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[CEDEC 2014]PS4の作り方教えます。SCEのメカ設計担当者自らが内部構造を徹底解説
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印刷2014/09/06 00:00

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[CEDEC 2014]PS4の作り方教えます。SCEのメカ設計担当者自らが内部構造を徹底解説

講演直前に取材OKと判明した「PS4の作り方。PS4の中身を大公開!」セッション。今年のCEDECはこうしたセッションが非常に多く,メディアは混乱させられた
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 CEDEC 2014では当初,34ものセッションが「メディアによる聴講不可」に設定されていたものの,これは運営側の「メディアによる聴講を許可するか」という質問の仕方に不備があったためと判明し,34のうち19が,開幕初日に聴講可となった。
 ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)関連セッションの多くも,当初は軒並み聴講不可で,CEDEC 2014の会期最終日まで覆らなかったのだが,直前になって,やはり運営側のミスだったことが判明している。本稿で取り上げる「PS4の作り方。PS4の中身を大公開!」セッションもその1つだ。
 SCEから公式に記事化OKの許可をもらったので,レポートしてみたい。


PS4の各パーツはどうやって作られているのか


鳳 康宏氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント PSプロダクト事業部 ハードウェア設計部門 メカ設計部)
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 「PS4の作り方。PS4の中身を大公開!」は実にユニークなセッションで,PlayStation 4(以下,PS4)の機能を解説するものでも,セッション名のとおり,PS4の中身をただ紹介するものでもなく,PS4の各パーツが工場などでどのように作られているかを解説するものとなっていた。
 講演者であるSCEの鳳 康宏氏は,「工場見学にでも来たつもりで」と,自身の講演内容を形容していたが,まさにそんな内容だ。

鳳氏が手がけてきた製品群。氏は前職でコピー機(複写機)を扱っていたので,PlayStationは物理的サイズが小さく,いきおい,部材や原材料の厚み,ネジのサイズなどのすべてが小さくなるため,最初は「こんな薄くて小さい材料やパーツで大丈夫なのか」と不安になったこともあったそうだ。逆に,腕時計業界から転職してきた同僚は,逆のイメージを抱いていたとか
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 今年の1月,PS4の冷却に関する解説をしてくれたのが記憶に新しい鳳氏だが,氏は以前,コピー機の中身を設計していたという。
 1998年にSCEへ入社してからは,PlayStation 2(以下,PS2)以降,ほぼすべてのPlayStationで設計を担当。「どのプロセッサを採用するか,どういう回路設計にするか」というよりもむしろ,「基板と電源,ドライブ類をどこに配置してどう冷やすか」「光学ドライブスロットをどう開閉させるか」といった,物理構造的な設計を担当してきた人物である。

 さて,そんな鳳氏のセッションで最初に解説されたのは,PS4本体がどのようなパーツで構成されているかである。
 パーツ単体で次から次へと紹介しても,素人目にはピンとこないこともあるため,親切にも鳳氏はプレゼンテーション内でPS4をバーチャルに分解しながら,各部位を説明していった。4GamerではPS4の分解レポートを掲載しているので,興味のある人はそちらも合わせてチェックしてもらえればと思う。

PS4のバーチャル分解図。PS4は分解するとメーカー保証が切れるだけに,メーカーのエンジニアが分解周りを語る機会というのは非常にレアだといえるだろう
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PS4のパーツ構成。要するに,工場での本体製造は,これらのパーツの組み合わせを行っているということになる
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 バーチャルな分解後は,各パーツをどのように製造したかが語られた。
 まず,外装となる筐体パーツをはじめとしたプラスチック製のパーツ類は,熱で溶かされたプラスチックを金型に注入して製造されることになる。

プラスチック筐体パーツ。鳳氏によれば,スライドに写っている金型だと,1回のプラスチック注入で同じパーツを2つ作れるそうだ
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 金属パーツは,その製造手法にいくつかのパターンがあるようだ。
 薄い板状のものはプレス製造となり,金属板の素材を金型に挟んで圧力をかけ,凹凸形成や切断を行う。

プレス製造の例。スライドに写っているのは基板のシールド部材だ
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 複雑な形状の金属パーツでは,同じプレスでも「順送プレス」という方法が採用されている。これは,1回のプレスだけでは完成せず,パイプライン式に複数回のプレスで製造する方式だ。

ある金型でプレスしたら,次の金型にまで移動させて,そこでまたプレス。それを繰り返して最終的なパーツとする順送プレスの例
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 立体的な形状の金属パーツは,先ほど登場したプラスチックパーツのように,熱して液体化した金属を金型に流し込んで製造する。これはダイキャスト製造と呼ばれる手法だ。

ダイキャスト製法によって製造されたヒートシンクの例
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 立体的な形状の金属パーツは,金型に部材を押し込んで「ところてん方式」に製造する場合もある。これは「押し出し成形」と呼ばれる手法だ。

