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[インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る
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印刷2022/12/30 17:00

インタビュー

[インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る

画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る
 「ウルティマ オンライン」(Ultima Online 以下,UO)は,1997年に海外で最初にリリースされ,今年25周年を迎えたMMORPGである。UO以前にもMMORPGは存在してはいたが,商業的な成功かつその名を世界に広く知らしめたという点を踏まえると,この分野における始祖的な存在と言ってもけっして過言ではない。

 数あるUOの特徴のなかでも重要なのが,他に類を見ないまでの自由度の高さである。そして,その多くはプレイヤー同士による何かしらのコミュニケーションによって実現していた。言い換えると,UOはコミュニティを特に大切にしていたMMORPGだ。

 そしてMMORPGのコミュニティに欠かせないのが,裏方の存在である。UOの運営チームにはゲームマスター(GM)のほか,多数のボランティアスタッフも参加しており,プレイヤーとさまざまな形で接していた。ゲーム内イベントの企画や,初心者からの相談事への対応など,コミュニティを影から支え続けていたのだ。

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 今回紹介するSage Sundi氏は,ゲームマスターらを率い,UOの初代日本運営プロデューサーを勤め上げた人物である。同時に,UOのコミュニティの重要さをいちはやく理解し,日本のオンラインゲームに“運営”の概念を初めて持ち込んでもいる。
 さらにUOの後はスクウェア(当時)に移籍して,国産初のMMORPG「ファイナルファンタジーXI」等にも深く関わっている。日本のMMORPG/オンラインゲームの歴史を振り返ると,最重要人物の一人といってよい。

 今日(こんにち)のゲームにおいてオンラインの対応は当たり前であり,また運営も欠かすことはできない。UOが25周年を迎えたいま,その歴史を紐解くだけでなく,オンラインコミュニティについて考えるのは意義のあることだろう。
 そのような考えを持ってSage Sundi氏に久々にコンタクトを取ったところ,快く対応をしていただけたので,インタビューとしてお届けしよう。UOの経験者ならたっぷりと懐かしんでもらえると思うが,たとえ未経験でも,「オンラインゲームにおけるコミュニティ」について考える大きなきっかけになると思うので,読み進めてもらえると幸いだ。


海外のパソコン通信を通じて,オンラインコミュニティに興味を持つ


4Gamer:
 大変ご無沙汰してます。
 SundiさんはUOはもちろん,それ以前やそれ以降の活動においても,常にオンラインコミュニティに関わり尽力されています。それをテーマに,あれこれと話を聞かせてください。

Sage Sundi氏:
 分かりました。
 かなり昔のことなので,記憶があやふやだとは思いますが(笑)。

4Gamer:
 初めに幼少期の頃のお話から聞かせてください。Sundiさんがゲームに興味を持ったきっかけは,どのようなものだったのでしょうか?

Sage Sundi氏:
「PONG」
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 一番最初はインベーダーゲームでしたね。
 それで,Atari 2600で「PONG」を遊びたかったんですが,子供のお小遣いでは買えないわけです。仕方なく,秋葉原で“ピンポンゲーム”を作るためのキットを買ってきて,不慣れなハンダゴテを使って制作したのを覚えていますね。

4Gamer:
 いきなりAtariとは。すでにその頃から海外のゲームに興味があったんですか?

Sage Sundi氏:
 小学生の頃の家庭教師がカナダ人の方で,英語もネイティブだったんですよ。私にとっては幼少期から自然と英語に触れる習慣が出来ていて,次第に海外のカルチャーにも興味を抱くようになっていました。
 逆に,日本のカルチャーには全然関心が持てなくて,漫画なんかも一切読まないような子供でしたね。サラリーマンが電車で漫画を読む姿を見て,「こういう大人にはなりたくないなー」なんて思っていましたし(笑)。

4Gamer:
 なるほど。

Sage Sudi氏:
 パソコンで一番最初に触れたのはNECの機種でしたが,18歳でアメリカに留学する頃にはApple IIeに傾倒していました。趣味や視点も完全に海外寄りになっていましたね。

4Gamer:
 Apple IIeは,どんな風に活用されていたのでしょうか。

Sage Sundi氏:
 ちょうどその頃,海外でGEnieやCompuServeといったパソコン通信が盛り上る兆しを見せていました。後にAOLなんかも登場しますが,これらに思いっきりハマったんです。
 Macを使ってBBSのサーバーを構築したり,当時Appleの研究所のあったコロラド州のボルダーで受け取ったデータに,アジアで別途集めていた差分データを加えて戻すバッチ処理を組んだりしていましたね。

4Gamer:
 日本でもニフティサーブなどのパソコン通信が登場しますが,それよりもっとコアに使われていたんですね。

Sage Sundi氏:
 パソコン通信では飽き足らず,Macのオーナーによるユーザーグループを結成して,Appleに登録もしていました。今思えば,これがオンラインコミュニティに興味を持った,最初のきっかけだったと思います。

4Gamer:
 当時のSundiさんにとって,オンラインコミュニティの醍醐味はどういった部分にあったのでしょうか。

Sage Sundi氏:
 やっぱり,家に居ながらにして,世界中の人達とやりとりできる部分ですね。
 当時のインフラは貧弱で,たとえば香港のユーザーがピロシキの作り方について聞くと,その3日後くらいにロシアから返答があるような世界でしたけど,それでもすごく面白かったんです。また,私はなんでも整理したくなる性分なので,彼等をまとめあげてオンラインコミュニティを組織化するのにも,大きなやりがいを感じていました。

4Gamer:
 ちなみに,当時のMacで遊ばれていたゲームは?

