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あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回
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印刷2012/04/20 09:00

インタビュー

あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回

画像集#002のサムネイル/あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回


 連載第5回めとなる,ドワンゴ・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。今回は,いつもの堅苦しい話(?)から少し離れて,川上氏とゲーマー社員お二人との,少しためになるゲーマーズトークをお送りしようと思います。

 今からもう15年以上も昔,日々ファンタジー世界での冒険に勤しんでいたあの頃。取材は,当時のゲーマー社員(※)であり,現在もドワンゴに在籍する中野 真氏佐野将基氏を迎えた座談会形式で行い,昔話に花を咲かせました。

 いちおう,座談会のテーマは「ゲームがうまい奴は頭がいいのか」というものだったのですが,あちらこちらへ話が飛んだ上,ミもフタもない結論に。まったく収拾が付かない,いつも以上にぐだぐだな記事となっている気がしますが,どうかご容赦ください。

※ドワンゴは,いわゆる“廃ゲーマー”を意図的に社員として雇っていたことがある

関連記事:
“コンテンツの定義”を見つけた!――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第4回
「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号


オンラインゲームの黎明期時代に熱狂をもって迎えられた「Ultima Online」
画像集#021のサムネイル/あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回


廃ゲーマーを入社させてみたあの頃


4Gamer:
 今回は,「ゲームがうまい奴は頭がいいのか」というテーマを下敷きに,いろいろな話をする……とうかがっておりますが。

川上氏:
 はい。なので今日は,ドワンゴ黎明期のゲーマー社員だった中野君と佐野君に来てもらいました。「Ultima Online」時代の話や,ドワンゴ設立当初のオンラインゲーム界隈の話をしたいなと思って。

佐野氏:
 すいません。この場がどういう話をする集まりなのか,さっぱり分かっていません!

中野 真(なかのまこと):ドワンゴ ニコニコ事業本部 事業推進部 部長。ニコニコ動画の「運営長」として知られる。ドワンゴ設立初期からの社員で,川上氏が廃ゲーマーとしての能力を見込んで雇ったうちの一人。入社当初は,「セガラリー2」の通信部分の開発などを担当した
画像集#006のサムネイル/あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回
中野氏:
 きっといじめられる……。

川上氏:
 いやいや。適当に話してればいいよ。うまい具合にまとまるだろうから(笑)。君たちのオンラインゲーム遍歴というか,廃ゲーマーっぷりって凄く面白いから,きっと4Gamerの読者さんの共感を得られる……んじゃないの。多分だけど。

一同:
 ええええ(苦笑)。

川上氏:
 でも佐野君は,日本でオンラインゲームがはやり始めた当時(1995年前後),間違いなく“最強クラスのゲーマー”の一人だったよね。なにをやらせてもうまかったし,強かった。

佐野氏:
 僕,天才ですから。

中野氏:
 最強というより,“最凶”だったというか……。ところ構わず荒らしまくっていた迷惑なプレイヤーというイメージしかない。

川上氏:
 ある種のキ●ガイだったよねぇ。

佐野氏:
 ま,それは否定しませんが。

川上氏:
 それに,ドワンゴをこれまでに4回辞めて,また入社(5回目)してきたのも佐野君くらいだよね。

中野氏:
 なんでまた入社させたんです?

川上氏:
 それはもちろん,彼の「ブラウザ三国志」での活躍が認められたからです。

4Gamer:
 え,それって事実だったんですか?

川上氏佐野氏:
 事実です!(違います!)

4Gamer:
 ……どっちでしょう?

