊べるようなやり込み要素,ストーリーやクエストの追加配信を用意したとのこと。「みんなで遊べる」については,ワイヤレス通信で最大4人が同時に遊べるマルチプレイ,すれちがい通信などが挙げられた。これらによる「コミュニケーションの持続・活性化」が,400万本に向けての仕掛けの根本となったわけだ。
プレイ人口については,「ドラゴンクエスト」シリーズファンの確保,「ドラゴンクエスト」シリーズを過去にプレイしたことのある“懐古層”,そして新規ユーザー層の開拓という三つが販売本数を拡大させる柱だという。市村氏によれば,「ドラゴンクエストIX」購入者層の内訳は,ドラゴンクエストファン層が約200万人,懐古層が約140万人,新規層が約65万人だという。
市村氏は,中でも子供と女性を中心とした新規ユーザー層の開拓が重要だったと説明。そのため,「ドラゴンクエストIX」では,特殊なアプローチを採ったと述べた。それが何かというと,業務用カードゲーム機である「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」(以下「モンスターバトルロード」)である。
市村氏は,「モンスターバトルロード」を開発した理由は,「ドラゴンクエストIX」に向けて,発売前に子供層に「ドラゴンクエスト」というブランドを認知させるためであると,その経緯を明かした。なお「モンスターバトルロード」には,もう一つ「ドラゴンクエストIX」ユーザー層拡大のための役割が秘められていたわけなのだが,こちらの詳細はのちほどあらためて説明しよう。
子供層に人気の業務用カードゲーム機だが,プレイ料金は子供自身ではなくその親が出すというのが,おそらくは一般的なパターンだろう。親が「ドラゴンクエスト」を知っている世代であれば,「モンスターバトルロード」を見て興味を持ち,子供層がプレイするきっかけにつながるという戦略だったわけだ。
そうやって,「モンスターバトルロード」で子供層に「ドラゴンクエスト」というブランドを認知させてから,「ドラゴンクエストIX」につなげるという戦略だったわけだ。
なお市村氏は,子供層にアピールするためにはゲーム以外にアニメや漫画といったアプローチもあるが,スクウェア・エニックスではそういった子供層に向けたコンテンツを持っていなかったため,カードゲーム機を選んだと説明していた。
市村氏は,ゲームの開発には1年から1年半はかかると述べていた。「モンスターバトルロード」は2007年6月に稼動を開始しており,少なくとも2006年の6月には,すでに「ドラゴンクエストIX」との連動が考えられていたという計算になる。
余談だが,「ドラゴンクエストIX」発売決定と「モンスターバトルロード」開発決定は,2006年12月12日に同時発表されている。筆者は当時さほど気に留めなかったが,この開発の経緯を聞くと,発表には非常に深い意味が込められていたのだとあらためて感じさせられた。
■参考(※いずれもPDF)
ニンテンドーDS専用ソフト「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」発売決定のお知らせ
業務用カードゲーム機「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」開発決定のお知らせ
「長く遊べる」「手放せない」ものにすることで
中古市場への流通減少や口コミ効果を狙う
次に市村氏は,「時間の拡大」について説明した。そのコンセプトは,「ゲーム自体が長く遊べるものにする」「手放せないものにする」の二つ。
「ゲーム自体が長く遊べるものにする」は,先にも述べたように,さまざまなやり込み要素や1年間継続して配信される追加のクエストの充実,それと国勢調査のように“プレイ人口が多い”と感じさせるコンテンツが具体例として挙げられた。
「手放せないものにする」のはなぜかというと,一つは中古対策だと市村氏は述べる。新品よりも安価な中古品が出回ると新品が売れなくなり,結果としてメーカーに利益が入らなくなる。「手放せないものにする」ことで,中古市場への流出自体を食い止めるというわけだ。なお市村氏は,中古品流通は過去タイトルに比べて半分程度に減ったと述べていた。
もう一つは,愛着がわくものにすることで,人にオススメしたくなるという口コミ効果が狙いにあるようだ。
すれちがい通信で日本全国に拡大
「モンスターバトルロード」は過疎地域対策!?
三つめは,身の回りの人達とのマルチプレイ,見知らぬ人達とのすれちがい通信という二つによる「コミュニケーションの拡大」だ。市村氏は,すれちがい通信の連鎖を日本全国に拡大させていくことで,「遊んでいる人から遊んでいない人へ口コミでつなげる」効果を狙っていたそうだ。
「モンスターバトルロード」では,大魔王が出現したときに,すれちがい通信で待機していると,大魔王の地図がもらえるようになっている。すれちがい通信ができなくとも「モンスターバトルロード」でレアな地図が手に入れられるし,ほかにすれちがい通信状態で待機している人がいれば,プレイヤー同士のすれちがい通信も成り立つ。「モンスターバトルロード」が,すれちがい通信の“聖地”になるわけだ。
すれ違い通信と宝の地図が大ブームになったのは
必然と偶然が錬金されて生まれた「ミラクル」
市村氏は,もともとすれちがい通信は面白いものであり,「ドラゴンクエストIX」におけるそれは“コミュニケーションの集大成”といえるものになったと述べた。しかし,宝の地図とすれちがい通信の盛り上がりは,偶然の産物であるという。
「ドラゴンクエストIX」における宝の地図は,プログラムで自動生成される仕組みで,“まさゆきの地図”“川崎ロッカーの地図”などは「まさに偶然が生み出した奇跡」だそうだ。
市村氏によれば,“まさゆきの地図”“川崎ロッカーの地図”クラスの宝の地図が生成される確率はおよそ30万分の1くらいとのこと。とはいえ,「ドラゴンクエストIX」は400万本出荷されているわけで,母数が大きい分,そういった奇跡が起きる確率も高くなるというわけだ。しかも,一度起きた奇跡は,すれちがい通信で爆発的に普及していく。
市村氏は,すれちがい通信のブームは偶然起きた奇跡だが,それは待っているだけでは起きない。「すれちがい通信の面白さ」に着目して仕込んだ「必然」があるからこそ生まれたのだと語っていた。
市村氏は,「ドラゴンクエストIX」では,あらゆる方向から企画/プロモーションをし,既存のファンと新規層がつながったことで,400万本という数字を達成できたと考えているそうだ。そして,「ドラゴンクエスト」は“ゲーム”という枠を超えた“コミュニケーションツール”に進化したのではないかと述べ,講演を締めくくった。
- 関連タイトル:
ドラゴンクエストIX 星空の守り人
- この記事のURL:
キーワード
(C)2009 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/LEVEL-5/SQUARE ENIX All Rights Reserved.