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全盲のゲームクリエイターが作る「音だけのゲーム」。その制作者に“オーディオゲーム”の現状などを聞いた
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印刷2018/10/02 20:13

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全盲のゲームクリエイターが作る「音だけのゲーム」。その制作者に“オーディオゲーム”の現状などを聞いた

 東京ゲームショウのインディーゲームコーナーには,毎年一風変わった作品が何かしら出てくる傾向がある(例えば昨年なら超光るゲーム「Lord, I'm shining」であるとか)。今年もそれに違わず,「音だけでプレイする」ゲームが出展されていた。

 Audio Game Centerブースで出展されていたこの作品「SCREAMING STRIKE」は,事実上,コントローラとヘッドフォンだけが置かれている――普通のブースには置いてある“ディスプレイが存在しない”。プレイヤーはヘッドフォンから聞こえる音だけを頼りに,ゲームを進めることになる。

 とはいえ,実のところ音だけでプレイするゲームは,これがコンピュータゲームの歴史上初めてというわけではない。古いゲーマーであれば「風のリグレット」を思い出すだろうし,R18系の作品であれば音声だけが提供されているというのも珍しくない。「オーディオゲーム」というのは,小さなジャンルではあるが,一定の市場を作ってきたジャンルでもあるのだ。
 だが,今回の展示は少しだけ,一般的なオーディオゲームと異なるところがある。それは制作者が全盲であり,もともとは自分が遊ぶためにゲームを作っていた人物であるという点だ。

 というわけで,本稿では展示されていた作品を軽く紹介すると同時に,デザイナーである野澤幸男氏(慶應義塾大学環境情報学部)にオーディオゲームの現状などを聞いたインタビューをお届けしたい。

ディスプレイはないが,確かにコンピュータゲームが出展されている


歯ごたえのある格闘アクションゲーム


 展示されていたゲームは,ジャンルとしてはアクションゲームに属する。
 ゲーム空間には前方・右・左に伸びた,3つのレーンがある。このレーンのどこからか敵が近寄ってくる(足音で分かる)ので,正しいレーンに移動して,間合いに入ったところで(足音の大きさで分かる)攻撃を繰り出し,敵を倒す。敵に接近されすぎるとダメージを受け,3回ダメージを受けるとゲームオーバーだ。
 UIはジョイスティックとボタン1個のみ。レバーの左右(+ニュートラル)で3つのレーンを切り替え,ボタンで攻撃する。

 さて,このゲームを実際に遊んでみると,これがなかなか難しい。最初のうちは「右から来てるな……間合いに入った,攻撃だ!」といった感じで的確に対応できるのだが,ゲームが進むにつれて敵の速度が速くなり,正確な間合いが把握できなくなっていく。
 また個人的に最も興味深く感じたのは,自分がレーンを移動する音がわりと大きいということだ。このため,むやみにレーンを移動していると,自分の足音のせいで敵の方向と位置が把握しづらくなる。「自分がたてる物音は最小限にとどめ,敵の音に耳を澄ます」という体験は,ゲームとしてかなり説得力の高いものと言えるだろう。

ゲームのルールは音声で説明されるが,真面目に聞いていると試遊客の回転があまりに遅くなる。そこで急遽用意された「目が見える人のためのマニュアル」

 本作は,ゲームの規模としてはミニゲームだが,遊んでいて面白い。プレイヤーは結構な緊張感を求められるので,短時間のプレイでも軽い疲労を感じるが,複数人でスコアを競ったら相当盛り上がるのではないかと思う。例えば,外部スピーカーでプレイすれば,ほかのプレイヤーと「右,右から来てる」「左でしょ」「静かにしろ!」などと叫びあいながら遊べて,とても楽しいはずだ。


野澤氏インタビュー


4Gamer:
 野澤さんが最初に作ったゲームはどんなゲームだったのでしょうか?

