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ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー
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印刷2018/12/29 00:05

インタビュー

ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー

 日本のゲームシーンにテーブルトークRPGの楽しさを広め,国産のファンタジー小説として広く親しまれた「ロードス島戦記」。2018年にはシリーズ30周年を迎え,2019年4月1日には待望の新シリーズの発売が予定されている。その著者と言えば,多くの読者もご存じであろう水野 良氏だ。
 4Gamerでも,MMORPG「ロードス島戦記オンライン」などに関連して,これまでにロードス島戦記の原作者としての話を聞いている。一方で,小説家としての“水野 良”とは,どういった人物なのか。今回は,氏の人物像に改めてフォーカスを当て,ゲームとの出会い,リプレイ連載の内幕,そしてなろう系ファンタジーなどについて,いろいろと話を聞いた。

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「ロードス島戦記30周年」特設サイト


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 KADOKAWAのテーブルトークRPG「ロードス島戦記RPG」が,2018年12月20日に発売となった。今回4Gamerは,同作のメディア向け先行体験会に参加してきたので,そのレポートをお届けしよう。GMを担当してくれたのは,本作のデザイナーの一人でもあるグループSNEの杉浦武夫氏だ。

[2018/12/27 14:33]

 さて,本題に入る前に,「テーブルトークRPG」がどのような広がり方をしてきたのか,筆者の体験からではあるが紹介したい。
 そもそも,テーブルトークRPG(以下,TRPG)とはプレイヤー達が設定した登場人物の役割を演じ(ロールプレイし),司会役のゲームマスター(GM)とともに物語を紡いでいくものだ。今でこそ広く親しまれているジャンルだが,元祖TRPGである「Dungeons & Dragons」(ダンジョンズ&ドラゴンズ。以下,D&D)が日本に輸入された頃には,ルールどころか遊び方すらほとんど知られていなかった。ベースとなるファンタジーについての知識も当時は広まっておらず,五里霧中を地でいくような状態だったのだ。

画像集 No.004のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー
 そんな状況を変えたのが,1986年に月刊「コンプティーク」(※1)でスタートした連載「D&D誌上ライブ・ロードス島戦記リプレイ」である。プレイヤーたちがTRPGを遊ぶ様を“誌上ライブ”(プレイ実況を記事化)するという企画で,暴走気味の騎士パーン,美しいエルフの乙女ディードリット,温厚な神官のエト,のんびりとした口調で話す魔術師のスレイン,野心を秘めた盗賊ウッド・チャック,屈強なドワーフのギム。彼らが繰り広げる胸躍る冒険と,出渕 裕氏※2)の美麗なイラストに魅了されると同時に,「こんなに面白くて独創的なゲームがあったのか!」とTRPGに夢中になった人も多かっただろう。言うまでもなく,筆者もその一人だ。

 このリプレイ連載は大きな人気を博し,小説化,ゲーム化,コミック化,アニメ化とメディアミックスを展開。さらに,リプレイ(セッションのプレイ内容を文章化したもの)自体も書籍として出版され,日本のTRPGとファンタジーに大きな影響を与えた。
 その筆者が,今回のお話を聞く水野 良氏だ。水野氏は,小説家・翻訳家でゲームライターの安田 均氏らと「グループSNE」を設立。海外ゲームの翻訳や,文庫本の価格で遊べる「ソード・ワールドRPG」など,TRPGの普及に寄与した人物である。また,共著の形で「モンスター・コレクション」「スペル・コレクション」「アイテム・コレクション」「トラップ・コレクション」といった解説本にも携わり,ファンタジー知識を世に広めている。

※1:「コンプティーク」
 1983年創刊のパソコンゲーム雑誌。「ロードス島戦記リプレイ」が連載され,1991年からはTRPG専門の別冊「コンプRPG」も発行されるなど,日本におけるTRPGの普及に大きな役割を果たした。現在は「デジタルコンテンツマガジン」と銘打ち,コミックやネット関連の流行も取り扱う。