Sage Sundi氏:
 マルチプレイのゲームを好んで遊んでいましたね。
 最初にハマったのはテキストベースのオンラインゲーム,いわゆるMUD(※Multi-User Dungeon)です。GUI(※Graphical User Interface)が付いたものだと,戦闘機に乗って空中戦を行う「Air Warrior」というゲームが好きでした。それから何年か経ってから登場した「Diablo」も印象に残っています。


大勢のプレイヤーが活動する仮想世界を目にした衝撃


4Gamer:
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 Diabloが発売された翌年の1997年に,UOが海外でリリースされます。
 UOのファーストインプレッションはどうでしたか?

Sage Sundi氏:
 チャットが頭上に表示されることや,地面にアイテムを置けることなど,見るモノすべてが衝撃でした。今では当たり前すぎて,若い人には伝わらなさそうですが。

 そして何より,自分がログインしていない間もブリタニアという仮想世界が存在し,大勢のプレイヤーがそこで活動していることに驚かされましたね。

4Gamer:
 まさにMMORPGならではの醍醐味ですよね。

Sage Sundi氏:
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 プレイヤーの創造性の高さにも常々驚かされていました。家を建てるだけでなく,家具を並べて自己表現をしたり。家にVendor(売り子)しか設置できなかった頃から,バッグの中身をキレイに飾り付けたり。コインアートなんてのもありましたよね。

 あとは,プレイヤーの1人1人が,プロのロールプレイヤーだったことも印象に残っています。赤ネームのPKに遭遇したプレイヤーが,「名を名乗れ!」とチャットをしていたのにはグッと来ました(笑)。

4Gamer:
 そんな暇があったら逃げたほうがいいのに(笑)。

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Sage Sundi氏:
 ゲーム内だけでなく,ゲームの外でのコミュニティの広がり方も興味深かったですね。当時,多くのプレイヤーがファンサイトを立ち上げて,こぞってUOのプレイ日記を書いていましたが,それらを見るのもワクワクしました。

4Gamer:
 ありました,ありました。
 ページを開くとBGMが流れるやつ。

Sage Sundi氏:
 無駄なテキスト点滅!(笑)

4Gamer:
 キリ番ゲットしたらBBSで報告しないといけないやつ!(笑)

Sage Sundi氏:
 インターネット老人会になってきた(笑)。

4Gamer:
 じゃあ一人のプレイヤーとして,存分にUOを楽しまれていたと。

Sage Sundi氏:
 ブリタニアの各地を冒険したり,その合間にPKに遭ったりと,ごく普通のプレイヤーとして遊んでいました。最初にプレイしたのはLake Superiorシャードでしたが,そこで仲良くなったアメリカ人のプレイヤーと一緒にギルドも組んでいましたね。

※シャード:いわゆるサーバーのこと

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プレイヤーから“中の人”に。会社を辞めて運営ボランティアに参加


4Gamer:
 Sundiさんは,どういった経緯でUOの運営チームに参加されたのでしょうか。

Sage Sundi氏:
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 私はUOに触れて,それ以前から興味を持っていたオンラインコミュニティとゲームが融合することによる,大きな可能性を感じていました。そういった折に,Electronic ArtsのUO運営チームがカウンセラーの第1期生を募集し出したんです。これまで身につけた英語も生かせそうなので,当時務めていた会社を退職して応募しました。

4Gamer:
 UOのカウンセラーってボランティア,つまり社員やアルバイトとは違って無給ですよね。そのボランティアに,会社を辞めてまで参加したんですか?

Sage Sundi氏:
 ええ,そうですね。
 当時の私はすでに結婚していましたが,よく妻が納得してくれたなと思います(苦笑)。

4Gamer:
 当時のカウンセラーの活動内容について教えてください。

Sage Sundi氏:
 簡単に説明するとカウンセリング,つまり,プレイヤーのお悩み相談ですね。
 プレイヤーがGMコールを行うと,その内容によって各担当者に割り振られるんですが,トラブルやバグへの対応といったものだけでなく,比較的簡単なモノもけっこう多いんですよ。そういった簡単なGMコールへの対応を主に行っていました。週に2〜3回くらいで,1日につき3時間程度の活動でした。

4Gamer:
 ひと口にGMコールといっても色々とあるんですね。
 カウンセラーの立場でプレイヤーと接してみて,いかがでしたか?

Sage Sundi氏:
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 カウンセラーに振られるようなGMコールは,UOを楽しみたいけど方法が分からないといった内容が多いんですよ。そういった人の助けとなり,楽しさへと導いてあげる仕事は,私の性格にピッタリ合っていました。
 私はカウンセラーといえども,UOを楽しむプレイヤーの一人である自覚を常に持っていて,同じUO好きのプレイヤーとしても彼等を助けてあげたかったですし。

 カウンセラーの対応後にプレイヤーから感謝されることも多く,逆に,こちらが困るような事態はほとんどありませんでした。とても楽しかったですね。

4Gamer:
 当時のUOプレイヤーって,なんというか,何事に対しても前向きに参加する姿勢だった印象があるんです。これは気のせいでしょうか?