川上氏:
 いやぁでも,実際,佐野君をもう一度社員に戻すのって結構大変だったんだよ。いろんな人に反対されて。で,いろんな理由で「だから,こいつは駄目だ!」と言われたんだけど,「まぁまぁ,でもブラウザ三国志では凄かったじゃん?」というと,それだけはみんな同意してくれたんだよね(苦笑)。それがとても面白くって。

※以前,ドワンゴは会社ぐるみ(経営陣も多数参加)で「ブラウザ三国志」というオンラインゲームにはまったことがあり,そのあまりの熱中ぶりはネット上で話題になったほど。「ブラウザ三国志」の疲れを慰労する大規模なパーティを開催していたこともある。

佐野将基(さのまさき):ドワンゴ ニコニコ事業本部 企画開発部 第一セクション セクションマネージャー。オンラインゲームの黎明期時代にその名を轟かせたゲーマー。ドワンゴ初期に在籍していたメンバー中トップクラスの実力を誇った(ゲームで)。これまでに計4回ドワンゴを退社し,ゲーム開発会社などを渡り歩いてきた。最近,ブラウザ三国志での活躍が認められて,5度目のドワンゴ復帰を果たし,ニコニコ動画のNG共有機能の企画開発などを行った
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佐野氏:
 すいません。それは嘘です。歴史のねつ造です。本当は,「ブラウザ三国志」が始まる前に僕は入社していました。確かに最初はバイト扱いから始まりましたが,ちゃんと真面目に仕事して,当時の事業部長に認められて正社員になったんですから!

川上氏:
 えー(笑)。違うって。絶対に「ブラウザ三国志」のおかげだって。

佐野氏:
 まぁ,「ブラウザ三国志」で活躍してからは,なんだか知らないけど僕の社内での扱いが変わって,いろんな仕事を自由にやらせてもらえるようになったのは確かです。

川上氏:
 でしょう?(笑)。だから「ブラウザ三国志のおかげで僕の人生拓けました」ってことにしておこうよ。そっちの方が絶対に面白い。

佐野氏:
 いやぁ,納得いかねぇ!

川上氏:
 ま,いいや。「ブラウザ三国志」の話はまたの機会にとっておきたいし。今日は「Ultima Online」の話をしましょうよ。

4Gamer:
 そういえば,川上さんって「Ultima Online」ではどのギルドに所属していたんですか? ドワンゴのメンバーというと,CoS(※)あたりを連想するのですが,川上さんもそこに?

※「Colleague of Sanctuary」という名で活動していた,当時の有名オンラインゲームクラン。なぜ有名かというと,あらゆるジャンルのオンラインゲームで悪行(?)の限りを尽くしていたから。ドワンゴ黎明期の社員が多数在籍していた
 
川上氏:
 CoSって,あの邪悪の軍団の?

4Gamer:
 ええ。あの悪名高い。

川上氏:
 僕は,以前だったかもお話させて頂いたと思うんですが,「Ultima Online」は,オープンβ当初の3日間しか遊んでいないんですよ。3日間不眠不休で遊び続けて,「これを続けたら会社が潰れる!」と思って,最後の気力でアンインストールして。それっきりです。

4Gamer:
 ああ,そうでしたっけ。

中野氏:
 でも川上さんは,なんか僕にアカウントを渡して,「キャラクター育てておいて!」とかはやっていたんですよ。

川上氏:
 バイト代として,1万円くらい握らせて。そうだった。

佐野氏:
 それは……業者プレイの走りじゃないですか。

4Gamer:
 確かに。

川上氏:
 まあ,だから僕自身の「Ultima Online」の体験はそこまでなんですけど,一方で,彼らから聞く体験談がめちゃくちゃ面白くて。なんかそれを聞いているだけでお腹いっぱいになっちゃってました。

4Gamer:
 どんな話なんでしょう。

川上氏:
 一番印象に残っているのは,常々「PK(Player Kill)は許せない」と言っていた佐野くんが,「Ultima Online」で考え方が変わったという話で。「PKの楽しさに目覚めた」みたいな話をしていたのが面白くって。

佐野氏:
 ええ? そんなこと言ってましたっけ。僕はずっとPK肯定派でしたよ。

川上氏:
 いやでも,「Ultima Online」初期の頃,「PKは楽しくない」とか言っていたじゃん。

佐野氏:
 ああ,いや,分かった。それは順序が逆です。僕は「Ultima Online」以前のゲームでは,当然のようにPKをするプレイヤーだったんです。「Diablo」がはやっていたときなんか,ゲームにログインして最初にやることが,人を殴ることだったくらいで。