※2:出渕 裕氏
 ロードス島戦記の挿絵やイラストを担当。氏の描いたディードリットの耳が長かったことから“エルフ=耳が長い”が日本で定着した。



子供の頃からゲーム好き。そしてTRPGに魅せられる


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。水野さんは京都で子供時代を過ごされたそうですが,現在のお仕事に関わるような原体験はあったのでしょうか。

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水野氏:
 子供の頃からありとあらゆるゲームが好きでしたね。囲碁,将棋,トランプ,人生ゲーム,魚雷戦ゲーム……ゲームセンターにも入り浸っていました。あかん(関西弁で「駄目な」の意)子供でしたね(笑)。“ウォーゲーム”は高校生の時に仲の良いいとこから「バルジ大作戦」(※3)を教えてもらったのが最初でした。

4Gamer:
 そうした中で安田 均さんに出会い,後にグループSNEに参加するところまでつながると思うのですが,どのようなキッカケだったのでしょう。

水野氏:
 高校生の頃にSF同人誌を作るサークルに入り,そのサークルが主催するコンベンションでゲストとして招待した安田さんのお世話役のようなことをしたのがきっかけで知り合いになりました。僕がゲーム好きだったので神戸の自宅に招いていただいて,一晩中ゲームを遊んだりしましたね。
 ただ,安田さんのゲーム仲間は相手が素人でも手加減しない人たちで,いろいろとひどい目にあいました(笑)。「Dune」(※4)というゲームを初めてプレイした時には,ナビゲーターのプレイヤーに強襲されて,1ターンで滅んだり。「こんなのありですか!?」と聞いたら「これはそういうゲームや!」と言われて,うなずくしかなかったり。

4Gamer:
 まさにボードゲームの通過儀礼があったわけですね(笑)。同じハードコアゲーマーの臭いを水野さんから感じ取ったからこそ,本気のプレイをした……とかでしょうか。

水野氏:
 そうかもしれません(笑)。その後,僕もその伝統を受け継ぎ,初対面の人にも容赦なくプレイするようになりましたから。そのなかで,安田さんはいつも楽しそうにプレイされていました。だから,初心者にもゲームの魅力が伝わるのだろうなと思いましたね。

4Gamer:
 なるほど。そんな経験が,後にTRPGを広める「ロードス島戦記」につながったのかもしれませんね。

水野氏:
 そうですね,自分達がTRPGを楽しんでプレイすれば,それが読者にも伝わるとは思いました。

4Gamer:
 コンピューターゲームとの出会いも同じ頃なのでしょうか。

水野氏:
 ええ。安田さんの家にあったAppleIIのコンパチ機(※5)で,「Wizardry」(※6)を遊ばせていただきました。それから大学に入って自分でパソコンを手に入れるまでは,安田さんの家で(ボードゲームの)例会が終わった後に遊んでいました。

4Gamer編集長のKazuhisaが所有するAppleII版「Wizardry I」
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4Gamer:
 当時のパソコンはかなり高価でしたし,持っている友達の家で遊ぶのは“あるある”ですね(笑)。あまり落ち着いてプレイできなかったりもしますけれど。

水野氏:
 そうなんですよね。ある時,ボードゲームの「Civilization(邦題:文明の曙)」(※7)を遊んでいると,例のごとく僕の文明はあっという間に滅ぼされてしまって,手が空いたんです。そこで嬉々としてWizardryを遊びはじめたんですが,Civilizationで「内戦」というイベントが起こるたび,「反乱軍のプレイを担当してくれ」と呼び戻されたりして(笑)。結局,メンバー全員が寝てからひとり徹夜でWizardryを遊ぶみたいことがよくありました。

