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図書館でのゲームイベントが地域交流と読書体験につながる。ゲームを活用した新しい公共空間の作り方
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印刷2026/04/25 12:00

イベント

図書館でのゲームイベントが地域交流と読書体験につながる。ゲームを活用した新しい公共空間の作り方

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 2026年4月17日と18日,東京都内でNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)主催による「東京シリアスゲームサミット」が開催された。

 本サミットは,教育,医療,企業研修,社会課題など,さまざまな分野の課題解決に活用される「シリアスゲーム」をテーマにしたイベントだ。2025年7月に開催された「京都シリアスゲームサミット」に続く,2回目の開催となる。

 本稿では,その2日目に行われたクロストーク「図書館におけるゲーム活用事例」の聴講レポートをお届けしよう。

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 登壇したのは,自治体職員として地域づくりや多世代交流の企画に携わる道祖英一氏と,全国の図書館でボードゲームやデジタルゲーム,TRPG,VR体験などの企画を行ってきた認定司書の高倉暁大氏だ。

 このセッションで語られたのは,図書館という公共空間の中で,ゲームがどのように人をつなぎ,新しい利用のきっかけを生み出せるのかという,きわめて実践的なテーマだった。

 高倉氏は冒頭,これまで公共図書館や学校図書館で,ボードゲーム,TRPG,VRといった多様なゲーム企画を実施してきたことを紹介。さらに,「Ghost of Tsushima」を題材に,歴史資料とゲーム体験を結びつけたイベントや,図書館資料を活用しながらシリアスボードゲームを制作するゲームジャムの事例にも触れた。

左から道祖氏,高倉氏
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 図書館でのゲームイベントは,単にゲームを遊ぶ場ではない。公共施設の新しい活用法を生み,そして読書体験にもつなげるものになり得る。クロストークの中心となったのが,道祖氏による相模原市立図書館でのボードゲームイベントの実践だ。

 道祖氏は相模原市役所に勤務しながら,地域と図書館,大学,市民をつなぐ活動として「さがみはらライブラリーボードゲームネットワーク」を立ち上げ,ボードゲームを活用した交流企画に取り組んでいる。

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 背景にあるのは,近年の図書館が「本を貸す場所」だけではない,交流や体験の機能も持つ公共空間へと少しずつ変わりつつあるという認識だ。
 そうした流れのなかで道祖氏は,図書館でゲームをすることが単なる話題作りではなく,新しい利用者を呼び込む導線になり得ると考えたという。

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 象徴的な実践として紹介されたのが,“地元カタン”の体験会だ。
 人気ボードゲーム「カタン」をベースに,地域の店や名所を取り入れたローカル版を子どもたちと制作し,その発表の場として図書館を活用したという。

 小学生たちはルールを学んだうえで,地元の資源や施設をどうゲームに落とし込むかを考え,絵を描き,実際に店舗などへ許可を取りに行く。このようにゲーム制作そのものが,地域を知り,人と関わり,愛着を育てるプロセスになっているのだ。

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 図書館という公共施設でのイベントは,図書館だけで完結しない。地域へと広がり,学びや交流を生む取り組みにもなり得る。そのことが,この事例からよく伝わってきた。

 道祖氏が特に強調していたのは,「一度やって終わり」にしないための設計である。そこで鍵になったのが,座組の作り方だった。

 有志だけに頼るのではなく,活動の核となる組織を作ること。地域の学校や大学と連携し,学生にも関わってもらうこと。そして,図書館側にとっての具体的なメリットが見える形に落とし込むこと。そうした点が重要だと語られた。

 特に印象的だったのは,自治体との関わり方についての話だ。
 道祖氏は,行政との関係を「後援」ではなく「共催」にすることが大切だと説明した。単に名前を貸してもらう後援と違い,共催になれば行政側も成果や広報を“自分ごと”として捉えるようになる。結果として,企画全体の推進力が大きく変わるという。

 実際,道祖氏のイベントは図書館と大学,市民の連携によって形になり,当初の想定を大きく上回る117人が来場。スタッフも26人が集まり,かなりのにぎわいを見せたそうだ。
 それは初回開催のイベントとしては異例の成功例といえる。実際,全国で100回以上,図書館のボードゲーム企画を見てきたという高倉氏も,「最初からここまでうまくいくケースは珍しい」と話していた。

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 興味深かったのは,運営面の設計が非常に丁寧だったことだ。
 たとえば,参加者に合ったゲームを案内する「ゲーム紹介コンシェルジュ」を配置し,「どんなゲームがやりたいか」「どんな遊び方が好きか」を聞きながら,最適な卓へとつなぐ仕組みを導入していた。

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 また,各卓の運営は必ず「大学生+スタッフ」の2人体制にしたという。
 これは単に人手を増やすためではない。大学生だけで固まらず,初対面同士でも混ざりやすい空気を作る狙いがあった。
 さらに,子どもたちにとって“お父さん世代”のスタッフよりも少し近い“お兄さん・お姉さん”的な存在である学生が間に入ることで,より主体的に場へ入っていけるようにする意図もあったそうだ。
 実際,会場では初対面同士が自然に卓を囲み,盛り上がる様子が見られたという。

 ゲームの選定についても工夫があった。道祖氏は「簡単」「普通」「ちょいムズ」といったレベル分けを行い,小学校低学年から高学年まで入りやすいように配慮したと説明する。
 この点について高倉氏も強く共感し,図書館でゲームを扱う際には,「色を使うゲーム」「手先を使うゲーム」「数字を使うゲーム」など,誰もがどこかに入り口を見つけられるよう,異なるタイプのゲームをそろえることが重要だと語った。