中野氏:
 確かにそういうプレイヤーだった(笑)。

佐野氏:
 当時,僕は15〜6歳くらいの子供で,外国人の作ったルームに入ってはめちゃくちゃに荒らして,「むっちゃ楽しい!」とか言いながら遊んでいたわけです。「Diablo」とかもそうでしたが,昔のオンラインゲームって,チート対策も不十分で,いろいろと,やりたい放題だったじゃないですか。

4Gamer:
 黎明期のオンラインゲームって,競技性やルール性云々ですらなく,オンラインを通じて他人とゲームが遊べるってことが,ただひたすら面白かったんですよね。

佐野氏:
 そうそう。要するに他の人に構ってほしかったんですよ。今思えば,ただの根暗な少年なんですけど,そんな少年なりにオンラインゲームを満喫していたわけです。

川上氏:
 他のプレイヤーを攻撃しながら。

佐野氏:
 はい。でも,言い訳じゃないんですけど,「Diablo」みたいなゲームは,まだ“所詮ゲーム”というのかな,他のプレイヤーを攻撃して殺しても,とくに罪悪感は無かったんです。それで何かを失うわけでもないし,ゲームの作りとしても,かなり割り切った設計になっていました。

川上氏:
 そうだね。

佐野氏:
 でも,「Ultima Online」はまったく“そういうゲーム”じゃなかったんです。あのゲームって,ファンタジーの世界をネットワーク上に再現する,そこでプレイヤーが生活をするっていうのがコンセプトで。なんというか,もの凄くそこに「生活感」というか,人間味を感じてしまうゲームになっていたじゃないですか。

4Gamer:
 「仮想世界で生活する/冒険する」を真正面から実現しようとしたゲームなんですよね。

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佐野氏:
 ええ。で,他のオンラインゲームでは,プレイヤーを殺したとしても,とくに何かがあるというワケではなかったんですが,それが「Ultima Online」だと,その人が頑張って集めた動物の皮とかが死体から奪えてしまうんですね。しかも,その皮って加工しないと高くも売れないから,そういうスキルがない僕らが手に入れても,なんの価値もないわけですよ。でも,このガラクタを集めるのにきっとこの人は何時間もかけたんだろうな,とか想像しちゃうと,まるで僕が酷いことをしているような気がしてきて。

川上氏:
 ああ,それで「PKはつまんない」とか言ってたの?

佐野氏:
 そうですよ。なんか「Ultima Online」におけるPKは,もの凄い罪悪感があって。どこかに生活を感じさせる戦利品とかを見ていたら,切なくなってしまったんですよね。これまで,ヒャッハー!とばかりに他のプレイヤーを狩りまくっていた自分に,はじめてそういう感情が芽生えたゲームが「Ultima Online」だったんです。「あ,僕はなんか悪いことをしているぞ」って。

川上氏:
 ごめんごめん。じゃあ,あれだ。逆だったってことですね。僕は,佐野君が「Ultima Online」でPKの面白さに目覚めて,ダークサイドに堕ちたのかと思っていたけど,実はあの一瞬だけ人間性を取り戻していたんだ(苦笑)。

中野氏:
 彼は最初からダークサイドでしたよ。


PKをしまくっていたあの頃


川上氏:
 なんだ。しかしそうなると,僕が想定していた話が根底から崩れてしまうな。

佐野氏:
 どんな話を想定していたんですか。

川上氏:
 佐野君は途中から極悪非道なプレイヤーに変わったという認識だったから(笑)。まあ,じゃあ,いったん人間の心を取り戻して,再びダークサイドに堕ちたあたりの話を聞かせてよ。

中野氏:
 ええ。さっきも話にも出たように,初期の「Ultima Online」って妙に生々しいゲームで,平和そうに狩りとか木こりとかをしているプレイヤーを襲って殺すと,あとから追いかけてきて「それだけは返してくれ!」と必死に訴えられたりして,もの凄い罪悪感があったわけですよ。