金型に部材を押し込んで,出てきたものを切断してパーツとする製法,押し出し成形。鍛造も押し出し成形の1形態だ。右は,鍛造で製造した剣山のようなパーツにアルミ板を積層させて製造したヒートシンクで,後期型PS3で採用されているものだとか
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 ネジのような,細かな溝のあるパーツは,「転造」と呼ばれる製法で作られる。凹凸のある金型で部材を挟み,金型を動かすことで,部材に凹凸を刻んでいくわけだ。

2つの金型で挟んで回してネジを製造する。これが転造という製法だ(左)。実際の製造現場では,ワイヤー部材でネジの大まかな形状を作り,そこから転造でねじ山を刻むという流れになる(中央,右)
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 金属の粉末と,「バインダー」と呼ばれる樹脂製粉末の混合物を金型に入れて焼き,オイルを注入して製造する「焼結」で製造されるパーツもある。樹脂パーツは焼き込んだときに蒸発し,金属分子間に適度な隙間が生まれると,注入されたオイルはここに染み入ることになり,結果,摩擦抵抗の少ない金属パーツが製造できるというわけだ。
 焼結で製造さえたパーツは,主に軸受けなどの可動・接触パーツの製造に用いられているという。

手の込んだ焼結製法。オイルを染み入らせることで低抵抗パーツを作ることができる
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 シール類の製法についても鳳氏は解説した。最近の立体形状のシール類はかなり複雑な積層構造をしているようだ。

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シール類の製法図解。シールは台紙を打ち抜いて作るのだが,台紙を切ってしまわないよう,かなり精密な切断技術が採用されている
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実際のシール製造機械。左から部材が挿入されて右から製品パーツのシールが台紙に乗って出てくるという構造になっている

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 シール関連では,剥がしたら剥がし跡が残る封印シールの構造に,来場者が高い関心を示していた。
 一度剥がしたら二度と貼れない特殊シールは,粘着剤とシール本体の間にシリコン層が挟み込まれており,シールを剥がしたときにこの部分が分離して貼り痕として残ってしまうようになっているとのこと。要するに,「シリコン層は接着剤で接着できない」ことを応用した構造になっているのだ。

シリコンは,台紙などにも使われている,接着剤がくっつかず,剥がれやすい部材。この構造のシールは,PS4でも「分解するとメーカー保証がなくなる」ことを警告するシールとして実際に使われている
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 セッションでは,ヒートパイプを組み込んだヒートシンクの製法や,PS4の熱設計などについても解説が行われたが,このあたりは先ほども軽く触れた,熱設計に関するセッションのレポートが詳しいので,本稿では割愛する。

こちらはグラフィックスカードのクーラーなどでもお馴染みとなっているヒートパイプの構造。ヒートパイプ内部は真空構造であるため,人体温度程度でも内部の純水は沸騰する。そして,蒸気化するときに気化熱で熱源の熱を奪い,ヒートパイプ内を水蒸気が移動するので,ヒートパイプ内はほぼ均一の温度になり,無限大の熱伝導率が実現されるという仕掛けだ
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PS4の熱設計にまつわる解説は既報の内容と重複するため,本稿では省略する
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知られざるPlayStationファミリーのトリビア


 鳳氏はセッションの後半で,「PlayStationファミリーにまつわる,知られざる小ネタ」を披露した。
 鳳氏は,メディアが行っている「ゲーム機発売直後の分解記事」を,毎回ドキドキワクワクしながらチェックしているのだそうだ。ゲーム機である以上,主役はゲームソフトそのものであり,また,機能面の紹介もスペックが中心となる。それだけに,氏が担当した「ゲーム機に詰め込んだメカ」や,「各種構造部分への工夫」に人々が関心を示してくれるのは,こうした分解記事の機会に限られる。なので鳳氏は「あそこに気が付いてくれるかな」といつも期待して読んでしまうのだという。

 「各メディアの分解記事における分析はどれも鋭い」と鳳氏は認めつつ,凝りすぎて気づいてもらえない部分も少なくないそうで,今回はそのあたりのネタ公開となったのである。

 1つはネジについて。
 PS本体に用いられているネジは二重螺旋構造になっているそうで,1回の締め付けで二溝進む構造になっているそうだ。これは製造時のねじ締め短縮に大きく貢献しているのとのこと。「ここはどのメディアも気が付いていない部分」と笑いを取っていた。

PlayStationのネジは二重螺旋構造!
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 2つめは,PlayStation 2のPS2の冷却ファンについて。
 実はPS2の冷却ファンは通常の冷却ファンと回転方向が逆なのだという。これは,“1階部分”のメイン基板部にあるホットスポットと,“2階部分”にあるAC/DC基板のホットスポットへうまい具合に気流を当てるための,最もシンプルで効率のいいアイデアだったために採用したそうだが,一般的なファンの完全なミラー製品となっていたため,その特殊性にどのメディアも気づかなかったと鳳氏は述べていた。

