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eスポーツの選手は“製品”ではなく,一人の人間であり大切な仲間なのです―――アジア初の国際eスポーツ大会が発足。名誉会長であるサウジのファイサル王子が理念を語る[TGS2024]
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印刷2024/10/02 12:00

インタビュー

eスポーツの選手は“製品”ではなく,一人の人間であり大切な仲間なのです―――アジア初の国際eスポーツ大会が発足。名誉会長であるサウジのファイサル王子が理念を語る[TGS2024]

TGS2024で,巨大なブースを構えていた「Qiddiya」(キディヤ)
画像集 No.001のサムネイル画像 / eスポーツの選手は“製品”ではなく,一人の人間であり大切な仲間なのです―――アジア初の国際eスポーツ大会が発足。名誉会長であるサウジのファイサル王子が理念を語る[TGS2024]
 4日間の来場者数が27万5000人ほどで,昨年よりもさらに盛り上がっていた東京ゲームショウ2024だが,過去最多となる44の国または地域から出展があったこともまた,(一般の方にはあまり関係ないが)大きなトピックだ。
 そんな44の国または地域の中で,今年ちょっと目立っていたのは中東エリア。アラブ首長国連邦(Abu Dhabi Gaming,Red Dunes Games)やサウジアラビア(キディヤ)などがブースを構えていた。

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[2024/09/29 21:58]

 4Gamer的には「サウジアラビア」といえばフェサール王子なわけだが,王子とキディヤと直接関係があるわけでもないし,さすがにTGSにはいらっしゃらないかな……と思ったら,来ていた! しかし今回は王子としての公式訪問なので,いつものように雑談できるはずもなく,もらえた時間はわずか10分。
 その10分で,9月24日に発表されたばかりのACL(e-sports Asian Champions League)について聞いてみたので,ここで記事にしておこう。本当は,2025年に開催される予定の「第1回 Eスポーツオリンピック」について聞きたかったのだが,持ち時間10分ではさすがに厳しい。次回のチャンスを待ちたい。

画像集 No.002のサムネイル画像 / eスポーツの選手は“製品”ではなく,一人の人間であり大切な仲間なのです―――アジア初の国際eスポーツ大会が発足。名誉会長であるサウジのファイサル王子が理念を語る[TGS2024]
 さて読んでくれている方には毎回の紹介で申し訳ないのだが,フェサール王子についてキチンと紹介しておこう。
 正しい名前は「His Royal Highness (HRH) Prince Faisal bin Bandar bin Sultan Al Saud」。報道では普通「ファイサル王子」「ファイサル・ビン・バンダル王子」と書かれることが多いが,6年前に初めてお会いしたときに「日本語での表記はフェサール王子で」と言われているので,4Gamerのインタビューではそのように記す。

 お父様は,スルタン(皇太子)家に生まれて長く駐米大使を勤めたことで有名なバンダル王子(HRH Prince Bandar bin Sultan bin Abdul-Aziz Al Saud)で,お母様は第三代国王(ファイサル国王)の娘であるハイファ王女。バンダル王子は,総合情報省長官,国家安全保障会議事務局長を歴任し,前国王の特別顧問として積極的に外交交渉を行ったことでも有名だ。そればかりか,お姉様であるリーマ王女は駐米大使で,お兄様であるカリード王子は駐英大使という,もはや庶民にはよく分からないレベルのご家庭だ。
 フェサール王子自身は米国で学んでいたが,2005年に米国よりサウジアラビアに戻り,2017年からはサウジアラビアeスポーツ連盟(SEF)の会長に就任,2022年にはJOGA(日本オンラインゲーム業界)とMOUを締結,2023年末には,国際eスポーツ連盟(International Esports Federation:IEFS)の会長にも就任した。そして2024年9月には,今日のテーマであるACL(e-sports Asian Champions League)の名誉会長にも就任している。ゲーム業界をサウジアラビアに立ち上げて,その開発力を世界レベルにしたいと願う,若き王族だ。
 そればかりではなく,「SASUKE」のアラビア語版(関連記事)を作ったり,「風雲!たけし城」のサウジ版(関連記事)を作ったり,日本大好き,和食大好き,エンタメ大好き,ゲーム大好き,の人でもある。



4Gamer:
 王子とお会いしてお話させていただくのもだいぶ慣れてきましたが,持ち時間10分は初体験です(笑)。
 しかし初めて,年に2回王子とお会いしましたね!

フェサール王子:
 僕は初めて東京ゲームショウにきましたよ!

4Gamer:
 あれ,そうだったんですか?

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フェサール王子:
 もう,すごく興奮しています! 冷静にしてなきゃいけないんですけど,お菓子屋さんに入った子供の気分です。

4Gamer:
 王子は本当にゲームが好きですからね……。
 そういえば最近は「Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)」PC / PS5)をやってたと聞いたんですが,どうでした?