4Gamer:
 (笑)。そこから,どのようにしてTRPGと出会ったのでしょうか。

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水野氏:
 まず,安田さんから「TRPG」という面白い遊びがあるから,英語を読めるならぜひ遊んでください!」と,すごい勢いで勧められました。そこで「Traveller」(※8)のセッションに参加してみたんですが,「自分の手で物語に介入できるなんて,これこそ僕が求めていたものだ!」と,TRPGという概念に魅せられたんですよ。
 そして「D&D」の「赤箱」(※9)を購入して……京都では手に入れられなかったので大阪のゲームショップに行ったのを覚えています。当時は,辞書と首っ引きになりながらマニュアルを読みましたね。

4Gamer:
 その頃のボードゲームを遊ぶには英語が必須だったわけですか。

水野氏:
 基本的に和文マニュアルは付いていましたが,翻訳が明らかに間違っているものに関しては原文を調べるしかなかったので。「Magic Realm」(※10)や「TITAN(邦題:タイタンの掟)」(※11)などはちょこちょこ誤訳がありましたから。

4Gamer:
 英語は得意な方だったんですか?

水野氏:
 いえ,まったく。けれど,人間は必要に駆られると何でもできるようになるもんなんです(笑)。AD&Dのダンジョンマスターズガイドなんか読んでいたら,否応なしに英語の文章を速読できるようになりますよ。ただし,ボキャブラリー的にファンタジーの関連の英語に限りますけど。

※3:「バルジ大作戦」
 第二次世界大戦末期の西部戦線におけるドイツ軍の攻勢作戦「ラインの守り」をテーマとした国産ウォーゲーム。1981年に発売された後,雑誌の別冊になったり,新版が発売されたりしている名作。

※4:「Dune」
 1979年に発売されたボードゲーム。SF小説「デューン 砂の惑星」を原作とし,様々な能力を持つ6つの勢力が覇権を求めて争う。

※5:AppleIIのコンパチ機
 AppleIIはAppleから1977年に発売されたパソコンだが,他社が互換(コンパチブル)機を作って販売していた。現在では考えられない光景だ。

※6:「Wizardry」
 1981年に発売された3DダンジョンRPG。戦闘力に優れたファイター,破壊的な魔法を使えるメイジなどのキャラクターを組み合わせてパーティを編成し,迷宮を探検する。D&Dの影響を強く受けたルールを持ち,「Ultima」シリーズと共に,その後のあらゆるコンピュータRPGに絶大な影響を与えた。

※7:「Civilization」(文明の曙)
 1980年に発売されたボードゲーム。貿易で得た金で文明カードを買い,自分の国を発展させていく。

※8:「Traveller」
 1977年に発売されたTRPG。星間航法の発達したSF世界を舞台としている。「商人」「海兵隊」などのキャリアを積んでから冒険の旅に出るあたりがリアルだ。

※9:D&Dの「赤箱」
 「Dungeons & Dragons Basic Set」のこと。箱の色が赤かったので,赤箱と呼ばれた。赤い箱に描かれた白いD&Dのロゴ,そしてレッドドラゴンに立ち向かう戦士の姿をTRPGの原風景とする人も多いだろう。

※10:「Magic Realm」(剣と魔法の国)
 1979年に発売されたボードゲーム。自分で冒険の目的である「ノルマ」を決め,宝物や呪文,名誉などを求めて旅をする。

※11:「TITAN」(タイタンの掟)
 1982年に発売されたボードゲーム。タイタン(巨人)の1人となり,モンスター軍団を率いて敵のタイタンと戦う。



ゲームサークルのリーダーから,グループSNEの中核メンバーへ


4Gamer:
 当時はどのようにしてボードゲームを遊ばれていたのでしょう。

水野氏:
 大学4年の時にゲームサークルを作ったので,そこで主に遊んでいました。会員は最盛期で100人ぐらい。ゲーム会と合宿を月に1回ずつやっていましたね。

4Gamer:
 規模も大きい上に,活発に活動されていたんですね。

水野氏:
 合宿にも常時30人くらいが集まっていて,京都によくある学生用の宿泊施設を1棟,丸々借り切っていました。寝る部屋を男女で分けて,ゲーム部屋を作って,メシはみんなで食べに行く。そして,ほとんど寝ないで遊び続けるんです。TRPGの卓がいくつかあり,空いた時間にボードゲームをする感じでした。