Sage Sundi氏:
 いえ,カウンセラーとしていろいろな国のプレイヤーと接しましたが,どこでも同じでしたよ。

 たとえば現在のスマホゲームだと,比較的小さなトラブルでも「詫び石よこせ」って大ブーイングが起こるじゃないですか。こういう発言が当たり前のように出てくる背景には,多くのプレイヤーがサービスを一方的に受ける,“お客さん”としての意識を持っていることが関係していると思うんですよ。
 その視点から当時のUOプレイヤーを思い返すと,少なくとも参加者は“お客さん”ではなかった。1人1人のプレイヤーも,また私達カウンセラーも含め,ログインする誰もがUOをより深く楽しみたいと試行錯誤していました。

4Gamer:
 当時は誰にとってもMMORPGが初めての体験だったことも影響しているのでしょうけど,良い時代だったとつくづく思います。
 では,Sundiさんの関心の中心であるオンラインコミュニティに関して,カウンセラー活動を通じて得るものはありましたか?

Sage Sundi氏:
 UOは,私が想像していたよりもコミュニティ設計がしっかりと作られていたんですよ。Origin(※)も,コミュニティ理論や社会学のスペシャリストなどを採用していて,私にとっては得るものが非常に大きかったです。

 特にAmy Jo Kim(エイミー・ジョー・キム)という,オンラインコミュニティ界で著名な方には大きな影響を受けましたね。この人の著書を読んでから,それまで漠然と考えていたオンラインコミュニティについて,本格的に学ぶようになったんですよ。

※Origin Systems:リチャード・ギャリオット氏が1983年に,兄と共に設立した開発会社。UOに関しても,2002年にギャリオット氏が退職するまでのあいだ,開発作業を行っている

4Gamer:
 その方に関しては,4GamerでもGDCの取材記事を掲載していますが(※関連記事),著書の要となる部分について簡単に教えていただけますか。

Sage Sundi氏:
 えーと,たとえばそうですね。
 膨大な人数が参加しているオンラインゲームでも,ギルド等の小さなコミュニティによる集合体で形成されているものです。そういった,小さなコミュニティのトップ層に対して運営チームが働きかけを行えば,そこから各コミュニティ内へ浸透し,やがては全体に対して影響を及ぼすことができるんですよ。

4Gamer:
 ふむふむ。

Sage Sundi氏:
 もっと具体的に説明しましょうか。
 プレイヤーによる失言や何らかの事故が原因で,時としてコミュニティが凶暴になり,度が過ぎたイジメのようになることがありますね。

4Gamer:
 いまもSNSなんかではよく見かけます。

Sage Sundi氏:
 仮にゲーム内でそういったトラブルが発生した場合は,運営チームが直接介入して解決することもできますが,ゲーム外のBBSのようなところではそうはいきません。つまり結局のところ,オンラインゲームのコミュニティを良好な状態で維持するには,コミュニティによる自浄作用が欠かせない。そのためにも,各コミュニティにおける優れたプレイヤーと,彼等に対する運営チームの適切な働きかけが必要なんです。

4Gamer:
 確かに。興味深い話です。

Sage Sundi氏:
 UOに限らずオンラインゲームの運営会社は,トッププレイヤーばかりをケアしているように見えるかもしれません。ですが,それも理由があって行っているんですよ。

4Gamer:
 言われてみれば,黎明期におけるMMORPGは,コミュニティ方面で実験的ともいえるアプローチが多く見られましたよね。三つ巴によるRvRをメインコンセプトに据えた「Dark Age of Camelot」とか。他のプレイヤーに忠誠を誓って主従関係を結び,そのピラミッドがギルドに近い構造となるMMORPGもありましたよね。

Sage Sundi氏:
 それは「Asheron's Call」ですね。
 私も当時ハマりました。

4Gamer:
 それにしても,Sundiさんが当時からそのようなことを考えていたのはすごいと思います。私や周囲にいた新しいモノ好きのゲーマー連中は,UOという初めてのMMORPGに対して,寝食を忘れて遊び倒すことしか考えていなかったですよ。

Sage Sundi氏:
 私も,カウンセラーになる前は漠然としか考えていませんでしたし,後に勉強したことで整理できるようになっただけです(笑)。カウンセラーを担当しながら,オンラインコミュニティについて学ぶ毎日は,いま振り返っても非常に楽しかったですね。

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日本シャードの設立に伴いGMに


4Gamer:
 Sundiさんがカウンセラーを担当してしばらく経ったのち,日本にて新規シャードが設立されるわけですが,当時の経緯など,覚えていますでしょうか。

Sage Sundi氏:
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 UOは発売直後から,日本人プレイヤーの数が多かったんですよ。日本にはエレクトロニック・アーツ・スクウェア(※)もあるし,カウンセラー同士で「このまま順調に行けば,日本専用のシャードが立ち上がるかもね」なんて話し合っていました。
 そうしたら案の定,EAスクウェアがGMの募集を開始したので,迷わず応募しました。EAスクウェアの社屋があった目黒は,自宅からも近かったですし。

※エレクトロニック・アーツ・スクウェア:Electronic Artsとスクウェアが1998年に設立した合弁会社(2003年に解散)

4Gamer:
 そのタイミングで,カウンセラーからGMに昇格されたと。

Sage Sundi氏:
 ええ。GMと言ってもアルバイトですけど(笑)。
 私が参加したとき,全GMを合わせても10人足らずだったと思います。

4Gamer:
 カウンセラーからGMになって,大きく変わったことは?

