今年のテーマは「Japan is Back」。初日のオープニングセッションは「Japan is Back:ノーベル賞級の発見を、いかに産業に変えるか」だ。
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登壇したのは,2025年にノーベル化学賞を受賞した北川 進氏,その研究を基盤とするスタートアップAtomis代表の浅利大介氏,京都府知事の西脇隆俊氏。モデレーターは,ふるさと納税の生みの親としても知られるベンチャーキャピタリストで,NTVP代表の村口和孝氏が務めた。
村口氏は冒頭,スタートアップが越えるべき魔の川,死の谷,ダーウィンの海,キャズムという関門を挙げた。発見が産業に変わるには,長い時間と資本,制度,技術が一体となる必要があるという。北川氏の技術をもとに,日本から世界的なプレイヤーが生まれるか。それが今回のテーマだと位置づけた。
この日は,発見した研究者,それを事業化するスタートアップ,支える行政という3つの立場から,北川氏,浅利氏,西脇氏がそれぞれ話した。
北川氏:採掘文明から分離文明へ
北川 進氏は京都大学高等研究院の特別教授で,金属有機構造体(MOF)の開発によってノーベル化学賞を受賞した研究者である。金属イオンと有機分子を組み合わせ,狙った気体に合わせて孔を設計できる多孔性材料を生み出した。
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北川氏はこの材料を「無用の用」という言葉で説明した。役に立たないとされてきたものから価値を引き出すのは,既存を伸ばす改良ではなく創造だという。
固体は密であるほど良いとされてきたが,北川氏が作ったのは無数の孔を持つスカスカの構造で,しかも強い金属ではなく弱い有機分子で組み上げた。石の家や木の家ではなく,いわば紙の家に相当する。その常識を覆す発想が,狙った気体だけを取り込む材料につながった。
エネルギー資源についても語られた。石炭や石油は地下に偏在し奪い合いを生むが,空気はどこにでもある。
北川氏は,掘って燃やして捨てる一方通行の営みを「採掘文明」と呼び,空気中のCO2を取り出して循環させる「分離文明」への転換を訴えた。100年前には空気中の窒素から肥料を作るハーバー・ボッシュ法が,戦時中には石炭から人造石油を作るフィッシャー・トロプシュ法が生まれた。その第3の革命として,空気中や排ガスのCO2を原料に燃料を作り,そのためのエネルギーは再生可能エネルギーでまかなう構想を示した。燃やせば空気に戻り,また取り出す。枯渇しない循環である。
資源ではなく技術が力になる時代であり,日本の技術力が改めて世界で存在感を発揮しうる,といった見方を示している。
大学とスタートアップの役割分担にも言及した。大学は,材料の新しい機能を一つひとつ見つけ出す役割を担う。ただ,それを産業にするには分離や貯蔵といった機能を総合しなければならず,そこは大学の仕事ではない。両者をつなぐスタートアップが必要になることから,「無用の用」の精神で,チャレンジ精神を持って投資してほしいと聴講者に呼びかけた。
浅利氏:素材スタートアップの難しさ
浅利大介氏は,北川氏の研究を基盤とする京大発スタートアップAtomisの代表を務める。同社は京都大学の樋口雅一氏が設立し,浅利氏は大学時代の同級生として誘われて参画したという。
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浅利氏は,素材スタートアップの難しさを強調した。技術が優れていることと事業が成立することは別で,早期の収益化を望む投資家とは相性が悪いという。
かつては大手化学メーカーが用途の見えない新素材を長く温めてきたが,株主の目が厳しくなり,用途の定まらない素材は敬遠されるようになった。大企業が時間をかけて育てる受動的な社会実装から,スタートアップがリスクを負って一気に進める能動的な社会実装へ。その担い手が必要というのが,浅利氏の認識だ。
Atomisは大企業と組む事業と,自社で最後まで手がける事業を並行て進め,後者ではガス流通に使う次世代ガス容器を開発している。従来のガスボンベはすべて手作業で扱われてきたが,これをIoT化して自動配送に対応させ,軽くして誰でも運べるようにした。ボンベを売る物売りから,データを使ったサービスを売るビジネスへの転換だという。ガス配管が整っていないグローバルサウスの国々で実証を進めているとした。
村口氏:長期の支援を阻む人事異動
村口氏は浅利氏に,資本は集まっているか,大企業の人事異動の影響を受けていないかを尋ねた。浅利氏は,資金は集まるが海外展開で必要額が膨らむのが悩みだと答えている。
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人事異動は2人の問題意識が重なった点だった。ディープテックは立ち上げに10年以上かかる一方,大企業は数年ごとに担当が代わり,支援が途切れる。だからこそ自社で最後まで手がける事業を軸にしたのだ,と浅利氏は語る。
村口氏は,個人が長期にコミットする仕組みが日本には弱いと補足し,スタートアップには短いスパンで試行錯誤を重ねてやり切る姿勢が欠かせないという。研究・成長・市場という段階を別々の地域が担うシリコンバレーの構造を京都に当てはめる構想にも触れ,西脇氏へ話をつないだ。
西脇氏:行政に何ができるか
西脇隆俊氏は3期目の京都府知事で,国土交通省の官僚から転じた経歴を持つ。次世代のベンチャーが育っていないという就任時の問題意識から話し始めた。
ノーベル賞受賞者の吉野 彰氏との対談にも触れた。研究の成果が社会実装や事業化につながるまでの期間が,かつてに比べて短くなってきており,京都としてもスピード感を持って取り組む必要があるとの認識を示した。
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京都はもともと精緻な技術に根ざしたディープテックが得意な土地であり,焼き物や織物といった伝統産業に根ざした技術がその母体になってきたという。課題としては,長期の資金調達の難しさと経営人材の不足を挙げた。技術やシーズを持つ人が経営に関心を持たないことが多いという指摘もあった。
海外には,日本はノーベル賞を受賞するだけで,事業化は自分たちがやればいい,といった見方もあるという。それでは寂しい,という問題意識も語られた。
そのうえで行政の役割を,財政支援ではなく,関係者が集まる場の提供や信頼性の担保にあると位置づけた。IVSもその舞台の1つであり,ディープテック分野で関係者が集うコミュニティづくりの構想にも言及し,創業から成長まで切れ目なく支援する仕組みを,行政としてモデル的に作れないかと語った。
最後に北川氏は,分離文明には資源の奪い合いを避ける意義もある,といった話で締めくくった。村口氏は時代の転換点を機会と捉え,新しい時代を切り開こうと会場に呼びかけた。
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