フェサール王子:
 好きな作品ですけど,難しいですね(笑)。まだ長くプレイできてはいないですが,2日間だけプレイしました。一晩と1日を費やして,第一章をパスしましたよ! とても楽しめてます。

4Gamer:
 ウチのスタッフも,だいぶ前にクリアしてました。

フェサール王子:
 え,すべてですか?

4Gamer:
 少なくとも最初の1周をしたみたいです。

フェサール王子:
 どれぐらいかかりました?

4Gamer:
 確か10日くらいと言っていたような。

フェサール王子:
 なるほど,僕がこのあとどのくらいの時間を使えばいいのか分かりました(笑)。

4Gamer:
 頑張ってください(笑)。
 さて今日は本当に持ち時間がないので,事前に考えてあった質問をやめて,つい先日公開された件について聞いてもいいですか? 王子が名誉会長をつとめる「ACL」についての話です。

フェサール王子:
 e-sports Asian Champions Leagueですか? いいですよ。そういえば発表したばかりですね。

※2024年9月24日に,上海で正式に発足した組織。「eスポーツ・アジアンチャンピオンズリーグ」(eSports Asian Champions League)で。略称はACL。アジア初の国際eスポーツ大会として組織されており,フェサール王子はその名誉会長。ACLは,ステージが完全にデジタル化されて,XR対応ゲームアリーナで開催される業界初の大会でもある。王子はタイトル名には触れなかったが,イベントの公式トレーラーでは,ストリートファイターやLoL,PUBGなどが使われている。


Esports.net:VSPO reveals multi-title Esports Asian Champions League (ACL)


4Gamer:
 はい。

フェサール王子:
 VSPOと一緒にこれを発足できたのは,とても素晴らしいことだと思います。
 リーグは毎週末に開催されるので,平日の時間をどううまく使えるかがポイントです。バーチャルのトーナメントを開催して,その地域,国の中で最高のチーム,最も人気なチームを組み合わせて集まることができます。ですので,コミュニティもより強固に維持できるのではないかと思っています。

4Gamer:
 毎週末なんですね。

フェサール王子:
 XRによるイノベーションもありますよ。オンライントーナメントだけでなく,リアルアリーナもあります。ファンたちが直接来て試合を観られるような環境で,僕もすごく楽しみにしています。もしこれがうまくいくようでしたら,ほかの地域での展開も見てみたいです。

4Gamer:
 バーチャルトーナメントなので,開催規模を大きくできますしね。

フェサール王子:
 そう。遠征できない人にもバーチャルで参加できて,未来のeスポーツのありようにも変化をもたらすような動きになると思います。人々を集めて,一緒に何かをする機会,といいますか。

4Gamer:
 しかし発表会ではIOCの副会長も出席していたりして,すでに今の時点でACLが持つパワーを感じていますけど,この組織が最終的に目指しているものはどんなことですか?

フェサール王子:
 このようなイベントで人々を集めることと,それが持つイノベーションによって,多くのことが起こる可能性があると思います。
 我々がeSports World CupやeSports Olympicに導入しているイノベーションを見て,私たちがこれらのイベントに対して何をしているのかを見れば,うまく機能させて何か実を結ぶことは分かりますし,僕は必ずそれができる自信も持っています。きっと,ゲームチェンジャーになります。

4Gamer:
 王子には珍しく,自信に満ちた強気な発言ですね。

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フェサール王子:
 そうですね(笑)。
 成長のチャンスは,既にそこにあります。まずイノベーションを始めてみて,どのようなフィードバックをいただけるのかを見てからです。
 すべてはプレイヤーとファンのためですから,プレイヤーとファンの方たちが楽しめるようでしたら,そこからもっともっとイノベーションを重ねていくチャンスがあります。

4Gamer:
 プレイヤーのため,ファンのため,と王子は何年も前から話しているのでそこは不安には思いませんが,ACLの肝心の詳細は,今年の年末ぐらいに発表される感じですか?

フェサール王子:
 もうすぐ発表できると思います。
 そしておっしゃるように,僕が取るすべての動きは,実際の結果の良し悪しに関わらず,全部プレイヤーとファンのためのものです。
 彼らを中心に据えておかないといけないということを,はっきり知っていますから。すべては私たちの目的というより,彼らのためでないとならないのです。

4Gamer:
 徹底してますよね。

フェサール王子:
 彼らのためにやることであれば,最終的に正しい結果を迎えるであろうことが分かります。我々のために動いてしまったら,だんだん本筋(プレイヤー&ファン)から外れていってしまいます。
 他人に同意されようがされまいが,僕がやるすべてのことは,そして僕の長期的なビジョンの中心にあるものは,必ずプレイヤーとファンなのです。

4Gamer:
 実際に出場しようと思っているプレイヤーは,タイトル選定が気になってると思うんですよね。何か方向性は決まっていたりしますか?

フェサール王子:
 ACLの話ですか? それともオリンピック?