Sage Sundi氏:
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 GM専用のクライアントには,カウンセラーの頃にはなかったコマンドがたくさんあって,なかには“アルマゲドン”なんて書かれたモノもありました。やれることが一気に増えて,業務に慣れるのに必死でしたね。

 担当するGMコールの内容も,初心者の悩み相談が中心だったカウンセラーとは打って変わり,ゲーム内の大小さまざまなトラブルを扱うことが増えました。UOは新たなパッチが当たる度に,深刻なバグがしれっと発生していましたし,それを使って悪巧みをする連中も多かった。これをどうやって防ぐか,対応に悩まされたのもよく覚えています(苦笑)。

4Gamer:
 私は「する側」だったかもしれません。すみません。

Sage Sundi氏:
 (笑)。そうやって,どうにか日々の業務をこなしていたんですが,日本シャードの設立後数か月で,当時のリーダー格だった社員さんが退職してしまったんです。それでどうなるのかなーと思いながら眺めていたら,次に来た人が放任主義で。しかも,いつのまにか私がまとめ役をやらされていました。

4Gamer:
 当時,MMORPGの運営業務に精通している人はいなかったでしょうし,新しく来られた方も勝手はわからなかったのかもしれないですね。それにSundiさんは,カウンセラーからの叩き上げで現場のことをよくご存じだったと思いますし。

Sage Sundi氏:
 最初はリードGMという立場でしたが,やがて,いわゆる日本運営プロデューサー的な役職を担当することになりました。その頃になってようやく,EAスクウェアの正社員になれましたね(笑)。

4Gamer:
 UOの日本人プレイヤーが増える一方,それをサポートする日本運営チームはごく小規模だったんですよね。業界内で前例が無いなか,MMORPGの運営チームを率いるのは大変だったと思うのですが,実際のところどうでしたか?

Sage Sundi氏:
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 確かに人数は少なかったですが,1人1人が精鋭でした。各々のモチベーションも非常に高く,感覚的には1人が3人分くらいの仕事量をこなしていたイメージですね。
 当時のGMは,GMコールへの対応以外にも,公式サイトの更新とか,マニュアルの翻訳とか,それこそ何でもやっていました。私自身,日本運営プロデューサーを担当するようになった後も,パッチのコンパイル作業なんかをやってましたし。

4Gamer:
 なるほど。

Sage Sundi氏:
 あの頃は,仕事が忙しくなることによる大変さよりも,より幅広い業務を行える嬉しさの方が勝っていたと思います。日本運営プロデューサーになったときも,Originと直接やりとりを行えるようになったことの喜びの方が印象に残っていますし。

 そういえば,Hokutoシャードが立ち上がる際のいきさつを物語風にしたためて,それを公式サイトで連載していたこともありましたね。同僚に「クソだせえ」とか言われてへこみましたけど,楽しかったので更新し続けました(笑)。

4Gamer:
 オンラインゲーム業界の黎明期は,業務が細分化されていなかったこともあり,1人1人が幅広い作業を担当せざるを得ませんでした。そういった経験が後に生きたという話は,業界の古株の方からよく聞きます。

Sage Sundi氏:
 ええ,その通りでしょうね。いま振り返ると当時は大変でしたが,同時にものすごくたくさんのチャンスをもらえていたんだなと思います。

4Gamer:
 Electronic ArtsやOriginからは,日本の運営チームはどのように見えていたのでしょうか。

Sage Sundi氏:
 日本シャードは開設当初から盛況で,それをかなりの少人数で運営してしていたこともあり,良好な関係を築けていたと思います。「日本シャードの環境を良くするために出来ることがあれば,何でも言ってほしい」と,常にサポートしてくれていましたし。

 ただ,日本人のプレイヤーが急激に増えたため,サポートの規模を拡大する必要に迫られていたのも事実です。これに関しては,カウンセラーをはじめとしたボランティアプログラムの取り組みを強化したことが功を奏しましたね。


後にも先にも無い成功を収めたボランティアプログラム


4Gamer:
 日本シャードのカウンセラーって,けっこう頻繁に見かけた記憶があるのですが,最盛期はどれくらいの人数規模だったのでしょうか。

Sage Sundi氏:
 ボランティアプログラムはカウンセラーのほかに,シーアやコンパニオン(※)もいるんですが,それらを全部含めると最盛期で200名近くいましたね。

※どちらもボランティアで,シーアは小規模なゲーム内イベントを担当し,コンパニオンは主に新規プレイヤーへのアドバイスや支援を行う

4Gamer:
 に,200人!?
 どうしてそんなに多かったのでしょう?

Sage Sundi氏:
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 一番最初はカウンセラーとシーアしかいなかったんですが,この2つは応募時のハードルが高かったんですよ。英語でのチャットを行ったり,パソコンを使ってスクリプトを組んだりする必要があったので,20人弱しかいなかった。
 それに対しコンパニオンは,母国語によるコミュニケーション能力さえあればできる。で,このコンパニオンを募集したら,応募が殺到したんです。つまり,ボランティアをしたいという人は,そのくらい多かったわけです。

4Gamer:
 あの頃のUOが特別だったことをあらためて感じます。今だと,誰かしらがトラブルを起こしてもおかしくなさそうです。

Sage Sundi氏:
 まぁ,詫び石のお話をした時にもちょっと触れましたけど,お客さんだからという意識下でボランティアプログラムをやるっていうのは,難しいだろうなぁと思いますね。

4Gamer:
 ボランティアスタッフがプレイヤーと揉め事を起こしたり,社内情報を漏洩したりするリスクについて,当時のSundiさんはどのように考えていましたか?