4Gamer:
 当時にボードゲームを遊ぶ女性がいたというのも珍しく感じられます。

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水野氏:
 頑張って勧誘しましたから(笑)。男女でゲームの好みは分かれましたね。男性陣は「Rune Quest」(※12)や「PARANOIA」(※13),女性は「Call of Cthulhu(邦題:クトゥルフの呼び声)」(※14)が人気でした。女性の多いクトゥルフ卓では,男性のゲームマスターが楽しそうにプレイしていて。その横で,僕らはPARANOIAで色の違うビームに撃たれて死に,クローンのナンバーだけが増えていくというディストピア(笑)。

4Gamer:
 Rune Questといえばルールの難しさが伝説として伝わっていて,“プレイするなんてよほどの上級者でないと無理!”というイメージでした。

水野氏:
 管理すべきパラメータの数が多いですからね。ゲームマスターを複数人置き,ストーリー担当と戦闘担当で役割を分けたりもしていましたね。うちのサークルには京大生をはじめ高学歴のメンバーが何人もいましたから,恵まれていたと思います。

4Gamer:
 そうした中でグループSNEが作られたわけですね。

水野氏:
 そうですね。ゲームサークルと京都大学のSF研究会のメンバーを集めて,安田さんが立ち上げられました。僕は翻訳はできないし,ゲームブックをデザインできるわけでもないので雑用係で(笑)。
 そのうち,「ロードス島戦記」や「コレクション・シリーズ」の仕事が回ってきて。卒業後しばらくは,会社員とライターの二足のワラジでした。

4Gamer:
 その後,小説家に専念することになったキッカケは何だったのでしょう。

水野氏:
 「ロードス島戦記」の小説のオファーをいただいたのですが,これが死ぬほど大変だったので,会社を辞めなければできませんでした。“会社員でいる限りは歯車に過ぎないので,自分にしかできないことをやりたい!”と親を説得しましたね。人生を棒に振るぐらいの覚悟でしたが,おかげさまで30年間なんとかやってこられました。

※12:「Rune Quest」
 1978年に発売されたTRPG。詳細な設定を持つ「グローランサ」の世界で冒険する。リアルな戦闘ルールも特徴。キャラクターの身体の各部はそれぞれHPを持っており,戦闘時にはどこに当たったかによって影響が変化する。また,行動のそれぞれにどれくらいの時間がかかるかが定められており,プレイヤーはこの制限の中で何をするかを決める。

※13:「PARANOIA」
 1984年に発売されたTRPG。狂ったコンピューターが管理するディストピアを舞台とする。そこは反逆者を探し出すことに血眼になっている,全体主義社会のパロディのような世界。プレイヤーたちは全て反逆者だが,コンピューターの圧政に反抗するのではなく,相手を吊し上げて自分の安全を確保するのに汲々としている。「幸福は義務です」という名台詞はボーカロイド曲「こちら,幸福安心委員会です。」に引用されており,そちらを知っている人も多いかも。

写真は2014年に発売された25周年記念版
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※14:「Call of Cthulhu」(クトゥルフの呼び声)
 1981年に発売されたTRPG。H.P.ラヴクラフトらが創造したクトゥルフ神話の世界で,プレイヤーたちが奇怪な事件に巻き込まれる。恐ろしい目に遭う度に減少する「正気度」(SAN値)はゲーム用語の域を超えて定着した。