慶應義塾大学環境情報学部 野澤幸男氏
野澤氏:
 音が何回鳴ったかを数えるゲームでした。「指定された回数,音が鳴ったらボタンを押す」という仕組みですね。例えば音が10回鳴ったらボタンを押せ,といった具合です。音が鳴る速度はどんどん速くなっていくので,だんだん指定のタイミングでボタンを押すのが難しくなっていきます。

4Gamer:
 最初からいきなり面白そうなゲームですね。そうやって自分でゲームを作り始めたきっかけは何だったのでしょう。

野澤氏:
 目が見えなくても楽しめるゲームというのは世界のあちこちで作られていますが,当時はまだ日本語で遊べるものが少なかったんです。その頃,僕はまだ英語が分からなかったので,日本語でプレイできるゲームを遊び尽くしてしまうと,次がなかったんですよ。それでゲームに飢えて,これはもう自分で作るしかない,と。

4Gamer:
 最初にゲームを作ったときには,開発環境としては何を使いましたか?

野澤氏:
 HSP(Hot Soup Processor)を使いました。10歳のときでしたね。

4Gamer:
 HSPは使いやすかったですか?

野澤氏:
 当時はそれ以外の環境を知らず,「HSPが使えるようになればゲームを作れるらしいぞ!」という情報しかなかったので,とにかくそれで頑張るしかないという状況でした。ただ振り返ってみると,HSPは良い言語でした。初心者に優しく,熟練すれば高度なこともできる環境だと思います。

4Gamer:
 HSPはどうやって勉強したのでしょう。やはりWebでしょうか?

野澤氏:
 はい。基本的にはWebで勉強しました()。ただ実は,HSPで目の見えない人のためのゲームを作っている先輩がいまして。その人も目が見えない方ですが,この人に毎日のように質問メールを送りました。

※基本的に,Windowsの読み上げソフトなどを利用していたそうだ

4Gamer:
 昔はHSPを使っていた,ということは,今は違う開発環境なんですか?

野澤氏:
 今はC++を使っています。大学でCを勉強したので,その延長線上で使い方を覚えた感じです。

4Gamer:
 ゲームを開発するにあたって,「ここが大変」ということがあれば教えてください。

野澤氏:
 そうですね,昔はあまりものを考えずに「とにかく作ろう」と思ってゲームを作っていたんですが,最近になって「これって本当に面白いんだろうか?」という疑念に取り憑かれることがあります。
 それから,自分の脳内には複雑なイメージがあるんですが,これを音でどう表現するかというのは大きな課題になってきますね。
 実装面で言うと,サウンドゲームは音声アナウンスで進むところがあるので,声をあててくれる人がいないというのは結構な問題になります。あと僕は物語を書くセンスがないみたいで,RPGを作ると海外勢からストーリーについて「Not so bad」(編注:「まぁ悪くはないね……」)みたいな評価をもらってしまいます(苦笑)。

4Gamer:
 お話を聞いていると,目の見えない人達がゲームを作って,それを遊ぶコミュニティというのは結構規模が大きいように思えるのですが,どれくらいの規模のものなのでしょうか?

野澤氏:
 日本で開発しているのは3〜4人くらいですね。海外の英語コミュニティでは数十人規模で開発者がいて,プレイヤーは数百から最大で千人くらいの人がいます。英語以外にもそういうコミュニティがあるとは思いますが,そこまでは把握できていません。
 コミュニティの中心となるのはもちろんネット上のサイトで,Audiogames.netというものがあります。オーディオゲームのポータルサイトであり,かつ,開発者のコミュニティでもあります。みんなで「今度バーベキューしたいんだけどさあ」みたいな雑談をして盛り上がってますよ。

4Gamer:
 これまで野澤さんが遊んだオーディオゲームのなかで,とくにこれが面白かったというものはありますか?

野澤氏:
 そうですね……実を言うと自分は,「オーディオゲームをすべて遊んだ」という自負があるんです(笑)。ただそのなかでも,最近になってオーディオゲームで初めてクラウドファンディングを使って開発資金を集めた,「a hero's call」という作品がありまして。
 この作品には,1万ドルの投資が集まったんですよ。これは従来のオーディオゲームでは,市場規模から絶対にあり得なかったことです。「a hero's call」がオーディオゲームの「天井を破った」感は強いですね。