※死んだプレイヤーは,街の中にある教会(アンクがある場所)などで復活できた

佐野氏:
 そう。それはさすがの僕らでも心が痛んだので,次に考えたのが「強そうな奴を殺そう!」ってことでした。高そうな鎧を着ているプレイヤーとかを狙って片っ端から殺していたんです。それだったら罪悪感を感じないで済むんで。

川上氏:
 やっぱ悪者じゃん。

中野氏:
 でもそうしたら,ほどなくして「鎧を着ている人」がゲームの世界からいなくなったんですよね。

佐野氏:
 そうそうそう! そうなんです。でも怪しいなって奴を殺して鞄とかを覗くと,しっかりと高そうな鎧とか剣とかを持っていて。

川上氏:
 要するに,極悪な犯罪者集団に狙われないように,わざとみすぼらしい格好をしていたわけだ。

4Gamer:
 高価な服を着てスラム街を歩くな,みたいな話ですねぇ。

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佐野氏:
 鎧を着ていると危ないというのは,当時,サーバー(ワールド)で凄い噂になって,町中とかでみんながチャットしていたらしいんですよね。そんなわけで,あっという間にその世界で鎧を着る人がいなくなってしまった。僕らは犯罪者だったから,町中には入れなかったんですけど。

※「Ultima Online」では,犯罪行為を犯すと街に入れなくなるなどのペナルティがあった

4Gamer:
 ああ,確かにその噂は僕も聞きました。……というか,僕自身も鎧を脱いでいた気がする(笑)。

中野氏:
 あとは,人通りの多い街道沿いの木の後ろに隠れて,通りがかった人を襲ったりだとかね。

佐野氏:
 初期の「Ultima Online」は,道を歩いちゃいけないゲームでしたから。道を歩いていると襲われるんですよ。だから,人気の少ない森を抜けたり山道を抜けたりして移動しないといけない。

川上氏:
 ああでも,その辺りって,現実世界でも昔の街道は本当にそんな感じだったみたいだよ。今,個人的にルネサンス以前の中世ヨーロッパの歴史を調べているんだけど,街道は盗賊がいるから危険で,十字路とか街道の合流地点はとくに危なかったとか。街道は避けてわざわざ森を抜けたりっていうのは,普通にやっていたらしい。

中野氏:
 で,街道を人が通らなくなると,今度は洞窟の前とかで待ち伏せをして,旅人を罠にハメたりだとかね。

佐野氏:
 狙う側もいろいろ工夫するんですが,狙われる側も殺されないようにいろいろと試行錯誤していた時代ですよね。当時は,それが面白くて,知恵の限りを尽くしてPKに勤しんでいたわけです。

川上氏:
 あと,昔聞いた話で面白かったのが,「一通り命乞いをさせてから殺すのが最高だ」という逸話なんだけど。

佐野氏:
 それはまぁ,その通りです。

川上氏:
 手口はどういうものだったの?

佐野氏:
 一時期,パラライズという相手を麻痺させる魔法がめちゃくちゃ強かった頃があって。それを複数人で囲んで掛け続けると,一歩も動けなくなるような状況が作れたんです。

川上氏:
 そういう状況に追い込んで,命乞いさせるの?

佐野氏:
 そうです。周りを囲んで,みんなで踊ったりするんです。今風に言うと,NDK(ねぇどんな気持ち?)ってやつをプレイヤーキャラで表現するわけです。

中野氏:
 そういう状況になると,相手も“これから先に何が起こるか”が分かるわけですよね。

4Gamer:
 これから“殺されるぞ”ってことですか。

佐野氏:
 だから,こっちから何も言わなくても,向こうから必死に話しかけてくる。動けなくてチャットするしかないというのもあるんでしょうけど,状況を切り抜けるには,もう交渉するしかないわけですから。

川上氏:
 それで,ちゃんと相手の話は聞くんだ?