「こんなけったいな記事がウケるわけがない」ところから,人気2位となった「ロードス島戦記誌上リプレイ」


4Gamer:
 「ロードス島戦記リプレイ」の企画が立ち上がった経緯について教えてください。

水野氏:
 D&Dの「緑箱」が出るか出ないかくらいの時期だったと思います。角川書店の専務(当時)であられた角川歴彦さんがTRPGのことを知り,日本でも広めたいと思われたのがキッカケと聞いています。
 それで「コンプティーク」編集部から安田さんに話が行き,僕に声がかかりました。グループSNEの主要メンバーはAD&D(Advanced Dungeons & Dragons。※15)しかプレイしていなかったので,D&Dのマスタリングができるのが僕しかいなかったんです。そこで,僕のオリジナルの「ロードス島」を舞台にしてキャンペーンを始めました。

画像集 No.008のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー

4Gamer:
 ロードス島戦記の世界観自体はリプレイ連載以前にもすでに存在していて,いろいろなゲームシステムで遊ばれていたそうですね。

水野氏:
 当時のTRPGは公式の背景世界がないものが多かったので,オリジナルの世界設定で遊ぶしかなかったです。「ロードス」を最初に考えたのは高校生の頃でした。その頃は,具体的な目的はなく,今で言うところの厨二病的妄想でしたね。ただ, 六英雄(※16)の物語とカーラ(※17)の物語という2つの軸は当時からアイデアとしてありました。大学生になり,いろいろなファンタジーゲームを遊んでいくうちに,世界観が洗練されていった気がします。TRPGを遊ぶうえで必要なので,設定も精密になりました。
 大学時代には,ロードスを舞台にした漫画を描いたり,小説のまねごとのようなこともしていましたが……僕にとっては黒歴史なので,世に出てこないことを祈るしかないです(笑)。

4Gamer:
 えええ(笑)。いやいや,読者の中にはそうした初期作品を読みたい人も多いと思いますよ。何とか発掘できませんか。

水野氏:
 刺し違えてでも公開を阻止します(笑)。

4Gamer:
 そこまでかたくなに……残念です(笑)。では,ロードス島戦記の世界観を形作る「もと」になったものってあるのでしょうか。

水野氏:
 やはり,僕が好きだったファンタジー作品になりますね。ゲームだけでなく,映像や小説。フラゼッタの画集など,何度読んだか分かりません。

4Gamer:
 そうした諸々がロードス島戦記に活かされていったわけですね。

水野氏:
 そうだと思います。地図を作ったのはTRPGを遊ぶようになってからです。ホビージャパンさんが発売していた「デザイナーズキット」のヘックスマップを使って,1マスずつ地形を埋めていきました。「火竜山」「風と炎の砂漠」「帰らずの森」,そして「大直崖」と書いて「グレート・ストレート・クリフ」とフリガナを振る……いやぁ,厨二です(笑)。あと,モスの地名には竜の身体になぞらえた二つ名が付いていますが,そのあたりの設定は後付けで考えたものなんですよ。

4Gamer:
 ハイランドのドラゴンアイ(竜の目)だったりですよね。
 そして,ついに「コンプティーク」誌上で「ロードス島戦記リプレイ」がスタートするわけですが,そもそもTRPGのリプレイを連載するというアイデアはどなたが出されたのでしょう。

水野氏:
 角川さんか,コンプティークの編集者,安田さんのいずれかだと思います。僕のところに話が来た時点では,“TRPGリプレイを連載する誌上ライブ”という形式が決まっていましたから。
 それで,安田さんがSFマガジンに掲載されたWizardryのリプレイ風記事を参考にしたんです。これが僕的にはむちゃくちゃ面白かったので。「LOGiN」(※18)にもリプレイ記事が載っていて,日本ではファンタジーは馴染みがないので,“おでんの神様”を出すなど,親切にアレンジされていたのですが,ここは敢えて本格的にやった方がいいんじゃないかと僕は思ったんです。

