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2017年には1台のSSDで容量16TBも!? Samsung,SSD関連の新技術「3D V-NAND」を解説
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印刷2014/07/03 14:16

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2017年には1台のSSDで容量16TBも!? Samsung,SSD関連の新技術「3D V-NAND」を解説

画像集#002のサムネイル/2017年には1台のSSDで容量16TBも!? Samsung,SSD関連の新技術「3D V-NAND」を解説
 2014年7月1日に掲載したレビュー記事,そしてイベントレポートでお伝えしたとおり,Samsung Electronics(以下,Samsung)の新型SSD「SSD 850 PRO」は,一般PCユーザー向け製品として初めて「3D V-NAND」(Three-Dimensional Vertical NAND)技術を用いたフラッシュメモリを搭載するのが最大の特徴だ。
 3D V-NANDによる効果の一端は,SSD 850 PROの10年という保証期間に表れているが,実際のところ3D V-NANDとは何であって,将来のSSDに何をもたらすのか。今回は,Samsung主催イベント「2014 Samsung SSD Global Summit」のセッションに基づいて紹介してみたい。


3D V-NANDとは何かを知るためには

3つの技術的ブレイクスルーを知る必要がある


Kye Hyun Kyung氏(Senior Vice President, Flash Deisgn Team Leader, Samsung)
画像集#003のサムネイル/2017年には1台のSSDで容量16TBも!? Samsung,SSD関連の新技術「3D V-NAND」を解説
 Samsungは3D V-NAND技術によって,NAND型フラッシュメモリの大容量化に伴う課題の多くを克服できるとしている。具体的にいえば,プロセスの微細化に伴う信頼性や性能の低下がその対象だ。
 実のところ,こう主張しているのはSamsungだけではなく,東芝をはじめとするフラッシュメモリメーカーは立体的にNAND型フラッシュメモリを形成する技術の開発を進めてきた。Samsungの3D V-NANDは,そんな新世代のNAND型フラッシュメモリ技術として,初めての実装例ということになる。

 Samsung SSD Global Summitで,この3D V-NAND技術について解説したのは,Samsungの上級副社長を務めると同時に,フラッシュメモリ設計チームのトップでもあるKye Hyun Kyung(キーヒュン・キョン)博士である。

 セッションでKyung氏は最初に,フラッシュメモリの微細化に取り組んできた歴史を振り返った。Samsungは2013年に,同社が「1Xnm世代」と呼ぶプロセス技術――具体的には19nmプロセスとされている――を用いたフラッシュメモリの量産をスタートしたが,ここまでの微細化を実現するには,非常に多くの投資が必要だったという。

Samsungは1999年の120nmプロセス立ち上げから14年をかけ,同社が1Xnm世代と呼ぶプロセス技術にまで微細化を進めてきた
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 当然のことながら,現行の1Xnm世代以降も微細化を行うためにはさらなる投資が必要になるが「(大規模な投資による微細化は)そろそろ限界が近づいてきた」(Kyung氏)。実際,NAND型フラッシュの微細化は12nmもしくは10nm前後が限界という説があり,多大な投資を行って微細化を進めたとしても大容量化できる限りが見えてきてしまっている。
 またKyung氏は,微細化を阻む壁として,セル間の干渉が立ちはだかりつつあることも指摘していた。微細化を進めるほどセルとセルとの物理的な距離が小さくなり,隣り合ったセル同士が影響を及ぼし合うようになる。Kyung氏いわく,このセル間の干渉は「(プロセス技術が)30nm以上であれば問題ないが,30nm以下になると制御しきれなくなり,問題になってくる」という。

NAND型フラッシュメモリの微細化を阻む最も大きな壁はセル間の干渉だとKyung氏。この干渉が問題になってくるのは30nm以下からという
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 こうしたことからSamsungは微細化に代わる代案を探し続けてきた。「そして,その答えとなるのが3D V-NANDなのだ」(Kyung氏)。3D V-NANDでは,微細化する代わりに,メモリセルを縦方向に積層させて大容量化を実現する。それにより極端な微細化を行わなくても大容量のフラッシュメモリチップを製造できるようになるという理屈だ。
 ちなみに,現行世代の3D V-NANDは,30nmクラスのプロセス技術を用いて製造されているとのこと。例によって具体的な細かなプロセスルールは明らかになっていないが,セル間の干渉が問題にならない30nmクラスのプロセス技術を用いて製造することにより,微細化の進んだ2Dプレーナー型のNAND型フラッシュメモリを使ったときのような問題を回避できるようになるわけである。