 図書館は基本的に“誰でも来られる場所”である以上,ゲームの選択もまたアクセシビリティを意識したものにしなければならない,という視点だ。

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 そして,道祖氏の事例が単なる“ゲーム会”で終わっていない理由は,図書館との連携部分にある。
 イベントでは,中学生以下の参加者に対して,「複数のゲームを遊んで本を借りると景品がもらえる」という導線を用意。さらに,大学生ボランティアが“お兄さん・お姉さん役”として子どもと一緒に本を選ぶ仕組みも組み込んだという。

 その結果,把握しているだけでも29組以上が本を借りていったことを確認できたそうだ。
 図書館で本を借りれば,当然また返しに来る。返しに来れば,再び本を借りる可能性も高まる。つまり,ゲームをきっかけに図書館へ親しみを持ち,継続利用へつながる導線が生まれたわけである。

 この点について高倉氏は,自身の経験からも,ゲームイベントをきっかけに利用者が司書へ親しみを感じるようになり,その後のちょっとした問い合わせや相談が増えるケースがあると補足していた。

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 図書館にとってゲームイベントは,本の代わりになるものでも,本と無関係なものでもない。ただ「本を読もう」と呼びかけるだけでは生まれにくい,本や司書,資料へ向かうきっかけを作る装置としてゲームが機能するのだ。

 こうした企画を実際に動かす難しさについても,率直な話が続いた。
 高倉氏は,そもそも大学や図書館,ボランティアなど複数の組織を巻き込むこと自体が非常に難しいとしたうえで,道祖氏に座組づくりのコツを尋ねた。

 これに対し道祖氏は,「ひたすら知り合いに声をかける」という地道な方法に加え,大学の文化祭に直接足を運んで学生へアプローチした経験を紹介。相模原市では,ボランティア活動が一定回数を超えると学生表彰につながる制度があり,そうしたインセンティブも連携の追い風になり得るという。

 予算面の話も現実的だった。こうしたイベントは,特に立ち上げ初期には,ほぼ自腹に近い形で回すケースもある。しかし,本気で継続するなら,NPO化や市民協働制度,自治体の助成制度をうまく活用すべきだと道祖氏は提案する。
 たとえば相模原市には,法人格がなくても申請できる支援制度があり,さらに共同事業提案制度のような仕組みを通じて,事業費につなげられる可能性があるという。

 高倉氏も,図書館のゲームイベントは最初から予算がつくことが少なく,職員や関係者の持ち出しで始まるケースが多いとしたうえで,こうした制度設計まで視野に入れている点は大いに参考になると述べていた。

 そして,図書館でゲームをやると聞くと,多くの人がまず気にするのが騒音問題だろう。「図書館でゲームをする」というだけで警戒され,話を聞いてもらえないこともあるかもしれない。
 この点について道祖氏は,図書館職員が「まずはやってみよう」と前向きだったことが大きかったと話す。そこから,会場として使用する部屋の周囲に学習室がある環境を踏まえ,近隣高校の定期テスト時期を避けるなど,かなり具体的な配慮をしたという。

 結果として,当日の音の問題はクリアでき,図書館側とも「これなら次もやってみよう」という感触を共有できたそうだ。高倉氏も,図書館でゲーム企画を実現するには,こうした細かな条件調整と,チャレンジを許してくれる職員との出会いが非常に重要だと話していた。

 セッション後半では,この経験をボードゲームに限らず,より広い文脈へどう応用できるかという話にも広がった。
 道祖氏は,図書館に限らず,博物館や公民館,あるいは行政が関わるさまざまな公共施設でも,同じ発想が使えるのではないかと指摘する。

 重要なのは,ゲームそのものではなく,行政,学生,地域,施設をどうつなぐかという構造の設計だ。単体の企画として終わらせず,施設側のメリットや地域との接続点を見える形にしておく。そうすることで,ゲームは単なる娯楽ではないという認識が広がり,公共空間を動かす媒介として機能し始める。

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 質疑応答も実務寄りな話題が多かった。
 ひとつは,「これだけ需要があるなら,もっと頻繁に開催すればいいのでは」という質問だ。これに対し道祖氏は,率直に「自分の体力の問題」と答えつつ,会場を増やすことで次回はより安全に運営できる見通しを示していた。

 また,行政との連携の持ちかけ方については,「市民協働」や地域振興系の窓口にまず当たること,自治体主催イベントの場で担当者と話すことなどがコツとして語られた。
 しかし,行政職員は2〜3年で人事異動があるため,熱意のある担当者が異動するケースがある。これに対し道祖氏は,「副担当と上司を押さえておくこと」が大事だと答えた。メイン担当が抜けても,ほかに企画の価値を理解している人がいれば,プロジェクトをつなげられるからだ。

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 子どものころから図書館が好きで,いまも小学生の子どもと一緒によく図書館を利用している筆者にとっても,このセッションは多くの学びがあった。
 本を借りて読むのはもちろん,ワークショップや昔遊びのイベントなどにも参加してきたが,今回の話を聞いて,図書館という場所の可能性をあらためて感じられた。

 図書館は静かな場所であると同時に,地域に開かれた場でもある。その両立をどう実現するかを模索するなかで,ゲームを活用した取り組みは非常に興味深い。集まって遊ぶこと,交流することはもちろん,それこそシリアスゲームと呼ばれるような,社会問題や災害など身の回りのことを学べるゲームをテーマにした企画もできるだろう。

 人と人,人と本,人と地域をつなぐためのツールとしてゲームを捉えたとき,図書館の新しい役割もまた見えてくる。今回のセッションは,遊びながら学びを得る場として,そして公共空間を開いていく手段として,ゲームが図書館にもたらし得る可能性を強く感じさせるものだった。

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