4Gamer:
 「a hero's call」も含めて,やはりオーディオゲームは英語勢のほうが強い,という感じなのでしょうか。

野澤氏:
 うーん,確かに英語コミュニティは活発ですし,新作が出るペースも早いです。でも英語コミュニティにおいても,強い人気を誇るのは日本で作られたゲームなんですよ。
 というのも,英語コミュニティで作られるゲームには,いわゆる一発ネタみたいなゲームが多いです。でも日本で作られているゲームはやりこみ要素とかがすごく多くて,1つのゲームをたっぷり遊べるんですよ。
 とくに,いわゆる収集要素は日本のゲーム独自と言ってもいい仕様だと思います。成長要素についても天井が高く設定されていることが多く,10万レベル・3000兆経験点といった桁に達するくらいに遊び続けられるゲームもあります。
 英語コミュニティにおいても,日本のオーディオゲームは「Japanese Game」という特別なジャンルとして盛んに遊ばれていますね。

4Gamer:
 それはすごいですね。とはいえ,オーディオゲームは必然的に言語依存性の塊になりがちなうえ,ローカライズにかかる手間も大きいと思います。海外のゲーマーはどうやって日本語の壁を乗り越えているのでしょうか。

野澤氏:
 だいたい5人くらいの翻訳チームがあるんですよ。それから,僕のほうでだいたいの英語版を作って,それを英語が堪能な人達に修正してもらって英語版にしてもらう,ということもあります。
 ただ未翻訳のゲームを,海外の人が音声を書き下ろして,それを片っ端からGoogle翻訳に叩き込んで,英語版を作ってしまう……なんてこともあります。そういうことをやっている人達は,JGTと呼ばれていますね。
 もちろんGoogle翻訳は完璧ではありませんが,翻訳が多少おかしくてもゲームとしてはそこまで困らないことも多いですから,JGTによるローカライズ版が熱心にプレイされていることも多いです。

4Gamer:
 今回出展しているゲームは6年前の作品ということですが,今はどのようなゲームを作っているのでしょう。

野澤氏:
 今は立体音響を利用した3Dアクションゲームを作りたいと思っています。立体音響にしても,音の定位にしても,最近はぐっと性能が上がっていますので。
 ただ,これはこれで難しいところがあって,3D空間における位置のつながりをどう表現するかで悩んでいます。例えば空間の接続がある地点から変化するとしても,その先が奈落なのか,それとも階段なのかを,適切に知らせるのは難しいんですよね。
 何らかの効果音を鳴らしてプレイヤーに知らせることは可能ですが,オーディオゲームだからといってあまりにもゲームの雰囲気を壊すような音がたくさん入っていると,それはそれで良くないんです。なので,いかに自然にその地形の変化をプレイヤーに伝えるかが,現状では大きな課題ですね。


4Gamer:
 東京ゲームショウへの出展においては「DDD Project」というチーム名での参加となっていますが,「DDD Project」について教えてください。

野澤氏:
 「DDD Project」は「Disability Driven Design Project」の略で,「障害がある状態から生まれる発想や着眼点を生かし,新たな価値をもたらすデザインプロセスのあり方を実践する」ことを目的とする,デザイナー・研究者・プログラマー・キュレーターなどによる共同プロジェクトです。
 今は視覚障害に注目していて,将来的には画面のないゲームを集めたゲームセンターを作りたいと思っています。今回の出展はその第一歩となるものです。

4Gamer:
 最近ではUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンも流行していますが,これらを利用する計画はありますか?

野澤氏:
 現状では難しいですね。目の見えない人にとって,それらのゲームエンジンは決して使いやすいものではありません。Unity Technology Japanの大前広樹さんと話をしていますし,良い話し合いができているとも思っていますが,今すぐ大幅に状況が改善するかというと,それはさすがに難しいかなと。
 なので自分がオーディオゲームの専用ゲームエンジンを作って,もっとオーディオゲームのレベルを底上げしていきたいとも思っています。

4Gamer:
 それは大変に気宇壮大だと思います。とはいえ,「自作ゲームエンジン」というものは多くの開発者が一度は試み,そして挫折していく傾向にある,ゴールに至るまで大変な困難を抱えたプロジェクトのように思います。そのあたりの勝算はいかがですか。

野澤氏:
 うっ(苦笑)。確かに自作ゲームエンジンを完成させるというのは,茨の道ですね。でも今は,とにかく何もかもが面白くて仕方ないんです。ゲーム制作以外のことにも手を出していますし,本当に時間の使い方が難しいと感じますね。

4Gamer:
 ゲームであれ,ゲームエンジンであれ,それ以外の作品であれ,今後とも期待しています。本日はありがとうございました。
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