Sage Sundi氏:
 ボランティアもUOに参加する1人のプレイヤーですから,私としては彼等のことを信じていました。
 また,各ボランティアの行動は常にこちら側も把握していますし,やりとりを行うIRCチャットもログが残りますし,変な行動をされて取り返しがつかなくなるみたいなことは心配していませんでした。たまたま運がよかっただけかも知れないですが,ボランティアプログラム全体を通して,大きなトラブルは一度も起こりませんでしたよ。

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4Gamer:
 ボランティアプログラムの取り組みって,オンラインゲームの歴史を振り返っても珍しいですよね。

Sage Sundi氏:
 ボランティアプログラム自体は,先ほどのAmy Jo Kimを中心とした,Originのコミュニティチームが立ち上げたものです。
 ほら。Appleには新たな製品や習慣を一般ユーザーに届ける伝道師の,エヴァンジェリストっているじゃないですか。コンセプトとしては,あれが近いと思います。

4Gamer:
 確かに,近いイメージですね。
 トラブルの心配さえ除けば,ボランティアプログラムのメリットは大きそうです。

Sage Sundi氏:
 運営チームにとってはメリットしかありませんよ。
 先ほども言いましたが,GMコールの半分くらいは,ボランティアスタッフでも対処できる内容です。彼等が手助けしてくれることで,GMは業務時間中に,ややこしい問題に専念することができました。
 当時は日本のプレイヤーが急増したのに伴って多くのGMコールが発生していましたが,ボランティアチームがいてくれたからこそ,あの数をさばき切ることができました。

 さらに,ボランティアプログラムのなかから優秀な人材はGMとしてお誘きして,即戦力で活躍してくれるという流れも出来上がっていました。ボランティアプログラムには実験的な部分も多々あったのですが,結果としては大成功と言えるでしょう。

4Gamer:
 なるほど。
 でもボランティアチームって,ある時期からパタリと見なくなった記憶があるのですが,何かあったのでしょうか?

Sage Sundi氏:
 これは今だから言えることですが,ボランティアチームを頼りにしすぎたことが,裏目に出てしまったんです。
 どういう事かというと,本来はGMが取るべきGMコールを処理しており,シフトも存在している以上,立派な業務という見方もできるわけです。であれば,賃金を支払うべきではないか?という懸念が社内から挙がったんです。これを受けて検討した末,自主規制をしたんですね。

4Gamer:
 ボランティアプログラムを業務と解釈するのであれば,仕方が無いのかもしれないですね……。
 そういえば,「ファイナルファンタジーXI」にも,似たようなシステムの“メンター”(※)があるじゃないですか。きっと,あれにもSundiさんは関わられていますよね。

※メンター:ベテランプレイヤーが,チャットを通じて初心者にアドバイスを行うために設けられたシステム(※外部リンク

Sage Sundi氏:
 ええ,そうですね。UO同様の懸念があって,スクウェア(当時)の海外法務担当と相談した結果,最初に構想していた形での実装は断念しました。
 私としては,FFXIでもUOのようなボランティアプログラムが成り立つと考えていたんです。しかし結果的には無難というか,あまり面白みのない内容になっちゃいましたね。

4Gamer:
 私はFFXIのプレイ中,初心者のプレイヤーを見かけたらカウンセラーのような活動を自主的に行っていました。でも,メンターのシステムが登場したとき積極的に利用しようとは思わなかったですね。

Sage Sundi氏:
 初期のFFXIはPlayStation 2向けにしか展開されておらず,ゲーム外でのチャットすら行えないなど,課題が多かったですからね。FFXIはその後,Windows PC向けにも展開されますが,それにはこうしたことも背景としてあったんです。

4Gamer:
 うーん。予定を急遽変更して,FFXIのインタビュー記事を作りたくなってきます(笑)。

Sage Sundi氏:
 その後は,先ほど言った“お客さん”も増えるなどして,他社さんのオンラインゲームを含め,ボランティアプログラムのような試みは見られなくなってしまいましたね。

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プレイヤーと一緒にゲームを盛り上げるGMという存在


4Gamer:
 4Gamerでは大昔に,元GMによる座談会の記事(※関連記事)も掲載していますけど,当時の同僚で印象に残っている人はいますか?