PS2のファンは逆回転。「いつか気が付いてくれると信じていたけど,誰も気付いてくれなかった」(鳳氏)
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 3つめは現行型小型PS3のスライドカバーについて。
 実は,このカバー横置きの時は早く,縦置きの時は遅く開く。本来なら,自重による落ち込みがあるため,縦置きのほうが早く開きそうなのだが,逆なのだ。この部分は鳳氏肝入りの工夫が入っており,「ぜひ気付いてもらいたかった部分」らしいのだが,言及してくれているメディアはなかったそうである。

新型PS3のカバー部は,開くスピードが物理法則と逆になる
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 氏によると,ここには,「2段変速機」が仕込まれており,これの働きで,縦置きと横置きでカバーの開閉スピードの逆転を実現しているとのこと。
 2段変速機はウェイト(錘)と振り子式オイルダンパー付きギアからなっており,回転抵抗の強いオイルダンパー付きギアのほうが開閉スピードを遅くするための役割を果たしている。横置きの時はウェイトがダンパーギアに接続しない方向で安定するため,カバーは早く開くが,縦置き時はウェイトが落ちてこのダンパーギアに接続する形となるため,ゆっくりと開くのだ。

2段変速機という凝った構造を採用することになった採択のそもそもの発端は「縦置きで早く開くのはかっこ悪いよね」にあったという。2段変速機はウェイトと振り子式オイルダンパー付きギアからなり,右のスライドに見えるピンク色の振り子付きダンパーは紫色のギアと一体化しており,紫のギアの回転がダンパーで抑制される構造だ
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横置き時はダンパーギアをバイパスする(左)が,縦置き時はウェイト付きの振り子が落ちてダンパーギアに接続する(右)。結果,ダンパーの制動力が働いて,ゆっくりと開く仕掛けだ
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 さらに鳳氏は,メディアが気づきようもない,本邦初公開のPlayStationトリビアを紹介していく。

歴代のPlayStationで,最もヒートシンクにコストがかかっていないのはPSXだった
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 1つは,PS2機能を統合するHDD搭載型DVDレコーダー「PSX」のヒートシンクについてだ。歴代のPlayStationにあって,PSXが採用するのは,最もコストがかかっていないヒートシンクとのこと。順送プレスによる製造とされるヒートシンクは,公開されたスライドの状態で完成形。また,プロセッサと接着される部分の熱伝導シートも,本来は電波吸収に使うシール材で代用しているという。シール材は,樹脂に鉄粉が混ざった構造になっており,熱伝導シートの構造とよく似ていることから採用を決めたそうだ。
 「熱伝導シート」というジャンルの製品だと価格が高いこともあって,「PSXの発熱量なら代用品で問題ない」という判断がなされたという。

 もう1つは,2001年に発売された,PS2の出荷2000万台記念モデルにまつわる苦労話。
 このときSCEは,欧州ブランドの自動車をイメージして,白・赤・黄・青・銀の5色で自動車用塗装を模した「ヨーロピアン・オートモービル・カラーコレクション」と呼ばれるPS2を発売したのだが,入社以来,今日(こんにち)まででこれの製造が一番大変だったという。

 というのも,実際に自動車の塗装で用いられる塗料を使ってPS2を塗ろうとしたところ,それが上手くいかなかったそうなのだ。当時の鳳氏は自動車の塗装についてそれほど深い理解をしていなかったため,「塗ればいいんだろう」程度の考え方でいたところ,それが大きな誤りだったと笑いながら振り返っていた。

欧州の自動車をイメージした特別塗装色のPS2に,知られざる苦労話があった
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 いわく,PS2に自動車用の塗料を塗って製品ボックスに箱詰めすると,塗料が緩衝材で押され,塗面になだらかな凹み――ある意味,傷――ができてしまったのこと。自動車用の塗料は,塗装後,磨いて光沢感を出すという思想に基づいて開発されているため塗膜が柔らかいのだが,家電製品用の塗料は塗膜が硬い。これが大きなトラブルを生んだというわけだ。
 結果的に,この“自動車塗装型”PS2では,塗装後に硬い塗膜のトップコートを掛けることで対策したとのことであった。つまり,手間が掛かっている分,製造コストが高く付いたというわけである。いろいろな意味で価値の高い限定モデルだったといえるだろう。


鳳氏の設計理念とは


 セッションの最後,鳳氏は,自身の仕事に対するこだわり,設計理念のようなものについて述べて講演を締めくくった。以下のとおりまとめて,本稿の締めとしたい。

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  1. 奇をてらうことなく,基本に忠実に物作りを行うこと。人に気が付かれなくても,こだわりを持って物作りを行えば,自ずと「神は細部に宿る」のである
  2. 技術志向に走らず,ユーザーの立場に立って機能設計を行い,物作りを行うこと。F1カーを形容する言葉に「速いマシンは美しい」という,「技術追求の結果として機能美が現れることを表した名言があるが,まったくそのとおりで,技術を何のために使うかが重要なのだ

鳳氏が物作りにかけるこだわり。美しいマシンが必ずしも速いわけではなく,機能美は,技術追求の結果としてこそ現れるという
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PlayStation公式Webサイト

CEDEC 2014公式Webページ

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