微細化するのではなく,積層化することで大容量を実現する。こうすれば,極端に微細化された製造プロセス技術を使わずに済む
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3D V-NANDの実現に置いて革新の必要だった3要素
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 もっとも,ただ従来型のダイを重ねればいいというわけではない。3D V-NANDを実現するため,材料(Material)と構造(Structure),統合(Integration)の3要素において革新が必要だったとKyung氏は振り返っていた。

 まず材料だが,3D V-NANDでは「CTF」(Charge Trap Flash)という技術が用いられていることがアピールされた。CTFは従来の浮遊ゲートに代わってシリコン窒化膜(SiN)を用いるNAND型フラッシュメモリで,浮遊ゲートに比べてセル間の干渉を受けづらいとされている。Samsungは2006年に40nmプロセス世代でCTFの量産化を実現しており,CTFベースのNAND型フラッシュメモリでは長い実績を持っている。

Samsungが2006年,40nmプロセスの世代で導入したCTF技術。それが,3D V-NANDの実現に大きく寄与しているという
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 2つめの構造だが,これは,メモリセルの構造を2Dプレーナー型から立体構造へと変えたことを意味している。3D V-NANDのメモリセルは「Channel Hole」(チャネルホール)と呼ばれる穴を取り巻くドーナツ型で,従来の2Dプレーナー型とはセルの形が大きく異なるのだ。

3D V-NANDではチャネルホールを取り巻くドーナッツ上のメモリセルを使う。2Dプレーナー型(左)とは構造が大きく異なるのが分かるだろう
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 そして3つめの統合は,積層技術のことを指す。
 レビュー記事でお伝えしているとおり,SSD 850 PROでは32層の3D V-NANDが用いられている。……と書くと誤解を招きそうだが,この多層化は,薄いシリコンチップ(≒ダイ)を貼り合わせているのではなく,露光を重ねることで,シリコンチップの中にメモリセルの32層構造を作っているのである。

Kyung氏はチャネルホールを高層ビルのエレベーターに喩えていた。写真中央がシリコンチップを上から見た写真で,右側が断層の写真である。こうした構造を,露光を重ねて作っていく
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 これが極めて高度な技術だというのは想像に難くないだろうが,Kyung氏は,この積層技術には長年にわたる,多額の投資が必要で,量産を実現できているのは現時点ではSamsungだけであることを強調していた。

「『3次元的に重ねて統合する』という革新が必要だった」とKyung氏は述懐する。2013年に発表されて出荷の始まった,「V1」とも呼ばれる第1世代の3D V-NANDが24層で,SSD 850 PROに採用されたのは,32層の「V2」世代品だ
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ついに見えてきた

1チップ1TBの世界


 では,この3D V-NANDは我々に何をもたらすのか。Kyung氏は最初に大容量化を挙げた。
 今日(こんにち)のNAND型フラッシュメモリにおいて,3bit TLCの場合,1枚あたり128Gbitの容量がある。実際のフラッシュメモリチップでは,複数のシリコンダイがプラスチックモールド内部で積層されていて,たとえば1チップに8枚のダイを積層させ,メモリチップあたりの容量128GBを実現したNAND型フラッシュメモリも実現されている。その意味では,「3次元方向にシリコンダイを積層させたNAND型フラッシュメモリ」というものは,すでに存在していたことになるわけだ。
 しかし,それだと「たくさんのシリコンダイを1つのチップに封入しているだけ」なので,小型化はできても,コストを下げることはできない。

 それに対して3D V-NANDなら,同じ128Gbit仕様のNAND型フラッシュメモリを,1枚のシリコンダイで実現できる。シリコンダイの“中”を積層化してあるからだ。NAND型フラッシュメモリチップとしては,その「積層化されたシリコンダイ」を,さらに積層させた状態で封入しているのである。
 Kyung氏は,「どの程度まで(シリコンダイの“中”の)層の数を増やせるかはまだ分かっていない」と述べていたが,将来的には3桁の層数にまで到達させる計画で,100層を重ねればシリコンダイあたり1Tbitもの容量が実現できるという。