Sage Sundi氏:
 まずはBucco(※)ですね。彼は,私がUOのカウンセラーの第1期生として参加したときの同期なんですよ。

※Bucco:現在は「ファイナルファンタジーXIV」グローバルコミュニティプロデューサーや,コミュニティ&サービス部の部長を務める,室内俊夫氏のニックネーム

4Gamer:
 なんと。Buccoさんって,Sundiさんと同期だったんですか。

Sage Sundi氏:
 私がスクウェア・エニックスを退職するとき,彼にC&S(※コミュニティ&サービス部)を引き継いでもらったのですが,いまや本当に立派になったと思います。頭の回転がめっちゃ速くて,しかも私よりも理性的なので,今のポジションにも向いていますし。日本のオンラインゲーム界には欠かせない人物だと思いますね。

画像集 No.021のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る 画像集 No.022のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る

4Gamer:
 そのほかのGMに関しては,いかがでしょうか。

Sage Sundi氏:
 Duckbillも印象に残っていますね。彼は主にゲーム内イベントの企画を担当していたのですが,その内容がかなり独特なんです。プレイヤーキャラが1度死なないと先に進めないようなイベントとか。

 あるときは,毎週末に開催されるごく普通のゲーム内イベントにもかかわらず,ガード圏内をDaemonで埋め尽くしたこともありました。自らの手で大惨事を引き起こしたときの,彼の血走った目は忘れられないです(笑)。その後あわてて,ゲーム内イベントでのプレイヤーキャラのKill数に上限を設けたほどでした。

4Gamer:
 そういえば,かつて日本シャード開設前に実施したβテストの最終日も,Daemonが押し寄せて,そのまま終了になりましたね。

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Sage Sundi氏:
 懐かしすぎる(笑)。
 Duckbillは,ちょっと私の抑えもききにくいくらいやんちゃではありましたが,イベントの企画力はバツグンで,またGMとしても最高に良い奴でした。彼らにとっては,GM用のクライアントこそ,最高のMMORPGツールだったんでしょうね。

4Gamer:
 ああいった仰天イベントも,いま振り返ると,それはそれで味わい深いものがあります。

Sage Sundi氏:
 さきほど紹介したアルマゲドンを実行したGMもいましたよ。その結果,シャード内の家やアイテムが全て消失し,サーバーをロールバックするという事態に……。Originにもこっぴどく叱られました。

4Gamer:
 そもそもなぜ,そのようなコマンドが存在するのかが気になりますけど(笑)。
 でも,当時のUOはバグやトラブルが日常茶飯事でしたが,それに対するプレイヤーの大らかさというか,非日常を楽しんでいる節すら見られたような気がします。

Sage Sundi氏:
 その点においては,プレイヤーさんのノリの良さに大いに助けられたと思います。あの頃のUOのコミュニティは本当にステキだと思っていますし,また,そういった人達が参加するゲームをより良くするための活動に関われたのは,GM冥利に尽きます。
 ……というかGMもまた,自分のすべきことを業務ではなく,ただ単に楽しんでいた気すらします。ゲームを楽しむという面において,プレイヤーもGMも何ら変わらないんですよね。

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日本シャードの成功についての振り返り


4Gamer:
 設立されたシャードの数を見るだけでも,日本でUOが盛り上がったことは明白です。最盛期におけるプレイヤーの人数規模はどれくらいだったんでしょうか。

Sage Sundi氏:
 日本人プレイヤーの契約数は,最盛期で14万ちょっとでした。
 ワールドワイドにおける日本人のプレイヤーの割合も最大で48%,いや,もしかすると50%を超えたときがあったかもしれません。

4Gamer:
 海外産のMMORPGということを踏まえると,驚異的な数字ですよね。日本でUOが成功した理由について,Sundiさんの視点で,あらためて分析していただけますか。

Sage Sundi氏:
 第一に,他にMMORPGのライバルが存在していなかったことが挙げられます。
 日本では,その直前にDiabloがヒットしたことで,オンラインゲームが大きく盛り上がる環境が整っていました。ゲーマーが次に食いつけるタイトルを探していたなかで,そこを狙うタイトルが他になかったという点は大きいでしょう。

 加えて,日本語で遊べることや,電話でにサポートを受けられたり,自作PC市場も伸びていたりと,色々な環境の後押しが挙げられます。加えて言うと,サービスとしてあるべきものを“ちゃんと”提供したことが,結果に結びついたのではないかなと。

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4Gamer:
 月額課金というビジネスモデルに関しては,どう見ていますか。

Sage Sundi氏:
 それも大きかったですね。今の時代はF2Pが主流ですが,月額課金は一定額の“税金”を納めれば住める世界なので,安心感があります。当時は,クレジットカードを所有していない人向けにゲームタイム(※)を販売しましたが,これの売上も大きかった。
 なので,その後の「FFXI」でも「FFXIV」でも,月額課金にこだわったんです。やっぱり安心感は欲しいなと思って。

※ゲームタイム:一定期間のゲームプレイが可能になるプリペイドクーポン。1か月,3か月,6か月といった単位で販売されていた

4Gamer:
 MMORPGにおけるオンラインコミュニティも,UOを通じて一気に開花しました。それ以前からオンラインコミュニティに関わってきたSundiさんにとって,この点はどのように映っていましたか?

Sage Sundi氏:
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 結果的に成功を納められたといえますが,先ほどのボランティアプログラムに代表されるように,当時の運営チームは,オンラインコミュニティにおける実験をいくつも行っていました。もっといえば,UO自体が壮大な実験といえるのかもしれません。

 そして,それらの実験に深く関わることができたのは,私にとってかけがえのない体験でした。設計したとおりにコミュニティが成長していく様子を見るのは,最高に気持ちよかったです。

4Gamer:
 日本でUOが大きく盛り上がったことが,ゲーム全体に影響を及ぼしたことはあったのでしょうか。
 これは前々から気になっていたことですが,一つのシャードをトランメルとフェルッカの2つに分けたのは,日本人のライトゲーマー向けの施策を行う必要に迫られたからなのでしょうか?