佐野氏:
 はい。話は聞きます。「頼むから見逃してくれ!」だとか「大事な××だけは奪わないでくれ!」あたりは定番として,「助けてくれたら世界を半分やろう」とか「ワシは上院議員だぞ」とか。命乞いは,そのプレイヤーのセンスや個性が見れるから面白いんですよ(笑)。

中野氏:
 さっきも少し話題に出ましたけど,やっぱり,頑張って集めたものを奪うってときが一番痛々しかったよね。

川上氏:
 君たちね,ゲームとはいえ,良心は痛まないの?(苦笑)。

佐野氏:
 いやでも,僕は面白いことを言った奴は生かしておいたし,出会い頭で無差別に殺すような非道はしませんでしたよ。僕はあくまで,相手のリアクションを楽しむ派というか。数多いたPlayer Killerの中では良識派だったはず!

川上氏:
 え,でも,リアクションがつまらなかったらどうするの?

佐野氏:
 鍛えに鍛えたキャラクターで,一撃で殺します。メイスとかでボコって殴って。

画像集#010のサムネイル/あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回
川上氏:
 いやもう,本当にね。絵に描いた様な極悪非道の悪者が,ゲームの中とはいえ,実際に存在しうるっていうのがすごい(笑)。

佐野氏:
 僕が言えたことじゃないですけど,サービス当初の「Ultima Online」はホント世紀末でしたよ。リアル北斗の拳。

4Gamer:
 街中はスリ師や詐欺師で溢れていたし,街の外は外で,殺人集団がたむろしている。βテストの頃とかは,ほんとにそんなゲームでしたよね。

佐野氏:
 はい。βテストの頃なんか,トレードシステムすらない状態だったから,口約束でモノを売買していたりして。片方が裏切ってお金をもらった瞬間にダッシュして逃げれば,詐欺が成立してしまうという。今から考えるとあり得ませんよね。

川上氏:
 ゲームバランスもへったくれもなかったよね。でも,だからこそ人間くささを感じたのかもしれないけど。

佐野氏:
 当時,「Ultima Online」は本当に新しいゲームだったから,いろんなものが未整備の状態だったんですよね。で,何かルールの抜け穴だったり,バグが見つかったりすると,犯罪者たる僕らは即実行するわけです。

川上氏:
 で,そこに修正が加えられて,ゲームのシステムが磨かれていったと。

佐野氏:
 今の「Ultima Online」は,当時の殺伐とした雰囲気はもうなくなっていて,凄く平和なゲームになっていると聞きますけど,そういう今の状況があるのは,βテスト時代に僕らが悪行の限りを尽くしたからだと思うんですよ。本当に,いろんな抜け道や戦術を駆使して,後に起こるギルド間戦争なんかも戦いましたから。

4Gamer:
 まぁ実際,「Ultima Online」が後に続くオンラインゲームの基礎を築いたことは確かですよね。それは,その後に出てくる「EverQuest」とかにも受け継がれていって,最終的には「World of Warcraft」に行き着くわけですけど。

佐野氏:
 「EverQuest」や「World of Warcraft」もよいゲームでしたよね。

「Ultima Online」の初期では,開発者であるLord BritishことRichard Garriott氏(Ultimaシリーズの生みの親)がゲーム中で暗殺されてしまう事件もあった。そのくらい,ゲームの中の世界は無法地帯だったのだ。ちなみに暗殺されて以降,Garriott氏は,自身のキャラクターに「invulnerable」(=無敵)属性をつけることを忘れないようにしたという
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「EverQuest」が失敗した理由


川上氏:
 僕は「EverQuest」を遊んだことがないんだけど,あれは何が面白かったんですか?

佐野氏:
 「Ultima Online」はいろんな意味でゆるいというか,プレイヤーは何をしてもいい,みたいな自由度が面白いゲームだったんですけど,一方で「EverQuest」は,戦士なら戦士,魔法使いなら魔法使いで,役割分担がはっきりしているゲームで。

中野氏:
 ゲームとしてかなりカッチリ作ってあるというか。連携プレイが命みたいなゲームでしたよね。

川上氏:
 「Diablo」とか「モンスターハンター」に近い感じ?