4Gamer:
 ファンタジーの世界を,そのままの形でしっかりと紹介した方がいいと。

水野氏:
 そのとおりです。当時の僕は文章が下手でしたけど,それでも,勢い良く,本格的にやりたかったんです。そして,“プレイヤーがキャラクターを演じる姿を描く”のではなく,“キャラクター自身が行動しているように,躍動感を持たせて描く”。そして,“語尾や一人称はキャラクターの個性に合わせて変えていく”と,キャラクター性を大事にすることも意識しました。

画像集 No.007のサムネイル画像 / ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー

4Gamer:
 そうした工夫があったからこそ,パーンやディードリットといったキャラクターが立ち,人気にもつながったわけですよね。連載の1回目を入稿し,読者からの反響が返ってくるまで,どういったお気持ちだったのでしょう。

水野氏:
 「こんなけったいな記事,どう考えてもウケるわけがない」と思っていました(笑)。だからすごく人気があるよと言われて驚きました。

4Gamer:
 僕は「なんて面白そうで不思議なゲームがあるんだ!」と衝撃を受けましたね。

水野氏:
 そもそもTRPGという“沼”自体が面白いものなので,僕はただ“いい沼”を書けば良かったんでしょうね。第1シーズンの人気投票は最終的に2位まで上がりました。

4Gamer:
 あの時の勢いで2位ですか。1位は何だったのでしょう?

水野氏:
 コンプティーク名物の「ちょっとHな福袋」(※19)でした。

4Gamer:
 あー(笑)。

水野氏:
 あの記事には,いろいろお世話になりました。僕は袋とじを切らずに覗く派で(笑)。ただ,第2シーズンでは逆転して1位を取れました。

4Gamer:
 第1シーズンがそこまで反響が大きかったとなると,第2シーズンを始める前にプレッシャーはありませんでしたか。

水野氏:
 とくになかったですね。あの頃は怖いものがなかった気がします。商業誌で分不相応なことをしているとは思っていましたが,いきなり文章がうまくなるわけでもないですし。「TRPGというもの自体が面白いのだから,自然と人気は出るだろう」みたいに思っていたのかもしれません。
 第2シーズンでは女性ファンを増やしたくて,意識的に美形のキャラクターを揃えたら,出渕さんに「あざとい」って怒られました(笑)。

4Gamer:
 確かに(笑)。ビジュアル面に関しては,出渕さんの挿絵がファンタジーのイメージを膨らませてくれていますね。とくに,ファンタジー関連の資料が少ない中で,“普通の冒険者”の装備についてビジュアルを示したのが印象に残っています。

水野氏:
 そうですね。とにかく博学な方で,ファンタジー関連の知識についても出渕さんの方が遥かに上だと思います。ロードス島戦記についても,監修的なことまでしてくださっていたようで,僕が文章に仕込んだアニメのネタを編集サイドのボツから救ってくれたこともありました。

※15:AD&D(Advanced Dungeons & Dragons)
 1978年に発売されたTRPG。D&Dよりも高度なルールを持ち,TRPG上級者向けと位置づけられていた。

※16:六英雄
 かつて魔神王を倒し生還を果たした,ニース,ベルド,ファーン,フレーベ,ウォート,名もなき魔法戦士の6人。この舞台(魔神戦争)を描いた小説が「ロードス島伝説」シリーズだ。

※17:カーラ
 「ロードス島戦記」に登場する“灰色の魔女”。サークレットに魂を封じ,他者の身体を支配しながら長い時間を生きてきた。その目的は光と闇の均衡を保つことにあり,状況に応じてその両方に味方してきた。

※18:「LOGiN」
 1983年に創刊されたパソコンゲーム雑誌。「ファミコン通信」はLOGiNの1コーナーから独立した雑誌となった。有名ソフトハウスからショートプログラムを募る「プログラムオリンピック」や,お笑い企画「ヤマログ」など,硬軟取り混ぜた企画が特徴。

※19:「ちょっとHな福袋」
 アダルトゲームのお色気シーンを掲載した袋とじ。長らくコンプティークのウリとなっていた。

 
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