※ざっくり説明するとフェルッカはPK上等,トランメルは犯罪行為全般がNG

Sage Sundi氏:
 いえ,そういうわけではありません。
 当時は世界中でUOのプレイヤーが急増しており,新たなシャードを設立することなく,なんとかして収容人数を増やせないか模索していました。そこで,ハードウェアではなくソフトウェア方面での解決策として,サーバーをクラスタ化したんです。

4Gamer:
 とくに日本向けを意識していたわけではなかったと。

Sage Sundi氏:
 PKという,UOにおける最大のウリであり,また同時に最大に嫌われるコンテンツでもあった部分を切り離すというアイデアは,Originによるものです。これはいわゆる“ハードモード”に近い考え方であり,そこまで突飛ではないと思います。

 ただ,あのアップデートは運営チーム内でもさまざまな意見が飛び交いました。GMのサポートポリシーも複雑になりましたし。また個人的にも,「元々ひとつだった世界を分けちゃったね」という罪悪感のようなものは,その後もずっと残り続けました。

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4Gamer:
 なるほど……。
 ライトプレイヤーが遊びやすくなったり,家を建築できる土地が2倍になったりと,メリットも多かったですよね。

Sage Sundi氏:
 でもプレイヤー間ではかなりの賛否両論がありましたよね。
 実際,このタイミングでUOを離れてしまう方は結構いたかもしれません。

4Gamer:
画像集 No.029のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る
 その頃には,「EverQuest」はじめとしたMMORPGのライバル作も続々と登場していますしね。

 個人的には,確かその少し後のアップデートだったと記憶しているのですが,ゲーム内のBGMが丸ごと差し替えられたのが大きかったです。StonesがBGMで流れるなかチェストが開くオープニングが見られなくなって,「“Ultima”ではないんだな」と痛感させられたというか。

Sage Sundi氏:
 ああ,OriginがEAに完全に買収されたのも,その頃でしたっけ。

4Gamer:
 そして,ついにリチャード・ギャリオット氏がUOから離れてしまいます。
 Sundiさんたちには,どのように映っていたのでしょうか。

Sage Sundi氏:
 それはもう,ショックどころの騒ぎではなかったですね。彼はカリスマそのもので,私はもちろんのこと,世界中のGMが信奉者でしたから。

4Gamer:
 Sage Sundi(=賢者サンディ)というニックネームも,リチャード・ギャリオット氏が名付けられたんですよね。

Sage Sundi氏:
 これはどんな業種でも言えることでしょうけれど,買収された企業は,売上を出せない部署やスタッフは排除されてしまいがちです。EAに買収されたあとのOriginは,3割近くのスタッフが離れてしまいました。
 日本に関してはじゅうぶんに売上を出していて,またEAスクウェアも合弁会社だったので,表向きには波風が立ってはいませんでしたけど。

4Gamer:
 Sundiさんは,リチャード・ギャリオット氏をはじめとしたOriginのクリエイターの方々とは,直接やりとりをされていたのでしょうか?

Sage Sundi氏:
画像集 No.030のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る
 EAやOriginの本社へ出張したときには,よくお会いしていました。
 リチャードらが話すゲーム論についていくのは相当難しかったことを今も覚えています。また,仮についていけたとしても,その時代では技術的に実現不可能なものが多かった。
 私にとっては常に雲の上の存在でしたね。100年くらい先の世界を見ているというか,時代が彼に全然追いつけていない感じすらしました。

4Gamer:
 もう少し長く,UOの“実験”を見ていたかったです。

Sage Sundi氏:
 私もトランメル/フェルッカに2分された頃から,少しずつUOから心が離れていたんですけど,リチャードの退社が決定的でした。
 で,そんなときにスクウェア(現スクウェア・エニックス)がコンタクトを取ってきたわけです。

4Gamer:
 なるほど……。そういう流れでしたか。

Sage Sundi氏:
 でも,当時の私達は傷心していたというより,スクウェアがMMOを作るのなら,それが今後のスタンダードとなるはずで,であれば我々が参加するべきだと考えました。その話をチーム内で行い,皆が納得したうえでスクウェアへ移籍したんです。


今後のオンラインゲームのコミュニティに向けての期待


4Gamer:
 Sundiさんがスクウェア・エニックスで関わられたタイトルに関しては,今回は記事にしません。それで現在ですが,スクウェア・エニックスを退職されて久しく,またオンラインゲーム業界の表舞台からも離れられているんですよね。

Sage Sundi氏:
 ええ。私はスクウェア・エニックスの在職中に50歳を超えて,今後の身の振り方について考えて先を見据えたときに,活躍できそうな場が想像できなかったんです。

 一番最初に話したとおり,私のルーツは洋ゲーとコミュニティ作りで,MMORPGの運営スタッフとしてのキャリアを積み重ねてきました。でも,国内のゲームメーカーでMMORPG,ましてや洋ゲーを本気でやる所なんて無いじゃないですか。かといって,管理職や名誉職のようなポジションに就くのも面白みがないですし。

4Gamer:
 まだまだお若いですし,BuccoさんやDuckbillさんのような後進をもっと育成して欲しいと思いますが……。

Sage Sundi氏:
 それで,スクウェア・エニックスの退職後は,若い業界ならなんとかなるなっていう軽い考えで,ゲームとは全然違う業界で得意のコミュニティ作りを行っていました。でも,その後に大病を患ってしまいまして,いまは自宅で療養しています。

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4Gamer:
 ちなみに,現在はゲームを遊ばれていますか?