4Gamer:
 まずはACLで。

フェサール王子:
 なるほど。彼らであればすぐ発表すると思いますよ。きっとeスポーツがベースとなるはずですし,アジアのチャンピオンズリーグですので,選ばれるタイトルも「今ここで流行ってるタイトル」でないとなりません。
 彼らはたぶんまだメーカーと交渉する最中でしょうから,僕が先に話すとまずいのでこのへんで(笑)。

4Gamer:
 残念(笑)。しかしeスポーツという観点から見たときに,アジアは商業eスポーツという意味でも大変盛んな地域ですので,この試み自体はすごく素晴らしいと思います。こういう大きなイベントの中で,日本のゲーム業界が果たすべき役割は何だと思いますか?

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フェサール王子:
 日本に限らず,すべての人が,もっと何かできると思います。ゲーミング,eスポーツ……若者に触れるということは,未来に触れるということです。
 そこに着目して,未来のために全力を尽くそうとすると……たとえば教育,プロ,エージェンシー……そしてほかの競技と同じように「プレイヤーたちが正しく守られていること」が重要だと思います。

4Gamer:
 はい,おっしゃる通りだと思います。選手が生活の不安に怯えることなくプレイできることが,そもそも肝要かと。

フェサール王子:
 そして彼らが,「プロ」として正しく扱われること。ここからスタートします。ほかのスポーツと同じように,eスポーツも成長していきます。選手たちをきちんと守ることに,多くの工夫をしないといけません。
 そしてきちんと選手を守るには,まず彼らのことを一人の人間として見ないといけません。身体的な健康と精神にも。ただ試合のための訓練や,SNSの露出のためでなく。

4Gamer:
 SNSは大きな問題になりえるファクターですよね。

フェサール王子:
 いかに彼らをSNSの暴力から守るか,周囲のプレッシャーからどう守るか。これらは,場合によってとても難しいことだと思います。しかし,そんな状況にどう反応し,対応するのかを決めなくてはなりません。
 大切なのは,一人の人間としてどうやってきちんと接するかということです。eスポーツの世界にほっぽり出した製品などではなく,彼らは大切な仲間なのです。

4Gamer:
 いつもながら,王子のような立場の人がよく考えてくれていること,とても嬉しく思います。

フェサール王子:
 彼らにキチンと接することができれば,我々はこの業界の“未来”を手に入れられます。プレイヤーが成熟すれば,彼らはいずれ業界のリーダーやコーチ,チームオーナーになり,彼らが業界で果たしたい役割を,果たすことができるのです。
 まずは,正しく接して,教育して知識を与えるところからです。そうすれば,彼らは彼らがなりたいものになれるのです。

4Gamer:
 心強いお言葉をありがとうございます。しかし今日はわずか10分です! 最後の質問です。
 王子がおっしゃってることは,最初にお会いしたときからずっと変わりません。「サウジをeスポーツの有力拠点にしたい」と。これを聞いた数年前から,今日までずいぶん時間が経っていて,その間,毎年毎年あなたが成し遂げていくことが想像を超えた大きなことばかりなんですが,このタイミングでまたいつもの質問をさせてください。今,自分の野望の達成度は何パーセントくらいですか?

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フェサール王子:
 ははは(笑)。
 最近別の人と話していて,「あなたが頼まれた中で最も難しかったことは何ですか?」と質問されました。
 私は「とてもシンプルです」と答えました。「私が頼まれたことは,頼まれた時点では全て不可能なことでした。だから文字通り,私たちがやることは全て,最も難しいことなんです」と。

4Gamer:
 深いです。

フェサール王子:
 そして私が今までに学んだことは,オープンな心を持ち続ければ,私たちの野心は常にそこにいられるということです。常に目標があり,次の不可能なことに挑戦する意欲があります。ただし,それが価値あることだと信じ,必ず成し遂げる方法を見つけられると確信しなければなりません。

4Gamer:
 王子やその周りの方達が成し遂げていることは,ちょっと常人の想像を超えてまして……。

フェサール王子:
 いいサンプルで,キディアを見てみましょう。砂漠のど真ん中に,ゲームとeスポーツを中心とした都市を作るって,これが不可能でなければ,一体何が不可能なのでしょうか。
 でもこれも,皆さんが思っているよりも早く実現するでしょう。私が望むほどは早くはないかもしれませんが,誰もが予想するよりも早く完成します。

TGSのキディアブースに掲げられていたモットー(?)
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4Gamer:
 本当に完成するんですね,あれは。

フェサール王子:
 もちろんです(笑)。
 頭の中のイメージや夢,会話のネタでしかなかったものが,現実になり始めるのを目にするとき,実際に建設が始まるのを見るとき,それは以前よりもずっとずっと大きなものになります。そこにこそ成長があり,未来があるのです。
 私たちがなりたいもの……つまり世界のゲームの中心であり,私たちが望むグローバルハブを創造することは,野心的であることから始まります。そして,どんな成果を達成しても,さらに野心的であり続けることが大切なのです。……こういう答えでいいですか?(笑)

4Gamer:
 数字は教えてもらえませんでしたが十分です(笑)。ありがとうございました。

――――2024年9月26日
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