佐野氏:
 いや,全然違いますね。「Diablo」とか「モンスターハンター」は,まだそれぞれが勝手にプレイしていて,その中でゆるい連携があるみたいなゲーム設計なんですけど,「EverQuest」は,パーティのプレイヤーがきっちりと自分の役割を果たさないと,即全滅みたいなゲームなんです。

4Gamer:
 「Ultima Online」と「EverQuest」は,同じオンラインRPGというジャンルの中では対極に位置する作品ですよね。

川上氏:
 そんなに厳しい内容でついていける人はいたんですか?

4Gamer:
 あまりいなかったんじゃないかな。確かに一時代を築いた作品ではありますが,やっぱりマニア層止まりだったという印象ですよね。

コアゲーマーを中心に人気を集めた「EverQuest」は,広大なゲームの世界をフル3Dで描いた先駆的なMMORPGだった
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中野氏:
 誰でも楽しめるかというと,やっぱりそうじゃなかったんですよね。ボス戦とか難しいダンジョンとか,一定のライン以上のコンテンツを遊べるのは,本当にごく一部の人だけで。1つのワールドに数千人かのプレイヤーがいたとして,一番面白いところを楽しめるのは,せいぜい200〜300人前後とかいう世界でした。

4Gamer:
 続編となる「EverQuest II」では,そういった問題への取り組みも見られたんですが……それでも失敗してしまうんですよね。後で出てくる「World of Warcraft」という作品に完敗して,そちらが後の覇権を握ることになってしまった。

佐野氏:
 「EverQuest」がなぜ失敗したかって,やっぱりコアなプレイヤーに迎合しすぎたからですよ。実際,プレイヤーってみんなハイエンドコンテンツを一番楽しみたいんです。一番強い武器がほしいし,一番強い敵を倒したいじゃないですか。

4Gamer:
 でも結局,そこまで到達するようなプレイヤーは少数派なんですよね。

川上氏:
 なんでもそういうもんだよね。

佐野氏:
 僕らも「EverQuest」は,倒していない敵や取ってないアイテムは存在しない!ってくらいに遊び込んだんですけどね。ただ,そんな僕らでさえ,大型アップデートがコアプレイヤー向けのコンテンツ追加の繰り返しになっていったあたりで,ついていけなくなっちゃったんですよね。

中野氏:
 そうそう。一方で,「World of Warcraft」の凄いところは,「EverQuest」の有名ギルドや有名プレイヤーに声をかけていって,彼らの意見を絶妙なバランス感覚でゲームに取り入れたところですよね。それで,「EverQuest」の持っている弱点を全部分析して,修正していった。

佐野氏:
 「World of Warcraft」って最強の後出しジャンケンなんですよね。

4Gamer:
 結局,「World of Warcraft」がとくに革新的だったのってどこなんですかね?

佐野氏:
 やっぱり一つは,マッチングシステムだったと思います。例えば,パーティを組みたいと思ったときに,ダンジョンの前にある石碑に登録するんですけど,そうすると自動でパーティが組まれるんです。そういう“遊びやすさ”の設計が他のオンラインRPGと比べて群を抜いてすごかった。今はそれよりも良いシステムに置き換わっているんですが,当時でもそういう部分がBlizzard Entertainmentのゲームはとにかく優れていたんですよね。

4Gamer:
 確かに。同じBlizzard社の「Starcraft II」や「Warcraft III」が,なぜあそこまで成功したかというと,ゲーム性云々ではなくて,実はマッチングシステムの出来映えが最大のポイントだったんでしょうし。

川上氏:
 それはつまり,初心者から上級者まで「どんな階層のプレイヤーでも,それぞれが適切な形で遊べる」のが大事ってことだよね。

4Gamer:
 ええ。例えば,新しいプレイヤーの人が「いまさらはじめても,もう勝てないしなぁ」とか思ったら,もうその対戦ゲームは終わりですし。

佐野氏:
 とくにオンライン対戦ゲームを作るなら,今はマッチングシステムから作るくらいで考えないと,もう成功しないですよね。

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