Sage Sundi氏:
 ええ。オンラインゲームは変わらず好きなので,いちユーザーとして楽しんでいます。趣味の範囲ですが,コミュニティ作りも行っていますよ(笑)。

4Gamer:
 いまのオンラインゲーム業界に対して,何か思うことなどはありますか?

Sage Sundi氏:
 現在はF2Pのビジネスモデルが台頭して久しいですよね。しかしながら,F2Pと月額課金のどちらがプレイヤーにとって“正しいか”ではなく,どちらが事業として“稼げるか”という視点でしか語られないのが多いことを残念に思っています。
 そして,この状況が長く続いたことで,MMORPGというゲームジャンルに対するプレイヤーの認識も,大きく変わってしまいました。

4Gamer:
 非常に難しい問題だと思います。

Sage Sundi氏:
 いまはオンラインゲームのタイトル数も膨大そのものですし,より多くのライト層に受け入れてもらうためにも,最初のハードルが低いF2Pを採用するのは仕方がない部分もあるでしょう。
 それならば,F2Pでもオンラインコミュニティに重点を置き,また実験的な試みを行うタイトルがそのうち増えてくれないかなと期待しています。

4Gamer:
 まったく同感です。

Sage Sundi氏:
 そういった意味においては,既存のタイトルに対しても,ギルド等の小さなコミュニティのリーダー格に,もう少し機能や権限を渡してもいいんじゃないかなって思うことがありますね。
 リーダー格になるプレイヤーの誰もが,コミュニティをより良くしたいと思っているはずです。たとえばですが,小規模なゲーム内イベントを実施するための機能があるだけでも,しっかり有効活用してくれると思うんですよ。そうすることで,ギルドやコミュニティに参加する個々のプレイヤーにとっても,オンラインゲームはもっと楽しくなるはずです。

4Gamer:
 ギルドメンバーを集めた先の広がりが感じられないオンラインゲームって多いですよね。

Sage Sundi氏:
 あとは,コミュニティツールの進化にも期待しています。
 現在はSNSやDiscord,LINE,メッセンジャー等々,ゲーム外でもチャットを行うためのツールがいくらでもあるじゃないですか。これらのツールがゲーム内のコミュニティと結びつくことで,“何か”が生まれる可能性はまだまだあると思います。

4Gamer:
 話を聞いていて,やっぱりオンラインゲーム業界は,Sundiさんの力をまだまだ必要としていると思いますね。
 今回は久々にUOについて振り返っていただきましたが,感想はいかがですか。

Sage Sundi氏:
 UOに対しては感謝しかありませんね。
 いろいろな意味でチャンスをいただけて,しかも日本で成功する様を,最も近くで見続けることができました。それもこれも,1人1人のプレイヤーと,ゲーム内外で形成されたコミュニティのお陰です。なにせゲームを通じて社会勉強までできてしまうほど生活感のあるMMORPGなんて,後にも先にも無いですから。

 そういった希有なMMORPGを,GMの面々も一緒に楽しんでいるうちに,気が付いたらプレイヤーの皆さんに包まれていたんですよね。こういった環境でコミュニティ作りに携わることができて,本当に幸せでした。

4Gamer:
 最初に遊んだときから25年経っても,そう感じられるタイトルに出会えたのは,幸せなことだと思います。

画像集 No.033のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る

Sage Sundi氏:
 素晴らしいゲームを作ったリチャードをはじめとしたOriginの開発者に対しても,深く感謝しています。少なくとも私は自分が何かを成し遂げた意識はほとんど無く,リチャードらが開発したものを,横からお手伝いするだけの存在だったと思います。
 あと何よりも,当時の仕事を辞めてボランティアのカウンセラーになるという,ある意味無謀な決断を受け入れてくれた妻にも感謝ですね。

4Gamer:
 ご謙遜されなくてもいいんですけど(笑),でも,そういうスタンスだったからこそ,プレイヤーとの絶妙な距離感を実現できていたのかもしれません。
 あの頃のUOを経験した人に向けて,何か伝えたいことなどはありますか?

Sage Sundi氏:
 当時感じられたであろう,ギルドをはじめとしたゲーム内外のコミュニティや,プレイヤー間で生じる熱気のようなものを,どうか忘れないでいてほしいと思います。そして,現在も何かしらのオンラインゲームで遊ばれているのなら,その経験をコミュニティに活かして,楽しみながら活躍してくれることを願っています。

4Gamer:
 今回は長時間のご対応,ありがとうございました。

Sage Sundi氏:
 いえいえ,こちらこそ。
 おしゃべりの半分くらいの内容がMMORPG老人会で,記事にもできなさそうですけど,それも含めて個人的には超楽しかったです。

4Gamer:
 それは何よりです。
 では,また別の機会がありましたら,そのときはスクウェア・エニックス編について話を聞かせてください。

Sage Sundi氏:
 (笑)

画像集 No.036のサムネイル画像 / [インタビュー]「ウルティマ オンライン」25周年特別企画。オンラインコミュニティの形成に心血を注いだSage Sundi氏の功績を振り返る

「ウルティマ オンライン」公式サイト

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