 1Tbitの実現は2017年の見込みとのこと。シリコンダイあたり1Tbitなら,それを1チップに8枚封入すれば,1チップあたりの容量1TBを実現できる。2.5インチストレージ型SSDなら,1台で16TBといった容量も実現不可能ではなくなるわけで,HDDを超える容量がSSDで実現できる可能性が見えてきたわけだ。

2017年には100層の3D V-NANDによりシリコンチップあたり1Tbitが実現できる可能性があるという
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 ここで少し足元に話を振ると,SSD 850 RPOで採用されている3D V-NANDのシリコンダイ容量は,今回のイベントのQ&Aセッションで「1つのダイあたり86Gbit」と明らかにされた。半端に思うかもしれないが,3D V-NANDはもともと多値の記憶を前提に設計されており,SSD 850 RPOに採用されたチップではセルあたり2bitの記憶を行うMLCで読み書きを行っているため,86Gbitになっているそうだ。

 チップに封入されているシリコンダイの枚数にはバリエーションがあるのだが,4Gamerで先にレビューをお届けした128GB版SSD 850 PROでは,実際に「K9HQGY8S5M」「K9LPGY8S1M」という,異なる2種のフラッシュメモリチップが合計4個搭載されていた。レビュー時は型番で検索しても情報が得られなかったので,単純に1枚あたり32GBだろうと推測していたのだが,シリコンダイあたりの容量が86Gbitだとすると,SSDとしての容量128GBを実現するためには,最低12枚のシリコンダイが必要な計算になる。
 1チップに封入されるシリコンダイは偶数枚だそうなので,1チップあたり3枚という可能性はない。となると,4枚のシリコンダイを封入したチップが2個,2枚のダイを封入したチップが2個で,それぞれに型番が与えられているということなのだろう。K9HQGY8S5MとK9LPGY8S1Mのどちらがより大きな容量のチップなのかは分からないが,イメージだけで語るなら,「K9」に続く文字が「LP」となっているほうがより小容量的な雰囲気はある。

 話を戻そう。Kyung氏は,3D V-NANDによってもたらされるもう1つの恩恵が高速化だとしていた。高層化が可能になる最大の理由は,これまでセル間の干渉のせいで必要になっていた複雑なエラー訂正アルゴリズムがシンプルになり,それが書き込み速度にプラスの影響をもたらすためだという。氏によれば,書き込み速度は2Dプレーナー型のNAND型フラッシュメモリ比で最大2倍に達するそうだ。

2Dプレーナー型のNANDフラッシュメモリでは,セル間の干渉によるエラーを防ぐため,非常に複雑なエラー訂正アルゴリズムが必要になっていた。それに対し,セル間の干渉が抑えられた3D V-NANDでは,この複雑なエラー訂正が必要でなくなるため,最大2倍もの書き込み速度向上が得られるとKyung氏はいう
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 複雑なエラー訂正はSSDの消費電力にも影響を与えていたため,3D V-NANDを採用すると,消費電力面でもプラスの影響が受けられるとKyung氏は述べている。さらに,3D V-NANDでは書き込み電流が2Dプレーナー型に比べて46%も低減し,そちらも全体としての低消費電力化に貢献しているとのことだった。

「書き込み→ベリファイ」を何度も繰り返すことでエラーを訂正し防いでいた2Dプレーナー型。3D V-NANDでは「書き込み→ベリファイ」の回数がざっと半分に抑えられ,低消費電力化につながっているという
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書き込み電流も46%の低減を可能にしているそうだ
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 以上,Samsungの説明を基に,3D V-NAND技術の利点をまとめてみた。スペックで比較したとき,SSD 850 PROは従来製品たる「SSD 840 PRO」と比べて速度性能が向上し,消費電力が下がっているわけだが,その理由がひととおり明らかになった,といった感じである。

 ロードマップの段階なので,本当に実現できるかどうかは何とも言えないが,3D V-NAND技術の採用によって,SSDの容量がHDDを上回る可能性が示された点も注目に値しよう。ドライブあたりの容量だけでなく,容量あたりの単価も順調に下がってくれば,3年後の2017年には「HDDとはいったい何だったのか」とまで言われるようになる可能性すらあるのではなかろうか。

ITGマーケティング(Samsung製SSD販売代理店)

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